日本国召喚×不沈戦艦紀伊   作:明日をユメミル

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第2話

中央暦1639年4月25日 早朝

 

東の空から朝陽が昇り辺りを朱色に染められていく中、発動機の音を響かせ、後ろに向かって傾けられた煙突から黒煙を吐きながら、紀伊は4隻の護衛艦を伴って大陸沖を航行していた。

 

 

(速い!こんな大きな船が我が軍の船よりも速く動いている!?どうなってるんだ?)

 

 

機関出力20万馬力を誇る紀伊のボイラータービンエンジンは、最大排水量12万トンの巨大な船体を30ノット近くまで加速させるだけのパワーがあり、基になった大和型戦艦のデータを元に洗練された船体構造により、その見た目からは想像も出来ない高い速度性能を有している。

 

 

(おまけに内部の温度は常に一定に保たれている上に全ての区画が明るい。悔しいが我が軍の船は玩具に等しい……)

 

 

空調や電子機器の音、乗員の声が木霊する第1艦橋内でブルーアイは艦の指揮を執る松田に話し掛ける。

 

 

「やはり敵は来ますか?」

 

「来ます。既に哨戒機がロウリア艦隊の接近を確認しています。あと一時間もしないうちに我々と接触できる距離に入るでしょう。」

 

「一時間………」

 

 

今のブルーアイにとって一時間が途方もなく短く感じてしまう。

 

 

 

「そろそろだな。副長、哨戒ヘリ発艦用意」

 

「了解。哨戒ヘリ発艦させます」

 

 

松田からの命令を復唱した副長は直ぐに、ヘリの発艦命令を出す。

紀伊の後部飛行甲板下の航空機格納庫からエレベーターに載せられた対潜哨戒ヘリ『SH-60J』が姿を表した。

 

 

『エンジンスタート』

 

 

メインローターとテイルローターが回り出し周囲に風圧を撒き散らす。

 

 

『Take off』

 

 

機体は甲板が飛び立ち、敵地艦隊の方角へと飛び去っていく。

 

 

 

「副長、対水上戦闘用意」

 

「了解。対水上戦闘用意!」

 

 

副長の合図で、艦橋の後ろに居た隊員がアラームのボタンを押すと艦内にアラームが鳴り響き、艦内放送マイクを手に取ると「対水上戦闘」と指示を出す。

待機していた乗員達は飛び出す様に動き出し、隔壁を閉鎖し各々の部署の配置に就いた。

艦橋内に居た隊員達も灰色の鉄帽とライフジャケットを手慣れた様子で装着していく中、ブルーアイは完全に置いてけぼりを喰らっていた。

 

 

「ブルーアイさん、貴方もこれを装着してください」

 

 

近くに居た隊員から鉄帽とライフジャケットを受け取ったブルーアイは、昨日に受けたレクチャー通り慣れない手つきではあるが鉄帽とライフジャケットを装着する。

 

 

「各部配置よし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい景色だ。」

 

 

大海原を風を受けて駆け抜ける4000隻にも及ぶ船団の長、ロウリア海軍東方討伐艦隊 海将『シャークン』は、自らが率いる艦隊の偉容に意気揚々としていた。

 

 

(この6年間………我が国が列強から屈辱とも言える要求を受け入れて整備した我が海軍を止められる物などロデニウス大陸には存在しない!)

 

 

ロデニウス大陸付近の海域を我が物とせんと。ロウリア艦隊は東に向かってひたすら前進する。

 

 

「提督!前方より何かが飛んできます!」

 

「何?」

 

 

見張りからの報告にシャークンは一瞬だけクワ・トイネのワイバーンかと疑ったが、やって来たのはワイバーンではなく巨大な竹トンボに大きな羽音を響かせながらその場でホバリングするSH-60Jだ。

 

 

「不明船団目視確認。凄い数だ」

 

「拡声器の用意は?」

 

「完了しています。いつでもどうぞ」

 

「了解、これより接近する」

 

 

 

SH-60Jの乗員達はサイドドアを開けて、機内のスペースの半数を占める大型拡声器LRADの電源を入れ、音声が届くギリギリの距離にまてま機体をロウリア艦隊に接近させる。

 

 

「用意よし、これより警告を開始する」

 

『こちらは日本国海上自衛隊。あなた方はクワ・トイネ公国の領海に侵犯している。直ちにこの海域から退去せよ』

 

 

LRADから放たれる音声にロウリア艦隊の水兵達は突然感じた不快感から耳を両手で塞ぐ。

 

 

「なんなんだ!この不快感は!!」

 

「分かりません!」

 

『こちらは日本国海上自衛隊。あなた方はクワ・トイネ公国の領海を侵犯している。直ちにこの海域から退去せよ』

 

 

 

何度も繰り返されるLRADからの音声に痺れを切らしたシャークンは反撃を指示し水兵達が対空用バリスタを用意する。

 

 

「対空兵器確認!」

 

「回避!」

 

 

パイロットはバリスタの射程距離外に機体を待避させ、バリスタから放たれた矢は機体を逸れた。

 

 

『こちらは日本国海上自衛隊。あなた方はクワ・トイネ公国の領海を侵犯している。直ちに退去せよ』

 

 

何とか警告を続けその場に留まるも、バリスタからの攻撃が続いたため、退去の意思無しと判断しその場から徐々に距離をとる。

 

 

「見ろ!我々に恐れをなして逃げ出したぞ!」

 

「お前らなんて怖くはないんだぞ!来るなら来い!」

 

 

水兵達は口々に、去っていくSH-60Jを罵っていくが、シャークンだけは浮かない顔をしていた。

 

 

 

(何だ?この胸騒ぎは……)

 

 

 

彼の長年の感が、激しい警鐘を鳴らしていた。

言い知れぬ不安を抱きながら、艦隊は彼の指揮の基に突き進んでいく。

 

 

 

「提督!東方向より島のようなモノが見えます!」

 

 

 

見張りをしていた水兵からの報告に、東の水平線に目を向ける。

 

 

 

「あれは島……回りにあるケシ粒は小島か?」

 

 

だが彼の記憶の中には、この周辺には小島も岩礁地帯も無い。

 

 

「何なんだ?」

 

 

距離が詰まるに連れて小島が動いているように見えてくる。単眼鏡で見てみると、その巨大な影の正体が判明する。

 

 

 

「な、何っ!?」

 

 

 

シャークンは、その正体を見て驚きの表情に包まれた

 

 

 

「船なのか!?」

 

 

 

彼らの目の前に堂々と姿を見せた紀伊は、シャークンを含めた全ロウリア兵を度肝を抜いた。

 

 

 

「馬鹿な!あんな船をクワ・トイネの連中が隠し持っていたのかと言うのか!?」

 

 

 

彼は驚きのあまり、迫ってくる紀伊を見つめているしか出来なかった。

 

 

 

 

 

戦艦『紀伊 』 第1艦橋

 

 

『武装船集団は速度、針路の変わらず引き返す様子ありません』

 

「ギムの町での所業をやらかした連中相手には口での警告は無意味か?」

 

『艦長。武装船集団は間も無く本艦の射程距離内に居ます』

 

 

艦橋上の主砲射撃指揮所から砲術長の『黛三良』二等海佐が砲撃許可を求めてくるが、松田は首を横に振った。

 

 

 

「まだだ、慌てんでも敵は逃げやせん。航海長、針路速度このまま。敵艦隊の陣形を崩す」

 

「了解」

 

 

航海長が操舵室に指示を飛ばし機関長がエンジンの出力を上げるように機関室へと指示を出す。

紀伊はロウリア艦隊に向けて一歩も引く様子を見せず、30ノットの速力を維持したままロウリア艦隊の正面より突撃を仕掛けた。

 

 

 

「うわぁ!来たぞ!」

 

「提督!」

 

「避けろ!あんなのと衝突したら只では済まないぞ!!」

 

 

 

シャークンの指示でロウリア艦隊の各艦は各々に回避するが、そのうち紀伊の正面に居た数隻が僅かに回避が遅れ紀伊との衝突コースに入った。

 

 

 

 

「艦長、艦首前方に敵艦3隻、衝突します!」

 

「針路、速度このまま!!」

 

 

 

 

紀伊の初代艦長の『松田千秋』少将の孫にあたる松田千春の指示を乗員達は信じて従った。

 

 

 

(正気か!?)

 

 

ブルーアイも目の前にある計器盤にしがみつく。

 

 

 

「衝撃に備え!」

 

 

 

全員近くにある柱や羅針盤にしがみつき、衝突警報が鳴り響く。

 

 

 

「衝突!!」

 

 

 

その直後、紀伊の艦首がロウリア艦と衝突した。

衝突の瞬間、木材が割れたり折れたりする音が響く。

 

 

(衝撃が少ない?)

 

 

ブルーアイは衝撃が予想していたモノよりも遥かに小さい事に疑問を感じて立ち上がり、窓から艦首方向を見た。

 

 

(これは!?)

 

 

目線の先に、紀伊と衝突した5隻のうちの1隻のロウリア船の船体が中央より引き裂かれ2つのブロックに分かれ沈んでいく様子が見える。

残り4隻は紀伊が立てた波を片側に受け押し退けられていく。

 

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

船同士が衝突したにも関わらず、平気な顔で自軍の艦隊のど真ん中を進み続ける紀伊の姿にロウリア兵達は信じられないと言った表情で叫ぶ。

 

 

 

「嘘だろ!?」

 

「3隻の船と衝突したのに知らん顔してやがるぞ!!」

 

「化け物かよ!」

 

 

 

紀伊の方は衝突の瞬間に僅かに船体が揺れた程度で被害もなく、そのままロウリア艦隊の中を大津波のように突き進んでいく。

 

 

 

「右舷20の敵艦より攻撃を受けた!」

 

「左舷40の敵艦接近、攻撃の兆候あり!」

 

 

 

 

 

勇敢なロウリア船が紀伊に向けて矢を射掛けて攻撃を仕掛けるが鋼鉄の船体には無論通用などする筈もなく、紀伊に乗り込もうと接近を仕掛けるが、速度差と紀伊が立てる波により接近できず押し返される。

 

 

「面舵一杯!!」

 

「おーもかぁーじ一杯!」

 

 

 

艦隊のど真ん中を突き抜けた紀伊は充分に相手との距離を取ったタイミングで旋回、右舷をロウリア艦隊に向ける。

 

 

 

「対水上戦闘、攻撃はじめ。射撃指揮所、全主砲射撃用意」

 

『了解!』

 

 

 

指示を受けた黛は直ちに主砲射撃のため、各所へと指示を出す。

 

 

 

『主砲砲戦っ!!榴弾装填っ!!』

 

 

 

紀伊の51㎝3連装主砲3基が旋回し、9門の砲身がロウリア艦隊へと向けられる。

砲塔直下の弾薬庫から砲弾が砲塔内に揚弾され、半自動装填装置により砲弾と装薬が砲尾から砲身に装填され、尾栓が閉められる。

 

 

 

『第1砲塔、装填よし!』

 

『第2砲塔、装填よし!』

 

『第3砲塔、装填よし!』

 

 

 

全主砲塔に砲弾が装填され、射撃指揮所でも射撃管制装置による照準が行われる。

 

 

 

『各砲、照準よし。発射用意完了。甲板要員は直ちに遮蔽物に待避』

 

 

 

甲板と艦内に警報が鳴り響き、外部の乗員達は艦内に待避し衝撃に備える。

 

 

 

「ブルーアイさん!目を閉じて、耳を塞ぎ、口を開けていてください!」

 

「は、はい!」

 

 

松田の指示でブルー・アイは慌てて目と耳を閉じ、口を大きく開ける。

 

 

 

 

「全主砲、撃ち方はじめぇ!!」

 

『撃てぇぇぇ!!!!』

 

 

 

黛がトリガー引くと、この世界では初となる3基の51㎝主砲塔が轟音共に一斉に火を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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