クワトイネと日本との戦争後のロウリア王国は、国力と軍事力は大きく低下していた。
戦争により陸海空の軍事力と兵力は戦争前の全盛期ほ時と比べると7割以下にまで低下し、それこそ国土を守るための必要最低限しか残っていない。
軍事力低下に伴い、現役軍人達への給金も減り、離職者も増加の一途を辿っているという、悪循環に陥っているが、中には軍人の方が最低限生きていけるだけの金は稼げると残る者も居る。
戦争終結から一年近く経過した現在は日本の大手ゼネコンや中小企業による用地買収や、日本企業に就職した現地人に対する給金や就業時間に関する待遇の良さを聞き付けた退役軍人やロウリア国民による就職活動の活発化に伴う雇用率増加、更にはロウリア王国が得意とする物品産業の活発化とそれらの輸出による人手不足が拍車を掛けて、今やロデニウス大陸における一大産業国家となりつつある。
そんな中でも、決して驕る事無く、家族のために必死に働く一人の元ロウリア軍人の姿があった。
「では、受け取り証にサインをお願いします」
ロウリアの南の僻地にある村で、一匹のワイバーンと共に書類を手に、村長と話をしていたのは、元ロウリア王国軍竜騎士の『ムーラ』だった。
一年前の戦争で、陸上自衛隊のアパッチと空中戦を繰り広げ、当時の愛騎の犠牲で生き残り捕虜となったムーラは、戦争終結後直ぐに解放され国へ戻り、今は家族を必死で養うための一人の男となっていた。
現在彼は、日本の某大手運輸会社のロウリア支社にて、新しい相棒のワイバーンと共に荷物から手紙まで何でも何処にでも素早く運ぶ一流の社員となっていた。
「確認しました!では、ありがとうございます!またのご利用を!」
ムーラは制服を兼ねた作業服に身を包み、会社のロゴが刺繍されたキャップを脱いで一礼すると、相棒の背中に素早く乗り込み村を飛び立った。
「ふぅ。今日だけで北から南へ回ったからな」
『グゥゥゥ~』
この日ムーラは、荷物や手紙を運ぶためにロウリア王国の北から南まで、1日ぶっ通しだったため、相棒共々疲れ果てていた。
「頑張れ相棒、後は帰るだけだ。明日は休みだから妻と娘と一緒にピクニックにでも行こう」
ムーラはそう声を掛けながら相棒の頬を撫でる。相棒も嬉しそうな声をあげる。早く帰ろうと相棒を加速させ、ジン・ハークにある支社へと急いだ。
そして、ジン・ハークに到着し、自分が勤務している日本の某大手運輸会社のロウリア支社のオフィスへと戻った。
「ムーラさん、お疲れ様です!」
「先輩!お先です!」
「お疲れ様です。これ良かったらどうぞ」
オフィスに入ると、同じ支社に勤務する軍人時代からの同期や友人、更には日本から出稼ぎでやって来た日本人社員一人一人に声を掛けられたり、差し入れのコーヒーを手渡されたりする。
皆、ムーラの人柄の良さに惹かれ慕っている者ばかりで、ムーラも軍人時代からの同期や友人に加えて、敵だった日本人からも特に酷い扱いや心無い言葉を掛けられる事無く、まるで友人のように接してくれる彼等のお陰で会社内でも何も気にせず仕事に没頭できている。
「ありがとう。じゃあ俺もタイムカードを押したら直ぐに帰るから」
そう言って立ち去ろうとした時、奥から上司が慌てた様子で走ってきた。
「部長、どうかしましたか?」
「ムーラ、支社長がお呼びだ!直ぐに私と支社長室へ来てくれ!」
「はい!」
彼の様子から只事ではないと直感したムーラは彼と小走りで支社長室へと走った。
そして支社長室へ入ると、そこには支社長と黒いスーツを着こなした一人の日本人の姿があった。
「ムーラ君、お疲れの所申し訳ない。実は君に大きな話があるんだ。詳しい事はそこにいらっしゃる日本国外務省の方から」
ムーラは驚いた。明らかに場違いな日本の外務省の人間がそこに居て、自分に用があると聞かされては。
「はじめまして。外務省より派遣されて参りました入江と申します。実はムーラさんに我々からお願いがありまして」
入江と名乗った外務省職員はムーラに用を伝える。
「この島にですか?」
「えぇ。貴方はロウリア王国の竜騎士の中では最高の腕を持っていると聞きます。貴方と貴方の愛騎の腕を見込んで、お願いしたいのです」
なんとムーラは、日本の外務省から自身の腕を見込まれて例の島に向かうための特使の一員としての参加を要請され、しかもその仕事の内容は島へ派遣される特使の移動手段、つまりは車で言う所の専属の運転手として一時的に外務省に出向してほしいとの要請を受けたのである。
「………………」
ムーラは考える。
会社の利益や宣伝、更には家族を養うための糧と考えれば、これは大チャンスであり、みすみすこれを逃す手は無かった。
「余りにも突然の事なので、お返事は家族と話し合ってからと言う訳には行かないでしょうか?」
「それは勿論。ゆっくりと話し合って決めてください」
ムーラは一旦返事を保留し、話を家に持ち帰る。
そして翌日、ムーラは支社長と入江に件の話を受け入れ、特使の一員に加わる事となった。
続く
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