ロウリアの南部を実効支配しているロウリア人民共和国の指揮下にあるロウリア人民共和国軍、通称『南軍』はこの日、配下にある全戦力と兵力をロウリア民国とクワトイネ公国の国境地帯へと移動させていた。暗闇の中、南軍がロウリア民国とクワトイネ公国との前線と設定した国境地帯には南軍の全兵力と戦力が集結しており、南軍兵士達は其々に配属された場所で、広域魔導受信機の前に整列していた。
『これより我が国と我が軍の偉大なる指導者様より訓示がある。心して聞くように』
魔導受信機のスピーカーから聞こえてきた声に南軍の兵士は緊張した面持ちでスピーカーに耳を傾ける。
『諸君、遂にこの日が来た!』
スピーカーから聞こえてきたのは、このロウリア人民共和国の最高指導者で、軍の最高司令官とされている男の声である。
『我が国は日本・クワトイネ・クイラの3国に乗っ取られた祖国を取り返すべく、2年待った!兵士諸君も敵兵を一人でも多く仕留めるための訓練に耐え、我が国と同盟を結んだ友好国からも多数の新兵器を取り入れ、多くの義勇兵も受け入れた。それにより我が軍は祖国を取り戻すための力を手に入れた!』
南軍は一言で言えば旧ロウリア軍と南部諸侯軍による寄せ集めの軍隊であり、概ね旧ロウリア軍のものを踏襲している。歩兵は鎧を身に付け大剣を持ち、騎兵は馬に跨がり剣と槍を持っている等、一見すれば旧ロウリア軍と大差は見られないが、一部の兵の中には他国から流れてきた傭兵や諸事情で正規軍を脱走した者による義勇兵の姿も見られる。そのため旧ロウリア軍のものとは違うデザインの鎧を身に付け、持ち込んだマスケット銃、更には魔導砲まで装備しているのである。これは殆ど正規軍に近い戦力である。
『祖国を取り戻すために、立ち上がれ戦士達よ!今こそ、その時である!ジーク・ハーク!』
「「「「「ジーク・ハーク!!ジーク・ハーク!!ジーク・ハーク!!ジーク・ハーク!!」」」」」」
指導者の言葉を全員が剣を空に向けて叫ぶ。南軍兵士達の目は既に自信に満ち溢れ、士気は非常に高い。今にもロウリアを全て飲み込みそうな勢いである。
演説を聞き終えた南軍は直ぐ様出撃準備を整える。
騎兵は馬に跨がり槍と剣を手に、歩兵は兜を被り各々武器を手に、魔導砲を操る魔導砲部隊は馬車に魔導砲と砲弾を乗せ、義勇兵は所属している各部隊の指揮下に入り指示を待つ。
「よし!全軍進撃開始せよ!目指すはジン・ハークとマイハークだ!」
待機していた南軍は遂に進撃を開始し、ロウリア民国とクワトイネ公国に向けて2手に分かれた。
その頃、南ロウリアと接するクワトイネ公国南部の国境地帯に駐留する公国軍第3師団の本部が置かれた、要塞都市ク・ボタでは、公国首脳部からの命令により南軍の進撃に備えるため、住民の避難と軍の召集が行われていた。
「師団長、住民の避難はほぼ完了しました。現在、第3師団の全将兵と全部隊が集結しつつあります」
「全部隊が動けるようになるまで何れくらい掛かる?」
「今日の昼までには」
「急がせろ。全部隊の編成が完了するまで待っている時間はない。編成が完了した部隊から随時出撃だ」
「了解!」
第3師団の師団長を勤める、旧南部方面騎士団団長『ヤンマー・コバイン』大将は、南軍北進の報と防衛出動待機命令を受けて休暇返上で早朝から第3師団の指揮を執っていた。
彼が率いる第3師団は2年前の戦争後に、公国政府による軍改革により南部方面騎士団から第3師団へと改編され、国境地帯防衛に特化した軍団へと変貌していた。
第3師団には他の師団よりも早く兵器や装備の近代化が進められ、従来の公国軍よりも様変わりしていた。無論、旧来の騎兵や弓兵や槍兵部隊も残っており、近代化した各部隊と連携しての運用が成されている。
「師団長!斥候部隊と国境警備隊からの報告です!」
「読め」
「はい。『南軍が北進を開始した』との事です!」
「やはり来たか………直ぐに出撃可能な兵力と部隊は?」
「新鋭の第1機動旅団のみです」
「総勢6000か。敵の数は?」
「斥候と前衛部隊合わせて概算15000、その後方にも恐らく敵の本隊が多数居ると思われます」
「15000に対して6000か………兵力的には不利だが、足止めと時間稼ぎは出来るだろう。よし、第1機動旅団に敵の迎撃と本隊到着までの時間稼ぎとして、防衛戦を展開するよう指示を出してくれ」
「了解!」
ヤンマーからの指示は直ちに伝達され既に出撃準備を追えていた第3師団所属の第1から第4銃歩兵連隊を統合し編成された『第1機動旅団』約6000名の兵士達は、出撃前の訓示を受けていた。
「私が第1機動旅団の旅団長『ユショウ・モーチ』である!たった今師団本部より出撃命令を受けた!我々は北進してくる南軍部隊を現在出撃準備中の第3師団到着までの間、防衛戦を展開する事になった!諸君はこの一年にも渡る訓練で従来よりも遥かに強力な力を手に入れた、今その力を示す時が来たのだ!」
第1機動旅団の兵士達の手には日本からの技術供与で公国初の近代銃として全軍に制式採用されたボルトアクションライフル『1642年式小銃』通称:M1642があり、彼等の背後には日本から輸入した60式装甲車とジープ、トラックが停車しており、ユショウ以下の兵士達は自身が率いる機動旅団の威容に自信を持っていた。
「今さら言う事ではないが、自分の命を粗末にするような事は絶対にしないように!必ず生き残るための努力を怠らず最後まで諦めない事を忘れるな!」
ユショウの言葉に全員が無言で肯定を示す。
「よし!出撃用意だ!」
その言葉と共に機動旅団の兵士達は駆け足でトラックと装甲車、バイクに乗り込んでいく。そしてエンジンが始動しマフラーから黒い排煙が吐き出され、軽油の匂いが辺りを漂い始める。
ユショウら旅団の幹部達も60式装甲車に部隊間通信用の魔導通信機が搭載された指揮車両に乗り込む。
「旅団長、各部隊出撃準備よし」
「これより中央山脈へ向けて出撃する!車両前進、前へ!」
第1機動旅団は駐屯所から次々と出撃していき、隊列を組むと南の国境地帯にある中央山脈へ向けて出撃していく。
続く
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