閑話休題
日本より、西へ約20000㎞の位置。
フィルアデス大陸、第1文明圏中央世界、ムー大陸の3つの陸地を隔てた先にあるポツンと存在する国家がある。
その国家の名は『グラ・バルカス帝国』、通称『第8帝国』
日本がこの世界に来る以前に別の世界からやって来た転移国家である。
ここ数年で、この世界における西方地域のほぼ全てを圧倒的な技術力で形成された軍事力を使って征服し、今や日本と同様に、世界に混乱をきたす国家として認識されている。
その帝国本土にある、帝都『ラグナ』の市街の中央に集中する官庁街の一角にある、議事堂の会議室では国家戦略&安全保障会議が開かれていた。
今ここでは、ある議題についての重要な会議が開かれており室内には、海軍、陸軍、監察軍、技術局のトップと幹部達が会議に参加していた
「では、今回の議題の項目である日本国についての中間報告が纏まりましたので、この場を借りてご報告させていただきます。」
会議を仕切っている中央情報局の職員が、説明を開始する。
「皆様もご存じの通り件の日本国はここ2・3年のうちに二つの国家を打ち負かしました。その打ち負かされた国家は何れも、列強国とそれに肩を並べる程の強大な国力を持っていましたが、それをこの国は僅か短期間で敗北に追い込んでいます。我が情報局はその過程で、各国に潜入している情報員が持ち帰った情報を精査した所、ある二つの共通点が浮かび上がりました。」
職員が電気を消して、目の前の壁にスクリーンを降ろし、映写機を起動させる。
映写機から写し出されたのは、"ある物"を写した複数の写真だった。その写し出された写真の中身に、会議室に居た全ての者が驚く。
写真には、パーパルディアに潜入しているスパイが撮影した日本の紀伊型戦艦が写し出されていたのであった。
「馬鹿な!?これは………グレード・アトラスターではないか!?」
監察軍の司令官であり、帝国3大将軍の一人である『ミレケネス』が声をあげる。
「どう言う事なんた?確かグレード・アトラスターは、レイフォルでの作戦に駆り出されてて、今はムー大陸に居る筈だろ?」
同じく帝国3大将軍の一人で、帝国海軍東方艦隊司令官の『カイザル』が職員に疑問を投げ掛ける。
「はい。確かにこの写真が撮影された時期には、グレード・アトラスターはムー大陸に居ます。ですがこの写真が撮影された場所なのですが…」
「何処で撮影されたんだ?」
「場所は、例のパーパルディア皇国の港です。」
その言葉にカイザルが何かに気がつく。
「確か、日本が打ち負かした国家は列強だと言ったな?その列強と言うのがパーパルディア皇国なのか?」
「間違いありません。この戦艦は、マストに掲げられている旗から日本国の物で間違いありません。グレード・アトラスターと外観が酷似しているのは偶然でしょう。ですが問題はそこではありません。」
「何が問題なんだ?」
「実はこの戦艦の性能を調べようと我が情報局では、これらの写真と情報員の報告を元に、グレード・アトラスターの性能を比較してみたところ、驚くべき事が分かりました。」
職員は用意していた鞄から資料を纏めた物を取り出し、全員に配布する。配られた順から内容に目を通すと、全員が唖然とする。
「おい……これは本当なのか?」
「いくら何でも、大袈裟過ぎはしないか?」
「私もそう思ったのですが、なにせ詳細が不明なため、殆どは我々の想像で補っているのですが、どんなに精査してもそれ以上、それ以下の結果は出ませんでした」
資料に書かれていたのは、グラ・バルカス帝国の情報員からの複数の報告を基に専門家と技術局が作成した、紀伊型戦艦の性能予想表だった。
・全長328メートル
・全幅43メートル
・満載排水量10万トン以上と予想
・主砲46㎝砲と同等か、それ以上と予想
・未確認の対空兵装多数
ミレケネスは資料を食いつくように何度も読み返し、カイザルは呆れていた。
「信じられない………46㎝砲を上回る砲を積んでいる戦艦を日本が……」
「コイツを例えて言うなら、超グレード・アトラスター級だな。こんな化け物戦艦を日本が何隻も持っているとしたら、いざ向こうとやりあう事になった場合、1艦しかないグレード・アトラスターでは押し負けるぞ」
カイザルの言葉に、会議に参加していた技術局の『バミダル』が抗議する。
「カイザル司令!グレード・アトラスターは我が国の技術の結晶ですぞ!!」
「分かっています。私はグレード・アトラスターの性能は信じているつもりだが、この戦艦の性能が報告書の通りなら、防御力はグレード・アトラスターのざっと2倍、主砲は46㎝砲より一回り上の砲が載ってると思う。砲力と防御力じゃグレード・アトラスター単艦でコイツに挑むのは無謀もいいところです。」
「そこでカイザル司令にお聞きしたい事があります。もしこの戦艦を含めた日本艦隊と戦うとなれば、カイザル司令はどの程度の艦艇が必要になるとお考えになりますか?」
「そうだな、日本がこの化け物をいくつ保有しているか分からんし、日本の軍事力も不明の現状では何とも言えんが、最低でもグレード・アトラスター級は2……いや4隻は必要になる。確実に葬るならグレード・アトラスターを中心としたヘラクレス級5隻、軽巡と重巡30隻以上を擁する戦艦部隊に加えて、正規空母5から10隻を中心とした空母機動部隊を合わせた大艦隊を投入する必要がある。潜水艦も10隻以上は必要だ」
とんでもない試算に、技術局と、会議に参加していた財務大臣と帝国の技術力を支える各重工業の社長や代表取締役達が抗議する。
「そんなのは無理だ!!只でさえ限られた予算内で軍事力の整備に力を入れている最中に、こんな要求を出してみろ!政府は内外から批判にさらされるぞ!」
「たとえ採決されたとしても、短期間でそれらを揃えるための設備と資材は今の我が国にはない。やるとしたらド・デカテオン社とカルスライン社の生産ラインから戦車や、航空機の製造をラインを全て閉鎖し、民間からの受注も全て放棄して全力生産に取り掛かったとしても、絶対数年以上はどうしても掛かる。下手したら財政の破綻やインフレは免れないな。」
グラ・バルカス帝国と言えど、限度はある。
今まで征服した地域から獲得した資源を活用した工業力をフル稼働させても、今の帝国の現状では短期間で今まで以上の軍拡は不可能なのである。
国家転移から徐々に落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、まだ混乱の影響による経済への打撃は大きく、財政難の中で行われている兵器の生産や現有の軍事力の維持、兵士の訓練で予算は手一杯の状態なのである。
「取り合えず、我々としましても今後の国家戦略に大きく影響すると思われますので、全力を注いで日本国と、この戦艦に関する情報の収集と精査に努めます。」
「頼むぞ。一応こちらの方でも、独自のルートで情報集めに全力を注ぐ事にしよう。」
グラ・バルカス帝国で、日本の軍事力に関する情報収集に全力が注がれる事になった。
これが後の歴史にどのような影響をもたらすのは、今は誰にも分からない。
続く