「連中も中々やるな」
哨戒ヘリから送られてくる一連の戦闘の映像をCICで見ていた長田はラ・カサミ改の奮戦を見て感嘆する。
「もう少し手こずるかと思ったが、あれだけ出来れば上等だ」
そう言うと長田は新たな指示を出す。
「対水上戦闘用意」
あきづきとしらぬいは敵駆逐艦12隻を目標に定める。
「艦対艦誘導弾発射用意よし!」
「攻撃始め!」
「発射用意……撃てっ!」
発射ベルが3回鳴り響き、ミサイル担当員が発射ボタンを押すと、あきづきの船体中央部に設置された発射筒からSSM-1Bが6発程発射された。しらぬいからもSSM-1Bが6発が発射され、双方合わせて12発の対艦ミサイルが放たれた。
「艦長、後方の日本艦から対艦ミサイルが発射されました!」
「発射数は?」
「12発です」
ミニラルは、護衛艦から放たれたミサイルの数から残っている敵駆逐艦に向けての攻撃であると判断した。
「レーダー手、対艦ミサイルを追尾」
「は……了解」
ミニラルの指示でレーダー員は艦橋上に設置されたFCS-3Aのレーダーを手動に切り替え、敵に向かっている対艦ミサイルを追尾する。
「全ミサイル、目標到達まで1分」
「皆、よく目に焼き付けておけ。1分後には敵駆逐艦12隻の乗員約2700人の命が消える。日本が居た世界ではちっぽけなボタン1つを押すだけで敵の命を簡単に奪える………俺達も、そして後に続く者達も何時かはそれを扱い敵の命を奪うんだ」
既にミニラルはこれまでの戦闘で対艦ミサイルの性能を身を持って体験しており、人の命をいとも簡単に奪えるかつての故郷である地球世界ではそれが当たり前になっている事、誰も疑問を抱かずにその技術を利用している事を乗員達に記憶させる。
「着弾まで後20秒っ!」
メインモニターに投影された敵駆逐艦を示す光点に、対艦ミサイルを示す光点が高速で近づき、ミサイルの光点が駆逐艦の光点と重なる。
「ミサイル全弾直撃の模様」
12隻居た駆逐艦は戦艦と鈍足の補給艦を残してスクリーン上から姿を消してしまった。
「敵駆逐艦12、消えました」
ポツリとレーダー員の静かな報告がCICに響く。
ミニラル達は空母2隻、巡洋艦6隻に対して迷わずハープーンを使い4500人近い敵兵の命を葬ってしまった事を今更ながら後悔した。更にそれに加えて、海上自衛隊からのミサイル攻撃で更に敵駆逐艦12隻の乗員2500名近い敵兵を葬った光景が重くのし掛かる。
「沈めた敵艦の乗員は合計で6000名は下らないか……このうち何名が生き残れた?」
ミニラルはディスプレイ越しに沈めてしまった敵艦の乗員の事を考える。彼もグラバルカスを敵と認識し祖国に対して危害を加えるならばと覚悟はしていたが、ちっぽけなボタンを押すだけであっさりと数千人近い人の命を奪う命令を苦もなく出してしまった事に対して何とも言えない感情が湧き出る。
「これ程の損害に相手はどう出る?」
しかし未だに速度を落とす様子の無い敵戦艦は真っ直ぐ向かってくる。
「敵戦艦、反転する様子なし!」
「戦意旺盛なのか、反転できない理由があるのか………どっちにしろ向かってくるなら相手をするまでだ。最大戦速!」
「最大戦速!」
ミニラルはメイサとの直接対決に持ち込む事を決意し、艦を更に増速させる。攻撃面から言えば金剛型擬きのメイサに歩がある一方、速度と機動性に攻撃の精度はラ・カサミ改に歩がある。ミニラルはそれらを武器にしようと考えた。
「敵艦接近っ!間も無く、敵艦の射程圏内に入ります」
「向こうが先に撃ってくるぞ!ECM最大出力っ!レーダー手は敵艦から放たれた砲弾の着弾予想位置を報告!操舵手は回避航行に勤めよ!」
「了解!ECM最大出力で照射!」
ミニラルの指示通り、電測員が艦橋上に設置されたECMシステムを起動させた。
艦橋上部のECM装置から最大出力で強力な妨害電波がメイサに対して照射され、メイサのレーダー類や通信システムは全て機能不全に陥れた。
『こちらレーダー室!!全レーダー機能不全!』
『こちら通信室!無線機全てが使用不能!』
「なんですとっ!?」
近代化改修で最新の電子機器が施されているメイサの全ての電子機器類は機能不全に陥り、レーダースコープは真っ白に、通信機も送受信不能となった。
「それがどうしたんです!レーダーが使えないなら自分の目を使いなさい!光学射撃に切り替え!」
オスニエルは多少興奮した様子ではあるが冷静に命令を下し、射撃精度低下を覚悟して従来の光学照準による射撃に切り替えさせた。
そして、ムーとグラバルカスによる初の戦艦同士の砲撃戦の火蓋を切ろうとしたのはメイサだった。
「敵艦回頭っ!同航戦に移ろうとする模様っ!」
「艦長、我々も砲撃を?」
「腹を見せたかっ!このまま最大戦速っ!艦首を敵に向け続けろ!全主砲は仰角そのままで右90°旋回、徹甲弾装填っ!右舷副砲群も砲撃に備えっ!」
ラ・カサミ改の全主砲塔が右を向き徹甲弾を装填、右舷の副砲群も10式戦車の砲身を流用した120ミリ砲の砲身に自動装填装置がAPFSDS弾を装填する。
「艦長!?」
「敵は本艦をギリギリまで引き付けて主砲の一斉射で仕留める算段だ!」
この時点で、ラ・カサミ改はメイサの主砲の有効射程圏内に入っているのだが、メイサは主砲の砲身を真っ直ぐに向けてきている。
ミニラルはそれを見て、敵艦の艦長は近距離にまで引き付けて主砲の一斉射で確実に仕留める気でいると判断し、被弾面積を少なくするため敢えて艦首をメイサに向けて突撃の素振りを見せる。
その直後、メイサが砲撃を開始した。
「艦長っ!砲撃許可を!」
「まだだ………錨鎖室、左舷錨降ろせっ!総員衝撃に備えっ!」
艦首の右舷に格納されていた主錨のロックが外され、重力に従い主錨が海中に落下していく。
「艦長…このままでは……」
「我々は軍人である以上は死は避けられない。君だって死ぬし私だって死ぬ、そして皆何時かは死ぬ………」
目を閉じながらそう語っていたミニラルは刮目した。
「だが今日じゃない!」
その瞬間、降ろされていた主錨が海底に着底、同時に船体が急制動を掛けられた。
「うわぁっ!」
「くっ!」
艦が惰性で右に向けてドリフトを始めミニラル達は反動で左に吹き飛ばされないよう柱やその辺の手すりに掴まって耐え抜く。
「艦長っ!艦が右へ滑ってます!」
ラ・カサミ改の船体が右へ向けてドリフトし、右舷側へ向けられていた主砲と副砲が敵艦に向けられた。
先に放たれていた敵弾は予想着弾位置から大きく外れたラ・カサミの直上を掠めるように通過していった。
「痛いの食らわせてやれ!」
「撃てぇぇ!!!」
砲雷長の掛け声と共に主砲が放たれた。
近距離で放たれた30センチ砲弾はメイサの左舷側の装甲板に大きな凹みを付け、続けて副砲がAPFSDS弾を叩き込む。
「次弾装填!」
「次弾装填っ!」
主砲の自動装填装置が徹甲弾を装填、再度砲撃を行い、最初の砲撃で凹んでいたメイサの舷側装甲に砲弾が直撃した。
「敵艦舷側に破孔確認!」
脆くなっていた舷側装甲を突き破って大穴が開き、そこから海水が流れ込んでいるのが見える。
「撃ちまくれ!」
3度目の砲撃がメイサの左舷の両用砲を破壊、副砲と速射砲による全力射撃も加わってメイサの機銃や装備品を破壊していく。
「敵艦へ強行接舷!陸戦隊は敵艦移乗用意!」
「了解っ!面舵90度、機関最大戦速!」
「陸戦隊待機!」
操舵手は舵輪を右に回し艦首を並走するメイサの左舷に向ける。
「陸戦隊待機完了!」
陸戦隊も武器庫から、軍へ配備が始まったばかりの最新型サブマシンガン(後の44式短機関銃)の先行量産型と同じく今年配備されたばかりの43式自動拳銃を手にして甲板へ集合し衝突に備える。
「間も無く衝突っ!」
「衝突警報っ!」
衝突警報が鳴らされ全乗員が衝撃に備える。
「50!40!30!20!10!5!衝突!」
ゴォォォォォォォォォン!!!!
ラ・カサミ改の鋭く尖った衝角艦首が砲撃で開いたメイサ左舷側の穴に深く食い込む様に突き刺さった。衝撃でメイサの船体は押されるように右へ向けて傾いた状態で停止した。
「突撃成功!やりました!」
「突入用意!梯子を広げろ!急げ!」
待機していた陸戦隊が艦首へ集まり、艦内から折り畳み式の梯子を広げメイサに向けて梯子を掛ける。
「突入用意よし!!」
「ムー海軍のやり方を見せてやれ!行け行け行け!!」
陸戦隊員は走るように梯子を登り、メイサへ雪崩れ込む様に乗り込んでいく。
「俺達が1番槍だ!続けぇ!」
「必ず2人1組で行動しろ!お互いにカバーしあう事を忘れるな!」
陸戦隊員達はアメリカ海軍と海上自衛隊特別警備隊から臨検訓練を受けており、2人1組のツーマンセルを基本に艦首甲板からの制圧を開始した。
「手を上げろ!」
陸戦隊は機銃座や甲板上の遮蔽物に退避してきた乗員らにサブマシンガンの銃口を向け拘束用結束バンドで両手を縛り上げる。
「そこから出てこい!出てこないと撃つぞ!」
中には高角砲座に立て籠る者もおり、砲の薬莢やら工具を投げつけて抵抗してくる。
「往生際が悪いな。スモークを使う!」
腰のベルトに取り付けられているポーチから催涙グレネードを取り出し、ピンを引き抜くと砲座に向けて投げ込む。やがて砲座から白いスモークが立ち込め、立て籠っていた乗員達が激しく咳き込みながら飛び出してくる。
「確保!」
突入から僅か10分で上甲板はほぼ制圧し、ラ・カサミ改からも応援が続々とメイサに乗り込んでくる。
突入部隊は確保した敵乗員の監視のため僅かな人員を残し、後続の増援部隊と合流して艦内へ突入準備を始める。
「爆薬設置!」
強固に閉じられたハッチをこじ開けるため爆薬が設置され、突入要員も手にしていたスタングレネードを手にピンに指を掛ける。
「点火!」
点火栓が捻られ爆薬が爆発した。ハッチは真ん中から大きく凹み蝶番から引き剥がされ、同時にスタングレネードが投げ入れられ、爆音が激しく鳴り響く。
「第1と第2小隊は艦橋へ、第3と第4小隊は弾薬庫の制圧っ!」
爆発が収まると陸戦隊は雪崩れ込む様に艦内へと突入した。
「敵兵侵入!」
「来たぞ!迎え撃て!!」
突入してきた陸戦隊にメイサの乗員達はその場にあった斧やハンマー、角材や鉄パイプを手に迎え撃とうとするが、陸戦隊が装備するサブマシンガンの火力を前にあっさりと引き下がる。
「ダメだ!奴ら全員短機関銃なんて持ってる!」
「下がれ!下がれ!」
乗員と陸戦隊との間で激しい戦闘が続く中、第1小隊は梯子や階段を見つけては上へ上へと登り艦橋を目指す。
「この上が艦橋だ!」
艦橋直通の階段の下までくると階段を走るように駆け上がっていき、その途中にある各指揮所を1つずつ制圧し艦橋へと迫っていく。
「クリア!」
「後は此処だけです!」
「最後の大仕事だ。爆薬用意!」
最上階にある艦橋前扉まで来ると再び爆薬を設置する。
「発破!」
爆薬が爆発し扉を破壊、スタングレネードが投げ込まれる。
「突入っ!行けっ!行けっ!行けっ!」
陸戦隊員は雪崩のように艦橋へと飛び込み、両耳を押さえて悶絶している幹部乗員達を拘束していく。
「隊長、コイツ」
その中で無駄に豪華な装飾が施された軍服を着込んだオスニエルを1人の陸戦隊員が見つけた。
「オスニエルとか言う奴だろう。服装から間違いない筈だが、何とも顔色の悪い奴だな」
病気かと疑うくらいに真っ白な顔色のオスニエル。
「頭を打って気絶しているだけだ。拘束しろ」
頭から血を流していたオスニエルは手錠によって拘束された。
それから程なくして、陸戦隊は負傷者を出したものの犠牲者を出す事なくメイサを制圧した。
「艦長、ラ・カサミ改より敵艦を制圧したとの連絡あり!」
その報告に、あきづきCICは歓喜に包まれた。長田も安心した様子で椅子にもたれ掛かる。
「一時はどうなるかと思ったが」
「えぇ……まさかあんな方法で」
「ムー海軍は健在と言ったところか?敵残存艦は?」
「はい、降伏勧告を送ると直ぐに降伏するとの返信がありました」
「じゃあ我々は残存艦を制圧しにいくか」
残っていた補給艦も、あきづきとしらぬいに降伏した事により一連の戦闘は終了した。
この戦いはグティ・マウン爆撃隊とイシュタム全滅と言うグラ・バルカス側の戦術的、戦略的敗北と言う形で幕を閉じた。
続く
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