リョノスと戦車小隊との戦闘は熾烈を極めていた。
「撃て!」
猿渡の小隊指揮車の10式からAPFSDS弾が放たれる。
『ムッ!』
その砲弾をリョノスの魔導アーマーの火器管制装置が飛んでくる砲弾が命中予想位置を計算し、それをリョノスに伝え、それを元にリョノスはアーマーを動かす事によって避ける。
そしてリョノスは10式に向かって両肩の魔光砲を発射するが、発射直前に砲口が光るため、発射される事を予測した小隊の回避行動により避けられる。
戦闘開始からこのような事の繰り返しで、事態は全くと言って良い程に進んでいない。
「クソ!こっちの動きを完全に読んでやがる!まるで当たらねぇ!」
猿渡は砲を撃つ度に紙一重で避けるリョノスに苛立ちを感じている。
『えぇいっ!なんてすばしっこい!』
一方でリョノスも10式の速度と機動力に同じく苛立っていた。
その様子を後ろで見ていた普通科隊は苦虫を噛み潰すような思いだった。
「ダメだ。このままじゃジリ貧だ」
普通科隊を指揮する犬神は何とか出来ないかと考える。
「1尉!援護射撃の許可を!」
「ダメだ!この距離だと戦車小隊を巻き込む!」
「ではどうするんですか!?このままだと戦車小隊が」
部下の何人かがそう進言してきたが、リョノスと戦車小隊が機動戦闘を展開している今の状況では下手に火力支援は出来ない。
犬神はどうすべきか考える。
「1尉!」
そこへ、89式装甲戦闘車に乗った城島が話し掛けてきた。
「自分に考えがあります」
「考え?」
「はい。コイツを使って、奴に直接撃ち込むんです」
そう言うと城島は、89式の砲塔側面に装備されている79式対舟艇対戦車誘導弾を指差す。
「そうか。それを使えば味方を巻き込む可能性は低い。分かった!射撃を許可する!」
「了解!戦車小隊にATM-2の射程距離にまで奴を引き付けながら後退するよう伝えてください!」
「分かった!」
犬神は無線で猿渡に呼び掛ける。
「猿渡!奴に重MATを撃ち込む!射程距離内にまで奴を引き付けるよう後退せよ!」
『了解!』
指示を受けた猿渡は早速行動に移した。
「指揮車より小隊全車、後方の普通科が奴にMATを撃ち込む!奴をMATの射程距離内にまで引き付けつつ後退!」
『『『『了解!』』』』
猿渡からの命令を受けた戦車小隊は後退を開始した。
『下がるか!怖じ気付いたと見えた!』
リョノスは突如後退を始めた戦車小隊を見て、戦意を失ったと思い、後退する戦車小隊を追撃する。
「掛かったぞ!おちょくってやれ!」
小隊は後退しながらもリョノスを捉え、砲撃する。
『そのような無駄弾など!』
リョノスは砲撃を避けながら距離を詰めていく。
「もうそろそろか……小隊!俺の合図で停止!念のため衝撃に備えろ!」
猿渡は腕時計で秒読みを始める。
「5、4、3、2、1、今っ!停止!」
合図と同時に戦車小隊はその場で停止した。
「弾種榴弾、発射機左!目標敵車両!発射用意、発射っ!!」
89式装甲戦闘車の砲塔左側のランチャーから79式対舟艇対戦車誘導弾が発射された。
有線誘導方式のこのミサイルは車内で射撃手が照準器を目標に向け続けながら誘導する方式で、誤射が少ないのが利点である。
『なんだアレは!?』
リョノスは火器管制装置が捕捉した誘導弾を見て驚く。
『まさか、誘導魔光弾か!?何故奴らが魔帝様の武器を!?』
この一瞬、驚きによりリョノスの動きが鈍った。
この一瞬がリョノスの運命を分けた。
誘導弾はリョノスの魔導アーマーの両足の付け根に命中し、モンロー/ノイマン効果により発生したメタルジェットがアーマーの装甲を破り、内部の機器とフレームを吹き飛ばした。腹部から下が破壊された事により、支えを失ったアーマーは前のめりに倒れた。
「命中!」
「やった!」
「まだだ!態勢を建て直させるな!」
猿渡はリョノスに向けて車長用ハッチに装備されているブローニングM2を撃ち込む。
『うぉぉぉっ!!おのれぇぇぇ!!!』
50口径の12・7ミリ弾はアーマーに命中するが、流石に装甲化されているためか火花を散らしながら弾かれてしまう。しかし命中した時の衝撃は凄まじく、絶え間なくやって来る衝撃にリョノスは怒りの声をあげる。
「援護射撃!撃て!」
城島の乗る89式装甲戦闘車の35ミリ機関砲も射撃を開始し、アーマーの装甲部に凹み傷をつけていく。
『このままでは装甲が保たん!一端、塔へ戻って態勢を建て直さなければ!』
リョノスはまだ機能しているスラスターを全開で噴射させると、倒れた状態のままアーマー引き摺るように塔へ向けて戻していく。
「いかん!塔に戻られる!」
ファルタスの声に百田は急いでリョノス追撃を命じるが、リョノスは塔に飛び込むように戻り、開かれていた扉を閉めてしまった。
「逃げられた」
「どうする?特科の榴弾ではあの塔のシールドは破れないぞ」
「だが榴弾砲以上の火力は我々には無いぞ」
リョノスが塔から出てくる直前、塔に向けて砲撃した際に撃ち込まれた全ての砲弾はシールドに阻まれて傷が付けられなかった。現時点では遠距離からの攻撃ではシールドを貫通するのは不可能であり、完全に手詰まりである。
もしこのままだと、またリョノスが態勢を建て直して来るのは明白であり、同じ手には二度と引っ掛かる事はない。
司令部ではどうすべきか考える。
「1つだけ方法がある」
そこへファルタスが提案を出した。
「細かい説明は省くが、奴のシールドは魔力を使っている。なら同じ魔力でシールドを使って奴のシールドにぶつければそこに穴を作る事が出来る」
つまりは塔のシールドと同じ特性を持つシールドを互いにぶつけて、魔力を中和させる事によりシールドの防御力を薄めてしまおうと言うのである。
「成る程。バリアーに勝てるのはバリアーと言う訳か……」
「しかし、あの塔に貼られているシールドと同じ量の魔力のシールドを作るとなると相当量の魔力が……」
「それについては心配はない。私は中央法国で魔力に関する研究と修行により、奴のシールドに負けない程のシールドを作る事が出来る。だがその場合、全ての魔力をシールドに回す必要があるから、攻撃魔法が使えなくなる上に、最大魔力でシールドを展開できるのは1分が限界。それが問題だ」
シールドは破れても攻撃出来なければ塔を破壊する事は出来ない。せめて、壁を破壊できれば勝機はある。
「あの塔の壁の強度はどれくらいありそうですか?」
「塔自体は我々の技術力とそう変わらない構造で出来ている。至近距離でなら魔導砲でも穴を開ける事は出来る筈だ」
「なら我々の10式戦車でも可能ですな。至近距離で砲を撃ち込み、そのまま塔内部に突入して内部から破壊…………と言うのは」
百田の言葉に皆が驚いた。
「それしか方法は無いか…………しかし、どうやって塔までファルタスさんを近づけさせるか」
「それは簡単だ。私が貴軍の戦車に乗り込み、直接シールドをぶつければいい」
「それは危険です!!もし貴方の身に」
「心配は無用だ。私には家族は居ないし、このような事を見越して昨日のうちに国へは魔信で伝えてある。軍人である以上、覚悟は出来ている」
ファルタスの覚悟に全員が黙った。そして、鬼島は息を一回吐いてから口を開いた。
「やるしかないか…………ファルタスさん、本当によろしいんですね?」
「あぁ」
「分かりました」
続く
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