『敵艦発砲!』
「来るぞ!総員衝撃に備え!」
紀伊と尾張から放たれた9発の砲弾はグレード・アトラスターの鼻先の海面に着弾した。
爆発によって起きた衝撃波はグレード・アトラスターの巨大な船体を揺らし、檣楼よりも遥かに高い水柱が上がる。
「うぉっ……と」
振動によってカイザルは思わずよろめくが、ラクスタルは咄嗟に両足に力を入れて踏ん張る。
「なんて衝撃だ!敵艦の主砲は予想通りの大口径砲のようだな」
「司令、敵艦が2艦同時に発砲したと言う事は、どちらかの艦が主砲の射撃指揮を統制をしての統制射撃かと思われます」
「とすると敵の手数は更に多くなるか。どうする艦長?」
「回避します。航海長、回避航行取り舵一杯っ!」
「操舵手!取り舵一杯っ!急げ!」
『取ぉぉり舵一杯!急げぇぇぇ!』
ラクスタルは主砲の装填が完了するまで、回避する事に専念する決断を取り航海長に回避航行の指示を出す。
命令を受けた航海長は檣楼下部の司令塔内にある操舵室に居る操舵手に回避方向の指示を出し、舵輪を握っていた操舵手が舵輪を左に向けて大きく回し始める。
『敵艦、次弾発砲っ!』
「クソ!まだ船体が動かんか……」
グレード・アトラスターは大和型と同様に、船体の幅が広く大きいため舵輪を回しても舵が効き始めるのに若干のタイムラグがある。
だが一度舵が効き始めるとグレード・アトラスターは大和型と同様に高い旋回性能を発揮する。ラクスタルはそれを活用して回避しようと考えたのだ。
「敵弾来ます!」
ようやく舵が効き始め、船体が左へ向けて揺れ動き始めた頃に、紀伊からの第2射が到達し、6本の水柱が上がった。
「うおっっっ!!!」
「くっ!」
至近距離で爆発した51cm砲弾はグレード・アトラスターの船体を激しく揺らし、巻き上げられた大量の海水が大雨のように降り注ぎ上部構造物を覆い尽くす。
砲撃で熱せられていた46センチ砲の砲身が海水によって冷やされ水蒸気が発生するのが見える。
「射撃指揮所っ!砲弾の装填は!」
『完了しています!照準修正中っ!』
「修正はしなくていい!牽制射!」
『了解っ!撃ちますっ!』
再びグレード・アトラスターから砲撃が行われるが、当てずっぽうに撃ったため、見当違いの位置に着弾する。
『敵艦、発砲っ!』
その直後に再び紀伊と尾張による統制射撃が行われ、回避中のグレード・アトラスターに襲い掛かる
「うぉぉぉっっ!!」
「被弾したかっ!」
第1艦橋の右側の窓から強い閃光が艦橋内を照らし出され、直後に鼓膜が破れそうな程の爆音と横から突かれたかのような衝撃が襲い掛かった。
「被害報告!」
ラクスタルは直感で被弾した事を理解して、報告を求める。
『右舷、対空砲群に直撃弾っ!』
ラクスタルは第1艦橋の後ろ側に回り、被害状況を確認する。
「なんて事だ……」
砲弾の直撃と爆発で右舷にハリネズミかの如く設置されていた3連装高角砲塔の大半が潰れ、3連装機銃塔は根本から丸々吹き飛ばされている。
『高角砲群被弾っ!弾薬庫に火災発生っ!』
『右舷機銃群被弾!死傷者多数っ!』
「消火作業急げっ!衛生兵を大至急向かわせろ!」
命令を受けた応急作業員と衛生兵が駆けつけると、そこは正に地獄絵図だった。
「酷ぇ……」
破壊された高角砲と機銃の残骸からは人間の手足や、原型を留めていない人間の体が見え、甲板には大量の血が流れている。
「クソっ!生きてる奴を探せっ!」
「ホースをありったけ持ってこいっ!」
応急作業員は消火ホースを使って火災の鎮火、衛生兵達は残骸の中から生存者の捜索に入る。
救助収容されていたヘルクレス級戦艦の乗員も加わり、応急作業に入る。
「ん?」
ふとその時、金属が軋むような音が聞こえて来る。その場に居た誰もが手を止めて辺りを見回す。
「おいっ!あれっ!」
誰かが指差した方向を見ると、後部艦橋と煙突の間にある3股のマストが傾いており、今にも倒れそうな様子を見せていた。
「いかん!全員退避っ!」
先任の水兵が退避命令を出し、全員その場から急ぎ足で退避する。
その瞬間、マストが根本から折れ、後部艦橋に乗り掛かるように倒壊した。
「後部マスト倒壊っ!」
「マストが…………帝国旗が…………」
帝国海軍将兵内で戦艦を象徴する物は、高く聳え立つ檣楼、巨大な主砲塔、マストに掲げられた帝国旗と海軍旗とされており、そのうちの1つを破壊された衝撃は乗員達に伸し掛かる。
「伏せろっ!」
直後に、消火が出来ていなかった高角砲の弾薬庫から誘爆が発生し、側に居た乗員達はその場で伏せる。
「誘爆したのか?」
「おいっ!見ろあれっ!」
ふとマストがある方向に視線を向けると、マスト倒壊時に引き裂かれていた帝国旗と海軍旗が今の弾薬庫から起きた誘爆の爆発による炎が飛び火して、虚しく燃え上がっていた。
「帝国旗が…………」
自国の権威を示すための国旗を燃やされたり破かれるのは、その国の人間にとってはとても耐えられるものではなく、帝国旗の焼失を目にした兵士達は涙を流す。
「クソっ!よくも……」
ラクスタルも艦橋からその様子を見ていたため、紀伊に向けて怒りの目を向ける。
「これ以上、貴様の好きにはさせん!!」
グレード・アトラスターはそのまま速度を維持しながら、意地を掛けて戦闘を続行する。
『尾張』第1艦橋
「敵さん、余程腹に据えかねげなな。」
神はグレード・アトラスターを見てそう呟く。
この時、グレード・アトラスターに直撃した砲弾は尾張のものであり、偶然にも砲弾の着弾位置にグレード・アトラスターが差し掛かったため直撃してしまったのである。
「こりゃ本気で掛からんと痛い目を見っな………紀伊に繋いでくれ。」
神は無線マイクを手に取り、松田に意見を具申する。
「こちら神、松田艦長。どうやら相手の感情を逆撫でしてしもたごった。本気で掛からんと痛か目を見っど。」
『あぁ………出来ればこれ以上敵に対して出血を強要させる真似はしたくないが、これ以上の被害を抑えるためには覚悟を決めるべきかな?』
「そうです。おいどんと松田艦長は艦と乗員の安全を守るのが使命っ!やっしかなかっ!」
松田は暫く黙り込み、再び神に言う。
『分かった!やろう、神艦長っ!』
「おうっ!」
紀伊と尾張はグレード・アトラスターを本気で沈める覚悟を決め、再び砲撃のために準備を行う。
「「主砲発射っ!」」
続く
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