グラ・バルカス帝国との戦争に、今のところ参加をしていないミリシアル帝国。
カルトアルパス事件以来、グラ・バルカス帝国はムー大陸という巨大な防波堤によりミリシアルを中心とした第1文明圏に戦争の影は姿を見せていなかった。
しかし、今までの世界均衡を揺るがしかねないグラ・バルカス帝国と第2文明圏、ムー、日本、新生合衆国の動きに対してミリシアルは手をこまねいて見ている訳ではなかった。
カルトアルパス事件以降、ミリシアルは持てる力を使って情報収集を精力的に行っており、各国に身分を偽装して潜伏しているミリシアルの情報機関に所属するエージェント達は、どのような些細な情報も持ち帰り、既に多数の情報がミリシアルにもたらされている。
特に軍事力に関しては力が入れられており、各国に派遣されている駐在武官や観戦武官からの報告の裏付け、兵器研究を行っている。
特に最近はミリシアル8世が日本、ムー、アメリカに関する技術力、特に軍事技術の情報収集を徹底的に行えとの勅命を出し、可能ならそれらを我が国でも実用化せよとの命令も添付されている。
首都のルーンポリスに工学系の研究を行っている『ルーンポリス魔導学院』と呼ばれる場所がある。
此処は名称こそ魔導学院で、一見すると学校のように聞こえるが、軍民用の工業関係の仕事も担っている事から企業のような性格を持ち合わせている。
この学院ではミリシアルの発展のため魔導技術を中心に研究が行われており、魔法至上主義のミリシアルでは珍しくムーのように科学力に関する研究も積極的に行われている。
前述の魔法至上主義のミリシアル国内からは、科学力の研究を扱う事から此処に勤務する研究者達は魔法至上主義の人達から変人扱いされているが、実際に勤務してい
研究者の大半は科学力と魔導技術を上手く掛け合わせる事で国の発展のためになると考える根っからのエンジニア達である。
しかし、一部例外がある……………
ルーンポリス魔導学院の裏庭に設けられた広い敷地内に、ディーゼルエンジンの音と金属同士が擦れる音が聞こえる。
敷地内を走っていたのは、ミリシアルがムー大陸でのグラ・バルカスに対する反抗作戦で使用された戦車研究のためにムーから言い値で購入した主力戦車ラ・シャルマンだった。
「成る程、このトランスミッションという装置で、この巨大な車体を効率よく動かしているという訳か」
走行するラ・シャルマンと、分解されたラ・シャルマンから取り外されたエンジンとトランスミッションを興味深く観察する、この学院の科学部門のエンジニア達。
「この履帯とよばれる鉄製のベルトを車輪を覆う様にする事で荒れ地でも車輪よりも遥かに動ける……これを考えた奴は頭が良い」
「この魔導……戦車砲に使われている砲弾を用途に合わせて使い分ける事で様々な敵に対処できるとある。特にこの徹甲弾なら………」
エンジニア達はラ・シャルマンに使われている様々な技術力を隅々まで観察し、そこから使われている技術力、仕組み等をどんどん理解していく。
無論彼らは戦車を只研究しているのではなく、ミリシアルでもムーや日本のように戦車を製造し、他国を圧倒できる戦力を手にして、いつの日かやってくる魔法帝国に対する備えを十分にするために、リバースエンジニアリングに精を出す。
「所長!この戦車に使用されている技術力は我が国の技術力を以てすれば十分に実用化可能です」
「そうか。なら我が国も戦車を保有できる日も遠くは無いな」
「ですが、軍や政府がこの戦車の使い道を理解できますかね?」
「それは時間を掛けて説得していくしかあるまい。もし国が戦車を必要と判断したその時のために備えて我々は独自で戦車開発をしておく必要がある」
「ですが、我々は戦車を開発した事がありません。戦車に関してはカルミアークで発見された魔導戦車のデータがありますが、1から開発となると………」
「分かっている。なら先人達の力を借りようではないか」
所長の男は懐から1冊の雑誌を取り出した。
「これには日本が元居た世界の戦車のデータが詳細に記録されている」
所長は部下の研究員に雑誌に掲載されている地球世界の戦車開発国が開発した様々な主力戦車や試作車両を見て回る。
「これは………これほどの戦車が日本とアメリカが居た地球世界には沢山あるなんて。恐ろしいですな」
「そう思うだろ?私もこれを見た時は驚いたさ。だが伝承にある魔帝は地球世界の列強に匹敵する力を持っている、もしそうなら今の我が国は勝ち目は無い。魔帝復活までに残された貴重な時間を有効に使い我々も戦車を実用化する必要がある」
「所長はこれらの戦車の中から何を参考にするんですか?」
「良い質問だ!魔帝が伝承通りの力を持っているなら、ラ・シャルマンの性能では圧倒的に不利だ。そこで私はラ・シャルマンと性能が酷似しているシャーマン戦車よりもずっと先の戦車で、魔帝との戦いに最も見合う戦車を精査し、ようやく見つけたんだ」
所長は戦後開発された所謂戦後戦車の写真の中から2つの戦車の写真を指差す。
「これは……チーフテンですか?」
彼が自国の技術力でギリギリ実用化可能として選んだのは、特徴的な主砲塔を持つイギリスの第2世代主力戦車『チーフテン』であった。軽量で高機動な戦車が主流の第二世代戦車の中では珍しく火力と装甲を重視した重戦車として設計されたこの戦車と同レベルの戦車なら、実用化出来れば魔帝の戦いでも大きな戦力に成り得る可能性は非常に大きい。
「そして2つ目はこれだ!」
もう一枚の写真に写っているのは、旧ソ連が開発した主力戦車『T-72ウラル』だ。
広い場所での使用を想定した従来のソ連戦車らしく、低い車高に砲塔には強力な125ミリ滑腔砲を備えられており、防御力も必要十分に備わっている。
「このようはハイレベルな戦車………実用化出来ますかね?」
「出来る!時間は掛かるだろうが何としてでも実用化しなければ、魔帝どころかグラ・バルカスにすらも勝てん」
彼はそう言うが、この2つの戦車は大戦を通じて培われた戦車開発技術が生かされた戦車で、戦車開発どころか戦車の研究段階にしか達していない現状では実用化は不可能である。もし開発するとなれば他国との共同開発か、あるいはラ・シャルマンを輸入して戦車開発と整備に関するノウハウを蓄積するしかない。
戦車に限った話ではないが、工業製品を作るとなればやはりそれなりのノウハウは必要なため、先ずは戦車を深く理解する必要がある。
「兎に角、今はラ・シャルマンの研究を続け我が国にも戦車開発能力があるかどうか見極めていこう」
「分かりました」
ミリシアルの長い戦車開発の歴史が此処に始まりを迎えた。
続く