グラ・バルカス帝国によるオタハイト、マイカル強襲作戦の失敗は帝国を大きく揺さぶった。
「爆撃連隊は全滅、第52地方隊も行方不明、オタハイとマイカルは無傷……」
報告書を手にしていたグラ・ルークスは、一言そう呟く。
「…………………」
帝前会議で陸軍と海軍大臣は、完璧であると信じていた作戦が全て失敗に終わり、グラ・ルークスに対して戦々恐々としていた。
作戦に投入したイシュタムは壊滅、虎の子のグティ・マウンも一度に100機も失った上に、敵に秘密兵器の存在を晒してしまった。これは帝国にとっては戦略的に大損失である。
「此度の作戦の責任については……分かっておるな?」
グラ・ルークスの言葉に全てを悟った海軍、陸軍両大臣と作戦を立案した両軍参謀長は項垂れながら、会議場を後にした。
残されたグラ・ルークス以下の帝国首脳部は軍部の人事について話し合う。
「陛下、陸軍大臣と陸軍参謀長の責任は致し方ありませんが、此度の作戦で負った被害集計の大半は陸軍爆撃連隊の物。海軍の損害は2線級の兵器を装備した1個地方隊のみ………海軍大臣の更迭につきましてはご再考を」
海軍国家であるグラ・バルカス帝国内では、海軍の地位は陸軍より大きい傾向がある。皇内庁のカーツ長官の提案にグラ・ルークスはため息を吐く。
「余の考えは変わらん」
彼の言葉に皆は納得し、陸軍と海軍大臣の更迭は決定した。続けて、更迭された両大臣の後任人事について議題が移る。
「陛下、陸軍・海軍両大臣の後任につきましては海軍はミレケネス、陸軍はジークスを推薦致します。それに合わせて監査軍は海軍と、帝都防衛隊は陸軍と統合する事を提案致します。日本国の捕虜となっているカイザル大将の身柄返還交渉が未だに進んでいない現状では、この2人を除いて後任を任せられる者がおりません」
「分かった。後任についてはその提案で話を進めてくれ」
「御意」
「陛下、今後の事については如何いたしまょう?」
「我々は敵の事を甘く見すぎていたようだ。今後は敵………取り分け、日本国へ対する情報収集は徹底的に行え。たとえどんな些細な情報でも余へ包み隠さず全て報告せよ」
グラ・ルークスは、紀伊と尾張の写真を見つめながら、心の奥に闘志を抱きながら指示を下す。
「御意」
「うむ。では他に余への報告が無いようなら、本日の会議はこれにて解散するが」
「陛下!」
そこへ海軍の軍服を着た軍人が立ち上がる。
「艦政本部より陛下へ吉報があります」
「申してみよ」
海軍の艦政本部担当官が生き生きとした表情で、手にしていた報告書を読み上げる。
「予てより建造中でありました、グレード・アトラスター級2番艦『グレードウォール』、3番艦『スローン・グレードウォール』が完成致しました」
「おぉ!遂に完成したのか!」
「はい。2艦は就役に向けて既に訓練に入っております。日本のキイ型戦艦に対抗する戦力として期待できるでしょう。それと陛下、もう1つお見せしたい物があります」
担当官はアタッシュケースを机の上に置き、3つの鍵で厳重に閉じられていた蓋を開けて、紙の束をグラ・ルークスに手渡す。
「これは……………正気か?」
書類の中身を見たグラ・ルークスは普段は見せないような驚きの表情を見せる。
「これこそ、キイ型戦艦に対抗するための秘策。予算の問題と我が軍の戦略転換により、闇に葬られたグレード・アトラスターを上回る超グレード・アトラスター級戦艦……『仮称ブラックホール』級戦艦の設計図です!」
書類は、グレード・アトラスターを遥かに上回る超大型戦艦の設計図だった。
グラ・ルークスは手を震わせながら、担当官に訊ねる。
「これは今の帝国の技術で造れるか?」
「はい。勿論でございます」
「そうか。………ブラックホール級戦艦を建造に取り掛かれ!!!!」
その頃、ムーの先進技術実証基地では………
「これが、グラ・バルカス帝国の秘密兵器か」
マイラスは基地の一角に作られた、超大型航空機格納庫のうちの1つで、巨大な1機の航空機に目を奪われていた。
その航空機とは、紀伊を沈めんとグラ・バルカス本土からオタハイトまで補給なしで横断し襲来してきた、グラ・バルカス帝国の秘密兵器『グティ・マウン』だった。
「はい。コイツは国内に墜落していた残骸を残らず回収して、その中で使える部品を組み合わせて作った再生機です。1機の再生に成功しました」
防衛装備庁の技官の説明通り、目の前にある1機のグティ・マウンはムー国内に墜落していた残骸を回収した物を日本と合同調査のため、使えるパーツをかき集めて組み立てた再生機である。
100機分の残骸から組み上げられた再生機のため胴体や主翼には所々に塗装の色の濃さが微妙に違っていたり、機体による個体差によってネジやボルトの数が微妙に違っていたりする。
「捕虜となった爆撃機の搭乗員からの聞き取りで、コイツの名前はグティ・マウンと言うそうで、グラ・バルカス内では200機にも届かない数しか配備されておらず、存在も極秘とされている模様です」
「正に秘密兵器ですね………確か日本の書籍に、これと似たような航空機の話とイラストを見た事があります。確か名前は………」
「富嶽ですか?」
「そう!その富嶽です!確かそのイラストとこの化け物の外観が似ていたと思います」
「富嶽は旧日本海軍が計画していた大型爆撃機で、その性能の機体規模から当時の技術では実現不能としてエンジンが試作されただけで終わった幻の機体です」
マイラスは技官の話に驚いた。
「このような航空機を貴方方でも開発出来なかったのですか?」
「当時の日本はグラ・バルカスのように戦争で獲得した占領地からの天然資源に頼っていましたし、諸外国とは工業力も国力も大きく劣っていましたからね。そんな当時の日本で富嶽など開発できなくて当然です。当時の日本ですら開発出来なかった機体をグラ・バルカスが実戦配備していたとなると……技術力は当時の日本以上、アメリカ並みの国力を持っているという政府の推測は益々濃厚になますよ」
「ではもしグラ・バルカスが本気で総力戦を仕掛けてきた場合はどうなりますかね?」
「私は専門外ですからお答え出来ませんが、技術力とアイデアでカバーするしかないですね」
技官とマイラス達はグティ・マウンに取り付き、機体の隅々を調査し、レポートに次々と纏めていく。
「しかしコイツらが手に入ったのは幸いでしたね。これなら彼等の技術力の推察が出来るし、震電とセイバーの開発と運用法の確立できます。近い将来には我が軍にも戦略爆撃機の配備が出来る事でしょう」
マイラスは見れば見る程にグティ・マウンの性能に取り憑かれ、将来ムー空軍力がミリシアルをも追い越す世界一の空軍になれる夢を見る。
午前中にレポートを纏め終え午後には、いよいよ飛行試験に入る。
「コイツは飛べそうですか?」
「一応前もってエンジンの試運転と機体各部の動作部分の稼働試験は終わっています。後はマニュアル通りに動かせば問題ないと思われます」
格納庫から滑走路に運び出されたグティ・マウンに、マイラスを筆頭とするムーの技官やムー空軍に所属する爆撃機のパイロット、防衛装備庁の技官と大型輸送機の操縦資格を持つ数人の航空自衛官、そして新生合衆国空軍のパイロットが乗り込む。
操縦はB52の操縦に慣れた米軍パイロットが行い、数人の航空自衛官とムーのパイロットは操縦法の教育を受け、防衛装備庁とムーの技官らはデータ機材を持ち込んで諸々のデータを集める事になる。
「エンジンスタートっ!」
機内で米軍パイロットが機体と共に回収された機体マニュアルに従ってエンジンを始動させると、空冷2重星型22気筒エンジン6基が唸りを上げ、2重反転プロペラが左右に向けて回り始める。
「エンジン出力、温度全て安定。エルロン、フラップ、昇降舵、スラット問題なし。機体各部油圧正常」
「機体各部問題なし」
パイロットが準備完了のサインを出すと、グティ・マウンはゆっくりと加速を始め、滑走路の端に到達した瞬間に機首を上に向け飛び立った。
「おぉぉ~……………」
この日、マイラスはグティ・マウンの性能を身をもって体験し更なる研究に没頭する事となった。
その努力の実を結び、彼は後にムー航空開発局(ムー版NASA)の局長に就任し、航空機開発に大きく貢献する事になった。
それらの功績は後のラヴァーナル帝国戦で大いに活かされる事となるのだが、それは別の話となる。
続く
今回は紀伊の出番が少なかったですね……
皆様からのご意見とご感想お待ちしております。