日本国召喚×不沈戦艦紀伊   作:明日をユメミル

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第6話

ダイダル平野の基地より難民保護を兼ねた敵部隊の偵察のため第7師団の各偵察隊は基地より続々と出発していく。

 

 

「良い空気だな」

 

 

第7師団隷下第7偵察隊から編成された第1偵察小隊20名は、草原をギム方向に向けて移動していた。

隊を指揮する『織田啓一』1等陸尉は、指揮車である82式指揮通信車の車内から工業排煙に汚染されていない空気を吸い込む。

 

 

「えぇ。国内じゃこんな空気が澄んでる場所なんて限られますからね」

 

 

82式を運転する若い陸曹が答える。

82式の後方に居る87式偵察警戒車、軽装甲機動車、防弾仕様パジェロに乗り込む隊員は周囲を目視で警戒し、地上レーダー装置1号(改)を搭載した高機動車に乗り込む隊員達は荷台にある装置からアンテナを伸ばして周囲のレーダー監視している。

 

 

 

「現在位置を確認」

 

 

 

偵察隊はその場で停止し、現在位置の確認を行う。彼等には一応として航空自衛隊の偵察機や警戒機によって作成された地図があるが、地形に関しては詳細な地図作成が進んでおらず正確性に欠けるため、30分ごとの位置確認が義務付けられている。

 

 

 

 

「現在位置は…………ダイダル基地からギムの町へ続く街道の中間地点ですね」

 

「もう既に敵の勢力圏内に居ると言う事か………避難民との接触前に敵と接触したら不味いな。ここから10キロ進んで何も無かったら引き上げよう」

 

「了解」

 

 

 

織田は現状で敵部隊との接触は危険と判断し、西へ10キロ進んでから基地へ帰還する指示を出し、再び西へ向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後、目的の10キロ地点に到着した。

 

 

 

「隊長、目的の10キロ地点です」

 

「周囲を警戒」

 

 

 

隊員達は車両の上から辺りを見回す。周囲には草原しか見えず、特にこれといった形跡も見当たらない。

 

 

 

「周囲、何もありません」

 

「そうみたいだ。じゃあ引き揚げ…」

 

『隊長!』

 

 

 

その時、レーダー車の乗員から無線連絡が入った。

 

 

 

「どうした!」

 

『西の方角より多数の高速移動物体を探知!』

 

「数は?」

 

『低速の移動物体が300、それを追い掛けるように高速移動物体が100程です』

 

 

 

地上レーダー装置が捉えた複数の人影を捉えた。上がってきた報告から織田は300程の移動物体は避難民で、追い掛けてくる100の物体は敵部隊であると直感した。

 

 

 

「隊長、どうしますか?」

 

「避難民と敵である可能性がある!総員戦闘用意!」

 

「了解!」

 

「直ちにダイダル基地へ報告、ヘリによる航空支援を要請!」

 

「了解!」

 

 

直ちに無線でダイダル基地へ報告と航空支援要請が行われる。

偵察隊は戦闘態勢に入り、避難民達が向かってくる方向へ車両を走らせる。82式に変わって、火力と防御力がある87式と軽装甲機動車が前に出ると、地上レーダー車とパジェロが後方へ下がった。

 

 

 

 

「目標視認!」

 

 

 

双眼鏡で確認すると織田の睨んだ通り、追手から逃げている様子の避難民とそれらを追い回すロウリアの騎兵集団だった。明らかに避難民が危機に晒されていると判断した織田は迷う事なく指示を出した。

 

 

 

「避難民のの安全を確保する!避難民と武装勢力の間に割って入れ!」

 

 

 

87式と軽装甲機動車が左右に分かれ、避難民達の左右を通り抜けると、ドリフトするように避難民とロウリア騎兵集団の間に立った。

 

 

「威嚇射撃、撃てぇ!」

 

 

 

同時に87式の25㎜機関砲、軽装甲機動車のM2重機関銃による威嚇射撃が始まった。

 

 

 

「なんだ!?」

 

 

大小の銃弾が彼等の足元に着弾し小さな土煙があがる。

 

 

『我々は日本国、陸上自衛隊である!警告する!直ちにそこから離脱せよ!』

 

 

織田は82式に装備されている拡声器を使い敵集団に向けて警告文を発する。

 

 

「日本国だぁ!?邪魔するならテメェらも八つ裂きにしてやるぜ!」

 

『繰り返す!直ちにそこから離脱せよ!』

 

「構わねぇ!アイツらもまとめて潰せ!」

 

 

敵集団は警告に耳を貸す事はなく突っ込んできた。

 

 

『警告する!直ちに離脱せよ!』

 

 

怒鳴り声に近い声が拡声器から響くが怯む事なく敵集団は仕掛けてきた。

 

 

『警告射撃を実行する!』

 

 

その直後、再び87式と軽装甲機動車からの射撃が始まった。弾丸は敵集団の目の前の地面に穴を開けるが、彼らはそれを弱腰と見たのか突撃する勢いを上げてきた。

 

 

「放て!」

 

 

そして、クロスボウを装備した弓兵達が一斉に矢を放ち、多数の矢が車両に直撃する。

 

 

 

「目標、敵戦闘集団!正当防衛射撃!」

 

 

織田はそれを攻撃と判断し正当防衛射撃を指示した。その直後に彼らのに向けて銃撃が開始され、銃弾を受けた騎兵は手足を吹き飛ばされたり上半身が消し飛んだりする。

 

 

 

「下車戦闘!」

 

 

 

87式と軽装甲機動車から隊員が降りてくると、その場で伏せ撃ちの態勢で射撃を開始した。

 

 

「小銃擲弾!」

 

 

隊員達は小銃に06式小銃てき弾を装着し、迫撃砲の要領で発射した。

頭上から降り注いだ小銃てき弾は、彼等の隊列のど真ん中で炸裂し、一度に十何人と言う騎兵が吹き飛ばされた。

 

 

「撃ち続けろ!ヘリが来るまで難民達を守るんだ!」

 

 

 

織田も82式からM2重機関銃を撃ちながら指示を飛ばす。

 

 

 

「な、何なんだ………」

 

「彼等は一体………」

 

 

 

偵察隊の戦闘の様子を見ていた避難民達は突然現れた彼等に驚きを隠せないでいる様子だった。

ギムの町から命からがら逃げ出した彼等は、数日掛けて首都へ移動しようとしていた所をロウリア軍の東部諸侯団から先発した威力偵察部隊のホーク騎士団に発見され追い回されていた。

荒くれ者の集まりで、尚且つ強いと評判の当部隊の事を知っていた避難民達は命を掛けて必死に走り続けたが、徐々に距離を詰められ、逃げられない、殺されると思い覚悟しようとした瞬間に、偵察隊の登場によって一命を取り留め、力が抜けて動けなくなっていた。

 

 

 

「見てみろ……彼等の右腕を」

 

 

誰かがそう言って、隊員達が着ている迷彩服の右腕に縫い付けられた日本国旗のパッチを見た。

 

 

 

「あれは……太陽だ!太陽のシンボルが書いてあるぞ!」

 

「本当だ!太陽のシンボルだ!」

 

「伝説の太陽神の使い達が来てくれたんだ!」

 

「神様に感謝だ!神様は我々を見捨ててはいなかった!太陽神の使い達が助けてくれたんだ!」

 

 

 

難民達は銃声や爆発音に負けないような大声で、偵察隊に向けて喜びの声と感謝の声をあげる。

 

 

 

 

(えらい喜んでるな………まぁ敵に追い掛け回されたんだ。無理もないか)

 

 

 

織田は、異様な程に喜んでいる彼等を見てそう思った。

 

 

 

「来たか!」

 

 

 

その時、後方から強烈な風が吹いてきて、織田は後ろを振り返る。ダイダル基地からやって来たAH-1Sコブラの姿だった。

 

 

 

『71偵(第7偵察隊第1小隊)応答せよ』

 

 

 

そこへ無線連絡が入り織田はマイクを取った。

 

 

 

「こちら71偵、貴隊の所属を答えよ」

 

『こちら第1対戦車ヘリ隊所属、ハンマー01』

 

 

 

事前の情報通り、第1対戦車ヘリコプター隊所属のAH-1Sコブラだった。

 

 

「了解。現在敵集団と交戦中。前方に居る騎兵を排除してくれ」

 

『こちらハンマー01了解』

 

 

コブラは織田達の上空をフライパスし、ホーク騎士団の目の前でホバリングすると機首のM197ガトリング砲を向ける。

 

 

『発射用意……発射!』

 

 

コブラの前席に座る射撃主が引き金を引くと、ガトリング砲が射撃を開始する。

反時計回りで回転する3本の砲身から20㎜砲弾が毎分730発の速度で撃ち出される。

 

 

 

「スゲェ……」

 

 

20㎜弾によって粉々に吹き飛ばはれるホーク騎士団。彼等は自分達の身に何が起きたのかも正確に把握しないうちに、機銃掃射の前にして一人も残さず全滅した。

 

 

『敵集団、殲滅を確認』

 

「了解。これより避難民達の保護する。ハンマー01は周辺を警戒」

 

『ハンマー01了解』

 

 

攻撃を終えたコブラは周辺の警戒を開始し、偵察隊はダイダル基地へ彼等を移送する輸送ヘリが到着するまで、保護した難民の救護に入る。

 

 

「えぇと………我々は日本国の者です。あなた方はギムの町の方でしょうか?」

 

 

織田はそう問い掛け、避難民のトップらしきエルフの男性が答えた。

 

 

「はい。我々はギムの町から逃げてきました」

 

「そうでしたか。ではこれよりあなた方を保護するため我が基地へおいで頂きます。怪我をしている方はいらっしゃいますか?」

 

 

名乗り出る者は居なかった。避難民達の何人かは移動中に転んだり具合が悪くなっている者が居るが、ホーク騎士団を殲滅した偵察隊とコブラを警戒している様子である。

 

 

「あの………」

 

 

 

そこへ、一人のエルフの子供が進み出た。

 

 

「はい」

 

「おじさん達は、太陽の人ですか?」

 

「太陽の人…………?」

 

 

突然の質問に織田達は頭を傾けるが、直ぐに右腕に縫い付けられた日本の国旗の事だと思い込んで、その子供に向けてしゃがみ、視線を合わせて笑顔で答える。

 

 

 

「そうだよ。俺達は君の言う太陽の人だよ」

 

 

 

そう答えた途端、避難民達がどよめいた。

 

 

 

「あれ?何か変な事言ったかな?」

 

 

その反応に織田は、失礼な事を言ったかなと心配になった。

 

 

 

すると突然、避難民達が織田達の前にひれ伏した。

 

 

 

「え?ちょっと……?」

 

「やはり貴方達は太陽神の使いの方達だったのですね!まさか生きていてそのお姿を見れようとは」

 

「これは神様による思し召しじゃ!神様は我々弱き者の味方じゃ!」

 

 

難民達は口々に織田達を神のように称えたりする。一部の者は上空を飛んでいるコブラにも祈りを捧げるような仕草をする。

 

 

「隊長、どうしますか?」

 

「どうするも………彼等に話を合わさないとこっちの指示を聞いてくれんぞ」

 

「じゃあ話を合わせましょう。その方が手っ取り早いです」

 

「仕方無い……………えぇ、ではこれより迎えのヘリが来ますので、貴方達を安全な場所へとお連れ致します」

 

 

 

その後、ダイダル基地から飛んできたCH-47Jチヌーク6機が到着し彼等に乗るよう伝えるが、『神の船に乗るなどバチが当たる』と乗るのを拒否してしまい、説得に更に時間が掛かる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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