ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第10話-交錯する接点-

 ククルテ遺跡で目を覚ましたら、カイとブレードイーグルが大ピンチ!

 サンドコロニーでカイを追い掛けてた盗賊さん達も居て、なんだか、ユナイトを探していたみたい。

 なんとかブレードイーグルと一緒に逃げられたのは良かったけど……

 ククルテ遺跡で気を失う直前に思い出した記憶……一体なんで……アレックスが……

 [シーナ]

 

 [ZOIDS-Unite- 第10話:交錯する接点]

 

「いやぁ~……マジでどうなるかと思ったぜ……」

 

 イセリナ山の麓の森に降り立つと同時に、カイは疲れた様子でぐったりと脱力しシートに身体を預ける。

 そんな彼の前のメインモニターにはブレードイーグルから抜け出したユナイトが地面に降り立ち、中からシーナが出て来る映像が映っていた。

 カイはユナイトとシーナに気付くと、すぐにキャノピーを開きイーグルから降りて声を掛けた。

 

「シーナ! ユナイト!」

「カイ! 怪我はしてない??」

「グオグオ!」

 

 心配そうに駆け寄って来たシーナとユナイトに、カイは明るくニカッと笑った。

 

「俺は全然なんともねーよ。それよりシーナこそ大丈夫なのか?? 遺跡でいきなり倒れただろ?」

 

 彼のその一言に、シーナは微かにハッとした様子で目を見開くと、何処か寂しげに微笑みながら俯く。

 

「うん……ほんのちょっとだけ、記憶を思い出したの」

 

 記憶を思い出したと言いながら寂しげなシーナに、カイは微かな違和感を覚える。

 だがシーナは、すぐ気持ちを切り替えるかのようにカイを見上げると、笑顔で抱きしめていた上着を差し出した。

 

「あ。そういえばコレ! 貸してくれてたでしょ? ありがとう」

「おう」

 

 花のような笑顔を浮かべるシーナに、カイもふっと笑って差し出された上着を受け取る。

 元通りに上着を羽織りながら、カイは言った。

 

「ちょっと早ぇけど、先に野宿の準備済ませちまうか」

「うん!」

 

 元気に返事をしたシーナの頭をなんとなくポンポンと撫でると、カイはブレードイーグルへ引き返し荷物を漁る。

 必要なものを取り出しながら、彼はふと真顔で考え込んだ。

 シーナはククルテ遺跡でなんらかの記憶を思い出し、気を失った。先程のシーナの寂しげな笑みから察するに、恐らくあまり良い記憶ではないのだろう。

 一体何を思い出したのか気にはなるものの、興味本位にずけずけと「何を思い出せたんだ?」なんて訊ねる程、カイはデリカシーの無い人間ではない。

 ……とはいえ、もしシーナが思い出した記憶を気に病んでいたら? それを誤魔化そうと明るく振舞っているのだとしたら……結局のところ、自分にしてやれるのは話を聞いてやる事くらいであるのも事実だ。

 

(変に心配してると、余計心配させたくないって思うだろうし……だからって、ほっとくのもなぁ……元気無さそうだったしなぁ……)

 

 途方に暮れたような情けない顔で溜息を吐けば、不意にユナイトが横から顔を覗き込んで来る。

 まるで「どうしたの?」と訊ねてくるかのように首を傾げ、心配そうな声を上げるユナイトに、カイはなんでもないぜ。と言いながら笑って見せると、取り出した荷物の準備を始めた。

 とはいえ、夕食の準備には随分早い。テントを持っている訳でもない為、テントの設営なども無い。

 やる事といえばせいぜい、いつでも夕食を作れるように調理器具を一通り準備し、近くに水が汲める場所がないかどうか探す程度なのだが。

 

「シーナ、俺ちょっとこの辺に水が汲める場所がないか探しに行こうと思うんだけど、どうする? 付いて来るか??」

「うん。付いてく!」

 

 声を掛ければ、シーナはやはり笑顔で答える。

 そんなシーナを眺めて困ったような笑みを微かに浮かべながら、カイは水汲み用の小型タンクを手に提げユナイトへ声を掛けた。

 

「じゃ、俺達が水汲みに行ってる間、イーグルと2人で留守番よろしくな」

「グォ!」

 

 元気良く頷いたユナイトと静かに佇むブレードイーグルを残し、カイはシーナと共に水源を求めて歩き出す。

 森の中に分け入って少し歩いた所で、不意に口火を切ったのはシーナだった。

 

「ねぇ、カイ」

「んー?」

 

 なんでもなさそうに返事をしたカイに、シーナは少し遠慮がちに訊ねた。

 

「あの時……遺跡の中庭に居た時、なんでユナイト待ちくたびれてないか? って言ったの?」

「え??」

 

 唐突な質問に、カイは少し面食らう。

 何故?と言われれば、正直なんであんな事を言ったのか自分でもよくわからない。

 ただふと、あの中庭の柱に背を預けて噴水の傍に居たシーナを眺めた時、妙な既視感を覚えたのは確かだ。

 ……今思えば、その時自然に口から零れた言葉だったような気がする。

 

「なんでって……なんとなく? かな……自分でもなんであんな事言ったのかわかんねーっていうかさ」

「そっか……」

 

 シーナはやはり少し寂し気な笑みと共に、一言呟いただけだった。

 そんな彼女の様子にカイは少し迷いながらもそっと訊ねる。

 

「あの時の俺の言葉、そんなに変……だったか?」

「ううん。そうじゃないの。ただね……あの遺跡で昔、アレックスから全く同じことを言われたから……」

「アレックスに? ユナイト待ちくたびれてないか~? って??」

「うん……」

 

 頷いたシーナを見つめた後、カイは首を傾げた。

 あの時の妙な既視感と、口を突いて出たあの言葉……それがアレックスと全く同じだったとは。

 偶然なのだろうか?それとも……

 

(いや、まさかな)

 

 自分はアレックスと何か関係があるのだろうか?という思いが脳裏を過るも、すぐにカイはその考えを否定する。

 確かに自分とアレックスは偶然で片づけてしまうにはあまりに似すぎている……らしい。

 顔も、声も、フェイスマークも、果てはあの遺跡での一言に至るまで……

 他人の空似で片づけてしまうには少々無理があるだろう。そのくらいカイ自身も薄々感じてはいる。

 だが、自分は古代ゾイド人などではない。それは確かだ。

 自分の両親は間違いなく自分と血の繋がりがあるし、自分が赤ん坊の頃や幼い頃の写真だってアルバムで見た事がある。もし自分がアレックスなのだとしたら、そんな物がある筈がない。

 

「……まぁ、少しだけでも記憶が思い出せて良かったんじゃね? 俺がアレックスと全く同じこと言ったってのは、流石にビックリしたけどさ」

 

 カイが出来るだけ明るくそう声を掛けるが、シーナはふいっと俯いてしまう。

 

「確かに、悪い記憶じゃない……と思う。あの遺跡の噴水でお月様に見惚れてて、アレックスが呼びに来て……なんて事のない記憶の筈だけれど……でもね……」

 

 シーナはそこまで言って口籠る。

 カイはそんな彼女を少し見つめた後、その桜色の髪を梳くように一撫でして口を開いた。

 

「思い出した記憶に何か辛い事があるなら、無理に言わなくたって大丈夫だぜ? まぁ、俺がしてやれる事なんて話聞くくらいしかないから、いつでも話くらい聞くけどさ」

「カイ……」

 

 シーナがカイを見上げる。

 視界に移ったカイが、一瞬アレックスと重なった。

 言っていないだけで、本当にカイはアレックスにそっくりだ。

 口調は多少違うが、話し方や言葉の選び方。自分の髪を梳くように撫でるその手付きまで……

 だからこそ……なのだろう。

 思い出したあの記憶の中のアレックスがカイと重なる度に、酷く恐ろしく思えてしまうのは。

 カイも、そうなってしまうのでは? と、恐れているから……

 

「……ありがとう。でも大丈夫。思い出したのは別に辛い記憶じゃない……と思うから」

「そうか?」

「うん……ただ、思い出したのが本当に断片的で……だからちょっと不安で……」

 

 シーナは少し頭の中を整理するかのように黙り込むと、ゆっくり話し始めた。

 

「あのね、思い出した記憶の中で、アレックスが軍用のパイロットスーツ着ていたの」

「軍用のパイロットスーツ?」

「うん。それがなんだか信じられなくて……ちょっと怖くて……」

「怖いって……古代のパイロットスーツってそんなに不気味なのか??」

 

 苦笑しながら訊ねて来たカイにシーナも思わず苦笑を浮かべる。

 

「あ、違う違う。そうじゃないの。アレックスは小っちゃい頃からずっとゾイドを戦争に使う大人を嫌ってたから、俺はゾイドで戦争するような大人には絶対ならない。ってずっと言ってたの……そんなアレックスがどうして軍用のパイロットスーツなんか着てたんだろう? って思って……」

「へぇ……確かになんつーか、妙だな?」

「うん。私はゾイドに乗って戦った記憶もないし、アレックスがゾイドに乗って戦ってた記憶も無い……でもそれは……忘れてるだけなんじゃないか? って……怖くなって……もし思い出せなくなってる記憶が戦いの記憶なら、アレックスがパイロットスーツを着てた理由も……私の身体の傷跡も辻褄が合っちゃうから……」

 

 シーナの顔から笑みが消え、悲しげな表情だけが残る。

 そんなシーナに、カイは困ったように頭を掻きながら視線を逸らしつつ口を開いた。

 

「きっと何か……理由があったんじゃねーかな。戦わなきゃいけない理由がさ」

「戦わなきゃいけない理由?」

「あー……上手く言えないんだけどさ……」

 

 自分を見上げてくるシーナの視線を感じながら、カイは拙く言葉を続ける。

 

「俺もさ、ゾイドでの戦闘ってどっちかっつーと苦手だけど……でもやっぱ、戦わなきゃいけない時ってあるんだよ。俺の場合は、今まで自分の身を守る為に戦ったりしたし、今はシーナやユナイトを守る為だったりもするし。だからさ、アレックスもそうだったんじゃねーかな? なんて、思うんだけど……」

 

 そう言って、チラッとシーナの方へ視線を向ける。

 シーナはきょとんとした顔でカイを見上げていた。

 

「じゃぁ、アレックスは戦争の為じゃなくて、別の理由で戦ってた……て事?」

「まぁ……少なくとも俺はそうなんじゃないかな~? と思うってだけだけど……」

 

 カイが苦笑して見せると、シーナは何処か安心したような顔でふっと微笑んだ。

 

「そっか……うん。そうだよね。アレックスに限って、戦争の為に戦うなんて、無いよね……」

「ああ。きっと何か別の理由だって」

 

 明るくそう言いながら、カイは元気づけるかのようにシーナの背を軽く叩く。

 シーナはそんなカイの不器用な励ましにクスクスと笑い声を上げた。

 

「話してなんだかスッキリした。ありがとう。カイ」

「良いって良いって。それよりさっさと水汲める場所探そうぜ。森の中だから川とか湧き水とかあるだろうし」

「うん!」

 

 先程までの悲し気な雰囲気がまるで嘘のように、元気な返事を返して、シーナはカイと共に森の中を歩く。

 その足取りは何処か軽やかであった。

 

   ~*~

 

 一方、砂漠を横切る毒蛇(どくじゃ)一行は気まずい沈黙に包まれていた。

 というのも、リーダーであるアシュリーが唐突に人探しをして来ると言って何処かに行ってしまった為だ。

 今はサムの駆るダークホーンを先頭に、アジトへ戻る帰路の途中である。

 

「ボス、どーしちまったんすかね~……」

 

 ぼんやりとした独り言のようなユアンの呟きに、レナルドが軽く溜め息を吐いて口を開く。

 

「わからん。だがボスは大抵いつもああだろう。唐突に別のアジトやコロニーに1人で向かうのは今更珍しい事じゃない」

「けどぉ、今日のボスちょーっち様子おかしかったんじゃね?」

「ふむ……」

 

 ユアンの言葉にレナルドは考え込む。

 オーガノイドの足にぶら下がったまま上空へ連れ去られ、遺跡の西棟の屋上に戻って来たアシュリーは特に怪我も無く無事であったが……オーガノイドと鷲型ゾイドを捕え損ねた事に対し悔しがるどころか全くのノータッチで、何処か心此処にあらず。といった様子であった。

 各々が自機の元へ戻って来た時、やっと口を開いたかと思えば、前述の通りである。

 

「何か理由があるのは確かだ。ボスは理由無く動く人じゃない」

 

 サムが珍しくそう呟けば、ユアンもレナルドも確かにといった様子で相槌を打つ。

 そんな中、スカーレット・スカーズの3人は釈然としない面持ちをしていた。

 まぁ、カイを殺し損ねたのだから当然と言えば当然なのだが……今回の場合、理由は別にあった。

 

「兄貴ぃ?……」

 

 恐る恐るオスカーがスヴェンに声を掛けるが、スヴェンは全くの無反応だ。

 アシュリーが人探しをして来ると言い出した時、スヴェンは自分も連れて行けと言ったのだが、駄目よ。の一言でバッサリ切って捨てられてしまった。それが酷く面白くなかったらしい。

 

「しょうがないですよ兄貴。俺達、手下になって日も浅いですし、個人的な用事に連れ歩いてもらえる訳ないですって」

「んな事ぁわかってんだよ。ちょっと黙ってろ」

 

 スティーヴが(なだ)めるように声を掛けるが、スヴェンはむすっとしたままだ。

 あれ程オーガノイドと鷲型ゾイドに興味を示していたというのに、捕え損ねた事にも一切触れず、フラッと何処かへ行ってしまったアシュリーにどうも違和感を覚えてしょうがない。

 捕り逃したオーガノイド達を一人で追い掛けるつもりだったようには到底思えない……だが、あの状況からいきなり人探しなどと言い出したのは何故なのだろうか? 何か別の用事でも出来たのだろうか? もしそうなのだとしたら、一体何の用事だったのだろう?

 

(深入りも詮索も柄じゃねーのはわかっちゃいる。わかっちゃいるが……この妙にモヤっと引っ掛かる違和感は一体なんだってんだ……)

 

 スッキリしない違和感を抱いたまま、スヴェンは思案に暮れる。

 この時彼は忘れてしまっていた。

 自分もかつて、今のアシュリーと全く同じ気持ちを抱いた事があるということを……

 死を覚悟する状況から生き延びた時、自分の愛する者に会いに行こうとした時の気持ちを……

 

   ~*~

 

「そう。ありがとう。」

 

 アシュリーは愛機である漆黒のステルスバイパーを駆りながら他のアジトの者といくつか連絡を取っていた。

 探し人の情報を得た彼は通信を切ると、目的地であるコロニーへと進路を取る。

 恐らく山賊などに絡まれて戦闘になりさえしなければ、夜には目的のコロニーへ辿り着けるだろう。

 

「サム達、ちゃんとアジトに戻ってるかしら?」

 

 ふとそんな呟きが唇から零れ落ちる。

 レーダーには特に何の機影も映ってはいない。

 こっそり付いて来ているという事は無いだろうが、ヘルキャットの光学迷彩を起動されていたとしたら、レーダーに反応が出ていないだけの可能性もある……

 だが今は、サムがしっかりと全員を連れ帰ってくれていると信じ、付いて来ていない筈だと自分に言い聞かせる。

 元より誰かを同行させるつもりはサラサラ無いが、今回は特に、スヴェン達スカーレット・スカーズの3人を連れて来る訳にはいかない。自分がこれから探しに行くのは、彼らにとっての標的なのだから。

 

(まぁ、逢った所でどう声を掛けるかなんて全く思い付いてないんだけど……)

 

 彼の脳裏に、昼間オーガノイドに上空で放り出された際過った顔が再び過る。

 人は呆気なく死ぬ……そんな当たり前の事を痛い程痛感して、せめてもう一度逢いたかったと願う自分に気が付いた以上、逢いに行かずにはいられなかった。死んでしまってはもう二度と逢えないのだから。

 この際言葉など交わせなくても構わない。

 軍を追われた自分がエリート軍人の彼と逢う機会など二度とないだろうと思っていた頃に比べれば、同じ荒野に身を置く者同士となっているのは夢のような状況だ。

 せめて一目だけで良い。姿が見たい。

 

「私、ナルヴァ大尉の事になると自分でもビックリしちゃうくらい健気ね。いつもなら手に入れるまで満足しないし、手に入れるつもり満々の筈なのに……」

 

 何処か自嘲気味に微笑みながら、アシュリーは呟いた。

 自分では手に入れられない。届く筈がないと……心の何処かで痛感し、諦めているのだろう。

 だからこそ、ザクリスと行動を共にしているというアサヒの存在に嫉妬せずにはいられないのだが……

 

「あー!もうっ!!今はあのアサヒとかいう坊やの事は無し無し!!私はナルヴァ大尉に逢えればそれでいいの!それ以上なんて望んで無いの!!」

 

 うがー!っと頭を抱えて叫び、そのまま操縦桿にゴンッと音が立つほど額を叩きつける。

 その衝撃でステルスバイパーが僅かに蛇行するが、アシュリーはそんな事気にも留めずに下を向いたまま目を潤ませて呟いた。

 

「それ以上の事なんか、望める訳無いじゃない。彼の隣に私の居場所なんてあるわけ……」

 

 思わず呟いた自分の言葉に自分で傷付いてしまう。

 そうだ。彼に受け入れてもらえる訳が無い。

 最後の別れ方だって相当酷かった。演習中に振り向いてもらいたい一心でいきなり襲い掛かったのだから。

 きっと自分を見たらザクリスは酷く冷たい目をするに違いない。

 そう考えるとどんどん逢いに行く勇気が萎えて心細くなっていく……

 

「ねぇバイパー……私、ナルヴァ大尉にちゃんと逢えるかしら?……」

 

 彼の問いかけにステルスバイパーは何も答えはしない。

 アシュリーは自分を落ち着かせるように深く深呼吸を一つ吐いて操縦桿を握り直した。

 今はぐだぐだと考えていてもしょうがない。

 せっかく他のアジトの手下達から情報をもらい、此処まで来たのだ。

 引き返して後から後悔するくらいなら、どんなに冷たい態度をとられようと構わない。

 いや、そもそも気付かれないようにそっと姿を見る事さえ出来ればそれでいい。

 そう考えると、いくらか気持ちが軽くなるような気がした。

 

   ~*~

 

 予定通り、陽が傾いた頃に彼は手下からの情報にあったコロニーに居た。

 イセリナ山のホワイトコロニーに……

 霧に閉ざされたイセリナ山のホワイトコロニーはかつてこそ隠れ里であったが、デススティンガーの進行によって壊滅した後、帝国、共和国の両国からの援助によって復興され、現在では山越えの中継地点として重要な役割を果たすようになった。

 情報では此処にザクリスとアサヒが滞在しているらしいという話だったが……

 

「……ホントに見つかるのかしら……」

 

 夕焼けの赤も薄れ、薄暗くなった市場街を歩きながらアシュリーが心細そうに呟く。

 元隠れ里だったとはいえ、コロニーとしてはそこそこ立派な規模であるし、ステルスバイパーを駐機させた場所には青いセイバータイガーも赤いコマンドウルフの姿も無かった。

 もしかして入れ違いになってしまったのだろうか?

 それならそれで残念だが、逢えずに終わったのならそれでも別に……などと考えている自分が居る事に気付いてアシュリーは思わず首をぶんぶんと横に振る。

 

「駄目駄目。逢いに行くって決めた以上、逢えなくても良いだなんて思ってちゃいつまで経っても逢える訳……」

 

 思わず声に出して呟きながら歩く先……目の前の雑貨屋から出て来た長身の人物とアシュリーがぶつかった。

 

「うぉ?!……」

「あ! ごめんなさい! ちょっとボーッとし……」

 

 そこまで喋ってアシュリーは凍り付いた。

 髪こそ短くなっているが、間違いない。

 ぶつかった人物は他でもない、ザクリスだ。

 

「……ナルヴァ大尉……」

 

 無意識に零れたその呟きに、ザクリスが微かに戸惑ったように目を見開く。

 が、ザクリスも次の瞬間ハッとしたかのようにアシュリーを見つめ口を開いたのだ。

 

「……あ。お前……ワイズか??」

「えッ……」

「おっと。悪ぃな」

 

 まさか周りに全く無関心だった彼が自分の名前を憶えてくれていたとは思ってもみなかったアシュリーは、思わず言葉に詰まる。が、そんな彼の様子に気付く素振りも無く、ザクリスは自分達が雑貨屋の出入口の前で立っているせいで、後ろから出て来た客の邪魔になっている事の方に気を取られたらしい。

 アシュリーの肩に手を掛けて共にその場をズレる。

 その何気ない行動に顔を真っ赤にしながら、アシュリーはザクリスの青い瞳を見上げ訊ねた。

 

「あ、あのっ……まさか、憶えてくれて?……」

「やっぱりワイズか。お前随分雰囲気変わったな」

 

 まるでかつての旧友にでも会ったかのようなザクリスの反応に、嬉しいやら戸惑うやらでアシュリーは思わずぽかんと立ち尽くす。

 そんな彼の様子に首を傾げ、ザクリスがアシュリーの目の前でヒラヒラと手を振りながら訊ねた。

 

「おい。大丈夫かお前」

「え、ええ! 大丈夫! 大丈夫よ! ちょっと覚えててくれてた事に驚いたっていうか……」

 

 予想外のザクリスの反応に戸惑いながら、アシュリーはそわそわと足元に視線を落として両手の人差し指をちょみちょみとつつき合わせる。

 その仕草にザクリスは可笑しそうに笑い声を上げた。

 

「随分雰囲気変わった割に、反応は全っ然変わってねーのな」

「え?! あ、そ、そうかしら? えっと、う、うん。そうね。そうかも。あは。あはははは……」

 

 しどろもどろに答えながら誤魔化すように笑うアシュリーを見つめて苦笑するザクリスは、ふと彼の右腕が長いアームカバーで覆われている事に気付き表情を曇らせる。

 

「お前……その右腕……」

 

 彼の言葉に、アシュリーの顔色もサァッと元に戻った。

 ザクリスは気まずそうに視線を逸らしながら、遠慮がちに訊ねた。

 

「その……怪我させた俺が言うのもアレだけどよ……大丈夫なのか? 後遺症とか……」

 

 そう。

 アシュリーの右腕は、かつて合同演習中にザクリスへ襲い掛かった際……ザクリスのセイバータイガーが放った衝撃砲がコックピットの右側面を直撃し、割れたキャノピーの破片でズタズタにされてしまったのだ。

 だが、気まずそうなザクリスと打って変わってアシュリーは可笑しそうに笑いだした。

 

「ふふふふっ……」

「な……んだよ。俺が心配するのがそんなに変か?」

 

 怪訝そうな顔をするザクリスに、アシュリーはふるふると首を横に振って彼を見上げた。

 

「違うわ。まさか心配してくれると思ってなかったから」

「そりゃ心配するだろ。あの時、腕ズッタズタになっちまったお前見て……俺はてっきり……」

 

 そこまで言って口籠るザクリスをアシュリーが優しい笑顔を浮かべて見上げる。

 

「殺したかと思った?」

 

 彼の言葉に継ぎ足すように問いかけたその声は、穏やかで何処かからかうような響きを含んでいた。

 そんなアシュリーの反応にザクリスは観念したかのように頭を掻きながら溜息を吐いて口を開く。

 

「……そーだよ。てっきり殺しちまったんじゃねーかとヒヤヒヤしました!」

「相変わらず真面目なのね。襲い掛かったのは私の方なんだから、貴方が気に病む必要なんかないのに」

「いやまぁ、そりゃそうだけどよ……怪我させちまったのは事実だし……」

「あれは貴方の攻撃に自分から突っ込んじゃった私のミス。それに腕なら心配ないわ。痕は残っちゃったけど、幸い後遺症も無く快調よ。もう6年も前の事なんだから気にしないで頂戴」

 

 そう言って笑うアシュリーを見て、ザクリスはふと考え込むかのように呟いた。

 

「6年……か。」

「ナルヴァ大尉??」

 

 怪訝そうに顔を見上げれば、ザクリスは苦笑を浮かべてアシュリーを見つめた。

 

「そのナルヴァ大尉ってのやめろって。もう軍人じゃねぇんだしよ」

「え? でも……」

「つか、お前確か俺とタメだろ? ザクリスで良いって」

「えぇ?!」

 

 唐突なその言葉に、アシュリーは再び真っ赤になる。

 

(え? え?? 嘘?! ちょっとコレ夢?! 本人から直々に呼び捨て許可?!)

「おーい。ホントに大丈夫かお前……」

 

 何処か呆れたようにザクリスが声を掛ければ、ハッとしたようにアシュリーは目を見開き、遠慮がちにその名前を呼んだ。

 

「じゃ、じゃぁえっと……ザクリス?」

「なんで疑問形なんだよ」

 

 苦笑を浮かべるザクリスを見上げ、アシュリーは恥ずかしそうに微笑む。

 

(あぁ、ホントに夢みたい……)

 

 苦笑とはいえ、軍人時代のあの冷たい孤高の存在であった彼が目の前で笑う姿など、今まで想像もつかなかった。

 アシュリーはそこでふと、我に返ったように呟やく。

 

「貴方は変わったわね。まるで別人みたい……」

 

 その一言に、ザクリスは少しきょとんとした顔をするが、すぐに微笑む。

 

「まぁ……色々あったからな」

 

 何処か寂しげで悲しげな微笑みとは裏腹に、囁くように呟いたその声は穏やかで優しさすら感じる。

 が、また彼は明るく笑いながら言葉を続けた。

 

「つか、変わったっつーより、こっちのが素だぜ? 俺」

「えぇ?! そうなの?!」

 

 驚きに声を上げるアシュリーに苦笑を浮かべ、ザクリスは頭を掻く。

 

「そ。軍人時代のアレはなんつーか、色々事情があったんだよ。だからぶっちゃけあっちは黒歴史っつーか、正直自分でも思い出したくねーっつーか」

「そう……じゃぁ、あまり昔の事には触れないでおくわ」

「おう。そうしてくれ」

 

 ザクリスはそう言って、ふと思いついたようにアシュリーに訊ねた。

 

「なぁ。お前晩飯まだか?」

「え? ええ。さっき着いたばかりだったから……」

「なら一緒に晩飯どうだ? 俺もこれから宿に戻って連れ起こしてから飯食いに行くつもりだったんだ」

 

 そんな唐突な誘いを、アシュリーが断る訳がなかった。

 

「い、行くわ! 勿論!!」

 

   ~*~

 

 アシュリーはザクリスと共に彼が滞在しているという宿にいた。

 階段を上がりながら、ザクリスはあ。っと声を上げる。

 首を傾げたアシュリーに、ザクリスは気まずそうに笑いながら呟いた。

 

「なぁ、俺が軍に居たって事、連れには黙っててくんね?」

「良いけど……どうして?」

 

 唐突な彼の頼みに、アシュリーが微かに怪訝そうな表情を浮かべる。

 ザクリスは困ったように階段の途中で立ち止まると、少し思案し口を開いた。

 

「……危険な目に、遭わせたくねーから」

「……変な事言うのね。荒野に身を置く賞金稼ぎや傭兵にとって、危険な目に遭うのは日常茶飯事でしょ?」

 

 彼の言葉にザクリスは小さな溜息を吐いて、表情を曇らせる。

 

「そういうのとは別件なんだよ。頼む」

 

 静かな、それでいて懇願するような響きのその一言に、アシュリーも軽く溜め息を吐き口を開いた。

 

「わかったわ。黙っててあげる。でも軍人だった事黙ってるなら私はどう自己紹介すれば良いかしら?」

「あ? どうせお前も賞金稼ぎとか傭兵とかやってんだろ? 昔馴染みって事で適当に話合わせてくれ」

「もー。変なとこで大雑把ね。そんな適当な口裏合わせでホントに誤魔化せるの??」

 

 呆れたようにアシュリーが腕を組む。

 彼は少し考え込むとザクリスに詰め寄って語った。

 

「いい? 私と貴方は、駆け出しの頃にお互い敵同士だったけど、雇い主の裏切りで一時休戦して共闘。それ以来の腐れ縁だったけど、ここ数年お互いの動向を知らなかった。良いわね??」

「……よくもまぁ……即興でそんな作り話をスラスラと……」

 

 脱力しながら呟くザクリスに、アシュリーはクスッと薄い笑みを浮かべる。

 

「知恵が回る。って言って頂戴? 口裏合わせなら、それっぽい過去は作っておかなきゃね」

「へーへー。わかりましたよっと」

 

 降参だとでも言うかのように軽く両手を上げて首を振ると、ザクリスは再び階段を上り始めた。

 程なくしてザクリスに案内された部屋はカーテンが閉め切られおり、2台あるベッドのうちの一つで誰かが寝ているのは確認出来たものの、室内が暗いせいでそれ以上の事はあまりわからない状態だ。

 

(ふぅん。この子がアサヒ……)

 

 一瞬目を細めてベッドを眺めると、アシュリーはザクリスに促されるまま空いている方のベッドに腰かけた。

 ザクリスはといえば、部屋に入るなり窓辺の小型ランプで僅かばかりの明かりを確保し、いそいそとカーテンと窓をすかして煙草に火を点けている。

 

「こんな時間にもう寝てるなんて、お連れさん随分疲れてるのね」

 

 アシュリーが問えば、ザクリスは紫煙をゆっくり吐き出してベッドで寝ているアサヒを眺めながら口を開いた。

 

「こいつ最近不眠症再発しててな。夜眠れないせいでほぼ昼夜逆転しちまってんだ。悪ぃがこれ吸い終わるまで寝させてやってくれ」

「不眠症??」

 

 首を傾げるアシュリーをチラッと見やって、ザクリスはまたアサヒに視線を戻す。

 その眼差しは、穏やかで悲しげだった。

 

「アサヒは……ああ、そいつアサヒっつーんだけどさ。軍を辞めた直後に死にかけてる所を拾っちまったんだが……ちょいっとばっかし事情が複雑な奴なんだ。あんまり詮索しないでやってくれ」

「そう……わかったわ」

 

 アシュリーもアサヒが寝ているベッドを振り返る。

 頭の半分まですっぽりと毛布に包まっているせいで顔は確認出来ないが、毛布越しでも小柄なのはよくわかる。

 だが何故だろう……あれほど嫉妬していたアサヒが目の前で無防備に寝ているというのに、妙に心が昂らない。

 同情……でもしたのだろうか??

 自分の手下にも様々な事情の者達がいる。それぞれが色んな過去やトラウマを抱えている。そういった者達の面倒を今まで見て来たせいかもしれない。壊してはいけないモノのように感じる自分が微かに、だが確かに居た。

 

「まだ小っちゃいのに、苦労してるのね……」

 

 アシュリーが呟いたその一言に、ザクリスが噴き出した。

 

「ぶっははははは! 小っちゃい。か。まぁ確かにチビだしな」

「え? 何々?? いきなり笑いだして……私何か変な事言った??」

 

 可笑しそうに笑うザクリスとは打って変わり、アシュリーはオロオロとベッドで眠るアサヒと笑っているザクリスを交互に見つめる。

 そんな中、アサヒがゴソッと毛布の中で身じろいだ。

 

「あ。やべ。起こしちまったか??」

 

 ザクリスが煙草を灰皿で揉み消し、アサヒの方へ歩いていく。

 アシュリーも腰かけていたベッドから立ち上がり、そっとザクリスの後ろから様子を窺った。

 目を覚ましたアサヒはベッドの上で丸くなったまま気怠そうに目を擦っている。

 

「アサヒ、そろそろ晩飯食いに行こうぜ」

「ん~……」

 

 のそのそと起き上がったアサヒの姿は、やはりどう見ても16~17程度にしか見えない。

 アシュリーは思わずボソッと呟いた。

 

「やっぱり子供じゃない」

「ぶふっ……」

 

 が、その一言でザクリスがまた噴き出し、寝ぼけたアサヒもいきなり噴き出したザクリスを見つめて首を傾げた。

 

「おん? 一体どーした??」

「ワイズ、お前今のもっぺんコイツに言ってみ??」

 

 面白がっているのが一目でわかる様子で、ザクリスがアシュリーを振り返る。

 アシュリーはきょとんとしながらも、アサヒを見つめてそっと訊ねた。

 

「えっと、アサヒ……くんって、まだ子供よね? いくつ?」

 

 その言葉に、アサヒはぽかんと目を見開いた後、ジトッとした眼差しをザクリスに向けた。

 

「まぁたお前さんはぁ……俺で他の奴をからかうなって言ったろ??」

「俺が吹き込んだんじゃねーって。こいつがお前のこと小っちゃい子とか言うから」

「やれやれ……子供と間違われる事に関しちゃもう慣れたがよ」

 

 欠伸混じりに若干うんざりした様子でぼやくと、アサヒはアシュリーを見上げてへらっと笑った。

 

「連れがすまんね美人さん。俺ぁ一応23だ」

「びじッ……」

 

 アサヒの言葉に、アシュリーが両手で口元を覆って目を見開く。

 成人だったという事よりも、どうやら美人さん。と呼ばれた事の方が衝撃的だったらしい。

 だがアサヒはそんな彼の様子には気付いていない様子で、からかうようにザクリスを見つめる。

 

「で? 女性恐怖症のお前さんがこんな美人さん連れて来るなんて、どういう風の吹き回しだ? 彼女か??」

「か、かの……じょ?!」

「あ?? コイツ男だぞ」

 

 唐突な一言にアシュリーが動揺するも、ザクリスが呆れたようにバッサリと否定する。

 そのあんまりな切り捨て様に、アシュリーは思わずムキになって大声を上げた。

 

「ちょっと?! 男って言わなくて良いわよ! 心は女よ私!!」

 

 次の瞬間、自分で「心は女」と暴露してしまった事にハッとし、アシュリーは恐る恐るアサヒへ視線を移す。

 だがアサヒはいたって明るく笑い声を上げているだけだった。

 特に引く様子もなく楽しげに笑っているアサヒの事が気に入ったのか、アシュリーはホッとした様子で改めて彼に自己紹介をした。

 

「いきなり失礼な事言っちゃってごめんなさいね。私はアシュリー=ワイズ。ザクリスとはちょっとした昔の腐れ縁なの。よろしくね」

「なぁんだ。そうだったのか。俺はアサヒ=タチバナだ。えっと……アシュリーって呼んだんで良いかい?」

「ええ勿論! 私もえーっと……そうね、アーちゃん。って呼んでも良い??」

「おん。別に構わんよ」

 

 そんな2人のやりとりを見て、ザクリスは何処か安心したような溜息を静かに吐くと、アサヒの頭をわしゃわしゃと撫で回して声を掛けた。

 

「おら。自己紹介も終わったんだし、お前はとっとと上着着て寝ぐせ直して来い。置いてくぞ」

「あいよ」

 

 上着を羽織り、寝ぐせを直す為に洗面所へ向かったアサヒを見送って、アシュリーはそっと呟いた。

 

「ねぇ、ザクリス」

「あ?」

「アーちゃんって、すっごい良い子で可愛いわね」

「……あ~……まぁ……犬っころみてーなのは確かだな。人懐っこいし」

 

 適当にそう返事しながら、ザクリスはぼんやりと頭の中でぼやいた。

 

(そういやワイズって、可愛いもんに目がねぇんだった……)

 

 流石にちょっと童顔で小柄で人懐っこいだけのアサヒまで守備範囲内なのは驚きだが……

 ザクリスはアシュリーをチラッと見ると、釘を刺すように呟いた。

 

「ねぇとは思うが……手ぇ出すなよ?」

「いくら私でも流石にそんな趣味ないわよ。欲しいけど」

「やらねーよ」

「あんもう。ケチ」

 

 そんなやり取りをする2人の元に、寝ぐせを直したアサヒがいそいそと戻って来る。

 彼は子供のように目を輝かせながらザクリスを見上げて声を掛けた。

 

「で? 晩飯は?? 何食いに行くんだ??」

「ったく、この腹ぺこ小僧は……」

 

 3人でわいわいと連れ立って、彼らはひとまず夕食にありつく事にするのだった。

 

   ~*~

 

「……あんなにいっぱい食べた割に、アーちゃんって、お酒はてんで駄目なのね……」

 

 ビールジョッキの柄を握り締めたまま、テーブルに突っ伏して爆睡しているアサヒを眺め、アシュリーが不思議そうに呟く。突っ伏したアサヒの隣には空になった皿の山。だが、彼が手にしたままのビールジョッキにはまだ3分の1ほどビールが残っている。勿論1杯目だ。

 

「そうなんだよ。飲みたがる割にコイツてんで酒弱ぇんだ」

 

 ザクリスが呆れたように呟きながら寝落ちたアサヒの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 彼の場合、空の皿は一つだけ。代わりに空になったグラスやジョッキが目の前にごっちゃりと置かれていた。

 

「貴方は相変わらず小食ね。酒豪なのは驚いたけど……」

「そっか。一緒に飲んだのは初めてだったな」

 

 なんでも無さそうにそう受け答えながら、ザクリスはアサヒが手にしたままだったジョッキをスルリと取り上げ、まるでジュースでも飲むかのように残ったビールを飲み干すと、空になったジョッキをテーブルに置く。

 アシュリーは呆れたような溜息を吐くと、ザクリスに訊ねた。

 

「そういえば、貴方達は此処で一体何してるの? 仕事?」

「ああ。イセリナ山で旅人を襲う盗賊が出るってんでしばらく雇われる事になってな。だが賊の方もコロニーが用心棒を雇ったって情報を聞きつけたのか知らねーが、てんで姿を見せやしねぇ」

 

 若干うんざりした様子でそう答えると、ザクリスは3人で食べていたフライドポテトの残りに手を付ける。

 一方のアシュリーは寝落ちたアサヒとフライドポテトを頬張っているザクリスを交互に見ると心配するような不安げな表情を浮かべて口を開いた。

 

「ねぇ、アーちゃん寝てるけど今日は仕事いいの?」

「あ? パトロールくれぇするに決まってんだろ」

「……それだけしこたま飲んだ後で??」

「当然」

 

 自信満々な彼の一言に、アシュリーは頭を抱える。

 軍人時代の彼からは到底想像できない。

 

「ホント変わったっていうか、随分適当になったっていうか……」

「別に車運転する訳じゃねーんだから気にすんなよ。酒飲んでゾイド乗るなって法律はねぇんだしな」

「そりゃそうだけど。そんだけ飲んだ後でホントに大丈夫なの??」

「なんだ? 心配してんのか??」

「いくら貴方が稀代のゾイド乗りでも心配になるわよ。こんなに飲んで……」

「おいおい。まるで俺が随分飲んだみてーに言うけどよ、これでもかなりセーブしてんだぜ? こんぐれーなら素面とかわんねーから大丈夫だって」

 

 その一言に、アシュリーの呆れた視線が大量の空グラスとジョッキに向けられる。

 彼は何度目になるかわからない溜息を吐くとザクリスを見つめた。

 

「貴方は大丈夫かもしれないけど、アーちゃんの方はどう見ても大丈夫じゃないんじゃない?」

「アサヒは良いんだよ。どっちにしろ今日は寝かせとくつもりだったし」

 

 優しくアサヒの頭をぽんぽんと撫でるザクリスに、アシュリーは首を傾げた。

 

「最初から今日は一人で仕事するつもりだったって事?」

「ああ。こいつこの2日間ろくに寝てなかったからな。正直酒場で飯にしようぜっつったのも、アサヒに寝酒させて宿に転がして来る為だったんだ」

 

 何処か優しさの漂う声で穏やかにそう言いながら、ザクリスは煙草に火を点ける。

 そんな彼を眺めて、アシュリーはふっと笑うと寝ているアサヒへ視線を移しながら口を開いた。

 

「相棒同士っていうよりも、まるでお兄ちゃんと弟って感じね」

「……かもな。心のどっかで弟と重ねちまってるトコあるし」

「あら、貴方弟さん居るの? 初耳」

 

 驚いた様子のアシュリーにザクリスは苦笑する。

 

「ああ。クロードって名前の弟が一人居た。親が離婚しちまって以来会ってねーけどな」

「そう……なんかごめんなさいね」

「気にすんな。生きてりゃどっかでばったり会えるかもしれねーし」

 

 ふぅっと紫煙を吐き出すと、ザクリスはふと思いついたようにアシュリーへ訊ねた。

 

「なぁ、良かったらお前、アサヒの代わりに今日のパトロール付いて来るか?」

「え?! 良いの?!」

「おう」

 

 頷くザクリスに、アシュリーは思わず嬉しそうな笑みを浮かべるが、次の瞬間にはハッとしたように疑り深そうな視線を彼に向ける。

 

「……とかなんとか言って、体よくタダでこき使おうってんじゃないでしょうね??」

「んな悪どい事しねーよ。手伝ってくれりゃコロニーからの報酬山分けでどうだ?」

「……話が美味すぎるわよ」

「お前だから言ってんだ。コロニーの駐機場にいた黒いステルスバイパー、あれお前のだろ?」

 

 その問いに、アシュリーが目を見開いた。

 彼の反応を眺めて、図星か。と呟きながらザクリスは煙草を燻らせる。

 アシュリーは微かに警戒するような声音で彼に訊ねた。

 

「いつから……気付いてたの?」

「あの雑貨屋に入る前に黒いステルスバイパーが駐機場に入ったのが見えてた。会った時に来たばっかだっつってたし。もしかしたらそうなんじゃねーかと思ってな」

「……」

 

 そっと黙り込んだアシュリーだったが、そんな彼にザクリスは穏やかに言葉を続けた。

 

「俺だって軍辞めて以来ずっと賞金稼ぎやってんだ。黒いステルスバイパー……砂漠の毒蛇の噂なら俺だって知ってる。別に取って食おうってんじゃねぇ。昔馴染みだからってだけじゃなく、お前の実力を見込んだ上でって話だ」

「……つまり、私の実力を見込んだ上で、報酬を山分けするに足るだろう。って?」

「そういうこった」

 

 アシュリーは少し考え込んだ後で、そっと首を横に振った。

 

「私の実力なんて、貴方の足元にも及びはしないわ。ズルしてるもの」

「ズル??」

 

 ザクリスが怪訝そうに眉を顰めながら灰皿で煙草を揉み消す。

 アシュリーは少し迷うように視線を逸らしていたが、やがてぽつりぽつりと語り出した。

 

「私が砂漠の毒蛇としてやってこれたのは、勿論軍を辞めさせられてから腕を磨いたのもあるけど……ちょっとした伝手から、ゾイドの戦闘能力を向上させるディスクを手に入れたお陰が大半なの。きっと足を引っ張るだけだわ。私なんかに貴方と肩を並べて仕事をする資格なんて……」

 

 そこまで語った時、ザクリスがアシュリーの方へ身を乗り出して声を潜めた。

 

「おい。そのディスク……今持ってんのか?」

「え? どうしたの??」

「そいつは相当やばいディスクだぞ。もし今持ってんならとっとと処分しろ」

「……どういう事??」

 

 射貫かれるようにすら感じる程真剣なザクリスの眼差しに、アシュリーが戸惑いながら訊ねる。

 ザクリスは、シーナやユナイトの事は伏せつつサンドコロニーでスカーレット・スカーズが残したゾイドから回収したディスクを調べてわかった事をアシュリーに聞かせた。ディスクの中身が知識欲や学習欲でゾイドを支配し強制的に戦わせるプログラムである事や、その戦闘データを何者かが集めているという事を……

 

「……なんでゾイドの戦闘データなんか……一体何の為に?……」

 

 戸惑いを隠し切れない様子で呟いたアシュリーに、ザクリスは少し悩んだ後、そっと切り出した。

 

「……恐らく学習の為だ。誰かに、或いは何かに、膨大なゾイドの戦闘データを教え込みたい奴が居る」

 

 含みのあるその言い方に、アシュリーも真剣な眼差しになってザクリスを見つめた。

 

「……貴方、何か心当たりでもあるの?」

「……」

「ザクリス」

「……悪ぃな。言えねぇんだ」

 

 静かにぽつりとザクリスは呟く。

 アシュリーはそんな彼を暫く見つめていたが、声を潜めてそっと訊ねた。

 

「……もしかして、貴方が軍を辞めた……いいえ。軍籍を剥奪された事と、関係あるの?」

「ッ?!」

 

 驚愕と、微かな恐怖……目を見開いてアシュリーを見つめたザクリスは、そんな表情をしていた。

 彼の反応に、アシュリーは声を潜めたまま心配そうに言葉を続ける。

 

「ごめんなさいね。貴方が賞金稼ぎをしているって知って、少し調べたの。貴方が軍を辞めたなんて信じられなくて……ねぇ、あのディスクと軍が何か関係してるの? それなら貴方の記録が軍のデータベースから抹消されていた理由も、アーちゃんに軍に居た事を隠すのも、全部辻褄が合うわ。ねぇ、どうなの??」

 

 彼の問いにザクリスは黙り込んでいたが、チラッと一瞬アサヒを見た後、観念したように溜息を吐いた。

 

「そこまで知っちまってんじゃ、ある程度説明しねーと引き下がってくんねーよな」

「当然よ」

 

 力強く、短く答えたアシュリーを見つめた後、ザクリスはそっと席を立ちながら言った。

 

「話すなら場所を変えた方が良い。とっとと会計済ませて一旦宿に戻ろうぜ」

「……ええ」

 

 相当危険な事に首を突っ込もうとしているのを痛感しながらも、アシュリーの心に迷いはなかった。

 寝ているアサヒをザクリスが背負うのを眺めながら、彼はそっとテーブルの端に置かれた会計伝票を手にレジカウンターへ歩いていく。

 辛い事、言えない事をこれから打ち明けて貰う手前、そのくらいの事はしておきたいと思いながら。




[Pixiv版第10話はコチラ]
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9966679
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