『グレード・アトラスター』 第1艦橋
「イシュタムとの通信途絶!応答なし!」
「そうか。」
通信士官からの報告に、ラクスタルは一言そう応える。
「艦長、イシュタムは……」
「あぁ…間違いなく全滅だろう。相手があの巨大戦艦だからな。」
ラクスタル自身も最初にカルトアルパスに入港した時に、紀伊やロナルド・レーガンをこの目で目の当たりにしており、グレード・アトラスターとはまた別の偉容さに、劣等感を感じていた。
「艦長、本艦はこのまま海峡に突入を?」
「あぁ。イシュタムが壊滅し、護衛の艦も全て失った以上は撤退すべきだが、皇帝陛下から与えられた任務を完遂するまでは引く事はできん。我々は与えられた任務を遂行するまでだ。航海長、針路そのままで機関最大戦速!」
「了解。機関最大戦速ぉく!」
『機関最大戦速っ!』
グレード・アトラスターのエンジンの出力が徐々に上がっていき、速度を上げてフォーク海峡に突入する。
『艦長!レーダーと無線が不調を起こしました!通信と目標捜索不能!』
突然発生した電子機器の不調にラクスタルは、嫌な予感を感じる。
(訳もなく起きた電子機器の不調……これは恐らく機器の故障ではない。もしかしたら日本軍の仕業か?だとしたら本艦は既に敵の索敵圏内に入っている事になる。)
ラクスタルはその場で、指示を下す。
「対水上戦闘用意!取り舵一杯、主砲砲撃戦用意!」
「艦長!敵はまだ目視距離内には居ませんが……」
「おそらくこの電子機器の不調は日本軍による電波妨害だ。だとしたら、我々は既に敵艦の探知範囲内にいる事になる。」
「成る程……了解しました!砲術長、主砲砲撃戦用意。」
「了解!射撃指揮所、測距開始せよ!」
『了解!測距開始します!』
第1艦橋の上に装備されている測距儀が回転し、射撃員が測距儀による目視により、前方を中心に目標の捜索を開始する。普段ならレーダーによる統制射撃を行うのだが、生憎レーダーが使用不能なので、光学照準による目視射撃を行うしかない。
『艦橋!敵艦を視認!本艦前方12時方向!』
「来たか!」
ラクスタルは双眼鏡で水平線を見る。
「間違いない、ヤツだ!主砲砲撃戦用意!取りかじ一杯!」
砲撃に合わせて、グレード・アトラスターの船体が左へと回り、主砲と副砲が回転し、迫ってくる紀伊に向けられる。
「ここは先制攻撃で相手に発破をかける!主砲砲撃始め!」
「了解!…各砲砲撃始めっ!!」
グレード・アトラスターの主砲が放たれた。
紀伊の51cm砲には劣るが、発射時の爆音と衝撃波は凄まじく、艦周辺の海面が揺れる。
『紀伊』第1艦橋
「敵艦発砲!!」
「総員衝撃に備えよ!!」
松田達はその場で耐ショック態勢を取る。十数秒後、紀伊の回りに水柱が9本立った。
「これが46㎝砲の威力……各部被害報告っ!」
『各部被害なし!』
「よし!今度は我々の番だ!主砲砲撃戦用意!」
今度は紀伊の主砲が動きだし、9門の砲身がグレード・アトラスターに向けられる。
「撃てぇい!!」
お返しと言わんばかりに9門の51㎝砲が放たれる。
『グレード・アトラスター』第1艦橋
「敵艦発砲!!」
「衝撃に備えっ!」
こちらも同じように全員が耐ショック態勢を取る。その直後、51㎝砲弾9発がグレード・アトラスター周辺に着弾し、46㎝砲弾の爆発とは比べ物にならない程巨大な水柱が揚がり、とてつもない衝撃波が襲い掛かる。
「くぅ………凄い衝撃波だ。46㎝砲どころじゃないな。」
ラクスタルは51㎝砲の威力に舌を巻く。艦橋内には被害を知らせるブザーが鳴り響き、ラクスタルは急いで損害報告を求める。
「各部被害報告!!」
『後部艦載機格納庫、衝撃により被害甚大!搭載機全損!火災発生のため、消火作業中!!艦載機用カタパルト並びに回収用クレーンも破損!使用不能!』
『こちら烹炊所!各備品類並びに調理器具破損!!』
『こちら医務室!!先程の衝撃で各部署から負傷者続出!』
たった一撃でこの被害。
もしこれが前級のヘラクレス級やオリオン級なら、これ以上の被害が出ていた筈である。
最強の戦艦として帝国の科学力の粋を集めて作られたこのグレード・アトラスターだからこそ、この程度の被害で済んだのである。
「よし!敵艦は我々より主砲が大きい分、装填には時間が掛かる筈だ!!このまま本艦は砲撃を続行する!主砲弾装填急げ!」
各砲の弾薬庫から砲弾と装薬が揚弾エレベーターを使って砲搭内に揚げられ、自動装填により各砲身へと装填されていく。
なまじ砲弾が大きいため時間は多少掛かるが、紀伊の51㎝砲より一回り小さい46㎝砲弾なら紀伊より装填速度は早いため、紀伊が砲弾を込めている間にグレード・アトラスターが先に装填が完了する
「撃て!」
グレード・アトラスターは再び砲撃を開始する。
放たれた砲弾は先程の砲撃の時よりも、正確になってきているせいか、着弾位置が先程よりも紀伊に近くなってきていた。
「くぅ!敵さんもやりよる!この紀伊の相手にとって不足はない!」
『主砲装填完了っ!砲撃準備よし!』
「次は夾叉させろ!」
再び紀伊からも砲撃が始る。
こちらもグレード・アトラスター同様に、砲弾の着弾位置が狭まって、より強力な衝撃波と圧力がグレード・アトラスターの船体を左右に大きく揺さぶり、甲板にある対空砲や副砲、主砲塔、檣楼に海水が覆い被さる。
「うぉぉぉっ!!」
砲弾の着弾により、吹き上がった海水が艦橋の窓ガラスを突き破り、ラクスタルを含め艦橋内に居た乗員全員が水を被った。
「艦長!夾叉されました!今度は当てられます!」
「各部被害報告っ!」
『右舷1番2番スクリュー軸湾曲!副舵も衝撃により破損!』
『こちら第1砲塔!衝撃により楊弾エレベーターに異常あり!!』
「何っ!」
重さ1トン以上ある46㎝砲弾を人力で揚げるのは無理だと設計段階で搭載された楊弾エレベーターが使えなくては砲塔へと砲弾を揚げるのは不可能であり、楊弾エレベーターの破損は主砲射撃不能を意味する。
(このまま砲撃を受け続けては、例え直撃しなくてもこちら側が圧倒的に不利になる……このままでは任務達成どころか、帰還すら難しい。)
彼はグレード・アトラスターの艦長を任されているだけではなく、乗員全員の命も預かっている。圧倒的に不利な戦いを続けて、いたずらに乗員の命を無駄にするのは艦長としては失格である。
ラクスタルは決断に迫られる。
「………………」
「ラクスタル艦長、ここは撤退を。」
そこへ、彼に声を掛けたのは、いつの間にか艦橋へ来ていたシエリアだった。
「シエリア殿……」
「グレード・アトラスターは我が国の誇り、そして貴方方を含めた乗員もまた然り。ここで国民の心の支えになっている貴方達英雄に死なれては困ります。」
ラクスタルはシエリアの言葉の中に、これ以上、過激派議員達による我が国の恥が世界に晒されるのを防がなければならないと言う意味も含まれている事に、選択肢は1つしかないと悟る。
「確かに……引き際を見誤っては元も子もない。ここは引こう。」
「艦長……」
副長が心配そうな目で見てくる。
「全責任は私が取る!!本艦はこのまま、第1打撃群と合流し撤退する!反転180°、全速離脱!」
グレード・アトラスターは砲撃を辞め、急ぐようにフォーク海峡から離れようとする。
「通信室、無線はまだ通じないのか?」
『はい!未だにレーダーと無線は不調のままです。』
「不味いぞ……第1打撃群では攻撃隊発艦準備が整いつつある筈だ。敵艦隊の戦意が失せていない状態なら、第1打撃群が危険だ。」
彼の予想は直後に当たる事になる。
カルトアルパス港 空母『ロナルド・レーガン』
「1番機発艦急げ!」
「hurry up!」
ロナルド・レーガンの飛行甲板では、ハープーンや対空ミサイルで武装した、第102戦闘攻撃飛行隊と第27戦闘攻撃飛行隊所属のF/A-18E/Fが出撃していく。
カタパルトに固定された各機は、次々とロナルド・レーガンから飛び出していき、グラ・バルカス帝国第1打撃群がいる海域へと飛び立っていく。
既にこの攻撃に先駆けて、第115戦闘攻撃飛行隊に護衛された第141電子攻撃飛行隊のEA-18Gグロウラーが先行し、敵艦隊が居る近くの海域で電波妨害を行っている。
この時点で敵艦隊は目と耳を潰されている状態なので、現状では、米軍攻撃隊は上空で待機しているホークアイの誘導で敵艦隊に悟られる事なく近づく事が可能である。
『レッドアイからバスターへ、前方に見える山を越えた後に低空飛行で目標へと接近せよ。』
『了解!』
ホークアイの誘導で攻撃隊は低空飛行に入る。
前に見えるミリシアルのカルトアルパス港北西にある半島を通過し、指示通り低空飛行へと移った。
『各機、レーダー照射開始!』
指揮官機からの指示で、全機がレーダーを始動させ目標を補足する。
『バスターからレッドアイへ、目標を補足した。』
『了解。直ちに攻撃に移れ。』
『了解。各機、攻撃スタンバイ!』
火器官制レーダーのスイッチが入れられ、レーダー波が第1打撃群の艦船を完全に補足し、ホークアイからのデータリンク情報を基に戦艦を除く敵艦船へと目標の割振りが素早く行われ、ロックオンが掛けられる。
『セーフティー解除。バスター、レンジオン、ファイア!』
各機から撃ち出された大量のハープーンミサイルは、一瞬で視界から消えて彼方へと飛び去っていく。
『全機反転!離脱せよ!』
攻撃隊は任務を終えて、その場から全速力で離脱した。
続く