アルーから北へ80キロ地点の草原をグラ・バルカス帝国陸軍第4機甲師団が移動していた。
師団を指揮する、旧日本陸軍の半装軌式戦闘指揮車に搭乗していたボーグは無線手に話し掛ける。
「無線機の調子はどうだ?」
「周波数を変えてみてはいるんですが、一向に応答はありません」
遥か上空を飛行するEC-2の電子妨害は周辺のグラ・バルカス帝国軍の有線通信以外の通信網に悪影響を及ぼしており、それは第4機甲師団も例外では無かった。
「また電離層の問題か………この世界の"自然現象"には困るな」
ボーグ達には電子妨害と言う軍事的概念は頭には無かった。それは帝国の常識から考えれば実現できる技術が無かったからである。それ故にボーグらには無線の不調も単なる自然現象による偶然としか考えてなかった。
「師団長、間も無く国境突破します」
「うむ、障害があれば迷わず踏み潰せ」
第4機甲師団はレイフォルとムーの国境地帯に到達し、国境を示している有刺鉄線で繋がれた国境柵を工兵隊が破壊、地雷やトラップが無いのを確認し、師団は遂に越境した。
「国境突破。ムーの領土に入りました」
「偵察隊をアルー方面に向かわせろ。我々はここで30分の小休止だ」
無線が使えないため、目視による敵状偵察を偵察隊に命じアルー方面へ向かわせ、本隊は小休止のため現場で停止する。
「全部隊に昼食を摂らせろ。終えたら直ぐに出発だ」
ボーグは全員に昼食を摂らせ、自身も食事を摂ろうと指揮車から降り、指揮車内にある箱の中から自分の分の缶詰めを取り出し封を切る。
「それにしても嫌な天気だな」
「本当ですね。晴れていればこんな糧食でも多少は美味く感じられるのでしょうが」
副官と共に糧食を食べながら雨雲で薄暗い空を見上げるボーグ。
「それにしても静かだな」
国境を越えても敵の姿がなく、異様な静けさに違和感を感じる。
『弾着………今!』
その時、師団の前衛に立っていた第4戦車連隊や第7歩兵連隊の車輌が爆発を起こした。
「何だ!?」
『全目標に命中』
第4機甲師団より10キロ前方に第1対戦車ヘリコプター隊のアパッチが低空をホバリングしていた。全機とも第4師団が居る方向へカメラを向けており、彼らの動きを逐一捕捉し続けていた。
「敵車両10両撃破確認」
アパッチ隊から放たれたヘルファイアミサイルは最大射程距離から放たれても確実に命中する精度を誇る。そんなミサイルから逃れられる術は第4機甲師団には無い。
「ミサイル攻撃、第2射撃て」
再びヘルファイアミサイルが放たれ、撃ちっ放し能力と慣性誘導方式によりヘルファイアは音速で第4機甲師団の戦車に襲い掛かる。
『第2射全弾命中!』
「敵車輌10両撃破」
「湾岸戦争の時の米軍はこんな気分だったのかな?」
伊藤はモニターに写し出される第4機甲師団の戦車が吹き飛ばされる様子を見て呟く。
「お返しの地対空ミサイルが飛んでこないだけで気楽ですね」
「同感だ……さて、ちょっかい掛けに行くぞ」
アパッチ隊は横列体形を維持しつつ前進を開始した。彼らは自分の姿を第4機甲師団に姿を見せつけるように接近する。
「チェーンガンスタンバイ!」
「了解!」
チェーンガンの照準を敵戦車と装甲兵員輸送車に合わせる。
「射撃開始!」
チェーンガンが射撃を開始した。現代の戦闘車両にダメージを与える程の威力がある30㎜チェーンガンに使用されている徹甲弾と多目的榴弾は帝国軍の車両を易々と破壊していく。
敵防空火器の有効射程距離外から無駄弾出さないよう、精密照準によるバースト射撃を多用し確実に破壊していく。
『やられた!被弾した!』
『33号車、エンジン被弾!走行不能!』
「奴ら機関砲を撃ってきてやがる!かなり強力な奴だ!」
「連中は車両だけ狙ってる!兵員は車両から離れろ!」
混乱する中、ボーグは無線と拡声器を使って冷静に指示を下し自身も指揮車両から離れる。
「対空射撃はどうなってる!」
「全力応戦中です!しかし、敵航空機は有効射程距離外から攻撃してきており我が方の対空火器では有効は攻撃は出来ていません」
「当てなくてもいい!兎に角撃って追っ払え!」
帝国陸軍では地上部隊の前進に先立って味方航空隊が制空権の確保と近接航空支援を行う戦術をとっており、第4機甲師団も含めて帝国陸軍の師団部隊に防空専門部隊は編成されておらず、地上戦に於ける火力を重視している。
これは地上部隊が空に注意を向ける事なく地上戦に徹する事が出来、尚且つ対空砲という余計な装備を保有しなくても良い分機動力と火力にリソースを割けると言うメリットがある。グラ・バルカス帝国がユグドに於いてケイン神王国相手に有利に戦争を進めていたのはこの戦術がケイン神王国相手に非常に有効だとされたからであった。
それはこの世界に転移してきてからも同じで、転移後の帝国が周辺諸国相手に有利に勝ち進んで来れたのは、それらのような物に対する有効な手立てが無いからであり、それらの国は帝国陸軍の如何なる戦術を前に大敗している。
それらの成功例から帝国陸軍は方針転換どころか戦術の見直しをする事もなく、現在まで既存の戦術を使っているのである。それが今や大きな仇となり、精鋭の第4機甲師団はたった10機程度のヘリコプター相手に苦戦しており、歩兵による軽機関銃やライフルによる射撃がせめてもの抵抗であった。
「よし、これだけやれば充分だな!」
アパッチ隊は射撃を終えると、敵を空洞山脈に誘い込む作戦のため敢えて中途半端なダメージだけ与えて後退を開始した。
「敵機後退!」
ボーグは悠々と後退するアパッチを睨み付けた。
「おのれぇぇ!これより敵を追撃する!全隊出発だぁ!」
第4機甲師団は無事な隊や車両を集めて再び前進を開始した。
「師団長、敵機甲師団が前進を開始しました」
「戦車隊と普通科は直ちに戦闘態勢に入れ」
アルーで待機していた第71戦車連隊と第11普通科連隊は戦闘態勢に入った。部隊は塹壕に身を隠しながら、待ち伏せの形を取る。
上空には完全武装のコブラ隊が待機し、地上部隊の攻撃と撤退の支援のため待機する。
「目標確認!」
10式戦車のセンサーカメラが第4機甲師団を捉えた。
「攻撃用意!」
戦車連隊と普通科連隊は攻撃態勢に入った。
10式戦車はFCSで目標をロックし備える。
「目標敵戦車!対榴、撃て!」
連隊指揮官による攻撃合図で、10式戦車14両が攻撃を開始した。
3キロ先から放たれた対戦車榴弾は、時速20キロで進んでいたハウンドⅡとシェイファーを吹き飛ばした。
「迫撃砲射撃用意撃て!」
続いて普通科の迫撃砲小隊と重迫撃砲小隊の81ミリ、120ミリ迫撃砲が攻撃を開始し、敵歩兵部隊に降り注ぐ。
「第1弾、弾着……今!」
着弾と同時に大爆発を起こした迫撃砲弾は歩兵、装甲車を吹き飛ばしていく。運良く装甲車の天板に直撃し歩兵ごと車輌を撃破した砲弾もあった。
「第2弾、弾着……今!」
続いて放たれた2弾目の迫撃砲弾の一部が燃料車に当たって大爆発を起こした。
「よし、これだけやれば充分だ!撤収!」
足止めに成功したと判断した大内田は、撤収命令を出した。まず最初に普通科が後退を始め、トラックや輸送車に乗り込んでアルーから離れていく。
普通科が離れた後、戦車連隊も後退を開始し、上空のコブラによる援護の元、全速力で後退していき、アルーを脱出すると空洞山脈に向かっていった。
続く
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