ロデニウスの夜明け作戦開始まで後1時間と迫り、国連軍は進撃準備を整えていた。
中央山脈に位置する国連軍第1師団は、装備の最終点検をしながら作戦開始ギリギリまで準備を怠らない。
「師団長、間も無く時間です」
「あぁ。アタック隊の現状は?」
「予定では間も無く目標に到達する模様です」
大河内は腕時計で時間を確認する。
今回の南ロウリアへの侵攻作戦であり、国連軍は敵の斥候が待機している監視所と魔信所への攻撃のため戦闘ヘリで編成された攻撃隊を前進させていた。
夜明け前の薄暗い森の真上を第1師団所属のコブラとアパッチは超低空飛行で目標へと接近させていた。
『間も無く目標付近』
『全機、攻撃態勢!』
攻撃隊は目標から8キロ程手前で停止しホバリングに入る。そして夜間攻撃用のセンサー越しに目標を視認の後、ミサイルとロケット攻撃の準備を終える。
『各機、目標ロック。攻撃開始!』
指揮官機の合図でアパッチとコブラは一斉にミサイルとロケット攻撃を開始した。放たれたミサイルとロケットは敵の監視所と魔信所を正確に射貫き破壊していく。
攻撃隊は目標へ対して徹底的に攻撃を仕掛け、ミサイルとロケットを使い切ると、機関砲による攻撃に移行し、破壊しきれなかったものや動く物を全て破壊していく。
『残弾なし。攻撃終了』
攻撃隊は手持ちの弾薬を使いきり攻撃を終了する。敵の監視所と魔信所は無事に破壊され目標へ対する戦果確認をする必要は無かった。指揮官機は攻撃成功の合図を無線で本部へと送った。
『こちらアタック隊。攻撃終了』
その報告が入ったと同時に第2師団からも航空攻撃による敵の斥候を排除したとの報告が入った。
「ロデニウスの夜明け作戦開始せよ!」
航空攻撃終了と同時に第1師団と第2師団は南ロウリアへ向けて動き出し、ロデニウスの夜明け作戦は開始された。
『こちらサクラ1、前進を開始する!』
第1師団の先鋒を勤める74式戦車で編成された戦車大隊が前進を開始した。ディーゼルエンジンから吐き出される排気ガスを充満させながら、重々しい車体がゆっくりと動き出し、夜明け前の薄暗い中をライトを点灯せず南ロウリア領へ進路を取った。
戦車大隊の後方を96式装輪装甲車、73式装甲車、高機動車、軽装甲機動車が主力の普通科、施設科と続き、アルタラス、カルアミークの地上部隊が続く。
一方で第2師団も、作戦開始と同時に動き始めていた。
『Go a head!』
第2師団の主力を勤める合衆国陸軍と海兵隊はハーク川の奥にある林野を突っ切るように作られた即席の道路を全速力で進んでいた。既に海兵隊のヘリ部隊が先行して進撃路上の偵察を行い、陸軍のヘリ部隊が彼らの上空を守るように飛行しており、その後方をガハラ・フェンのワイバーン部隊が続いている。
彼らは一直線に南ロウリア首都ピョーヤンの手前にあるバイール平野を目指す。
「さて、昨年のパーパルディア戦以来の実戦だ。気を引き締めていかんとな」
「全くです。イラクやアフガニスタンのように泥沼に引き込まれるのはゴメンですからね」
師団本部で部隊の指揮をとるウォーレンとターナーは目の前にある多機能ディスプレイに写し出される各部隊からのカメラ映像を見ながら、前世界での失敗を繰り返さぬよう気を引き締めて指揮に望む。
「バイール平野の敵の様子はどうだ?」
「はい。昨日と変わりありません。恐らく我々が動いた事にはまだ気付かれていない模様です」
指揮所のモニターには事前に先行させている空軍の無人偵察機RQ-4グローバルホークからの映像が写し出される。空軍の専門オペレーターがコントローラーで無人機のカメラを操作しながら敵の動きを監視している。映像にはバイール平野に展開している南軍の配置や動きが鮮明に写し出されており、敵側も無人機に気が付いていないのか特に目立った動きを見せていなかった。
「だがそれも時間の問題だ。敵の航空戦力は?」
ウォーレンが別の空軍オペレーターに問い掛ける。
「AWACSからの報告では、数日前の戦闘以降、敵の本拠地を含めて敵航空戦力は確認されていません」
空軍のAWACSや海軍の早期警戒機と空中警戒機により南ロウリア全域の空は24時間態勢で常に警戒監視が行われており、それらの情報はデータリンクで指揮所や前線の各部隊にもリアルタイムで共有されている。
万が一にも敵にワイバーン等の航空戦力が確認された場合に備えて、ダイダル基地に駐屯している空軍のF-15CとF-16Cの飛行隊が24時間態勢で待機しており、命令が下されれば出撃し即排除する事になっている。
無論、空だけではなく地上部隊支援のためF-15E、A-10やAV-8などの攻撃機も待機しており、近接航空支援や爆撃などにも備えている。
ここまで来れば敵に勝ち目など殆ど有り得ないが、南軍は兎に角兵士の数が異様に多いため、戦車などの重装備が不足しているため、敵地上部隊の注意を引き付ける役の第2師団の戦力では不安が残る。
しかし今回の作戦計画段階からそれは織り込み済みであり、第2師団の戦力不足を補うための秘策は既に用意されていた。
「モンスターの片割れの方はどうだ?」
「現在位置で待機しています」
それはロデニウス大陸から南へ30キロ沖の海上にあった。全長300メートルを越えるその巨体を持つ、巨大戦艦尾張は、9門の主砲をロデニウス大陸へと向けながら穏やかな海上を遊弋しながら待機していた。
「艦長、作戦が開始された様です」
「そうか。これから数日、忙しゅうなっど」
今回の作戦で敵に対する切り札となっている尾張の役割は、第2師団と相対する敵の地上部隊主力を艦砲射撃を以て壊滅に追い込む事である。
戦艦である尾張が選ばれたのは、かつてアメリカ海軍が保有していたアイオワ級戦艦の戦歴に習い、ミサイルよりも安価で破壊力のある艦砲で敵地上部隊に大打撃を与える事が可能な尾張の51センチ砲の能力を買われての事であり、数日前からこの場で何時でも砲撃出来るように待機していたのであった。
「しかし、グラ・バルカスの潜水艦基地攻略から直ぐに再出撃ですからね。皆休暇が取り消されて文句がチラホラ聞こえてきますね」
「それはしょうがなか。ロデニウス大陸ん安全保障は我が国とアメリカ、ひいては各同盟国ん存亡に繋がっでな」
「帰ったら上に休暇の追加を申請しますか?」
「そうしよう。そうせんな今んご時世、人は集まらんし、下手したや人財流出になりかねんでな」
尾張は静かに海上で時が来るのを待ち続けた。
続く
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