第1話
カルトアルパス戦から半年が経ち、各国が対グラ・バルカス戦に向けての準備を進めている。それはムーも日本も同じであった。
日本では、今後予測されるグラ・バルカスとの衝突に備え、国土防衛策として、陸・海・空自衛隊の戦力拡充を目的とした武器弾薬の追加生産と備蓄、海上自衛隊に於ける周辺海域の対潜哨戒任務の重視、民間船の往来制限等を進めていき、またグラ・バルカス本土と近い位置にある同盟国ムーを侵攻阻止線とするため、技術流出防止法の大幅緩和と海上自衛隊と陸上自衛隊の派遣を決定した。
その決定から一週間後、ムー東部にあるマイカル港では…
「来たか……」
ムーの技術士官マイラスは、マイカル港に入港してくる、海上自衛隊のムー派遣艦隊の中で一際存在感のある、紀伊を見ていた。
「相変わらずデカイな……並走するラ・カサミがまるで小舟だ」
紀伊の右側を、ムー海軍艦隊総旗艦『ラ・カサミ』が並走している。しかしラ・カサミは、マイラスや、港に来ていた軍関係者達が知っているかつての姿とは、大きく異なっていた。
空に向かって聳え立っていた二本のマストは、鉄骨を複雑に組み合わせた低いトラス式マストに変わり、露天艦橋は完全な密閉型となり、二本の煙突からは黒煙ではなく熱による陽炎が立ち、その中間には四本の筒を一組にまとめた物が2基設置され左右上方に向けて交差するように向いている。
「ラ・カサミも変わったな………」
カルトアルパス戦によりムーは、紀伊と尾張の活躍で被害は無かったが自国の戦力と戦術がグラ・バルカスとの間では大きく開きすぎている事を痛感していた。ムー統括軍上層部や政府はどうにかして軍の強化や新戦術発案に向けて連日協議を重ねた結果、吉報が舞い込んでくる。
日本政府による、グラ・バルカス帝国がムー大陸を第1文明圏への侵攻の足掛かりとする戦略を阻止するために自衛隊の派遣を決定と、駐留と土地の提供を認める見返りに、ムーに限り技術流出防止法を緩和、可能な限りの技術を提供するとの申し出があり、ムーは迷わず無条件で申し出を受け、2国間で相互防衛協定が締結された。
協定締結に伴いラ・カサミは日本にて、対グラ・バルカス戦に向けての改装工事が行われ、技術流出防止法が許す限りの大改造が行われた。
主な改造点としては………
①主機関をディーゼルからガスタービンに変更し、艦内電力需要増加に伴い発電機も日本製の強力な物に換装
②主砲は砲身以外を自動装填装置を内蔵した完全な無人砲塔に換装
③10式戦車の砲身と自動装填装置を内蔵した新型副砲の搭載
④対空戦闘用として退役艦から流用した、7連装ミサイルランチャー2基とMk42 127ミリ速射砲の追加搭載
⑤対艦用として、同じく退役艦から転用したハープーンミサイル発射筒の搭載
⑥近接防御用としてMk15ファランクス4基を増設
⑦FCS-3をムー向けに大幅なダウングレードを行った『FCS-3改』を搭載し、それを中心として各種レーダーシステムや戦術データリンクを設置し限定的なシステム艦へと改装
⑧対潜用アクティブソナー、曳航式パッシブソナー、対潜用短魚雷、アスロックによる対潜戦闘能力の付与
新造とも言える程の大改造が行われ、汎用護衛艦に匹敵する能力を得たラ・カサミは『ラ・カサミ改』として、ムーの新たな守護神として生まれ変わったのである。
「海上と陸上は万全………後はアレさえ使えれば」
マイラスは護衛艦隊に混じって、日本郵船が所有する貨物船に目を配る。貨物船にはムーの秘策が隠されていた。
グラ・バルカス帝国の帝都ラグナにある帝城では、グラ・ルークス以下、帝国陸軍・海軍大臣と高官、各省庁のトップが集い、ある軍事作戦についての説明が行われていた。
「それでは此度の作戦概要の説明に入ります」
海軍大臣が、会議場に設けられた巨大な地図を広げ説明に入る。
「此度の作戦に於ける目的は、昨日確認されたムーの首都マイカルの港に停泊している日本艦隊殲滅と同時にオタハイト、工業都市マイカルに壊滅的打撃を与えるのが目的であり、今後のムー大陸制圧と第一文明圏への侵攻の障害を排除するのが目的であります。レイフォリア湾では既に第52地方隊が待機しております。」
海軍大臣からの説明にグラ・ルークスが疑問を投げ掛ける。
「オタハイトへの攻撃はどうするのだ?」
「ご説明を行う前に、皇帝陛下にご許可を頂きたい事案がありますので、この場で申し上げても宜しいでしょうか?」
海軍大臣はグラ・ルークスにそう許しを乞う。
「申してみよ」
「はい。"グティ・マウン"の使用許可をお許し頂きたいと」
その瞬間、議場が喧騒に包まれた。
「グティ・マウンは我が国の最高機密の塊なんだ!たかが蛮族相手にそんな物を使う必要が何処にある!」
「蛮族とは言え、アレの存在を奴等に感づかれるのは、我が国にとっては不利なのでは?」
陸軍大臣と財務大臣の意見に海軍大臣は凛とした表情で反論する。
「確かに……相手がムー人や第二文明圏の蛮族相手ならグティ・マウンは必要ありません。しかしそれを使わざる得ない相手が居るのです」
そう言って陸軍大臣は、横の席に座っていた情報局長官に目配せする。立ち上がった情報局長官は一枚の拡大写真を広げる。それを見た瞬間に、皆顔を蒼くした。
「これはオタハイト港を撮影した写真です。」
「これは……カルトアルパスでグレード・アトラスターを沈めたという日本の巨大戦艦か!」
写真には、オタハイト港の沖合いに停泊している紀伊が写っていた。
「情報によるとこの戦艦は『キイ』と言う名前で、カルトアルパスで確認されたもう一隻の艦名は『オワリ』と言うそうで、キイの姉妹艦だと言う事です。キイは二日前にマイカルに入港した後、オタハイトに移動した様です」
そこへ再び陸軍大臣が話し始める。
「今回確認された日本艦隊はカルトアルパス戦時とほぼ同じ編成であり、イシュタムの戦力では明らかに戦力不足と言う事で、オタハイト日本艦隊への攻撃はグティ・マウンによる高高度精密爆撃を行いたいと考えております」
「高高度精密爆撃は分かるが、的が小さい艦船に向けて精密爆撃で当てられるのか?」
「それにつきましては陸軍大臣より」
海軍大臣に変わって陸軍大臣が説明を始める。
「高高度からの精密爆撃については、新開発の爆撃照準レーダーによる精密爆撃が可能となっており、実際のテストでは、その命中率は80%以上と言う結果が出ています。残りの20%は使用する爆弾の破壊力でも充分補えるので、許容範囲内に収められるでしょう」
「成る程……ではグティ・マウンの使用を許可する。必ず成功させるのだ」
「はっ!」
グラ・ルークスの認可を得た今作戦は直ちにイシュタムと陸軍特別爆撃機連隊に通達された。
特別爆撃連隊が置かれた秘密基地では、格納庫内に厳重態勢で格納されていた6発の大型エンジンを装備した、帝国が誇る戦略爆撃機『グティ・マウン』への爆弾搭載作業が開始されていた。
「いよいよユグド以来の実戦ですな大佐」
「あぁ…俺達が狙うのはムーの首都オタハイトだが、今回の作戦での我々の真の目標は、今何かと噂になってる日本の巨大戦艦だ。上は精密爆撃で沈めろとさ。」
今回の作戦で爆撃隊を指揮する『マール・ベティッツ』大佐は葉巻を咥えながら、紀伊を写した写真を部下に見せる。
「成る程、オタハイトへの攻撃はついでと言う事ですな。しかし巨大戦艦とはいえ精密爆撃で当たりますかな?」
「奴はデカイ分、動きが鈍い筈だ。狭い湾内なら早々身動きは取れんし、我々にとっては格好の標的だ」
「成る程。なら今回の任務は簡単ですな」
「あぁ……作戦終えて帰れば俺達は英雄になれる。今以上の生活も期待できそうだ」
ベティッツは目の前のグティ・マウンを見ながら自信に溢れた表情で、写真を握り潰す。
続く