爆撃隊がオタハイトに到達する2時間程前、マイカル港に居たラ・カサミと、あきづき、しらぬいにも敵襲の報がもたらされていた。
ラ・カサミ改の艦橋で報告を受けていた艦長のミニラル大佐、副長のシットラス中佐は、どうするかを話し合っていた。
「オタハイトに向かっている敵はあの巨艦達が何とかしてくれるとの事だが………こっちに向かってくる敵艦隊を本艦と日本の護衛艦2隻の3艦だけで止められるか?」
マイカル港は工業都市であり、ムーの産業を支える柱の一角であるため海軍と陸軍の防衛部隊が駐留しているが、国家間規模での戦争もなく財政的な問題もあり、首都以外の防衛力は年々縮小しつつあった。
しかし、グラ・バルカスの脅威と先進11ヶ国の件から防衛力増強の方針によりムー大陸各地に駐留している軍の防衛部隊は逐一、戦力の増強が図られている。
現在マイカルに駐留しているのは、ラ・カサミ改とマイカル地方隊所属の旧式戦艦2隻に装甲巡洋艦2隻、スクラップ寸前の沿岸警備艇と哨戒艇、海自のムー派遣艦隊マイカル分遣隊の護衛艦3隻と補給艦『おうみ』、潜水救難母艦『ちよだ』のみである。
「日本から提供された敵艦隊の艦船の性能に関する資料と照らし合わせた結果、我々が装備している対艦ミサイルで敵艦の半分は行動不能に出来ますし、敵艦載機はこちらが先制攻撃を掛ければ飛び立つ前に空母ごと無力化が出来ます。問題は残った敵艦と砲雷戦に持ち込んだ場合、単純な火力と防御力は向こうが上回ります。こちらが有利に立つためにはやはり作戦が必要ですね」
「作戦か………やはりここはミサイル兵器の性能を生かして柔軟に対応するしかないな」
日本で学んだ近代戦術と兵器の性能を生かしつつ、何とか乗り切るしかないと考え、海自のマイカル分遣隊との共同作戦で敵を迎撃する事が決まった。
ミニラル達は統括軍本部からの出撃命令に従い、あきづきとしらぬいと共にマイカルから出撃する。
「やはり彼等が先行ですか」
「あぁ」
『あきづき』の艦橋から双眼鏡で、前方を航行するラ・カサミ改を見つめる、あきづき艦長の長田1佐は副長の問いに素っ気なく答える。
「ここはムー国で彼等はムーの軍人、国土を守るのは彼等であって我々はその手伝いだ。ここで彼等を差し置いて我々がでしゃばれば彼等の面目を潰す事になる。連中の顔を立ててやらんとな」
長田は冷静にそう話す。
「だが、ミサイルなんかの近代兵器について一通り知識はあっても、使うタイミングや時期を誤れば元も子もない。我々の立場は飽くまでオブザーバーだが何時までもおんぶにだっこじゃ困る。今後は我々と行動を共にするなら彼等には近代兵器についてのより一層の知識や戦術を学んでもらわないとな」
「それにしても、ラ・カサミだけでは不安がありますが」
「彼等だって一応訓練を受けてきてるんだ。早々ヘマはやらかさんだろう。実戦でその成果を活かせられるか見せてもらおうじゃないか」
「万が一、ラ・カサミがやられたらどうしますか?」
「その時は本艦としらぬい、それと"秘策"を使うまでだ」
長田の言う秘策とは何か?
オタハイトを出港した艦隊より遥か前方の海面に1本の棒が立っていた。その下にある海中には……
「艦長、あきづきから通信です」
様々な電子機器やアナログ計器に包まれた狭い空間内に小さな声が響く。その空間の後ろに位置する場所に据えられた椅子に腰かける紺色の作業服に潜水艦乗りを示すドルフィンマークのピンバッチと両肩に海上自衛隊に於ける1等海佐を示す階級章が縫い付けられた中年の自衛官『山村』1佐が立ち上がる。
「『分遣隊はオタハイトを出港。敵艦隊を捕捉次第、追跡せよ』との事です」
「了解。マスト収納、機関前進強速」
「了解。機関前進強速」
静かに命令が伝えられると彼等が乗り込む、海上自衛隊第2潜水隊群所属の潜水艦『せとしお』のモーターが7枚翼のスキュードスクリューを回転させ葉巻型の船体を加速させる。
「しかし機密を守るためとはいえ、ムーの連中に本艦の姿を見せられないのが残念ですね」
「ムー大陸にグラ・バルカスの諜報員が居ない場所は存在しない。これは人に姿を見られてはならない我々の存在を守るための措置だからな」
山村の言う通り、日本から派遣された海上自衛隊の戦力に関して、せとしおの存在は敵の間諜の目を警戒して表向きには伏せられている。せとしおの存在を知っているのは派遣部隊の幹部級の人間や、日本とムー政府のトップ、一部の軍の高官のみである。
せとしおの秘匿は徹底して行われ、日中は海域周辺の哨戒活動、夜間にマイカル港へ帰還次第ちよだから補給を受け、その間に乗員の休息が行われる。
勿論、補給中も敵間諜の目に触れさせないよう岸壁に横付けして停泊しているちよだの陰に隠れるよう接舷し、そこから燃料と食料を積み込んでいるという徹底振りである。
現在せとしおは、本国からマイカルに接近中の不明艦隊探知の報を受け、数時間以上前から敵艦隊の捕捉のための任務に就いていた。
静かな海域の海中を暫く航行中していると、ヘッドフォンをしていたソナー員から報告が入った。
「艦長、複数のキャビテーションノイズが聞こえます」
「水上艦か?」
「距離が少し遠いようです。後10分程で判別可能です」
「よし、機関停止」
「機関停止」
モーターが止まりスクリューが停止すると、船体はゆっくりと惰行しつつ、徐々に速度を落としていき、やがて完全に停止した。ソナー員はパッシブソナーの感度を調節しながら音の判別のため聞き耳を立てる。
「艦長、ノイズ大きくなります。推進音です」
「方向は?」
「11時方向からです」
「ここから11時方向となると……不明艦隊の予想進路と一致するな。音源は水上艦か?」
「間違いありません。複数の水上船舶が航行しているものと思われます」
「目標からソナー音は聞こえてくるか?」
「推進音以外では他に変わった音はありません。敵はアクティブじゃなくてパッシブを使っている可能性がありますが、特に変わった動きはしていません」
「こっちに気付いては居ないのか、あるいは潜水艦が居ないと高を括ってるのか………このまま深度200まで無音潜航」
「了解。ベント開け」
艦長の指示が潜水と浮上を指揮する潜航指揮官が受け、その命令を潜水担当員に伝えられた。
「機関停止。ベント開け」
せとしおの注水弁が開きメインタンクに海水が入れられる。機関停止でその場で停止していたせとしおの船体は、ゆっくりと下に向かって降りていく。
「深度100……150……180……190」
「ベント閉め」
「ベント閉め」
予定深度に到達前に注水弁が閉じられ、せとしおは深度200で潜航を停止した。
「確認……深度200」
発令所の計器を素早くチェックし、計器は深度200をピッタリ指していた。難しい潜航指揮でも、これが出来るのは普段からの厳しい訓練の賜物である。
「ソナー、敵艦との距離を50メートル間隔で報告」
「了解。現在目標との間隔は300…………250…………200………………150……………」
ソナー員が読み上げる敵との距離を知らせる報告に発令所に居た全員が息を殺すように聞き入る。
「100…………50…………30……20……間も無く本艦直上に到達」
皆が上を見上げる。
「目標、本艦直上」
声を出さず息を殺しながら、乗員達は音を出さないように必死で耐える。気づかれていないかどうかを知る由が無い乗員達にとって、ほんの数分間の出来事が何時間にも感じ、緊張で額から汗が垂れる。
「目標通過………遠ざかります」
気付かれなかった事に張り詰めていた乗員の緊張が緩み、安堵感から皆息を吐いた。
「敵艦との距離が30以上離れたのを確認後、深度100まで無音浮上。追跡を開始する」
続く
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