『紀伊』CIC
「敵高速戦艦部隊、海峡入り口より突入してきます!」
「速度から考えて相手は金剛擬きだな。彼等の後ろには長門擬きと大和擬きが控えている事を考えると、砲弾は無駄には出来ないか……対水上戦闘用意。砲雷長、トマホークの使用を許可する」
松田は前衛部隊に向けてミサイル攻撃を指示した。
紀伊と尾張に搭載されているトマホークはBOX型ランチャーに納められており、80年代の現役復帰に備えての大改装工事で搭載されて以降、91年の湾岸戦争でアデン湾からアメリカ海軍と共にイラク内陸部への攻撃に使用されたが、それを最後に自衛隊での運用は一旦終了した。
しかし、転移前の情勢変化に転移による影響が重なった事で3度目の現役復帰の際に最新型のタクティカルトマホークが搭載され、従来のトマホーク武器システムもこの最新型が使用できる様にアップデートされている。
しかし、トマホーク攻撃用意の指示に対して砲雷長が慌てた様子で異を唱えた。
「艦長、トマホークの使用は本土の隊司令部と防衛省からの許可が得られませんと現場での判断では使用できません」
そう。トマホークはその射程距離や命中精度、そして"ある特殊弾頭"の搭載が可能な事から、運用には厳しい制限が掛けられており、現場判断での使用は出来ないのである。自衛隊ではその特殊弾頭型は配備も運用もされてはいないが、導入の際にその性能が当時の政府内にあった導入反対派による猛烈な反対を招き、その折衷案として運用制限を掛ける事により、何とか導入した経緯がある。
そのためトマホーク使用の際は砲雷長の言う通り隊司令部、防衛省、内閣総理大臣の許可が必要となる。
「既に許可は貰っているさ。現時刻を以て機密指定を解除する」
松田はそう言うと側に置いていた鞄から一枚の書類を取り出し、砲雷長に手渡す。
「これは…!?」
その書類は本土の隊司令部、防衛大臣、内閣総理大臣の署名付きの命令書で、その中にトマホーク使用許可証が添付されてあった。
「本土を出港する1ヶ月前に私と尾張の神1佐が防衛大臣に出頭命令を受けてな、その時さ。出来ればソイツを使う事が無い事を願ってたが」
松田は鞄から鍵を取り出した。
それを見た砲雷長は許可証を松田に返し、彼からの指示を乞う。
「艦長、指示をお願いします」
「対水上戦闘、トマホーク攻撃用意。航海日誌に記入せよ」
攻撃指示と同時に松田は鍵を手にして、自信の目の前にある艦長用コンソールパネルにある海上自衛隊を表す桜と錨が刻印された丸い小さな蓋を開ける。
蓋の奥には小さな鍵穴があり、そこへ鍵を差し込む。
「安全装置解除」
そう言うと鍵を左に回す。
湾岸戦争から30年沈黙していたトマホーク武器システムに電源が入り、メインモニターにトマホーク武器システム起動のための起動コード入力画面が表示された。
「起動コード入力を行う」
紀伊と尾張のトマホーク武器システムには3重のロック掛けられており、そのロックを外すのも複雑な手順を踏まなければならない。
1つ目は先述の専用キーによるロック解除である。普段のトマホーク武器システムは電源OFFにして艦の発電システムから物理的に遮断されているが、鍵を差して回す事により発電システムとリンクし電源をONにする事ができる。
それに必要な専用キーは艦長室にある耐火金庫で厳重に管理されているが、現場での独断で使用できないよう金庫のダイヤル番号は防衛省で管理されている。
2つ目はシステムへ起動コードの入力である。
これは防衛省より艦長へ配布される許可証に添付されているフロッピーディスクを艦長専用コンソールに挿し込み、起動コードを入力。無論、コードも防衛省が管理しているため入力時には防衛省へ直接通信を行い防衛大臣からコードを聞いて入力する必要がある。
「通信士、防衛省へ」
「了解。どうぞ」
通信士から防衛省直通無線の受話器を受け取り、松田は無線の奥に居る防衛大臣に話し掛ける。
「こちら紀伊、トマホーク武器システム待機中です」
『了解しました。では起動コードを伝えます』
防衛大臣から起動コードが伝えられ、松田はそれを復唱する。
「復唱します、×××××××。これでよろしいですね?」
『はい』
「了解。これより起動コードを入力する」
コンソールの操作パネルで起動コードを入力してエンターキーを押すと画面が切り替わり『TOMAHAWK WEPONS SYSTEM ON LINE』の文字が表示される。
「起動確認。砲雷長、目標設定」
「了解」
砲雷長はトマホーク武器システムに目標の設定を入力する。
「艦長。全艦トマホーク発射準備完了。発射コード入力願います」
「了解。大臣、発射コードをお願いします」
3つ目に発射コードの入力。
これは誤射を防ぐための最終安全装置で、これも防衛大臣からの直接指示で艦長が入力を行う。
「復唱します。××××××、これでよろしいですね?」
『はい、後はお願いします』
「了解。ではコード入力します」
最後のロックである発射コードを入力し『TOMAHAWK STAND-BY』の文字が表示される。これで後は発射ボタンを押すだけである。
だがここで自衛隊として最後の手順を踏まなければならない。
「これより規定に従い、目標に向けて警告する。通信士、目標への通信はどうか?」
「何時でも可能です」
「よし、呼び掛けてくれ」
通信士が接近してくる帝国軍の戦艦部隊に向けて無線コールを発信する。
「どうか?」
「反応ありません」
「続けろ」
「了解」
通信士は何度もコールを行うが、目標からは一切応答はなかった。
「こちらの呼び掛けに応答ありません」
「早期警戒機が敵の無線交信を傍受しているか確認をとってくれ」
「確認します」
直ちに確認が行われる。
「艦長、どうやら敵は無線を使用していない模様です。早期警戒機も無線電波の送受信を確認していません」
「無線封鎖か。やむを得まい、目標を攻撃する」
「了解。EA始め」
艦隊全艦から目標へ向けて電子攻撃が開始される。
「トマホーク撃ち方始め!」
「トマホーク発射用意、撃て!」
合図と共にスイッチが押されると、紀伊と尾張の煙突左右下の高角砲跡の台座に装備されている4連装ボックスランチャー6基からタクティカルトマホーク24発、尾張と合わせて48発が打ち上げられた。
「何だアレは!?」
「日本艦から何か射ち上がったぞ!」
他国の艦隊からもトマホークの発射が確認され、将兵達は何事かと大騒ぎになる。
「アレが例のミサイルとやらか!?」
その中で冷静だったのはムー艦隊だ。
ラ・カサミ級戦艦ラ・カサミ艦長、ミニラル大佐は双眼鏡を使って紀伊と尾張から放たれるトマホークを見ていた。
「なんて速さだ!もう見えないぞ!」
次々と放たれるトマホークは敵艦隊目指して
それとほぼ同時に遥か前方に位置する地点を航行していた、グラ・バルカス前衛艦隊に異変が起きた。
「何、レーダーが?」
「はい。本艦を含めた全艦のレーダーと無線が突然不調を起こしまして。」
「原因は?」
「分かりません。機器の故障ではありませんし、電装系のトラブルでもありませんから、恐らくこの世界独特の電離層の問題かと。」
「こんな時に………レーダーが復旧するまでの間は各艦との連絡を密にして、見張りを増やして周辺警戒だ。」
「了解。」
この時、彼等の身に起きた電子機器の不調は日本艦隊による一斉ジャミングによる電波妨害である。高出力の電波妨害を浴びせられた前衛艦隊はその事に気がつかず、足を進める。
『司令!前方より高速飛翔物体接近っ!』
見張りからの突然の報告に、アルカイドは慌てて座っていた椅子から立ち上がる。
「何だとっ!敵機か?」
『それが……飛翔物体はとてつもない速度です!超低空飛行で急速接近!』
「対空戦闘用意っ!」
アルカイドは急いで対空戦闘の指示を下すが、戦闘配備が完了するより先に、トマホーク2発がトップアタックモードで一気に上昇、ベデルギウスの横に居た姉妹艦プロキオンの真上から命中した。
『プロキオンに被弾っ!』
「プロキオンがっ!?」
強化型徹甲弾頭装備の1発がプロキオンの第2主砲天蓋を貫き、そこを通常弾頭装備の2発目が砲塔内に飛び込み爆発した。爆発によって生じた衝撃波と爆炎は砲塔下の弾薬庫にまで到達し、格納されていた100発以上の砲弾と装薬に引火し大爆発を起こす。
「プロキオン、轟沈!」
プロキオンの船体は弾薬庫を中心に二つに折れ、乗員が脱出する間も無く、海へと引き摺りこまれていった。
その直後より、他のオリオン級とエクレウス級巡洋艦、タウルス級駆逐艦にトマホークが命中していき、撃破されていく。
「何が………何が起きてるんだ………」
アルカイドは初めて経験する、対艦ミサイルの飽和攻撃の前にどうして良いのか分からず、呆然と立ち尽くす。
「どうすれば………」
この直後、ベデルギウスの艦橋にトマホークが直撃、アルカイドは艦と共に吹き飛ばされ絶命した。
続く
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