第1話
西暦………否………中央暦1639年4月24日
クワ・トイネ公国が誇る一大軍港『マイハーク』に基地を置く、クワ・トイネ海軍第2艦隊は、保有する艦船のほぼ全てを集結させていた。
マイハーク湾を埋め尽くすが如くに停泊している木造の帆船は帆を畳み、水兵らが物資の積み込み作業を行っている。
「ふむ…これだけの艦船が揃っている所を見ると壮観だな」
そう呟くこの男、クワ・トイネ海軍第2艦隊司令官『パンカーレ』提督はオペラグラスでマイハーク湾を眺めている。
「全くです……ですが、敵は4000隻の艦船を保有するロウリア海軍です。はたしてこの艦隊の中でどれだけの人間が生き残れるか……」
側近が漏らした本音にパンカーレも、敵の圧倒的な物量の前に不安を感じざる得ない。
クワ・トイネ公国の隣国『ロウリア王国』が、亜人殲滅と言う大義名分のもと、クワ・トイネ公国に攻め入り、国境の町ギムを陥落させ、住民を虐殺した。
ロウリア王国による侵攻を何としても食い止めるため、クワ・トイネ公国は持てる戦力の全てを投じて、ロウリア軍による侵攻に備えつつあった。
今マイハーク湾に停泊しているこの第2艦隊も、ロウリア海軍が大艦隊を率いてマイハーク港に出港しつつありとの情報の基に用意された戦力である。
「提督!海軍本部より魔信による連絡が入りました!」
「読め!」
「はっ!『本日、日本国の戦艦1隻と護衛艦4隻が、援軍としてマイハーク港に到着する。日本国は我々より先にロウリア艦隊に攻撃を行うため、観戦武官1名を彼らの戦艦に同乗させるよう命令する。』以上です」
「たったの5隻だけか!?それに
「間違いありません」
海軍本部からの報告にパンカーレは、日本国のやる気のなさに憤慨する。
「たった5隻の艦隊に観戦武官1名を乗せろだと!?それじゃ観戦武官に死ねと言っているようなものではないか!そんな所に部下を送る事なぞできん!」
そこへ、一人の青年が発言する。
「提督。意見具申の許可を」
「おぉブルーアイか。許可する」
「その観戦武官の任、私が受けます」
パンカーレの部下『ブルーアイ』の衝撃的な言葉に、その場が沈黙する。
「正気か?それは死ににいくような物だぞ」
「分かっています。ですが、竜よりも速く空を飛ぶ鉄龍や鉄で出来た船を作れる程の日本の事です。何か勝算があるのでしょう」
「しかし……」
「それに私は剣術には多少の自信があります。万が一の時は泳いででも帰ってきます」
彼の海軍軍人としての熱意は高く、それを誰よりも理解しているパンカーレはブルーアイの言葉を信じ観戦武官としての任務を与えた。
その日の夕刻
夕日が東の水平線に傾きつつある中、マイハーク港は蜂の巣をつついたような騒ぎに見舞われていた。
「うわぁ!何だあのデカブツは!!」
「島が……島が近づいてくるぞ!!」
海軍基地や水兵達は、マイハーク湾沖合い現れた巨大な影にたちまちパニックになる。
「あ………あれは………」
その影は、前から見た全幅が少なくとも40メートルを越え、高さ50メートルはあろうかと思われる塔のように聳え立つ構造物、左右の甲板から塔を守るかのように備えられた大量の砲に極めつけは、3本の長く太い砲身が横並びに装着された巨大な主砲塔…………
「あれは船なのか……」
パンカーレはそれを見上げながら呟き、側近とブルーアイは口を開けたままポカンとしていた。
マイハーク湾沖合いに現れた島のように巨大な軍艦は、帆が付いておらず、夕日の光に金属独特の鈍い光を放っており、彼らはそれを真っ先に鉄で出来た船と悟った。
「あの………提督………」
「あぁ………」
ようやく正気に戻ったブルーアイは、パンカーレに話し掛ける。
「提督…あの船は鉄で出来ています。」
「みたいだな。しかしあれ程巨大な金属船を日本が保有しているなんて聞いてないぞ。」
やがて、その鉄船から竹トンボのような金属の塊が飛び立ち、ブルーアイ達がいる海軍基地の開けた場所へと降り立った。
「日本国より援軍として参りました!観戦武官の方のお迎えに上がりました!」
「え、あ……ご苦労様です。私が観戦武官のブルーアイと申します!」
「ではこれより我が艦へとご案内いたします!」
金属の塊から降りてきた日本国の軍人の迎えにより、ブルーアイは鉄の塊に乗り込み固いシートに座る。
「うぉぉ!」
暫くして金属の塊はゆっくりと浮かび上がり、あっという間に海軍基地から離れ、沖合いの鉄船に向かって飛び始める。
ガラス越しに見えてくる鉄船に近づく度に、ブルーアイはその大きさに圧倒される。
(いったい何なんだこの船は!船体は全て鉄で作られ、我々が知る物よりも遥かに巨大な大砲が3つもある。これ1隻での戦闘力は計り知れない!)
彼は、目の前の巨大戦艦を理解しようと思考を張り巡らせるが時間はそれを待ってはくれず、数分後にはその艦の後部にある広い鉄製甲板に降り立ち、そこから青い色の服と紺色一色で大陸共通語とは違う未知の文字が刺繍された帽子を被った数人の水兵の案内で艦内へと通される。
(なんて広い通路だ!中は船の中とは思えない程明るいし、どんな魔法が使われているんだ!)
上に上がるエレベーターに乗せられ、塔の上にたどり着くとこの艦の艦長が出迎えた。
「ようこそ観戦武官殿。私は日本国より援軍に参りました海上自衛隊、護衛戦艦『紀伊』艦長の松田千春一等海佐であります。」
「クワ・トイネ海軍より観戦武官の任を賜りました参りブルーアイです。この度は援軍に感謝いたします。」
軽く自己紹介を終えると、松田は早速説明に入る。
「では早速ですが作戦についての説明をいたします。」
松田は第1艦橋の一段下にある海図室にブルーアイと共に移動し、海図台に周辺海域の海図を広げた。
「現在我々はロウリアを名乗る武装勢力の位置をここから西へ500㎞の位置に展開している事を把握しています。船足は5ノットと非常に低速ですが、いかんせん数が多い」
海図台に海上自衛隊所属のP-3C哨戒機や航空自衛隊のRF-4EJが高高度から撮影したロウリア艦隊の航空写真を数枚程広げた。
コンピューターで画像処理された写真には、ロウリアが保有する軍船が1隻ずつ鮮明に映し出されており、拡大写真には甲板に居る水兵や搭載物まで写っており、ブルーアイはそれらの写真を手に目を見開く。
(これ程のモノをどうやって…………ムーの写真機ですらこんなにハッキリとは写らない筈なのに)
驚きのあまり声も出ないブルーアイを尻目に、松田は説明を続ける。
「今回の作戦は我が艦隊は0100時に出港、敵武装勢船集団を上回る速度を生かし、敵艦隊を大陸沖で待ち構えます。先ずはこちらから接触と同時に警告を行い相手が従わなかった場合に限り武装勢力を全力を以て排除………一応これが今回の作戦の簡単な流れになります」
「しかし、相手はあのロウリア王国です。いくらこの船を含めた貴方方の船が大きく戦闘能力が高くても、数で押し切られたら……」
「そこはご心配なく。この紀伊は4000隻の帆掛け船は一隻たりとも寄せ付けはしません!」
ブルーアイは松田艦長の異様な自信の高さに驚く。彼らはクワ・トイネ海軍の協力を得ずに、ロウリア艦隊に挑むと言うのだ。
(確かにこの『紀伊』と言う船を含めた日本国の艦は鉄で出来ており、バリスタや火矢などはものともしないだろうし、見上げる程に巨大な砲を装備しているが、やはり4000隻の艦隊に挑むなど無謀すぎる!…………だが、この人が言うように、この巨船と日本国の力が本物なら…………私は史上初の瞬間を目にする事になるかもしれないぞ!)
一抹の不安を抱くブルーアイだが、不安と同時にこの船が持っているであろう能力が松田が言う通り本物なら自分はこれまでの常識を打ち砕く衝撃とクワ・トイネ始まって以来の歴史的な瞬間に立ち会えるのではないかとも思う。
「分かりました。貴国の実力について、私は一瞬たりとも目から離しません!どうかよろしくお願いいたします!」
ブルーアイの言葉に松田は海上自衛隊式の敬礼で返した。
続く
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