陸上自衛隊クワ・トイネ派遣部隊本部が置かれたダイタル平野から西へ進んだ場所にクワ・トイネ軍の最前線基地となっている、城塞都市エジェイと言う場所がある。エジェイにはクワ・トイネ軍西部方面師団3万人が駐留しており、この戦争における同軍の主力を成している。
西部方面師団を率いる『ノウ』将軍はこの日、ある客人達をもてなす事になっていた。
「閣下、日本の陸上自衛隊の方がいらっしゃいました」
「通せ」
副官からの報告にノウはそう答える。副官と入れ替わるように大内田、山下、内海の3人が入ってきた。
「日本国、陸上自衛隊第7師団長の大内田陸将です」
「第1空挺団団長の山下陸将補です」
「内海です」
敬礼する3人にノウは、自分が着ている軍服よりも遥かにシンプルなデザインで、緑や茶色の斑点が混ざった迷彩の布地で作られた3型迷彩服を着用した彼等が本当に大部隊の指揮官であるのかと疑問に感じたが、それを心中に留め社交辞令に沿った挨拶を行う。
「よくぞおいでくださいました。私は西部方面師団を率いるノウと申します。この度は援軍に応えて頂き、ありがとうございます」
挨拶もそこそこに、ノウは3人に現状についての話を始めた。
「現在敵軍はギムの街を占領しており、そこを拠点に間も無くここへと攻めてくる可能性があります。しかし見ての通り、このエジェイは強固に作られた城塞都市であり、ここを陥落させるのは、敵にとっては非常に難しいでしょう。つきましては、日本の方々にはダイダル基地にて我が軍の後方支援をしていただきたいのですが」
丁寧に説明するが、彼の言葉の中には『自分達でやるから、お前達は後ろに居ろ』『この戦いに手は出すな』と言う意味がに含まれている。
ノウには自分達こそがこの戦争で雌雄を決する存在であると言う自負がある。無論、そんな事を他国の将軍の前にしてストレートに話すのは問題となるのを分かっているため、敢えてオブラートに包んでそう言い放ったのであった。
(案の定か……まぁそうだろうな)
それに対し大内田らは、元からそう言ってくるであろうと予想していたので表情を変えずに応える。
「承知しました。では我々は閣下の要請に従い、ダイダル基地より支援に徹します。その上でこちらからも要請を行いたいのですが、よろしいですか?」
「伺いましょう」
「双方の連絡役と敵に対する攻撃位置を伝える必要がありますので、こちらから人員と機材をそちらに置かせて頂いてもよろしいでしょうか?決してそちらのご迷惑にならない事をお約束いたします」
「良いでしょう」
ノウは大内田からの提案を受け入れ、その場で現状と相互の安全のために備えて打ち合わせを行ったの後に、会談を終えた。
会談を終えて外に待たせていた73式小型トラックに乗り込み、エジェイの城壁を越えて帰路に就く。
「陸将」
「あぁ…案の定だったな。まぁ最初から分かっていた事だが」
「では我々は、当初の予定通り"支援"を?」
「あぁ………」
ダイダル基地へ戻ると航空自衛隊エリアから、航空自衛隊の紺色の制服を着用した一人の幹部自衛官が走ってきた。
「大田原空将補。どうした?」
大内田の元に走ってきた、航空自衛隊を指揮する『大田原功』空将補は手にしていた複数の写真を大内田に渡す。
「ウチの
彼が見せてきたのは、偵察隊のRF-4EJの偵察ポッドに内蔵されたカメラが撮影した写真であった。写真内には高高度から撮影された大多数の兵団の様子が克明に写し出されている。
「陸将、敵の進軍速度を考えると……恐らく今日の夜にはエジェイの正面に到達するものと考えます」
「よし!至急、各部隊の指揮官を召集せよ」
「了解!」
大内田達は各部隊の指揮官を集めて、敵を迎撃するための作戦会議を開始した。
そしてその日の夜、大内田らの予想通りロウリア軍東部諸侯団3万人は、エジェイの西5キロ地点に達していた。
だが彼等はその場で進軍を止めて、夜営を開始した。
「奴ら、何をするつもりだ?」
エジェイの西にある塀の上から、ロウリア軍の様子を見ていたノウは、敵の意図が読めなかった。
(ここまで来て何故進軍を止めたんだ?あの数ならエジェイを陥落させるなら充分な戦力の筈だが……………)
斥候に出していた偵察兵からも、敵が夜襲を仕掛けてる様子は無いとの報告がある。時々であるが小規模な敵部隊が嫌がらせのように自分達を貶すような言葉を大声で叫び、ある程度してから去っていく。
しかし、ある程度時間を置いてからまたその行為が繰り返し行われ、ノウを含めた西部方面師団の兵士達に苛立ちが目立ち始める。
「馬鹿にしおってからに………」
「閣下!自衛隊の連絡兵がお見通り願いたいと!」
「通せ!」
「はっ!」
ノウの元に連絡要員として派遣されて来ていた陸上自衛隊第7師団第7特科連隊の観測員と無線員がやって来た。
「閣下、師団長より提案があるとの事でお伝えに来ました」
「提案?」
「エジェイの西5キロ地点に布陣する武装勢力に対して、長距離攻撃を開始するので、周辺に友軍が居ないか確認をしておきたいとの事です」
「長距離攻撃だと?ダイダル基地からロウリア軍の陣地まで直線距離で10キロはあるんだぞ。出来るのか?」
「はい。既に準備は完了していますので、後は閣下の許可が頂ければ、我々が目標位置の指示を送り次第、攻撃を開始します」
ノウは、彼等が言う長距離攻撃という言葉に僅かながら興味を抱いた。軍内でも噂となっている彼らの戦いを見てみようと高見の見物を決め、あっさりと許可を出した。
「分かった。貴方達の戦いを見せて頂きたい」
「はい。ではこれより味方に目標指示を送ります」
観測員達は直ちに準備を開始し観測機材を使って5キロ先に布陣するロウリア軍陣地の詳細な位置を、無線でダイダル基地で待機している第7特科連隊に指示を送る。
「これ、持ってきたんだな」
ダイダル基地で、一人の隊員が呟いた。
彼の目の先には陸上自衛隊が誇る99式、FH-70自走りゅう弾砲に混じって、目を見張る程の巨大な砲台と、そこから延びる長い砲身の姿があった。
「紀伊型の51センチ砲の試作品なんてよく残ってたな」
「この作戦のために技研の地下倉庫から持ってきたんだとさ」
目の前に聳え立つ砲は、広島県の亀ケ首で試射に使用された紀伊型の51センチ砲の試作品だった。
この砲は試験終了後、太平洋戦争末期のソ連による満州侵攻の際に203高地に建設された旅順要塞にて要塞砲として使われた後、国内へ引き上げられ、長らく防衛省技術研究所の地下に保管されていたのである。
今回の派遣任務に際して、数で勝る敵に対する火器の数の少なさの穴埋めとして持ち込まれたのである。
「敵に動きは無いか?」
指揮所で大内田は副官に尋ねる。
「ありません。敵は現在位置からは動いていない様子です。報告では付近に友軍は居ないとの事でした」
「砲撃用意!」
要塞砲の砲塔が旋回し、FH-70、99式の砲身が西へと向けられた。
「各砲榴弾、装填完了。砲撃用意よし!」
「撃てぇ!」
大内田の号令を受けた特科連隊の連隊長の合図と共に警報が鳴り響くと、雷のような轟音と共に要塞砲が砲撃を開始し、巨大な榴弾を西の方向へ向けて撃ち出した。
続く
皆様からのご意見とご感想お待ちしております