フェン王国首都アマノキ
「あれが日本の軍船か………まるで城のようだ」
「城と言うよりは、島だな」
アマノキの港から沖に見える巨大な船を見てシハン達が素直な感想を漏らす。今アマノキの沖に停泊しているのは、紀伊の姉妹艦『尾張』だ。
フェン王国からは当初は紀伊が見たいとの要望だったが、紀伊はロウリア戦後のメンテナンスでドック入りしており出港出来ないため、代わりに現役復帰のメンテナンス作業を終えたばかりの尾張に白羽の矢が当てられ親善訪問の名目でやってきていたのであった。
「私は何度かパーパルディアに行き彼らが保有している戦列艦を見た事がありますが、アレの前では……」
「小舟……いや、玩具と言いたいらしいな」
騎士長マグレブの言葉にシハンは笑いながら尾張を見つめる。
そんな尾張の第1艦橋には艦長『神重治』1等海佐が、双眼鏡でアマノキの港を見つめていた。
(まるで砲艦外交じゃの……)
神1佐は第1艦橋から標的用に用意された標的船の群れを見ながら内心そう呟く。
「艦長。時間です」
「うむ。教練対水上戦闘用意!!」
何時もの号令で乗員達は各々の部署に素早く就いた。
「主砲発射用意!!目標、右舷標的!」
『目標、右舷標的!』
命令を受け取った尾張の砲術長は測距儀を旋回させ、右に見えるフェンが用意した10隻の標的船に照準を合わせ、各砲塔に情報を伝達。3基の主砲塔が動き始める。
「おぉ………あの巨砲が動いたぞ」
「あれ程の巨大な砲を、あの早さで動かすとは……一体のどれ程の水兵が動かしてるんだ?」
シハン達は天守閣から見える尾張の主砲の動きを見ながら、これから起こる事に興奮を隠しきれてない。
「砲術長、フェンの方々に1つ派手な物を見せっくれ!」
『了解です!』
神の指示に砲術長は気合いを入れて、トリガーに指をかける。
『各砲、射撃用意よし!』
『警報!』
3回警報が鳴り響き、外に居た乗員達は艦内に待避した。
「撃てぇぇい!!!」
直後、アマノキ全体にに雷鳴のような爆音が響き、市民達は何事かと沖合に視線を向けた。
「うぉぉっ!」
「ぐっ!!」
50センチ砲の射撃による衝撃波と爆音は城内の召し使い達や王国兵達にも一瞬で届き、吹き抜けの天守閣に居たシハン以下の家臣達は爆音と共に衝撃波を受けて思わず耳を塞ぎ後ずさり、数人の家臣が尻餅をつく。
「おおっ!!これはぁぁぁ!!!」
シハンが耳を塞ぎ、両足をしっかり開いて転ばないようにしながら吠えるような声を挙げた。
彼の目の前には10隻の標的船を取り囲むように9本の巨大な水柱が上がり、標的船は水柱の中に消えて見えなくなるのが見えた。
「剣王様ぁぁ!!あれを!!」
水柱が消えて無くなると、さっきまで見えていた筈の標的船はほぼ全てが転覆、または船体の半分以上沈みかかっており、船としての機能を失っていた。
「次弾装填!!」
「諸元修正!」
最初の砲撃が終わり各主砲塔の弾薬庫から砲弾と装薬が給弾装置にて砲塔へ揚げられいき、射撃指揮所でも砲術長と砲術員達が諸元修正をしながら照準を合わせていく。
『各砲次弾装填よし!諸元修正よし!射撃用意よし!』
「第2射撃てぇぇ!!」
放たれた2射目の直後、満身創痍だった標的船に砲弾が降り注ぎトドメを刺した。
「おぉぉぉぉぉ!!!!!!」
水柱が標的船に大きな衝撃を与え、姿を海中に消してしまった。
海面には標的船の残骸と思われる木片とマストに使われている丸太と幌が海面に浮かんでいる。
「なんと…………」
シハン達は言葉が出なかった。
10隻あった標的船がたったの一撃で、残骸を残して消滅してしまったのである。
「このような破壊力、皇国では到底真似できん。直ぐにでも日本と国交開設について準備と調整を進めよう」
一方、砲撃直後の尾張の艦橋に、CICから奇妙な報告が入った。
「間違っげなかっとか?」
『はい。みょうこうのレーダーが西の方角から188ノットで接近するアンノウンを捕捉。あと10分でこの場に到達します』
「…………確か西にパーパルディア皇国と言う国があったな?この軍祭に招かれているのではなかとか?」
「そんな話は聞いていませんが…」
「直っちきに確認を取ってくれ!それと対空戦闘用意!」
「戦闘配置ですか!?」
「あぁ……嫌な予感がすっど」
「了解。対空戦闘用意!!」
艦内に再度警報が鳴り響き、乗員達は予定に無かった突然の対空戦闘配置の号令に驚きつつも、訓練通り各々の配置に就く。
「そのまま待機。突発事態に備えよ」
神の予感は数分後に最悪な形で的中する事になる。
西の方角からパーパルディア皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーン部隊20騎は、フェン王国に対する懲罰攻撃のためアマノキ上空へと来ていた。
彼らの任務はフェン王国への懲罰攻撃に加えて、今アマノキに集まっている文明圏外国の外交官へ向けての警告を示す威嚇任務も担っている。
上空には軍祭に招かれていたガハラ神王国の風竜が居るが、彼等を見るなりパーパルディアのワイバーン達は目を逸らす。
「ガハラの民には構うな!当初の予定通り二手に分かれろ!第1小隊は城と市街地、第2小隊はあの巨大船に攻撃だ!!」
隊長と思われる竜騎士が指示を出し、ワイバーン部隊は二手に分かれて王城と市街地、そして尾張目掛けて急降下を仕掛けてきた。
「国籍不明騎、発砲!!」
その直後、王城に向かったワイバーン部隊から放たれた火炎弾は王城に着弾、木造の城は一瞬で炎上した。
『王城被弾!炎上中!』
「目標の動きは?」
「目標群α離脱!目標群bは本艦直上より降下中!」
尾張へと向かってきていたワイバーン部隊は、尾張のほぼ直上から急降下を仕掛ける。
「なんてデカさだ………」
「あのような船を蛮族どもが…?」
騎士達は距離が縮まる度に、尾張の巨体に恐れおおのく。
「あんなものはコケ脅しだ!怯むな!攻撃用意!」
指揮官らしき騎士は部下達にそう言い聞かせ攻撃準備を指示する。
「不明騎集団本艦直上より急降下!攻撃態勢に入った模様!」
「艦外に出ている者は至急待避!急げ!」
神は尾張の巨体では回避は出来ないと判断し甲板と見張所に居た隊員達に待避を指示、隊員達は急いで艦内に待避、間に合わない者は側にある遮蔽物に身を隠す。
「喰らえ!」
その直後に、尾張に向かってきたワイバーン10騎から同時に放たれた巨大な火球が降り注いだ。
「被弾!」
全弾が尾張の右甲板と第1艦橋上の見張所と右舷甲板に命中し炎上した。
「被弾!」
熱と煙を感知したスプリンクラーのセンサーが反応し消火用の水が吹き付けられる。
「被害報告!!」
『艦橋見張所、右舷甲板に被弾!現在消火作業中!被害集計中!!』
直ぐ様被害確認と消火作業が開始された。幸いにも負傷者は待避する最に転んだ者が数名、火災もスプリンクラーが作動した事とダメコンによる消火作業が迅速に行われたため被害は微小で済んだ。
「目標群b上昇!」
「自衛隊法第95条に基づき正当防衛射撃を行う!!砲雷長、火器の使用を許可する!」
「了解!」
砲雷長は安全キーを回して全火器の安全装置を解除する。
「CIWS、攻撃初め!」
沈黙していた4基のファランクスが起動し、自動制御で逃げようとするワイバーン部隊を捕捉する。
「どういう事だ!?あの数の火炎弾を喰らって平気なのか!」
水平飛行で待避行動を取っていたワイバーン10騎は、渾身の一撃が効いていない事と摂氏何百度もある炎が瞬く間に消え去っていく様子に唖然としていた。
「反転上昇!もう一度だ!」
隊長騎の指示で竜騎士達は反転上昇し今度は真正面から仕掛ける。
「不明騎、本艦正面より接近!」
「正面は死角です!」
尾張を含めた大戦時に建造された艦は左右からの砲撃戦を想定しているため真正面、しかも海面スレスレの低空飛行で接近してくる目標へ対しては死角となり攻撃が出来ない。
「ぐぅっ!!」
先頭を飛行していた若い竜騎士は目の前に迫ってくる尾張の巨体に恐れおおのく。
「このぉっ!」
しかしそんな恐怖を圧し殺すように、声を揚げながら愛騎に攻撃を命令し、再び火球が放たれた。
「被弾!」
全弾が艦首に直撃したが、高張力鋼による装甲が施されている尾張の巨体には全く効果はなかったが、命中した箇所の船体塗装と艦番号が真っ黒に変色してしまった。
『上昇しろ!再度真上から仕掛ける!』
竜騎士達はその場で急上昇し真上から仕掛けようとする。
「不明騎再上昇!」
しかし彼らのその動きは命取りとなった。
真上に上昇して左右に分かれた事によりCIWSのレーダーが彼らを捕捉、4基のファランクスが完全自動制御により驚異とみなした5騎のワイバーンを瞬く間に撃墜していく。
『何が……起きた………?』
幸い1人の竜騎士が攻撃を受けた愛騎からバランスを崩して落下、20ミリ弾の直撃を受ける事はなかったが落下中に自身の隊が次々と撃墜されていくのを目の当たりにし、海上に落下した。
「何が…何が起きたんだ!」
王城の攻撃に向かった別のワイバーン部隊も、目の前で友軍が全滅したのを目撃、報復のため尾張の左舷側に回り込み接近する。
『目標群α、左舷より急速接近!』
「CIWSにて対応!」
左舷側のファランクス2基が起動、レーダーが向かってくる竜騎士隊に向けて射撃を開始した。毎分3000発の発射速度を誇るバルカン砲の射撃に晒された騎士とワイバーンは一瞬で粉微塵にさ叩き落とされていく。
「ターゲットスプラッシュ、全目標迎撃」
「右舷11時に生存者を確認」
「救助作業開始!」
「……………………」
攻撃を受けて炎上した王城の天守閣から3階下の部屋に避難していたシハンと側近、そして市民達は開いた口が塞がらなかった。
単騎でも最強と言わているパーパルディア皇国軍のワイバーン10騎の攻撃を受けても何事も無いかのように赤子の手を捻るかのごとく殲滅した尾張の実力に、シハンとフェンに招かれていた各国の大使は恐れおおのいた。
勿論、その様子は上空を飛んでいたガハラ神王国の騎士『スサノウ』と相棒の風竜は、尾張の高い対空戦闘能力に驚嘆する。
『すごいものだな、あの船は』
風竜は尾張を見下ろしながら声をあげる。
『あの船から放たれた大量の光弾は、直前にあの白頭のような物から光が放たれ、その反射を捉えてから打ち上げていたみたいだ』
風竜の目はレーダーから放たれる電波を光として認識できる様になっており、電波によって相手の航空機を捕捉し照準を定める仕組みを自分なりに解釈する。
『あの船は凄い。大きいだけかと思ってたが』
「お前がそう言うなんてな。まぁ見りゃ分かるが、あの船はどれくらい凄いと思う?」
『伝承にある、古の魔法帝国の魔導戦艦や対空魔導艦など、あの艦の前では玩具同然だろう。誘導魔光弾を100発撃ち込んでも沈めるのは難しいかもしれん』
「スゲェ………こりゃ帰ったら報告書が大変だな。」
上空の静観者は距離を置きつつ、その場を飛び続ける。
続く
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