日本には名峰『富士山』と言う山がある。頭頂高3776メートルにも及ぶこの山の麓には、陸上自衛隊富士演習場があり、ここでは関東の陸自部隊が訓練に使用している。
その演習場に今、多数の車両が土煙を上げながら走っていた。
『第1戦車小隊前進!』
それは、陸上自衛隊では退役して久しい61式戦車だった。お椀のような形状と高い車高が特徴のこの車両には、ムーの国章が描かれ、それにはムー陸軍の軍人が乗り込んでいた。
政府のムーへの支援政策で、ムー軍への有償貸与予定の装備に関する教育のため、ムー陸軍が陸上自衛隊の監督の基に猛訓練を受けていた。
『小隊、目標捜索!』
演習場内の道路を突き進む61式戦車小隊は、小隊長車を先頭に射撃場へと入った。小隊所属の各戦車の車長がハッチから身を乗り出し辺りを警戒する。
『こちは1-3、1時方向に敵発見!』
『了解!小隊操縦手、右旋回!』
目標を発見した小隊車の報告で、小隊長が命令を下し、小隊の61式全車両が一斉回頭し射撃場へと侵入した。
『装填手、対榴装填!砲手、目標3の台左!』
車内に居た装填手が弾薬庫から対戦車榴弾を装填し、砲手がハンドルとレバーを操作し砲塔を目標が設置された丘へと向ける。
『小隊停止!撃て!』
操縦手がブレーキを掛けて車体を停止させ、同時に砲手が引き金を引く。小隊が一斉に90㎜戦車砲を発射し、ほぼ同時に目標へ砲弾が着弾した。
『命中!撃ち方やめ!』
小隊は射撃を終えて、各車両の車長が赤い旗から緑色の旗に付け替え、安全を確認する。
『小隊各車、後退!』
射撃を終えた小隊は後退し、射撃場から退場した。
「よし!」
午前中の訓練を終えた小隊は休憩に入った。たが休憩中と言えど、練度向上に勤める彼等はここ数週間で受けた訓練成果や反省点について話し合っていた。
「今日の午前の部の射撃について、皆思う事があったら言ってくれ」
「はい。やはりまだ射撃のタイミングにズレがありますね。あともう少しなんですけど」
「自分もそう思います」
「後は射撃さえ完璧にこなせるよう、射撃を中心とした訓練を組みましょう」
「そうだな。日本が我々にこんな凄い物を貸してくれるなら、それに見合う実力を持てるよう頑張らないとな」
彼等は訓練初日、富士教導団による訓練見学の時点で、ひたすらに技術を磨き続け、更なる練度向上にひたすら突き進む陸自隊員の姿を見て、自分達に彼等の装備を扱えるのかどうか不安を感じていたが、数週間近い訓練を重ねていくうちに陸自隊員にも負けないほどの向上心が芽生えていた。それは一重に、愛国心として国を死んでも守りたいと言う思いからだった。
「昼飯を終えたら直ぐに車両の整備点検と燃料補給をして、また訓練に入るぞ!」
「「「「「はい!!」」」」」
彼等は昼飯をそこそこに、車両の整備点検と燃料補給を行い、また訓練に入っていった。
一方その頃、千葉県習志野市にある陸上自衛隊習志野演習場内を、列を成した集団が銃を斜めに構えて走っていた。
「「「「いーちにっ!いちにっ!そーれ!」」」」
陸上自衛隊の旧型迷彩服を着用して走っていたのは、ムー陸軍特殊部隊だった。彼等はムー陸軍の近代化計画の特殊部隊構想の基に編成され、第1空挺団から訓練を受けていた選抜隊員だった。
彼等が着る迷彩服の胸には、パラシュート降下資格持ちを示す空挺徽章のバッチが光り、その他にも格闘徽章や射撃徽章を持っていたりもする。
この日彼等は、特別訓練プログラムの最終課程となる空挺レンジャー訓練を行っていた。
朝の基礎体力訓練を終えた彼等は、訓練場に集められ、空挺レンジャーの最初の訓練となる体力基礎訓練が課せられていた。
「お前ちゃんと足上げろ馬鹿野郎!」
「レンジャー!」」
「自分に打ち勝てよ!そんなんじゃ国も人も守れねぇぞ!」
「レンジャー!」
教官役の第1空挺団のレンジャー隊員と助教からの指示には、「レンジャー!」と言う発言しか許されず、基礎体力訓練に必死で取り組む。
プロのオリンピック選手と同等かそれ以上の運動量に、選抜された研修生達の表情は死にかけている。
「お前が脚を引っ引っ張ると皆に迷惑が掛かるんだよ!分かってんのか!」
「レンジャー!」
「声が小さい!もっと声張り上げろ!」
「レンジャー!!!」
彼等は教官や助教からの罵声にも一切の感情を見せる事なく、石にかじりつくような思いで訓練をこなしていく。
空挺レンジャー訓練な2ヶ月掛けて行われ、この日は基礎体力訓練の最後の日で、彼等はこの後、駐屯地から出て、某山中による転地訓練が待っている。
翌日に、研修生達は装備と武器を抱えて習志野駐屯地から某県某山中へと移動し、有事を想定した徒歩による長距離移動訓練、敵襲撃や破壊工作訓練と言った実戦を想定した訓練を開始した。
続く
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