日本本土から南東に位置する、日本の排他的経済水域に展開する海上自衛隊第1護衛隊群は旧太平洋方面の領海と排他的経済水域を担当していたが、この世界では大東洋上に設けられた日本の領海と排他的経済水域を担当しており、今回のグラ・バルカス帝国の潜水艦事案の政府による治安維持出動命令により各護衛艦は対潜哨戒任務に就いている。
第1護衛隊群第1護衛隊所属の護衛艦『むらさめ』は、海底ソナーで構成された音響監視システムがこの付近で潜水艦らしき反応を捉えたとの情報を基にこの海域で敵潜水艦の捜索を行っており、その最中に横須賀の護衛艦隊司令部からの連絡を受けていた。
「どうやら厚木基地のP3が潜水艦1隻を仕留めたらしい」
CICにある艦長席で、艦長の『山村秀則』一等海佐が通信内容をその場に居た乗員に知らせる。
「報告によると現場は此処からそう離れては無いですね。となると、この付近にも潜んでいる可能性が高いです」
「ソナー、付近に潜水艦の反応はあるか?」
「今の所は確認されていません。アクティブ・パッシブの両方を使っていますが反応はありません」
むらさめの艦尾からは曳航式ソナーが延びており、艦首のバウソナーも今の所、潜水艦らしき反応は捉えていないが、今むらさめが航行している海域は少し問題があるのだ。
「この付近の海底は複雑な地形なせいでアクティブソナーは殆ど役に立ちません。艦長、速度を落としますか?」
「艦橋、両舷前進半速」
「両舷前進半速」
むらさめは強速から半速へと速度を落としパッシブソナーの障害となる航走雑音を減らす。
ソナー員は全神経を集中させながら、ヘッドセット越しに聞こえてくる海中の様々な音を聞き続ける。
その頃、むらさめが航行する海域の海底150メートルに回りを岩に囲まれた窪地に、1隻の潜水艦の姿があった。
「艦長、目標本艦直上を通過中」
「全員、決して音を立てるな」
グラ・バルカス帝国海軍第2潜水艦隊第3文明圏派遣隊所属のハイドラ級攻撃型潜水艦『ハイドラガンマ』は、息を殺し、窪地から動かないでいた。
コーン…コン~コン~…コーン…コ~ン…コーン…
「嫌な音だな」
ハイドラガンマ艦長の『ポンペイ・ワウム』少佐は、ソナー音に不快感を示す。
むらさめから発せられるアクティブソナー音は辺りの岩に反響して不規則な音を立てる。音はゆっくりではあるが徐々に遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
「艦長、目標遠ざかります」
「よし。メインタンク無音ブロー、アップトリム5」
「メインタンク無音ブロー、アップトリム5」
ハイドラガンマのメインタンクから海水がゆっくりと吐き出され、操舵手は潜舵を慎重に操作し、船体が窪地から海上に向けて浮き上がっていく。
「ソナー、目標に動きは?」
「特に異変はありません。我々には気がついていない模様です」
「よし。魚雷発射可能深度まで浮上。ゆっくりだ」
ハイドラガンマは静粛を保ちながらゆっくりと浮上を掛けて、魚雷発射可能限界深度で停止する。
「ソナー、敵の位置と方位は?」
「前方12時方向。まだ音は聞こえるので射程距離内です」
「魚雷1番から6番装填」
艦首の魚雷発射管に6本の魚雷が装填される。
「魚雷装填よし」
「発射管注水、発射管扉開け」
この作業が潜水艦にとって一番無防備となる。魚雷発射管に海水が注入され、発射管扉が開かれるとどうしても音が鳴るので敵に発見されやすいのである。その音を、遥か前方のむらさめの曳航ソナーが捉えた。
「艦長、後方より注水音聴知!」
「艦長より艦橋!機関最大、両舷最大戦速!」
「機関最大、両舷最大戦速!」
むらさめのガスタービンエンジンが一気に唸りをあげて、船体を一気に加速させていく。
「デコイ投下!」
同時に、短魚雷発射管から
「突発音確認!目標、魚雷を発射した模様!」
「針路と速度は?」
「針路180度より急速接近中!まっすぐ向かってきます!」
「取り舵一杯!」
むらさめは囮魚雷が向かった方向とは逆の左に向けて回避行動に入った。
こうする事により、囮魚雷とむらさめが発する音で相手にこちらが2隻に増えたかのように撹乱させる事が出来る。
その効果は直ぐに効き始める。
「艦長!目標が2隻に増えました!」
「慌てるな。恐らく片方は囮だろう。どちらに舵を切っても当たる放射状に撃ったから、どちらかには必ず当たる筈だ」
ハイドラガンマは魚雷を撃ってから直ぐに艦首を下にして潜航していく。大戦当時と同じ様に一撃離脱が基本の旧式潜水艦は魚雷を撃ち終えたら爆雷攻撃を避けるために、一気に潜航し身を隠すのが基本である。
ポンペイは潜水艦乗りとしては優秀であり、潜水艦の運用に関しては教科書が服を着て歩いていると言われている程に基本に忠実な男である。
「ソナー、魚雷は?」
「航走中!間も無く命中予定時間!」
司令室にある時計の秒針が魚雷命中予定時間に迫る。
「着弾!」
予定時間に達し全員が息を飲んだ。
だが、爆発音のような異音は聞こえなかった。
「躱されたな。恐らく魚雷発射前の注水時に気が付いたんだろう。そこから命中までに回避しきるとは、相手は中々手強いぞ」
ポンペイは不敵な笑みを浮かべつつ、姿も知らぬむらさめに警戒する。
続く
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