地上からの進撃を開始した国連軍の動きを南ロウリアは、監視所と魔信所からの定時報告が途絶え、様子を見に行った斥候部隊からの報告で知る事となり、一足も二足も遅れて南軍は慌てて動き出した。
しかし、当初の予想よりも遥かに早く国連軍が反撃に出てきてしまった事と広域魔信所が破壊された事により指示の遅れから来る部隊の展開速度の遅さ、侵攻作戦で失われた戦力の建て直しが全く出来ていなかった事もあり、南軍の初動対応は遅れに遅れていた。
南軍のクワ・トイネ侵攻の最前線基地となっている『バンガー』要塞でも、斥候からの報告で進撃してくる国連軍第1師団に対して、持てる戦力で迎撃に出ようとしていた。
「しかし、これでは戦力としては少なすぎる」
バンガー要塞の司令を勤める、南軍第3軍団団長の『ハスター』将軍は要塞内で迎撃準備を行っている部隊の数の少なさにそう漏らす。
彼がそう漏らすのも無理はない。元々クワ・トイネと北ロウリアへの侵攻作戦は敵に自分達を迎撃する戦力を構築させる前に敵地へ浸透し占領してしまおうと言う電撃作戦だったが、その作戦は事前情報を敵に掴まれた時点で破綻しており、侵攻軍は案の定壊滅してしまった。
しかも当初の予想よりも敵が反撃に出てきたのが早かった事と、作戦では元から日本やアメリカを含めた国連軍の参戦や防衛戦など想定していなかった事から各前線では兵力が不足し、それはこの要塞でも同じだった。
「軍団長!斥候部隊が戻ってきました!」
ハスターの元へ斥候部隊の指揮官が戻ってきた。しかし彼の姿はハッキリ言ってボロボロだった。
身に纏っていた鎧は土だらけで、顔も煤か何かで真っ黒だった。
「ほ……報告します…………て……敵は既に当要塞南方向20キロ程に迫っており………多数の鉄の怪物や……空飛ぶ羽虫が信じられない速度で地を駆けて………うっ!」
「もういい!手当てを受けるんだ!よく頑張ってくれた。ゆっくり休め」
ハスターは斥候部隊の指揮官からそれだけを聞いてた手当てを受けさせた。
「20キロか………もう目と鼻の先か。各部隊に戦闘態勢を取るように指示を!」
彼の命令は伝令兵により要塞内の各部隊に通達され、直ちに迎撃態勢が取られる。
「最高司令部へ魔信は送ったのか?」
「それが、今朝早くより魔信が機能していないんです」
「何!?何故早くそれを言わない!」
「申し訳ありません。最初は故障を疑ったのですが、魔信機は故障はしておらず、何らかの外部干渉により使用できないと判断するまでに時間が掛かりました」
無論これも国連軍による電波妨害で、EA-18GグラウラーとEP-3Dが広範囲に電波妨害を行っており、南ロウリアの8割が魔信が使用不能となっている。
「直ぐに伝令兵を走らせろ!援軍要請を」
「軍団長!正面より敵の羽虫が来ました!」
「クソ!直ちに迎撃させろ!」
ハスターは司令所の最上階に登り、要塞正門方向を見る。すると南からバタバタと羽ばたかせる音と共に10を越える国連軍のヘリコプターが押し寄せて来るのが見えてきた。
「迎撃用意!」
彼の命令で、要塞内にあった全てのバリスタに槍が装填され、何時でも攻撃できる態勢に入った。
場面は変わり、陸上自衛隊の混成ヘリコプター隊は超低空飛行で敵要塞に向けて飛行していた。
『全機に告ぐ!間も無く攻撃地点!待機せよ』
指揮官機からの指示でアパッチとコブラは要塞の手前8キロ地点でホバリングに移行する。
『ハンターマスターよりレッドアイ』
『こちらレッドアイ』
『目標に接近し対空兵器と重兵器の有無を確認せよ』
『レッドアイ了解!』
混成ヘリコプター隊に所属する4機のOH-1が先行し要塞の偵察に出た。
偵察ヘリとして開発されたOH-1は超低空で高速を維持したまま要塞に接近し、要塞から500メートル手前で機首を上にしてポップアップすると要塞上空に侵入した。
「放てぇぇ!」
要塞内から待ち構えていたバリスタが打ち上げられるがOH-1の速度が早く、全く掠りもしなかった。それどころか攻撃ヘリ隊が攻撃するべき目標を晒してしまう事となり、OH-1のパイロットは後方の攻撃隊へ敵の対空兵器と重兵器の位置を送る。
データリンクにより位置を送られた攻撃隊はミサイルによる攻撃態勢に入った。
攻撃ヘリ隊はその場から一気に上昇し、高度200メートルから要塞を見下ろすようにホバリングしながら敵の対空兵器と重兵器をロックする。
『目標捕捉、攻撃開始!』
ロックが完了したと同時にアパッチからヘルファイアミサイルが発射され、レーザー誘導により目標へ向けて正確にミサイルを誘導し、そして一発必中で命中させていく。
アパッチ1機につき、搭載できるヘルファイアは最大で16発、今回はヘルファイアとロケット弾ポッドの混合搭載のため1機あたり8発搭載しており、混成ヘリコプター隊に配備されている5機のアパッチから放たれるヘルファイアは総数で40発。ロケット弾を含めると100を優に越えており、要塞内の対空兵器や重兵器は次々と破壊されていく。
「クソ!これでは一方的ではないか!」
ハスターは遥か遠方から正確に攻撃してくるヘリコプター隊に向かって叫ぶ。
要塞内ではミサイル攻撃で混乱が見られ、各部隊の指揮官が必死に抑えようと努力しているが、中々上手く行っていない。
しかしそんな中でもハスターはヘリがバリスタ等の重兵器や対空兵器しか攻撃して来ない事から敵はこれらを破壊して正面から地上部隊を要塞内に突入させる気であろうと判断する。
「よし!要塞内の全部隊を正門に集めろ!此処を何としても死守するんだ!」
要塞内の全部隊は要塞正門へ向けて移動を開始し、国連軍を正面から迎え撃つ準備を開始した。
「よし。敵は陽動に引っ掛ったな」
OH-1から送られてくる要塞内の映像から敵部隊の動きを見ていた第1師団本部の大河内とモーチら指揮官達。彼らにとっては要塞内の敵の動きは当初の予定通りであり、要塞を陥落させるための作戦の第2段階への布石に過ぎなかった。
「要塞正面の地上部隊は敵の注意を引き付けさせるように派手に動け。敵に作戦を勘づかれる時間を稼ぐんだ」
大河内は無線で地上部隊にそう指示を送ると、また別の無線機を手に取る。
「こちらマスター。ダイバーへ」
『こちらダイバー』
「作戦第2段階に移行せよ」
『了解!』
大河内の指示と同時に、敵の視線と注意が向けられている要塞南正門とは別方向の東の空から陸上自衛隊のCH-47JとUH-60J、新生合衆国海兵隊と陸軍のCH53E、UH60Lが姿を表した。
このヘリコプター部隊はその腹の中に陸上自衛隊第1空挺団普通科隊と空挺特科大隊の隊員と車両を抱えており、今回は新生合衆国軍の航空部隊の協力の元、正面に注意と視線が向いている敵の裏をかき、南からヘリによる要塞への強襲、地上部隊と共に敵を前と後ろから挟撃する作戦を実行に移そうとしていた。
『目標地点まで後5分!』
空挺団を乗せたヘリ部隊はその場で方向を変えて、敵部隊の背後である要塞の北へと回り込む。
『目標まで後3分!』
「よし!降下用意!」
外を見ると、要塞の北門が見えてきた。上空から見るかぎり敵の姿はなく、ヘリの着陸予定地点に敵の姿は確認出来なかった。
しかし念には念をと、降下地点の安全確保のためUH60Jが先行し降下地点でホバリングすると、中から1個小隊がラペリング降下を行い周囲の安全を確保する。
『1分前!』
CH-53Eに乗り込む空挺普通科大隊の隊員達は席から立ち上がる。
そして砂を巻き上げながら着陸地点に着地したCH-53Eのランプドアが開かれる。
「行け!行け!行け!」
同時に隊員達は走るように駆け出し、CH-53Eから降りると周囲に展開する。
そして残りのCH-53Eからも隊員が次々と降下し、隊員を降ろし終えたCH-53Eに変わり、CH-47Jから防弾仕様の高機動車と重迫牽引車、軽装甲機動車、偵察用オードバイが降ろされていく。
隊員達はそれらの車両に乗り込んでいき、移動と戦闘態勢を整える。
「よし!行くぞ!」
隊を指揮する中隊長の合図で、先導役の偵察小隊が使用する偵察用オードバイを先頭に上空からのヘリの支援の元、車列は動き出した。
続く
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