「クソ!すばしっこい!」
アパッチとの空中戦に突入したターケナインは、アパッチの飛行性能に驚きを隠せないでいた。
「お?奴さん、良い腕してるな」
大塚も操縦桿やスロットルレバーを巧みにコントロールしながらターケナインの腕前に感心する。
「血の気が多いのが乗ってるみたいだ。こりゃ一筋縄ではいかんぞ」
油断ならない相手だと認識した大塚は、本隊からなるべく引き離すために敢えて逃げに徹する。
「待て!」
ターケナインは本隊に目を向けず、大塚のアパッチに追いすがる。
「喰らえ!」
再び導力火炎弾を放つが、やはり寸手に避けられる。
「クソ!」
悪態をつくが、直ぐに思考を切り替えて、愛騎の操縦に専念する。
「よしよし、ちゃんと着いてきてるな」
大塚も後方確認ミラーでターケナインが着いてくるのを確認して伊藤に指示を出す。
「ガンスタンバイ!」
「了解!」
伊藤はトリガーに指を掛ける。
「どうぞ!」
「行くぞ!」
大塚は3秒数え操縦桿とスロットルレバーを手に機体を思い切りターンさせ、機首を真後ろに向けた。
「何っ!?」
突然後ろを向いたアパッチの機動に驚くターケナインに機関砲の照準を合わせる。
「撃て!」
ターケナインを捉えトリガーを引くと30㎜チェーンガンが火を吹いた。
「クゥ!」
咄嗟に愛騎を左下に降下させ、直撃こそ免れたが愛騎の尻尾の先に1発が被弾、そこから出血を始めた。
ギャッッッッッ!
「相棒耐えるんだ!まだ勝機はあるぞ!」
ターケナインは愛騎をそう励ます。それに応えるように愛騎も痛いのを我慢して叫ぶのを止め、態勢を建て直す。
「外しました!」
「だがこれで後ろは取れた!追うぞ!」
大塚はターケナインの後ろを取り、追撃を続ける。
伊藤はヘルメットのIHADSSに表示されているレクティルにターケナインが合わさる瞬間を狙ってチェーンガンを撃つが、ターケナインは攻撃を受けないよう、愛騎を左右に向けて振り続ける。
「空の王者を舐めるな!」
そう叫ぶと、彼はその場で手綱を思い切り手前に引き、愛騎を太陽に向けて上昇させる。
「しまった!逆光だ!」
太陽光に目がくらみ、2人はターケナインを見失った。
「ロスト!」
「後ろだ!」
ターケナインはアパッチの後ろに取りつき、導力火炎弾の発射態勢に入った。
「この距離なら!」
放たれた渾身の導力火炎弾は至近距離から放たれたため、回避が間に合わず巨大な火の塊が機体に直撃、派手な炎が上がった。
「やったぞ!やったぁ!」
ターケナインは炎に包まれるアパッチを見て撃墜を確信し歓喜の声を挙げ、愛騎も嬉しそうな表情を浮かべる。
「何だと!?」
しかし赤い炎はメインローターの風圧で掻き消され、まったく弱った様子の無いアパッチが姿を表した。
「効いて無いのか!?最大出力で撃ったんだぞ!」
ターケナインには攻撃が効いていない様子に見えたが、被害は深刻だった。
「敵弾直撃!」
「被害確認!」
直撃を受けた尾翼と胴体後部表面の塗装が高熱で黒く変色しており、機体上部の右側にあるエンジンマフラーから黒い煙が吐き出されている。
「右第1エンジンタービン内圧、温度上昇!右の武装使用不能!」
機内に警報音が鳴り響き、自己診断システムが右エンジンと右スタブウイングの異常を示していた。
「燃料供給停止!右エンジン停止!」
エンジンの加熱を避けるため右エンジンを緊急停止させ、左側のエンジンのみによる飛行制御に切り替える。
「他に異常は?」
「ありません!左側の武装とチェーンガンはまだ使えます!」
「早く戻りたいが………」
大塚は辺りを見回す。
ふと遥か前方に小高い丘が見えた。それを見た大塚は笑みを浮かべ伊藤に話しかける。
「伊藤、チェーンガンとロケット弾撃てるようにしておけ!」
「どうするんです!」
「任せろ!」
大塚は機体の高度を下げ、地面スレスレの低空飛行しながら複雑な地形を巧みに避けつつ、小高い丘目掛けて突き進む。それをターケナインも追い縋る。
「行くぞ!」
小高い丘が目の前に迫り、左エンジン出力を最大出力に上げて、同時に高度を上げ丘を飛び越えた瞬間に操縦桿を目一杯手前に引いて、機首を上に向けながら機体に急制動を掛けて停止させる。
「消えた!?」
丘を越えた瞬間、アパッチを見失ったと錯覚したターケナインはアパッチの真上を通過した。
「後ろを取った!」
機体の態勢を建て直しターケナインの背後に付くと、伊藤はIHADSSで目標をロックする。
「ターゲットロック!ファイア!」
トリガーを引き、ロケット弾を連射モードで放つ。
「ウワァァァァ!!!」
直撃したロケット弾はターケナインと愛騎もろとも空中で爆散、鱗を撒き散らした。
「こちらジェロニモ、敵騎を撃破。我が方も被弾により損傷、戦闘不能」
『了解、直ちに帰投せよ』
「了解、帰投する」
指示に従い、大塚らは戦闘不能となった機体を沖に居る護衛艦ひゅうがに向けた。
大塚の活躍により、第4対戦車ヘリコプター隊は第7師団の救援に無事到着した。
『こちらハンター1、目標指示を頼む』
「我が方前方1キロ先の動目標は敵性目標」
『了解!攻撃を開始する!』
主力のコブラはホバリングしながら、向かってくる敵騎兵部隊に向けてバルカン砲の砲身を向ける。
『指揮官機より全機、目標敵歩兵。機銃射撃用意、撃て!』
コブラとアパッチの飛行編隊はバルカン砲による機銃掃射攻撃を開始し、強力な機関砲の嵐が敵騎兵部隊に降り注ぐ。コブラに頭を抑えられた敵騎兵隊はバルカン砲とチェーンガンの精密射撃を前に人海戦術も虚しく撃破されていき、僅かな生存者を除き挟撃部隊は全滅、パタジンの目論見を再び打ち砕いた。
「挟撃作戦も上手く行かぬとは………」
双方で膠着状態が続く中で時間は悠々と過ぎていき、1日が終わり太陽が暮れ夜となる。
そしてその日の深夜
指揮車内に居た大内田は時間を確認し、作戦の最終段階に向けて全部隊に作戦実行の指示を出した。
「これより、作戦最終段階に移る!」
暗闇の中、待機していた戦車隊はエンジンを始動させる。
『全車前身用意、前へ!』
昼間の戦闘でロウリア軍は自衛隊を最大の脅威と見なし、少数精鋭による夜襲を計画しており、既に出撃準備を整えて命令が来るまで待機していた。
しかし、命令が下されようとした直前に自衛隊が動き出した事により不意を突かれた夜襲部隊は命令を待たず動き出そうとする。
『全車、目標正面!』
各戦車は正門に向けて砲を向ける。
「目標12時の正面!距離300、粘着榴弾撃て!」
3両の10式から粘着榴弾が発射され、ジン・ハークの正門扉を木っ端微塵に破壊した。
「目標変換、各中隊は指定の目標に向けて攻撃!」
今度は2両の10式が砲撃し扉を完全に破壊する。
「奴らこんな闇夜に攻勢を仕掛けてきたのか!?」
「最早、夜襲の意味は無い!全員正門に向かえ!」
夜襲部隊は突然の攻勢に対して、夜襲の意味を成さない事を悟り、破壊された正門へ向けて走り出した。
「各車、撃ち方やめ!」
囮として敵の注意を完全に引き付けるよう、敵に対して攻勢に入ると信じ込ませる必要があるため戦車隊は正門一帯に砲撃集中させ城壁を徹底的に破壊し大穴を開けると待機していた全ての車両は灯火管制で消していたライトを点灯した。
「目標破壊確認!!」
「全隊、行動開始せよ!」
2個戦車連隊を前衛に後方で待機していた普通科連隊が合流、第7師団の主力部隊部隊が暗闇の中を目立つように早すぎず遅すぎずの速度で正門へと接近する。
爆発音に驚いたロウリア兵とパタジンは正門の様子を確認する。
「奴らめ、今夜に決着をつけるつもりだな。直ちに正面に兵を向かわせろ!敵の突破を許すな!」
パタジンは正面に兵力を集中させ、敵を迎え撃つ準備を始めるよう指示し、同時に魔信を城内に居る近衛隊長に繋げる。
(ランド、聞こえるか?)
呼び掛けてみるが、自衛隊による電子妨害が続いており魔信機は使い物にならなかった。
「ランドなら心配ないだろうが………伝令兵!」
「はっ!」
「ランドに、何としても国王陛下を守るように改めて厳命しろ!」
「了解!」
伝令兵にそう伝え、パタジンは戦闘の指揮を取り始める。
ロウリア軍全体の目が正面に向けられている頃、壊滅したハーク港のある北の方角より、闇夜に紛れ十数機のヘリが飛行していた。
陸上自衛隊第1ヘリコプター団所属の大型輸送ヘリ『CH-47Jチヌーク』が機体前後の大型メインローターを回転させながらハーク港上空を通過する。
「作戦通り、敵は第7師団に釘付けだな」
「しかし敵側の兵力も凄いですね」
今回の作戦のため、黒一色の夜間迷彩が施されたCH-47JAチヌークの機内から、戦闘服と装備に身を固めた内海1佐と彼の指揮下にある特殊作戦群の隊員達が下の状況を確認する。
「隊長、間も無く降下地点です!」
「よし!各員、降下用意!」
機内に居た隊員達は席から立ち上がる。同時に機体後方のランプドアが開き、外からの外気が入ってくる。
『こちらレッドアイ、LZを確認。武装兵と対空兵器を確認した』
先行していたOH-1が降下地点の確認を終えて報告する。
『こちらスレッジハンマー、目標を排除する』
護衛の第5対戦車ヘリコプター隊のアパッチ4機が前衛に立ち、横列に並ぶとアウトレンジからロケット弾による精密攻撃を開始した。
単発モードで放たれるハイドラ70ロケット弾は部隊の降下予定地点に設置されていた対空用バリスタを破壊していく。
『敵対空兵器を破壊。敵歩兵多数を確認、続けて攻撃する』
続けて城壁上に居る敵兵と降下地点付近に居座る歩兵を機関砲を使って排除していく。30ミリ機関砲の射撃により生身の敵兵と弓兵も見張り所ごと粉々に破壊されていき、5分の射撃で降下地点の脅威は排除された。
『LZクリア!降下用意!』
チヌークが城壁を飛び越え、降下地点に設定されていた中庭の真上でホバリングを始めると機体後方のランプドアからロープが垂らされる。
「降下!」
ロープを伝い隊員が次々とラペリング降下で中庭に降り立っていく。
「こちらハンマー1、中庭クリア!これより
2機のチヌークから降下した特殊作戦群第2中隊は中庭を確保した後、城内へ続く裏門の確保と警備詰め所の制圧を開始した。
「発破!」
警備詰め所の扉を爆薬で破壊し、中に居た警備兵を排除してから他の部屋も同時に制圧、突入口を確保した。
『突入口確保。貴隊も降下されたし』
「了解!これより降下する!」
城壁外で待機飛行していた第1ヘリコプター団第102飛行隊所属のUH-60JA ブラックホーク4機からロウリア王逮捕を担当する警視庁特殊事件捜査係『SIT』の青木巡査長率いる10名の刑事、特殊急襲部隊『SAT』特務班30名がラペリング降下で中庭に降り立つと、城内への侵入を開始した。
『こちら
特殊作戦群は隊を3つの小隊に分け、第1小隊は降下地点と1階の確保、第2小隊は2階、続けて第3小隊が王座の間がある3階の確保に動き、その後をSITとSATが続く形になる。
「突入!」
階段を掛け登り、第2小隊が先行して2階に突入した。
「うぉぉぉぉ!!」
「ロウリア万歳ぃぃ!!」
階段の上からは、剣や槍を構えたロウリア兵が姿を表して突撃を仕掛けてきたが、特殊作戦群の隊員達はそれらを冷静に排除していく。
「S2-2、これより2階の制圧に入る」
2階へ入ると部屋を1個ずつ虱潰しに制圧していく。1個1個の部屋には数人程のロウリア兵が待ち構えていたが、特殊作戦群の鍛え抜かれた屋内戦闘能力を前に反撃する隙すら与えられず制圧される。
「こちらS2-2、2階制圧完了。確保する」
数分で2階を制圧した第2小隊に変わり、第3小隊がSITとSATの前に立ち更に上の王座の間に向かう。
「S2-3、これより王座の間に突入する」
王座の間に入るための木製の重厚な扉に素早く爆薬を仕掛ける。
「発破!」
爆発により扉が破壊され、スタングレネードが放り込まれる。
「突入!」
爆音が響く中、王座の間へ突入した。
中へ入ると、目の前には高い位置に設けられた王座へ続く高い大階段があった。奇襲に備えて全方向を警戒しながら階段をゆっくりと登る。
「!?」
階段を登り終えると、そこには2人のメイドと思われる女性が怯えたような表情で立っていた。
第3小隊の小隊長は手にしていたHK416カービンから黄色に塗装されたテーザーガンに持ち替え、メイド2人に向けてワイヤーを射出し瞬時に電気ショックを与えて気絶させた。
「ほう……やはり殺さぬか」
そこへ、柱の間からランドが薄ら笑いを浮かべながら現れた。
「今までの戦いを見るとお前達は非戦闘員に危害が及ぶ事を避けてるようだ。騎士道精神か何かの法や教えに縛られてると見た…」
ランドの言葉に特殊作戦群とSAT・SITの隊員達は内心驚いたが、目出し帽越しに表情を変える事なく小隊長はHK416の銃口をランドに向けて警告を飛ばす。
「武器を捨てて、両手を挙げながら腹這いに!」
彼の言葉に従いランドは素直にその場で腹這いになり、結束バンドで両手と両足を縛られる。
「ロウリア王はこの向こうか?」
拘束されたランドに問い掛ける。
「………………」
だがランドは一切の反応を見せる事なく、ただ口を閉ざす。
「応えろ」
「…………」
ランドの態度から辺りを見回す。
ふと王座の奥にある壁に妙な違和感を感じて、側まで近付くと壁を叩く。
「やっぱりか」
ある部分だけくぐもった様な音が響く。
「この先に隠し部屋があるみたいだ」
小隊長は奥に隠し部屋があると確信し、草壁と青木に向かってそう言うとランドが口を開いた。
「君みたいな人間は嫌いだよ………」
その言葉の合図だったかのように、左右の壁が回転し、その奥から武装した30人程の騎士が姿を現した。
「奴らを始末しろ!」
ランドがそう叫ぶと、騎士達は一斉に駆け出す。
「撃て!」
しかし、作戦前の訓練の段階で伏兵が居るのを想定していたため向かってくる敵に向けて射撃を開始した。
「ギャア!」
サプレッサーで抑えられた銃声が王座の間に響き渡り、伏兵達は突然始まった射撃を前にドミノ倒しのように倒れていく。
30秒で射撃を終えると伏兵達は全員頭を撃ち抜かれ地面に倒れ伏していた。蝋燭の光に照らされる騎兵達の物言わぬ姿にランドは項垂れているしかなかった。
「行くぞ」
第3小隊がその場を押さえている間に、草壁が率いるSATが隠し扉の鍵を解錠して中へ突入した。
中に入ると、広さ10畳程の広さの部屋の奥にある椅子にハーク・ロウリア34世は青木達をまるで待っていたかのように堂々とした出で立ちで座っていた。
(間違いない、被疑者だな)
SATの後ろから青木が続いて部屋に入り、被っていたヘルメットのバイザーを上げて、懐からハーク・ロウリア34世の顔写真を見て本人か確認しながら近寄り、与えられた公務を執行する。
「ロウリア王国国王ハーク・ロウリア陛下ですか?」
「あぁ」
「私は日本国警視庁特殊事件捜査係の青木と申します。貴方をクワ・トイネ王国へ対する重大テロ行為の実行を指示したテロ等共謀罪、ならびに破壊行為と殺人を指示した破壊活動防止法違反・殺人教唆の罪で逮捕します」
青木は裁判所が発行した日本語で書かれた逮捕状を見せる。
「好きにするがいい」
「では1時30分、逮捕します」
両手に手錠が掛けられ、遂にハーク・ロウリア34世は逮捕された。
「撤収だ」
ハーク・ロウリアの身柄を確保した自衛隊・警察合同部隊はヘリに乗り込むと王城を離れていく。
この数時間後、ロウリア軍は自衛隊から国王が逮捕・拘束した事を伝えられた。パタジンはこれ以上の戦闘は無用と判断し第7師団に対して降伏。
こうして誰もが予想しなかった速さでロデニウス大陸戦争は終結に向けて動き出した。
ロウリア編終了です
皆様からのご意見とご感想お待ちしております