中央暦1643年2月1日
グラ・バルカス帝国のムー大陸と第2文明圏からの排除を目的とした反攻作戦前の下準備として、日本とアメリカからムー大陸へ向けての追加の戦力が派遣された。その戦力の一端を担う海上自衛隊と新生合衆国海軍の潜水艦部隊は既に行動を開始していた。
展開している潜水艦部隊は2つのグループに分かれており、新生合衆国海軍所属のロサンゼルス級2隻とバージニア級2隻の計4隻の原子力潜水艦を主力としたグループ1はグラ・バルカス帝国本土とパガンダの中間地点にある海域に展開し、海上自衛隊のおやしお型3隻とそうりゅう型3隻の計6隻を主力とした潜水艦部隊はパガンダとレイフォルの中間地点の海域に展開し、通商破壊と航路封鎖、偵察を目的とし、2隻ずつで一週間毎にローテーションを組みながら軍事行動を行っていた。
グラ・バルカス帝国本土沖55海里地点の海中に潜伏しているグループ1所属、ロサンゼルス級『キーウェスト』、バージニア級『テキサス』の2隻は、息を潜めていた。
『キーウェスト』発令所
「艦長、ソナーコンタクト」
発令所にソナーマンの声が小さく放たれる。艦長席に座っていたキーウェストの艦長『ショーン・コーウェン』大佐はソナーマンに報告を求める。
「音源は?」
「艦首方向より複数の音源」
「目標を確認する。タンクブロー、アップトリム5、潜望鏡深度まで無音浮上」
「
キーウェストはその場から艦首を5度上に向け、無音を保ったまま潜望鏡深度まで浮上する。
潜望鏡深度まで浮上すると、セイルから海上へ向けて潜望鏡が伸びる。
「敵の顔を拝見と行こうか」
ショーンは潜望鏡のレンズを覗き込み、両手でハンドルを握りながらその場で潜望鏡を一回転させ海上を確認する。
「敵影視認。潜望鏡下ろせ」
素早く敵を確認し追えると直ぐに潜望鏡が降ろされた。キーウェストに装備されているBSY-統合戦闘システムにより、敵は大型輸送船10隻を中心とした輸送船団で護衛には駆逐艦4隻と軽巡洋艦1隻が就いていると確認された。
「攻撃指揮官、敵の対潜能力についてどう考える?」
「敵艦のソナーはパッシブ式オンリーと確認されています。向こうが潜水艦の存在を知り警戒していると仮定しているなら油断はできないかと思われます」
「向こうはこっちのエンジン音とスクリュー音を捕捉出来ていると思うか?」
「距離によります。向こうのソナーは我々の基準から考えて原始的な性能ですから、こちらがやたらに音を立てなければ先ず心配はありません」
「よし。連中には我々の実戦データ収集に付き合ってもらおう。戦闘配置」
号令と共に艦内の電灯が赤に切り替わり、全乗員が戦闘配置に就いた。
「操舵手、艦首針路350、微速」
「針路350、微速、サー」
キーウェストは速度を落とし、艦手を輸送船団が居る方向へと向ける。
「艦長、針路変針完了」
「魚雷戦用意」
「了解。目標は?」
「先ずは敵駆逐艦を仕留める。磁器信管を装填」
水中攻撃指揮装置を通じて艦首に装填されているMk48魚雷に敵の位置に関するデータが入力され4門の魚雷発射管に海水が注入され発射扉が開かれた。
「1番、4番発射用意完了」
「Fire!」
「fire!」
発射ボタンが押されると2発のMk48が発射された。
海中を高速で航跡も立てずに突き進むMk48はグラ・バルカスの輸送船団の外縁に位置する2隻の駆逐艦へ向けて急速接近、Mk48は金属性の駆逐艦の船体から放たれる僅かな磁器を捉えて向きを変える。
「3、2、1、now!」
秒読みの後、爆発音が海中を通じてキーウェスト艦内に響き渡る。
「爆発音2、確認」
爆発による気泡が収まりソナーが正確に音を拾えるまで時間が掛かる。この間ソナーは役に立たないがそれは相手も同じ事なのでキーウェストはその場から移動する。
「艦長、本艦の魚雷は2発とも敵艦2隻に命中しました。圧潰音が聞こえます」
「敵の動きは?」
「爆発直後より活発です。辺りに爆雷を撒き散らしてる模様。ですが爆発音はかなり遠いですね」
輸送船団を護衛していた駆逐艦は敵が居ると思われる位置に向けて爆雷を投下していた。しかし、キーウェストは彼等が装備している相手ソナーの探知距離外から撃ってきていたので、その行動は爆雷を無駄にしているだけに過ぎなかった。
「更に爆発音2を確認。これはテキサスの魚雷と思われます」
駆逐艦2隻を仕留められた敵護衛部隊の駆逐艦2隻は輸送船団から離れて爆雷を投下を開始した。
「艦長、敵艦は輸送船から離れました」
「輸送船の方はテキサスに任せよう。我々は猟犬を仕留める」
キーウェストは敵駆逐艦1隻を救助用に残して、残りの駆逐艦1隻と軽巡洋艦への攻撃のため発射管に再び魚雷を装填する。
「敵艦接近」
「データ入力よし。発射準備完了」
「魚雷全門斉射、fire!」
全魚雷発射管から一斉に魚雷が放たれ、敵駆逐艦と軽巡洋艦に向けての扇状に広がるように進んでいく。
「5、4、3、2、1、now!」
魚雷の射線上に乗った敵艦に魚雷が次々と命中、駆逐艦にはMk48が4本命中し爆沈、軽巡洋艦には右舷に2本が命中し速度が急速に低下、浸水により右に傾斜していき沈没は時間の問題であった。
「目標被弾確認、全弾命中だ」
潜望鏡で戦果確認を行うショーンの言葉にその場に居た皆の緊張が緩んだ。
「どうやら本命はテキサスでも充分だな」
向きを変えて輸送船団の状況を確認すると、貨物船に次々と水柱が上がると同時に爆発も起こり行き足が止まっていくのが見える。
傾斜していく貨物船の甲板からは乗員や物資が次々と海へ投げ出されていき、中には甲板に搭載されていた戦車やトラックと思われる重貨物も海上に転落しているのが確認できた。
「勿体無いな。アレには食糧も積んであっただろうに」
「敵の心配ですか?」
「まぁな。空腹程、辛いものはない」
ショーンの食事好きはキーウェストの乗員の間では誰でも知っており、彼の突き出た腹がそれを物語っている。
「敵駆逐艦反転、輸送船団と救助作業に入りました」
「警戒体制はこのまま維持。奴が此処を去るまでこのまま様子を見よう」
「艦長、待避しないのですか?」
「俺に考えがある」
潜望鏡を出したまま敵駆逐艦の救助作業を監視、やがて救助作業を終えた駆逐艦は元来た方向へと引き返し、全速力で現場を離れていった。
「敵駆逐艦をロスト」
「よし。輸送船沈没地点へ微速接近」
「サー」
キーウェストは微速のまま輸送船の沈没位置まで接近する。
「スクリュー停止、浮上」
「浮上ですか?」
「そうだ。敵が残していった物資を出来るだけ回収する」
「了解」
キーウェストはその場で停止すると同時に、海上へと浮上した。
「浮上完了」
「テキサスに敵物資回収作業を手伝えと伝えろ。副長、作業の指揮を頼む」
「了解」
浮上したキーウェストの乗員達はハッチを開けると、海面にゴムボートを降ろして乗り込むと付近を漂っている物資を手当たり次第拾い上げていく。
「これは缶詰めの箱だ。結構入ってるぜ」
「見ろよこれ、銃の弾が詰まってた!どっかに銃が入ったケースがある筈だ!」
「これって本?奴らの趣味とかが分かるんじゃねぇか?」
海面には輸送船に積み込まれていた様々な物資が漂っており、食糧やら砲弾や銃弾、銃本体が入ったケース等があり、それらを出来るだけ回収し敵の補給物資に関する資料作りや研究のためのサンプルとして利用するためショーンはこれらの回収を命じたのである。
「おーい!生きてる奴が居るぞ!」
そこへ作業をしていた1人の乗員の声が響いた。
「生存者が居たのか?」
「艦長、どうしますか?」
「発見した生存者を収容し容態を確認!他の生存者を探せ」
なんと、漂流していた敵輸送船の生存者が見つかり、キーウェストの甲板はちょっとした騒ぎとなった。甲板に引き揚げられた生存者は1人だったが軍医がその場で直ちに容態確認を行う。
「体温が下がっていますが脈拍と心拍数に問題はありません。恐らく体温が下がって体力が無い状態だったから敵駆逐艦の乗員も彼の生死が分からなかったんでしょう」
「そうか。他に生存者は居るか?」
「今確認中ですが恐らく希望は薄いかと」
「テキサスからも生存者発見の報告はありません」
「了解。敵生存者を艦内に収容、体力の回復を待ち尋問を行う。警備要員を数名選抜し武装した状態で監視させる」
「了解」
そこから1時間掛けて、可能な限りの物資を回収したキーウェストとテキサスは2艦は再び任務のため深海へと消えていった。
続く
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