第1話
中央歴1639年
フィルアデス大陸の東に位置する、勾玉を逆さにしたような陸地を持つ『フェン王国』と言う国がある。
この国はかいつまんで言うと『武士』の国であり、この国の人間は子供の頃から剣術についての教育を義務付けられ、死ぬそのときまで剣と供に人生を歩む事を国是としている。
この国の首都アマノキの真ん中にそびえ立つ、日本の城を思わせるデザインの王城の会議室では、この国の王『シハン』が集まった側近たちにある重要な事を告げる。
「パーパルディアと戦争になるやもしれん」
フィルアデス大陸における最強の列強国『パーパルディア皇国』は72もの属領を持つ大陸最強とも謳われている国家であり、地球世界で言う処の18世紀頃の大英帝国を凌ぐ国力と軍事力を背景に、フィルアデス大陸の支配者として君臨している。
それに対して、フェン王国は国力とも大きく遅れており、特に魔法に関する技術がほぼ存在しない点ではパーパルディアとの戦争となった場合、即刻滅亡と言う憂き目に逢うのは火を見ても明らかである。
「現在、ガハラ神王国に援軍をもらえないかを要請している。それに各方面でも対策を検討中だが兎に角、各々は万が一に備えてててくれ。」
隣国のガハラ神王国への新書作成や、外交ルートでの交渉に関する話し合いが行われた後に、次の議題へと移る。
「剣王様、日本と言う国が我が国との国交開設の交渉を行いたいと言う件についてですが」
「ガハラ神王国の使者からの情報のやつだな。ガハラの東側にあると聞くが、あそこには小さな島々しかない筈だが………それらが集まってできた新興国なのか?」
「ガハラ神王国からの情報になりますが、人口は2億人を越え、国土は主に4つの大きな陸地から成り立つ列島との事で、かの列強国ムーと同様な科学力を持っているとの事です。それに………」
側近の言葉が詰まる。
「どうした?」
「これは未確認情報なのですが、かのロデニウス大陸で発生した戦争でクワトイネ公国側に就いた日本国には、たった1隻でロウリア王国艦隊約4000隻を壊滅に近い損害を負わせた"戦艦"と呼ばれる軍船を保有しているとの事です」
その言葉と共に側近の1人がシハンらに数枚の魔写と報告書を提出した。これらはロデニウス大陸内で活動しているフェンの密偵からもたらされた物で、シハンを含めた王国首脳陣は信じられないと言った表情となる。
「日本は列強国が持ってるような戦列艦をそう呼ぶのか?で、その戦艦とやらの詳しい情報は?」
「報告書にもある通り、どれもこれも荒唐無稽なものばかりで信用に足る情報はまだ………」
「それについても確かめる必要がありそうだな。日本国からの使者は?」
「応接の間にお待ちいただいております。お連れいたしましょうか?」
「あぁ。今は1人でもこちらに引き入れておく必要がある。直ちに日本の使者を連れて参れ!くれぐれも粗相の無いように!」
「御意」
一時間後………
「何か……こう、気が引き締まりますね」
「まさか戦国時代の日本と同じ文化を持つ国があって、町中の建物や城までも日本式建築とは」
フェン王国に外交交渉にやってきた、日本の外務省職員の『島田耕一』と随行員の『浜本康則』の二人は、フェン王国の第1印象が自国の文化に通じるものがあった事に興奮していた。
「剣王様のおなーりー!!」
正座のまま、畳が敷かれた応接の間の奥にある襖の奥から声があがった。
襖が開かれるとシハンが現れ玉座に座る。
「そなた達が日本からの使者か?」
「はい。日本の外務省より遣わされました島田と申します。こちらは随行員の浜本です」
「随行員の浜本です」
「ふむ。では島田殿、浜本殿、楽にしてくれてよい」
シハンに促され島田と浜本は力を抜く。
両者が対面しあうようなポジションで双方は早速交渉に取り掛かる。
「私どもが貴国に馳せ参じたのはご存じの通りかと思われます。本日は貴国との外交交渉の前のご挨拶として、我が国の職人や科学力で作り上げられた品々をお持ちいたしました。どうかお納めください。」
そう言うと別の襖が開き、シハンの付き人が台の上に乗せられた日本からの品物を彼の目の前に置いた。
「ほう」
台の上には人間国宝に指定されている職人達が1から仕上げた様々な品々が入っている。
その中からシハンは1本の刀を手に取り、鞘から刀身を抜いた
「なんと………これ程の業物を」
島根県のたたら製鉄で精練された玉鋼から職人が叩いたり熱したりを繰り返して作り上げた日本刀はシハンのお眼鏡に叶ったのか、暫く刀身を見つめ鞘に戻す。
「その他の品物もご覧ください」
加賀友禅の絵付師によって細かい花模様が描かれた着物、真珠の本場である三重県の職人が紡いだ真珠のネックレス、自然にある物を最大限に生かされている大島紬の高級反物など一般人が揃えような物なら破産してしまいそうな高級物が献上され、シハンと側近らはそれらを手に取り驚きと興奮の目で品々を観察する。
一通り観察を終えると再び島田達に向き直る
「我々は貴国を見くびっていたようだ。これ程の物を仕上げるには相当の手間と時間、そして長い間に積み重ねられた技術が必要となるのは間違いない。貴国には我が国のように長い歴史があり、物作りに関しては相当の技術と拘りがあるようだ。私は貴国に興味が湧いた」
「では……」
「うむ」
シハンの言葉に島田は待ってましたと言わんばかりの表情で鞄から2枚の手紙を差し出す。
「我が国の首相ならびに陛下からの新書です」
シハンは新書を受け取りそれぞれに書かれている内容を一読する。
「これ程までに礼儀を尽くす姿勢と内容に感涙した。我が国と貴国との国交開設は直ぐにでも執り行おう」
その言葉に島田は内心、緊張が解れた。
「と、その前に」
ある事を確かめるためシハンは島田に切り出し、島田は再び緊張した面持ちでシハンに向き直る。
「確かめたい事があるのだが」
「何でしょう?」
「実は噂で聞いたのだが、貴国にはロウリア王国の艦隊を退けた軍船があると聞く。」
(軍船?………もしかして)
質問の意図を理解した島田は直ぐに返答する。
「その軍船と呼ばれているのは、恐らく我が国の『紀伊』の事でしょう。確かにロウリア王国との海戦に参加したと聞き及んでいます」
「やはり本当であったか。いや、実は我が国は貴国の事はあまりよく知らない。貴国と国交を結べば我が国は安泰だ。だが貴国がロウリアに勝利したと言う話については正直荒唐無稽な物も多いのだ」
「はぁ……」
「私は貴国の力をこの目で見てみたい。貴国には海上自衛隊と呼ばれる水軍があると聞く。貴国のその"キイ"と呼ばれる軍船の力と貴国の水軍の力を見てみたい。」
二人はシハンからの提案に面食らった。
まだ国交が開かれていないのに武装した艦船を派遣するのはまだ時期尚早。
紀伊をアマノキの沖へと持って来いと言うシハンの提案に島田は何かしら意図があるのではと考える。
(せっかく開き掛けていた外交交渉をわざわざ閉めてしまうのは国益にどれ程の影響があるか………しかし、海自の艦隊を持ってくるとなれば他の国からどう見られるか………特にパーパルディア皇国はどう捉えられるか。まさかこの男、我々を味方に引き入れるために?)
どちらにしろ、今此処で回答できる内容では無いため島田は結論を先送りにする事にした。
「剣王様、1度本国へ連絡を取り指示を仰ぎたく存じます。席を外してもよろしいでしょうか?」
「構わぬ。良い返事を期待しておるぞ」
島田はその場を退出し、その日の外交交渉を終えた。
迎えの海上保安庁所属の巡視船『あきつしま』へと戻り、本国へ連絡を取った。
続く
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