閑話休題:1
日本の勝利で終結したカルトアルパス戦から2週間後、撃沈されたグレード・アトラスターの生存者と、シエリア・ダラスの両名は日本へと移送された。
カイザルとラクスタルを含めた1000人近い乗員は、日本の法律上は殺人未遂、器物破損、凶器準備集合罪、危険物取締法違反、海上交通安全法違反で瀬戸内海に建設された捕虜収容所へと移された。
一方でシエリアとダラスの2人は外交官の身分であり、グレード・アトラスターの乗員ではないため監視付きではあるが、捕虜返還に向けた交渉を進めるための国交開設のため外務省主導により、2人を日本国内の視察をさせていた。
「これが日本の首都か……」
「そんな馬鹿な………」
東京のど真ん中で2人は聳え立つビルや、広い道路を悠々と走る車や公共交通機関に度肝を抜かれていた。2人の目には、祖国の帝都ラグナがまるで時代遅れに見え、回りにある物全てが進んだ科学力や技術力で作られていると理解する。
「我が国の首都はどうでしょうか?」
外務省から派遣された案内役兼監視役の『大田昇』の問い掛けに、振り向いたシエリアとダラスは答える。
「凄まじいとしか言いようがない……」
「あ……あぁ……シエリア様と同じ意見だ。言葉には出来ない」
「お褒めに預かり光栄です。ではお二人にはこれから数日掛けて国内の主要地を回って頂きます。お買い物があればこちらをお使いください」
大田は懐からスマホを取り出し2人に渡す。
「何だこれは?」
「鏡にしては黒い…」
「それは我が国で一般的に使用されている通信端末です。スマートフォンと言って、これ一台で電話から買い物をした時の決済、知りたい情報、公共交通機関のダイヤグラムの確認が出来ます。今から使い方をご教授させていただきます」
大田は2人に分かりやすいようスマホの使い方を教える。2人は電源ボタンを押して画面に表示されたクリアなデジタル表示に驚きつつ、通話方法、インストールされているアプリの使用用途、電子決済の方法等をレクチャーされる。
「信じられない……これ一台で電話どころか買い物、金銭管理、メモ、更にはテレビ、娯楽まで楽しめるとはな……」
「大田殿、これを持っているのは富裕層だけなのか?」
「いえ。一般の方から幼稚園の子供まで持っていますよ。まぁ値段はそれなりにしますが、各電話通信会社からその人達のニーズに合わせたサービスやプランも幅広く展開されているので、車のように手が届かない物ではありません」
この説明にもうシエリアもダラスも驚くのを止めた。
「ではバスで都内を移動します」
外務省が用意した専用のマイクロバスに乗り込む2人。そこでシエリアがある事に気が付いた。
「大田殿、回りに同じような車があるのだが……」
「あれは囮です。国民の中には貴殿方を快く思っていない方も少なからず居るので」
今回の2人の警備には警察庁と警視庁が合同で動いているのだが、2人の身分が身分なだけに大掛かりな警備が出来ないため、隠密行動に長けた警視庁公安部が2人の目の届かない所で動いている。
「では参りましょう。本日は都内を回りましょう」
大田とシエリア、ダラスに加えて、警護役の公安警察官3人を乗せたマイクロバスは高速に乗った。
シエリアは少しでも日本の事を知ろうと、窓から周辺の景色を見て回る。
(凄い交通量だ………こんな数の車の移動を制御できる信号に従って車が動く。どうやら日本人は規律に厳しい国民性らしい。幼少からそう言った事を教えるための教育システムも優れていると言う事か……となると識字率や教育に関しても我が国より優れていると言う事になる!)
渡されたスマホでシエリアは日本人の国民性についての秘密を知ろうと、日本の教育の仕組みや、教育制度がどのように機能しているのを調べ始める。
その一方でダラスはスマホに齧りつきながら、日本の軍事力について調べていた。
(成る程………日本は我が国の運命戦争や冬戦争とは比べ物にならない数の戦争を経験しているのだな)
スマホから年代毎に日本が経験している近代戦争の歴史について調べ上げる。
(日本が江戸と言う武士の時代から明治と言う元号を持つ近代国家『大日本帝国』となり自国より遥かに勝る2つの大国との戦争『日清戦争』『日露戦争』で勝利を収め、一気に列強にのし上がった……しかし他の列強から突きつけられた不利な軍縮条約、隣国の大陸国家との泥沼となった戦争、そして起こった太平洋戦争!)
ダラスは太平洋戦争を中心とした資料に注目した。
(これは!?)
資料には、自国のグレード・アトラスター級にそっくりな大和型戦艦や、アンタレス型戦闘機にそっくりな零式艦上戦闘機、他にも自国の軍隊が保有している各種兵器に似た写真が解説付きで細かく添付されていた。
(どうしてこれ程に我が国の兵器とソックリなんだ?いや、問題はこの戦争の結果だ)
ダラスは太平洋戦争の資料を読み進める。
(開戦から半年は日本の優勢、だがミッドウェイ海戦での敗北から日本は戦争の主導権を失った訳か)
更に読み進めると、レイテ沖海戦の資料にたどり着いく。そこでダラスは驚くべきものを見た。
(なっ!これは…………)
そこには、カルトアルパスでグレード・アトラスターを撃沈した紀伊と尾張の戦績が記載されていた。
(レイテ沖海戦の直前で完成した例のあの巨大戦艦の片割れが、たった1隻で敵が待ち構えている海峡に突入し、敵国の戦艦3隻と巡洋艦、駆逐艦、補給船を多数撃沈!?)
彼にとってレイテ沖海戦で紀伊が上げた功績は凄まじいの一言では尽きなかった。自国の戦艦ですらグレード・アトラスターを除き単艦のみで、しかも初めての実戦でこれ程の戦果を挙げた艦船はない。
ダラスはその後も紀伊と尾張に関する資料を読み漁り、気が付けば1時間が経っていた。
「………」
「どうしたダラス?」
「いえ……何も……」
ダラスは完全に精神的に疲れきっていた。静かに揺れる車内で帝国の国力を信じて疑わなかった思いが打ち砕かれ、同時に世界会議で日本を含めた世界への宣戦布告をしてしまった自分と祖国の意思決定を呪っていた。
(兎に角今は日本の機嫌を損ねないようにしなければな……)
そう心の中で決意し、今は日本国内の視察に集中する事にしたダラスであった。
続く
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