日本国召喚×不沈戦艦紀伊   作:明日をユメミル

46 / 258
今回が最終回です。


第9話

フォーク海峡はグレード・アトラスターと紀伊・尾張による激しい砲撃戦が繰り広げられ、既に追い付いていた会議参加国の艦隊は近寄れず、傍観を決め込んでいた。

 

 

 

「砲撃手!もっと腰を据えて撃てっ!」

 

 

 

ラクスタルは戦闘によるアドレナリンで、今までにない程に興奮していた。

グレード・アトラスターは回避操艦を続けながら不利な状況の中、果敢に立ち向かう。

 

 

 

 

「敵さんは決死の覚悟で向かってくる!奴の勢いを押し返す勢いで応戦っ!」

 

 

 

松田も向かってくるグレード・アトラスターの心意気に応えるかのように、乗員を鼓舞する。

 

 

 

「遠慮はせんでよか!!撃ち続けっ!」

 

 

 

尾張でも、神が攻撃の手を緩めないように指示を下す。

 

 

 

 

グレード・アトラスターは2隻からの集中攻撃を受けて、圧倒的に不利な状況に陥っている。

防御力、火力で上回る紀伊型2隻の前ではグレード・アトラスター単艦はあまりにも無力であった。

 

 

 

 

『艦首上甲板被弾っ!浸水発生っ!』

 

『後部航空機作業甲板に直撃弾!左右カタパルト大破!クレーン損傷!』

 

『右舷直撃弾あり!浸水発生!』

 

「防水作業急げっ!火災発生箇所は消火を!」

 

「左舷注排水区画、500トン注水!」

 

 

砲撃戦でグレード・アトラスターに着弾する51cm砲弾は艦へ着実にダメージを蓄積させていく。特に喫水線付近や構造上装甲が薄い箇所からの浸水が激しく、速力と浮力が徐々に失われていく。

特に海面に着弾した徹甲弾は、その勢いを保ったまま水中弾効果で魚雷のように装甲が薄い艦尾と艦首に直撃し大穴を穿ち、海水が滝のように雪崩れ込む。

 

 

 

「艦首区画を閉鎖!総員退去!!」

 

「防水扉閉めろ!!急げ!!」

 

「各員は第2区画まで後退!負傷者の移動も忘れるな!」

 

「此処はもう駄目だ!待避だ!待避!」

 

 

 

応急員達は損害が大きい所を優先に防水作業を行うが、浸水量が予想以上に多く、防水作業は全く追い付かないでいた。

 

 

 

「艦首区画全閉鎖!注排水指揮官、左舷注水急げ!」

 

「了解!注排水指揮所、注排水装置作動っ!左舷注水区画に3000トン注水せよっ!」

 

 

 

注水指揮所の指示で機関員達が注排水装置を動かし、注水ポンプからパイプを通じてを艦内に海水が注入される。

右に傾いていた船体が徐々に左へ向けて傾きはじめ、左右での釣り合いが取れたため傾斜は元に戻った。

 

 

 

「傾斜復元完了!速力10ノットに低下!」

 

 

 

グレード・アトラスターや大和型に共通している欠点として、注排水装置を使って艦内に海水を注水すると、船体の重さが必然的に増して速力が落ちるのと同時に、傾斜復元のため注水を続けているため注水区画が満水になり、傾斜が戻らなくなる欠点を持っている。

既に喫水は深くなっており、上甲板から海面までの高さが近くなっていた。

 

 

 

「不味いな」

 

 

 

今、この艦はその欠点を同時に受けて窮地に陥っており、沈没という事態も徐々に現実味を帯びてきていた。建造当時からグレード・アトラスターの艤装員長を勤めていたラクスタルはこの艦の熟知しているだけあって、艦の欠点も頭に入っている。それ故にグレード・アトラスターの限界を感じ取っていた。

 

 

 

(敵も本艦の欠点を知っている様だ)

 

 

 

大和型と同様に集中防御方式を採用しているグレード・アトラスターは艦の中央部以外の装甲が薄く、おまけに片側に魚雷や水中弾を受け続ければ注水が出来ず艦が危うくなる事を理解しているラクスタルは次にどうすべきかを考える。

 

 

 

「敵艦発砲!」

 

 

 

しかしそんな彼の思考を邪魔するかの如く、追い討ちをかけるように砲弾が降り注ぎ、強い衝撃が艦橋に伝わってきた。

 

 

 

「第2副砲に直撃弾!火災炎上!」

 

「何っ!?」

 

 

第1艦橋の後ろにある視察窓から後部を見ると、煙突越しに激しい黒煙が上がっているのが見えた。

 

 

(まさか……!?)

 

 

 

直後、大爆発が発生し副砲塔が艦橋よりも遥かに高く吹き飛ぶのが見えたが艦橋内に第3砲塔火薬庫の温度上昇を知らせる緊急警報ベルが鳴り響く。

 

 

「不味い!」

 

 

ラクスタルは顔を蒼くした。グレード・アトラスターは構造上、副砲と主砲の弾薬庫は壁一枚でしか隔たれていないため副砲弾薬庫が誘爆すれば主砲塔弾薬庫と隔ている隔壁が吹き飛び、火災が主砲弾薬庫へ及べば砲弾と装薬の誘爆を同時に引き起こす事になる。そうなれはグレード・アトラスターは内部爆発により船体が引き裂かれ、即沈没は免れない。

 

 

 

(火力が落ちるが仕方無い!)

 

 

 

ラクスタルは苦渋の指示を出した。

 

 

 

「第3砲塔火薬庫緊急注水っ!急げ!」

 

「第3砲塔火薬庫緊急注水っ!」

 

 

 

直ちに第3主砲の火薬庫へ注水が行われ、幸いにもラクスタルの判断が早かった事もあり、弾薬庫の火災は鎮火し警報ベルは鳴り止んだ。主砲弾薬庫の誘爆は避けられたが第3砲塔に格納されていた装薬と砲弾は全て水に浸かってしまったため使用不能となった。

 

 

「うぉっと……」

 

 

緊急注水により、左右のバランスが不安定になっていたグレード・アトラスターの船体は左へ向けて大きく傾きはじめた。更に追い討ちを掛けるように、艦内から多数の報告が入ってきた。

 

 

 

 

『傾斜増大にて全主砲、旋回と装填不能っ!砲撃続行不能っ!』

 

『機関出力低下止まらず!罐内温度上昇!!危険です!』

 

『主舵破損っ!操艦能力低下!』

 

「艦長、左舷注水区画満水!注排水装置も全損!傾斜復元不能っ!」

 

 

 

主砲も撃てず、舵もロクに効かず、注排水区画満水と装置全損による傾斜復元不能はグレード・アトラスターにとっては死刑宣告に等しかった。

 

 

 

「ここまでか………」

 

 

 

もはや戦艦としての役目を負う事は出来ないグレード・アトラスターは只の鉄の塊。ラクスタルはこれ以上艦に留まれば更に多くの犠牲者が出てしまうと考え、悔しさを抑えながらもカイザルに重大な決断を進言した。

 

 

 

「司令、もうこの辺りでよろしいかと思います」

 

 

 

この進言にカイザルも、彼と同じ考えに至っていたのか、直ぐに決断を下した。

 

 

 

「艦長、総員退艦命令を発令。それと降伏旗を掲げよ」

 

「了解!」

 

「通信室に連絡。後方の第1打撃群と東征艦隊へ現場海域からの離脱するよう伝えろ」

 

「通信室、応答ありませんっ!伝令行きますっ!」

 

 

 

伝令により総員退艦命令が発令されると、乗員は生き残るため必死に外へ向けて走り出す。

 

 

 

「総員退艦っ!総員退艦っ!」

 

「急げっ!総員退艦っ!」

 

 

 

総員退艦を叫びながら走り回る水兵達の声を聞いた別の水兵達は退艦のため甲板へ出ると、傾斜により傾いた甲板から滑り落ちるように海へと飛び込んでいく。

 

 

 

「艦長、司令塔に居るシエリア殿を連れて退艦せよ!」

 

「はい!………司令、後ほど」

 

「あぁ…無事でいてくれよ」

 

 

 

ラクスタルは艦橋から飛び出し、階段を使って司令塔に降りると中に居たシエリアに声を掛ける。

 

 

 

「シエリア殿、至急退艦を!」

 

「分かった…」

 

 

 

ラクスタルに連れられ司令塔を出たシエリアは、駆け足で甲板に向かう中、ラクスタルに問いかける。

 

 

 

「………艦長、帝国はどうなるのだろうか?」

 

「それはあなた達外務省の仕事です。兎に角今は生き残る事を考えましょう」

 

 

 

司令塔から甲板に出た2人の目の前には海面が迫っていた。2人はそのまま滑り落ちるように海へと飛び込む。

 

 

 

「艦長っ!こちらにっ!」

 

 

 

海へ出ると、先に退艦していた乗員達がラクスタルとシエリアをボートに引き上げる。

 

 

「助かった………カイザル司令は?」

 

「はい、別のボートで退艦しております」

 

「そうか…………良かった」

 

 

ラクスタルは安心感からか息を吐く。

 

 

 

「各員、退艦者を1人でも多く引き上げろ!」

 

「了解!」

 

 

部下にそう指示を出し自身も漂っていた別の乗員達を引き上げていく。

 

 

 

「しっかりしろ!生きるんだ!」

 

「艦……長………」

 

「もう大丈夫だ!すぐに軍医を呼ぶからな!」

 

 

ラクスタルは助け出した水兵にそう声を掛けつつ別の水兵もボートに引き上げる。

 

 

「艦長、間も無く満員です!」

 

「分かってる!だが生きている者は1人でも多く収容せよ!」

 

「了解!」

 

 

ラクスタルらが救助活動をする中で、シエリアも微力ながら救助作業に手を貸している。

 

 

「しっかりして!怪我は大した事はない!」

 

 

「あ…あぁ……姉さ……ん………」

 

 

「大丈夫!もう大丈夫だから!」

 

 

 

シエリアはボートに引き上げた若い水兵の手を握りながら必死に声を掛け続ける。

 

 

 

 

 

「艦長!もう限界です!」

 

「そうだな………他のボートは漂流者の救助を最優先に行動せよ!」

 

 

 

ラクスタルはメガホンを手に救助作業の指揮を続ける。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

脱出から30分後、左に傾斜しながらも何とか浮いていたグレード・アトラスターの船体が急速に傾いていく。甲板からは残骸や装備品が滑り落ち上部構造物が海水に浸かっていく。

 

 

「総員待避!艦から離れよ!」

 

 

やがてグレード・アトラスターは赤く塗装された船底を真上に見せて大きく転覆した直後3回の大爆発が起きた。

白い煙に黒煙が混じり、グレード・アトラスターの巨体は引き裂かれ、その巨体は急速に海中へと引き込まれていき姿を消した。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

海面から伸びるキノコ雲が空に向かって伸びていく。

 

 

 

「……………」

 

 

 

ラクスタルや乗員達は沈んでいくグレード・アトラスターに向けて帝国式敬礼を送った。

 

 

 

 

「艦長、敵艦が………」

 

 

 

 

暫くしていると護衛艦『たかなみ』が近付いてきた。

 

 

 

『これより貴官達を救助収容する!我々はジュネーブ条約に基づいて貴官らを捕虜として丁重に扱う事を確約する!』

 

 

 

たかなみからの呼び掛けにラクスタルはその場で立ち上がりメガホンを使い返答した。

 

 

 

「了解した!!救助の申し出、感謝する!」

 

 

 

拡声器から聞こえてきた内容にラクスタルは拒否できる状況では無いため、潔くそれを受け入れた。

 

 

 

「負けたな………」

 

 

 

救助作業が開始されグレード・アトラスターの乗員はたかなみの乗員達により次々と甲板へ引き上げられていき、ラクスタルもシエリアと共に引き上げられヘリ甲板で医官から手当てを受けていた。

 

 

「これで大丈夫です」

 

「すまない。ありがとう」

 

「いいえ」

 

 

医官からの手当てを終え辺りを見回すと、自分の他に救助された大勢の乗員達が救護を受けており、特に重傷者は担架に載せられ運ばれたり、意識の無い者は医官から救命措置を受けそれを無傷の者達が必死に声をかけていたりしている。

 

 

「我々の真の敵は彼らでは無いのか……」

 

 

そこへ一人の海上自衛官が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

 

「申し訳ありません、貴方は士官の方でありますか?」

 

「そうだ。グレード・アトラスター艦長のラクスタル、階級は大佐だ」

 

「失礼しましたラクスタル艦長。私は当艦たかなみ艦長の山瀬です。階級は2等海佐、そちらで言う処の中佐にあたります」

 

 

たかなみ艦長はラクスタルに海上自衛隊式の敬礼をし、ラクスタルも帝国式の敬礼で返す。

 

 

「ヤマセ中佐……失礼、2等海佐。私に何用かね?」

 

「ラクスタル艦長、恐らくですが貴方の上官らしき人物を救助したのですが」

 

「何っ!?」

 

「御存知ですか?」

 

「その方の名前は?」

 

「カイザルと名乗っておりました」

 

「その方は当艦に乗艦しておられた、東征艦隊司令官だ!」

 

「そうでしたか。ではこちらにお連れしましょうか?」

 

「頼む」

 

 

数分後、数人海上自衛官に連れられて、先に脱出したカイザルがやって来た。

 

 

 

 

「司令、ご無事でしたか!」

 

「あぁ。貴官も無事であったか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスタルは後年に自ら綴った自伝をこう締め括っている。

 

 

 

 

『私は沈み行く自艦を見送りながら《今日はグレード・アトラスターの番なれど、明日は帝国の番なり》と心で呟いた事を今でも覚えている。これは私を含めた帝国臣民の心が折れた瞬間で、私は自国の歴史に刻まれる大きな転換点に立っていたのだと実感していた………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様からのご意見とご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。