南軍の侵攻を2度押し返した国境警備隊と第1機動旅団は、翌日にはク・ボタから編成を終えてやって来た第3師団と合流し、国連軍の受け入れと防衛線の再構築をしていた。
「モーチ旅団長」
ヤンマーは陣頭指揮を執っていたモーチに声を掛けた。
「閣下」
モーチはヤンマーに公国式の敬礼をする。
「楽にしてくれ。昨晩の戦闘はご苦労だったな。兵員の損害もなく、弾薬を消費しただけで済んだのは良かった」
「えぇ。これも日本とアメリカの技術力の賜物です」
モーチは整備中の105ミリ榴弾砲を指差す。
「今回は敵が榴弾砲と迫撃砲の砲撃で引き下がってくれましたが、敵も馬鹿ではないでしょう。何らかの対策を講じて来るでしょう」
「あぁ。それに私には気になる事がある」
「どんな?」
「ワイバーンの事だ。報告では2度の戦闘で敵はワイバーンを使って来てはないんだな?」
「はい。不思議な事に」
「ロウリアはワイバーンの扱いではロデニウス大陸でも最強だった筈だ。先の戦争で消耗したとしてもある程度の数がある筈なのに。これは何を意味するのだろうか……」
「敵には航空戦力が無いのでは?」
「いや。事前の情報でも南軍もワイバーンを10から20は保有しているとある。それ程の数なら此処にもワイバーンなどの航空戦力を回す筈なのに」
ヤンマーは敵がワイバーンを使って来ない事に疑問を感じ、モーチもそれが内心引っ掛かっていたのである。
「敵は秘密兵器として温存しているのか、あるいは我々の油断を誘った所を一気に」
「有り得なくは無いですね。万が一に備えて上空警戒と防空用の対空機関砲の数を増やしますか?」
「頼む。今日の昼過ぎにはダイダル基地から自衛隊がやって来くるから、その間に奇襲が無い事を祈ろう」
ヤンマーの指示で直ちに第3師団は周囲の防空警戒と、敵迎撃用にブローニングM2を4連装にしたM55対空機関銃の数を増やし、対空警戒を開始した。
そしてその日の午後
「師団長!陸上自衛隊が到着しました!」
「来たか!」
第3師団の元に、ダイダル基地から陸上自衛隊の地上部隊が駆け付けた。
「おぉ~………あれが戦車と呼ばれる自衛隊が使役する怪物か」
「あれはナナヨンシキと言う名前で、自衛隊のベテランだそうです」
自衛隊を出迎えようと外に出た2人の目の前に現れたのは、陸上自衛隊の古株戦車である74式戦車の隊列だった。
避弾経始を追求した亀の甲羅のような滑らかな砲塔の鼻先から突き出ている105ミリ戦車砲、砲の左に備えられた箱型の赤外線投光器が特徴的なその戦車は、資料でしか見た事の無いモーチとヤンマーにとっては何とも頼もしく見える。
戦車隊の後方から82式指揮通信車、軽装甲機動車、96式装輪装甲車、73式装甲車、大中小のトラックが続き、山頂にもうけられた車両用スペースに入っていく。
「下車!」
車両用スペースに駐車した車両から、迷彩服を着た隊員達が次々と降り、整列していく。
そして、82式指揮通信車から他の隊員とは風格が一味違う50代前半ぐらいの隊員が降りてくると、ヤンマーとモーチの前にやって来た。
「お待たせしました。ダイダル基地より参りました陸上自衛隊クワトイネ派遣隊の大河内秀行陸将補です」
「公国軍第3師団長のヤンマー・コバイン大将であります」
「同じく、第3師団隷下の第1機動旅団団長のモーチ・ユショウ大佐であります。ダイダル方面から遠路遥々ご苦労様です」
「ありがとうございます。では早速ですが、現状をお教え願えませんか?」
「分かりました。こちらへどうぞ」
ヤンマーとモーチは大河内と部下の幹部隊員数人を伴って、作戦室へと案内した。
「先ず現状として我々は2度敵の侵攻を受けましたが、何れも撃退に成功し、人員に被害はありません」
「分かりました。敵の装備や戦力については?」
「敵の戦力は確認されているだけで10000を越える兵力を確認しています。今の所、敵は地上部隊を中心とした軽歩兵、槍兵、弓兵、重兵が確認されています。ですが……」
「どうかしましたか?」
「敵はワイバーンを使ってきていないんです」
「本当ですか?」
「えぇ。秘密兵器として温存しているのか、我々を油断させて期を見て使ってくるのか全く分からない状況なのです」
「成る程。分かりました、我々も防空装備を多数用意しているので、そちらの防空部隊と共に周辺の対空警戒を行うように準備させましょう」
「ありがとうございます」
陸上自衛隊クワトイネ派遣隊と公国軍第3師団は共同歩調をとり、双方の部隊が協力して基地の防空と地上戦に備えての準備を開始した。
続く
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