閑話休題:6-6
王城前広場の一角に設けられた式本部と警備本部では、例のテロリストからの情報がもたらされ喧騒に包まれていた。
「長官、直ちに国王陛下と国賓達を安全な場所に避難させましょう」
「しかし、そのテロリストが話した情報に確証が持てん。この広場には陛下と国賓方だけではない。各国のメディアも大勢居るんだ。下手な動きをすれば却って混乱を招きかねん」
「ですが、その情報が本当だとしたら、それこそ取り返しのつかない事になりますよ!」
「その情報を裏付ける証拠は無いのか?」
警察庁長官は、この式典の主催であると同時に警備の一切を引き受けている警備最高責任者であるため、彼が決断を下せれば、オタハイトに居る全ての警察官がその通りに動くが、例のテロリストからもたされた情報に疑問を感じているのか、中々決断を下せないでいた。
「現在、会場の入り口を警備している機動隊と警邏中の全警官に緊急配備を指示しました。ですが向こうの戦力や人数が不明な以上、想定外の事態が起きる可能性があります」
「公安の方はどうなってる?」
「今、ムー解放運動に潜入中の部下からの報告待ちですが、各所に配置されている公安警察官からは不審な動きをする車両を幾つか確認したとの報告が……」
その直後、公安警察官の1人が慌てた様子で駆け込んでくると、ドロスに耳打ちする。
「そうか…………長官、国王陛下、国賓の方々、メディアを直ちに会場から避難させてください。どうやら例のテロリストからの情報が正しかった模様です」
「やはりムー解放運動が動いたか?」
「はい」
「やむを得ん…………直ちに避難誘導を開始せよ!」
「はっ!」
「会場周辺を警戒、警備中の全部隊に実弾を装填して待機、突発事態に備えるように通達!」
「了解!」
警察庁長官の命令は直ちに各部署に伝達される。
会場に居た国王と国賓達は直ちに王城の安全な場所へと誘導され、メディアにも警備上の不都合が発生したと理由をつけ会場から退避させる。
そして、会場から重要人物と市民、マスコミの避難が完了すると同時に会場警備の機動隊は手持ちの銃に実弾を装填し、テロに備える。又、爆発物や化学薬品によるテロに備え特殊武器対策部隊も会場各所に配置され、万全な態勢で備えた。
それから1時間が経過した…………
会場の正面入り口となっている王城正面門を警備していた第8機動隊はテロリストによる正面突破に備え、全隊員が拳銃とライフルを手に構えていた。
「前方より、高速で接近する車両4台を視認!」
城を囲む塀の上に居た狙撃班からの報告により機動隊は警告に備えて拡声器の電源を入れた。すると、道の向こうから日本製のワンボックスカーと大型トラックが全速力で向かってくるのが見えた。
第8機動隊の指揮官はマイクを手に取り、大声を張り上げる。
『そこの自動車、引き返しなさい!此処から先は立ち入り禁止区域である!それ以上接近するようなら発砲する!』
拡声器から指揮官の警告が響くが、車両はお構い無しと更に速度を上げる。
『もう一度警告する!引き返しなさい!此処から先は立ち入り禁止区域である!それ以上接近するようなら発砲する!』
だがそれにも構わず、車両は徐々に距離を詰めてくる。
『最後の警告だ!引き返せ!さもなくば発砲する!』
「うるさい!黙れ!」
すると、前方のワンボックス車の助手席に座っていたヘルメットを被った男がライフルを発砲してきた。
「うぉぉ!」
放たれた銃弾は指揮官のほんの数センチ横を通り過ぎ、背後の塀に着弾する。
それを合図に近付いてきた車両は正門から数十メートル手前で停止し、乗っていた男達がライフル、旧式のリボルバー拳銃、クロスボウ、弓を放ってきた。
「実力行使と言う訳か……これより強制執行を行う!ガス弾投擲!」
指揮官の合図で、後方に控えていた隊員が中折れ式のランチャーを手に一斉に催涙ガス弾を発射した。
放たれた催涙ガス弾はテロリスト達の目の前に落ちると、白いガス煙を噴出する。
「なんだ!前が見えん!」
「うわぁっ!目がぁ!目が痛い!」
催涙ガスをまともに受けたテロリスト達は瞬く間に目の痛みと咳を催す。
「今だ!一斉検挙!」
機動隊員達はガスマスクを装着すると、警棒と盾を持ち、バリケードを乗り越えてテロリスト達に向かって突撃する。
「うわぁ!やめろ!やめてくれ!」
「大人しくしろ!」
「降参する!降参するから!やめてくれ!」
「離せ!離せ!」
「往生際が悪いぞ!諦めろ!」
機動隊員達はテロリスト達から武器を取り上げて、その場で押さえ込みながら両手に手錠を掛ける。
中には果敢に立ち向かうテロリストも居たが、多勢に無勢で直ぐに取り押さえられ、上手く正門から逃げられたテロリストも付近を警戒中だった交通機動隊と警邏中の警官により逮捕され、テロリスト全員を一網打尽にした。
その様子は少し離れた場所でカメラを構えていた日本とムーのメディアが克明に記録していた。
「ご覧ください!また1人でしょうか、テロリストらしき人物が取り押さえられました!」
「凄いです!警視庁に新設された機動隊が襲撃者達を一網打尽にしています!これはムーの歴史に残る場面ではないでしょうか!」
各国に生中継される機動隊の姿に誰もが食い入るように見入る。
「凄い光景だな」
「本当だ………ムーの警察って何か凄い事になってるって聞いてたが、此処までとはな」
王城に避難していた国賓達も機動隊の姿に関心しており、特に国賓として招かれていた日本の警視総監やミリシアル警察のトップは特に彼等の練度に関心を寄せている。
こうして、ムー解放運動によるテロ行為は失敗に終わった。
ムー警察は招かれていた各国の国賓と、テレビ中継でその様子を見ていたムー国民から称賛の声を受ける事になり、その実力を計らずも内外に示した事で観閲式成功以上の結果を残す事になった。
この後、ムー解放運動はムー警察を総動員した捜査活動と国内の各拠点への一斉検挙により主要メンバーの殆どが逮捕され、一年を待たずして消滅し、ムーの犯罪史からもその名前や痕跡すらも消え去る事になった。
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