ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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GF入隊編
第13話-GF基地-


 ブレードイーグルの賞金に目が眩んだ連中に追い掛け回されていた俺達の前に、突如として現れた帝国軍。

 その正体は、親父の教え子であるルーカス=リヒト=シュバルツ少佐だった。

 ガーディアンフォースに入らないか? って提案に、最初は戸惑いもしたけれど……

 シーナの記憶を探しながら空を飛び続ける方法が他に無いなら、やるしかねぇよな!

 [カイ=ハイドフェルド]

 

 [ZOIDS-Unite- 第13話:GF基地]

 

 ガイロス帝国とヘリック共和国の国境上に作られた中立都市ヘルトバン……

 イヴポリス大戦後、両国の復興の際に作られたこの町は、帝国と共和国の友好と和平の象徴であると同時に、国際平和維持特殊部隊であるガーディアンフォースの本部基地「ガーディアンフォースベース」を擁する、両国の治安の要として重要な役割を担っている。

 そのガーディアンフォースベース第一滑走路上空にて、ルーカス=リヒト=シュバルツ少佐率いる第三陸戦部隊のホエールキングが今まさに着陸態勢へ入ろうとしていた。

 

「すっげぇ……ホントに来ちまった……」

 

 着陸態勢に移行したホエールキング内、通路の窓から眼下に広がるガーディアンフォースベースを見渡してカイが独り言のようにポツリと呟く……実際にガーディアンフォースベースを自身の目で目の当たりにして尚、彼は何処か夢を見ているような、テレビの画面を眺めているような……現実味の無い感覚を抱えて、ふと表情を曇らせる。

 ただただ彼の胸を満たしているのは、これから踏み出す新たな一歩への期待と好奇心ではなく、戦闘の苦手なアマチュアゾイド乗りの自分が訓練も無しに少数精鋭部隊に配属されるという事に対する戸惑いと緊張だ。

 それを体現するかのように、彼の薄紫色の瞳は微かな不安に揺れていた。

 

「わぁ~! 広いね~! これ滑走路でしょ? あっちの建物はなんだろう?? 格納庫かな??」

「グオグオ!」

 

 そんなカイの隣で、同じように窓の外に広がるガーディアンフォースベースを眺めているシーナとユナイトは、至って無邪気に目を輝かせながら滑走路や格納庫と思しき建物をせわしなく指差してはしゃいだ声を上げている。

 

「シーナもユナイトも、なんか滅茶苦茶楽しそうだな」

 

 苦笑交じりのカイに、シーナは笑顔で頷いた。

 

「うん! 此処なら離れ離れにならずに、カイとユナイトとイーグルと私。4人でまた空が飛べるんでしょ? だからそれがすごく嬉しいのと、あとは『どんな場所なのかなぁ?』とか『どんな人達が働いてるのかなぁ?』とか、考えてるとキリがないくらいすっごく楽しみなの。今まで普通の町やコロニーしか行った事なかったし」

「グオ!」

「そっか……なんか、お前らのそういう無邪気なトコ、ちょっと羨ましいぜ」

 

 元気の無い笑みを浮かべ、カイはシーナから視線を逸らすようにして再び窓の外……段々と近づいて来る基地の景色を不安げに眺める……そんな彼に、シーナが少し心配そうな表情でそっと声を掛けた。

 

「カイは……嬉しくないの?」

「別に嬉しくねぇ訳じゃねーんだけどさ……やっぱ色々不安になっちまうっつーか……正直、俺は戦闘とか得意じゃねぇし……自信ねぇなぁ……って……」

「カイ……」

「らしくねーよな! いつもならこんなにあーだこーだぐだぐだ考えたり、やる前から弱気になったりしねーのに。俺がこんなんじゃ、シーナだって不安になっちまうよな。なんか、ごめんな」

 

 何処か無理矢理明るく振舞おうとしているカイに、シーナは優しく微笑みかけるとゆっくりと首を横に振る。

 

「謝る事無いよ。カイは真面目でしっかり者さんだから、お仕事の事真剣に色々考えてるんでしょ? 大丈夫。私も、ユナイトも、イーグルも、皆一緒だよ。一緒に頑張ろう? ね?」

「シーナ……」

 

 窓枠に掛けられているカイの左手を、シーナの両手が優しく包み込んだ。

 その手の温もりが、柔らかく優しい声音が、カイの不安を静かに掻き消していく。

 カイは不意に降参したように、溜息とも笑い声ともつかない吐息を一つ吐いて顔を上げた。

 

「なんか俺、シーナに助けられてばっかだな」

「そう?……私、カイの助けになれてる?」

「ああ。俺が弱気になってる時や、ピンチの時……いつも助けられてばっかだよ」

 

 その言葉に、シーナは至って安心したように明るく笑った。

 

「よかったぁ。私、カイの役に立ててるんだね」

「グオ! グオグオグオ?!」

 

 笑顔を浮かべるシーナの隣で、不意にユナイトがカイへと必死に何やら語り掛ける。

 思わずきょとんとした表情を浮かべたカイに、シーナがクスクスと笑いながらその言葉を通訳した。

 

「私も! 私も役に立ってる?! だって」

 

 可笑しそうに笑うシーナと、真剣な面持ちで返事を待つかのようにジッと自分を見つめているユナイトを交互に見つめた後、ようやくカイも明るい笑い声を上げた。

 

「あったり前だろ! ユナイトだって何度も助けてくれたじゃねーか。シーナも、ユナイトも、勿論ブレードイーグルも。お互い今まで助け合って此処まで来たんだからな」

「グオ!」

 

 力強く頷いたユナイトを見つめた後、カイは安堵の表情を浮かべて微笑んだ。

 

(そうだ。1人で旅をしてた頃とは違う。遺跡で出会ったあの日から、シーナと、ユナイトと、イーグルと……お互いに助け合って此処まで来たんじゃねーか。これからだって、きっと一緒に乗り越えていけるよな。)

 

 1人じゃない……思えば当たり前の事なのに、ずっと1人で悶々と考えていたのは何故なのか。

 もしかしたら、傍に居るのが当たり前になってしまっていたからこそ……なのかもしれない。

 それが何処か気恥ずかしくもあり、心強くもある。だが、決して忘れてはいけない大切な事だ。それに気付かせてくれたシーナに、自然と感謝の言葉が零れた。

 

「ありがとな」

「え? 何が??」

「いや、こっちの話」

「えー! こっちの話って何? 教えてよ~!」

「ひーみーつー!!」

 

 ずいずいと詰め寄って来たシーナの頭を照れ隠しのようにわしゃわしゃと撫で回し始めた時、ホエールキングが滑走路へ着陸した振動が通路を揺らす。

 カイは話題を逸らすかのように明るく笑って言った。

 

「ほら! 着いたぜ! 早く来ねーと置いてくぞー!!」

「あー!! 待ってよぉ~!! ねぇ~!! カイってばぁ~!!」

「グオグオ~!!」

 

 格納庫へと駆け出したカイの後を追って、シーナとユナイトも思わず駆け出す。

 すっかりいつもの様子に戻った2人と1頭の後ろ姿に、不安の影は一切無かった。

 

   ~*~

 

 一方、カイ達よりも一足早くホエールキングを降りたルーカスとブローベルは、此方へと駆け寄って来る1人の青年を見つけ、互いにチラッと笑みを交わし合っていた。

 駆け寄って来た青年は、ルーカスの前に立つとその若草色の瞳を輝かせながら敬礼を取る。

 

「お久しぶりです! シュバルツ少佐!」

 

 青年の第一声に思わずきょとんと目を見開いたルーカスは、次の瞬間には困ったように笑いながら、何とも締まりの無い様子で軍帽越しに頭を掻いて、自分よりも出来の良い『従弟』を見つめる。

 

「とうとうお前からもシュバルツ少佐なんて呼ばれるようになってしまったか……俺としては普段通りに呼んでもらえた方が気が楽なんだが……」

 

 しかし、そんなルーカスとは打って変わって青年はきっぱりと答えた。

 

「いえ、正式にガーディアンフォースの隊員となった以上、公私混同など出来ません」

 

 そんな彼を見て、ブローベルがにこやかに呟く。

 

「流石、シュバルツ博士のご子息ですね。しっかり者でいらっしゃる」

「全くだ。俺よりも真面目でしっかり者な、よく出来た従弟だよ……」

 

 若干面倒臭そうに小さな溜息を吐いたルーカスだったが、次の瞬間、まるでスイッチを切り替えるかのように真剣な表情を浮かべると、青年へ答礼を返し祝辞の言葉を述べた。

 

「クルト=リッヒ=シュバルツ一級工学博士。ガーディアンフォースへの正式配属、謹んでお祝い申し上げる。その知識と技術が帝国、並びに共和国の平和維持に如何無く発揮される事を我々も願っている。平和維持を担う治安の要として、どうかその責務を全うして欲しい」

「はっ!」

 

 形式ばった言葉を交わし合った直後、ルーカスとクルトはクスッと笑い合う。

 ルーカスの父親、カール=リヒテン=シュバルツ元帥の弟であるトーマ=リヒャルト=シュバルツ博士の息子……それがこの青年、クルト=リッヒ=シュバルツ一級工学博士だ。

 ヴァシコヤードアカデミーを卒業後、帝国軍の特殊訓練プログラムを経て本日正式にガーディアンフォースに配属となった彼は、その若草色の瞳をきょとんと瞬かせた後、ルーカスに訊ねた。

 

「ところで、本日は何故こちらに? お見えになるとは聞いておりませんでしたが……」

「ああ。そうか。お前にはまだ連絡が入っていないんだったな」

 

 ルーカスがそう呟いた直後、ホエールキングの口腔ハッチが開き始める。

 彼は笑みを浮かべて開き始めた口腔ハッチを振り返りながら、何処か得意げにクルトへ語り掛けた。

 

「実は本日、急遽お前と共に配属となる若者を2名……いや、2名と1頭と1機か。連れて来たんだ」

「2名と1頭と1機??」

 

 怪訝そうな声を上げたクルトは、直後、姿を現したゾイドを見上げ絶句した。

 

「こいつはッ……」

 

 彼が絶句するのも無理はないだろう。自身の足でゆっくりとホエールキングの口腔ハッチから姿を現したのは、世界中を騒がせているあの鷲型ゾイドなのだから。

 ネットで拡散された写真なら勿論クルトも目にした事があるが……それでも、実物を実際に目の当たりにした衝撃は、工学博士であるクルトにとってはより鮮烈で、まさにインパクトの塊であった。

 バルカン砲を装備していながら実物の鳥と同じように綺麗に折りたたまれた翼は、複雑で繊細な機構部と高度な構造計算の元に設計されているのが一目で解る。それだけでも十分目を奪われるが、その巨大な翼を折りたたんだままでもふら付くことなく悠然と滑走路へ歩み降りて来た姿を見た以上、脚部の駆動系と胴体内に搭載されているであろう姿勢制御機構の構造にも思いを馳せずにはいられない……今まで学んで来た技術だけでは到底分析出来ない未知の機体を見上げ、クルトは思わず感嘆の溜息を吐いた。

 

「すごい……こんなに緻密かつ優美に設計されたゾイドは見た事が無い……」

「お前なら、そういう反応をするだろうと思っていたよ」

 

 ブレードイーグルに目を奪われたまま立ち尽くすクルトの隣で、ルーカスが可笑しそうにくすくすと笑う。

 そんな彼らの前で、不意にブレードイーグルのキャノピーが開き、シートベルトを外したカイが身を乗り出すようにルーカスへと呼びかけた。

 

「ルーカス兄ちゃん! イーグルは何処に連れてけば良いんだ??」

「ルーカス兄ちゃん?!」

 

 突如として姿を現した見ず知らずの少年が親し気に従兄を呼んだ事に、クルトが驚きの声を上げてルーカスとカイを交互に見やる。その声にカイも初対面のクルトに気付き、更に追い打ちを掛けるかのように訊ねた。

 

「なぁ! そいつ誰??」

「初対面でいきなりそいつ呼ばわりとは失礼な奴だな! 礼儀を知らんのか!! 俺は本日付けでガーディアンフォースに正式配属される事になったクルト=リッヒ=シュバルツだ!!」

 

 憤慨した声を上げるクルトを眺め、カイは思わずげんなりとした表情を浮かべる。

 

「あったま固そうな奴だなぁ……苦手なタイプだ……」

 

 クルトに聞こえないようボソッと呟くカイに、更にクルトが真っ直ぐ此方を指差して噛み付くように声を荒げる。

 

「お前こそ一体何者なんだ! おい! 聞こえているのか?!」

 

 何がそこまで気に食わないのやら……と、思いながら、カイは面倒臭そうにコックピットの縁に頬杖を突いてクルトを見つめると、何処か小馬鹿にした様子で口を開いた。

 

「人を指差しちゃいけません。ってママに教わってねーのか? 礼儀がなってねーのはどっちなんだか」

「ぐっ……」

 

 カイの言葉に、指差していた手を下ろして尚、クルトはカイを睨み上げる。

 

「で?! お前は一体何処の誰なんだ! 名前くらい名乗ったらどうだ?!」

「お前それ、人に物を訊く態度じゃねーんじゃねーの??」

「お前こそ生意気が過ぎるぞ! 少しはこちらの質問にも答えろ!!」

 

 懸念していた通り、いきなり一触即発と言わんばかりの状態になったカイとクルトを交互に見つめ、ルーカスは気怠げな表情を隠そうともせずに大きな溜息を吐く。

 

「やれやれ困ったな……お互いの第一印象最悪じゃないか……」

 

 思わずボソッと呟けば、ブローベルも苦笑を浮かべて頷いた。

 

「確かに……控え目に言って、相性は良くなさそうですね」

「せめて任務中に喧嘩しなければ良いんだがな……」

 

 そんなやり取りをしていた矢先、不意にシーナがコックピットの後部座席からシートベルトを外して身を乗り出すように姿を現し、カイとクルトを交互に見つめる。

 

「あの! 喧嘩は良くないと思う……んだけど……」

 

 若干申し訳なさそうに尻すぼみになっていくその声に、クルトは姿を現した可憐な少女へ視線を移し目を見開く。

 タイミングを見計らったかのように吹いて来た風が少女の桜色の長髪をサラサラとなびかせる様は、まさに映画のワンシーンのようにクルトの瞳に焼き付き、彼は言葉を失ったままぽかんとその姿を凝視していた。

 一方のカイはシーナに釘付けになっているクルトを怪訝そうな顔で眺めており、シーナは喧嘩が止まった事でホッとしたのか、いつもの無邪気な声でクルトへ話し掛けた。

 

「ねぇ! 貴方もガーディアンフォースの人なの?」

「は、はい! 自分は本日付で配属になりました! クルト=リッヒ=シュバルツ一級工学博士です! あの!! あ、貴女のお名前は?!」

 

 若干しどろもどろに受け答えるクルトに、シーナは花のような笑顔で笑いかけた。

 

「私、シーナっていうの。こっちはカイ。私達も今日からガーディアンフォースでお仕事するの。これからよろしくね。クルト」

「は、はい!! 是非! よろしくお願いします!!」

 

 若干頬を赤らめつつ返事をするクルトの様子に、ルーカスはブローベルと視線を交わした後、呆れを含んだ苦笑と共にボソッと呟いた。

 

「……心配、なさそうだな」

「そのようですね……」

 

 喧嘩を鎮めてくれたシーナに感謝しつつ、ルーカスは面白くなさそうに頬杖を突いたままシーナとクルトを交互に眺めているカイへ呼びかけた。

 

「カイ! イーグルはあっちの第三格納庫に連れて行ってくれ。ストームソーダーの隣を空けて貰っている」

「わかった!! 行こうぜ。シーナ」

「うん! じゃぁ、また後でね! クルト!」

「は、はい! また後程!!」

 

 笑顔でぱたぱたと手を振って後部座席に座り直したシーナと、そんなシーナに向かって目を輝かせながら手を振り返したクルトを最後にもう一度チラッと見て、カイは操縦席に座り直し、キャノピーを閉めながら小声で刺々しく吐き捨てるように呟いた。

 

「けっ。女と見りゃ鼻の下伸ばしやがって。ムッツリスケベかっつの」

「キュルルッ」

 

 そんなカイの独り言に、まるで「まったくだ」と相槌を打つかのようにイーグルが何処か呆れた様子で咽を鳴らすような声を上げる。

 イーグルを指示された第三格納庫へ歩かせながら、カイはせめて他のメンバーが話の通じるまともな人間である事を願うのだった。

 

   ~*~

 

 第三格納庫にイーグルを預けたカイ達は、格納庫で待っていたガーディアンフォースの『専属開発整備班』の総合主任を務めているというトーマ=リヒャルト=シュバルツ博士の案内で基地のメインブロックへと歩き出す。

 その道中で、人の好さそうなトーマの息子が先程のクルトであると知ったカイは驚いたような声を上げた。

 

「パッと見た時、似てるな~とは思ったけど……まさかあの堅物が整備班の総合主任の息子だったなんてなぁ~……やっべ~……俺、初日でクビになったりして……」

「はははは! まさか! その程度でクビになるならば、私など既に100回はクビになっているだろう。その心配は無いから安心してくれ」

 

 愉快そうに笑うトーマに、シーナが首を傾げる。

 

「でも、シュバルツ博士ってそんなに怒りっぽい人には見えないけど……」

「年を取れば、並大抵の事では腹が立たなくなるというだけの話さ。私もクルトと同じ年の頃は随分と未熟で、くだらない事でしょっちゅうバンを怒鳴り回していたよ。毎度毎度、軽くあしらわれて終わりだったがな」

 

 懐かしむかのように語るトーマへ、カイが興奮した様子で話題に飛びついた。

 

「なぁなぁ! バンってまさか、あのバン?! 英雄バン=フライハイト大佐の事?!」

「ああ。勿論」

「すっげー! じゃぁ、あの大英雄に怒鳴り回してたって事は、シュバルツ博士ってもしかして、フライハイト大佐の先輩だったりすんの?」

「いや、バンと私はガーディアンフォース創設時の共和国代表と帝国代表。同じ第1期隊員同士だったんだ」

 

 その言葉に、カイとシーナが顔を見合わせる。

 

「じゃぁ、シュバルツ博士も昔はゾイドで戦ってたの?」

 

 シーナの質問に、トーマは陽気な笑い声を上げながら得意げに語った。

 

「一応、今でも人手が足りなければ臨時戦闘員として前線に立つぞ。ブレードイーグルの隣にストームソーダーが1機あっただろう? あれが私の現在の愛機だ。かつての愛機だったディバイソンは、クルトの正式配属が決定した時に配属祝いとして譲り渡したからな」

「譲り渡したって……今までずっと一緒に戦って来た大切な相棒なんだろ? なのになんで……」

 

 不思議そうに訊ねて来たカイに、トーマは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「数々の死線を共に潜り抜けて来た大切な相棒……だからこそさ。ディバイソンは敵の集中砲火を浴びても、荷電粒子砲の直撃を受けても私の命を守ってくれた頑丈な機体だ。今まで自分の命を預けて来たディバイソンだからこそ、これから前線に立つ息子の命だって安心して預けられる。それに、この基地で一緒に過ごす以上、持ち主が変わっても離れ離れになる訳じゃないしな」

「そっか……なんか良いな。そういうの。親の思い出や願いや祈り……そういう物が沢山詰まった機体で前線に立つって、最高のお守りだと思う」

 

 少し大人びた穏やかな声で、カイは呟いた。

 ゾイドに乗る事を終始反対し続けて来た自分の父親とはまるで正反対だ……自分の息子がゾイドに乗るという事を此処まで精一杯後押しするその姿は、カイが憧れる父親像そのものだった。

 ……だからだろうか、あの第一印象最悪のクルトが正直羨ましくてしょうがない。

 

「着いたぞ。此処がメインブロックの第一会議室だ」

 

 トーマの声にふと我に返ったカイは、案内されるままシーナ、ユナイトと共に第一会議室へ足を踏み入れる。

 室内には既に、ルーカスとクルト……そして金髪に真紅の瞳をした女性が一人、席に着いていた。

 

「叔父上。ご無沙汰しております」

 

 入室したトーマに、ルーカスが席を立って握手を交わす。

 その様子をぼんやり眺めた後、不意にクルトと目が合ったカイは互いにプイッと顔を背け合う。

 カイとシーナ、そしてトーマが席に着いた時点で、自己紹介が始まった。

 

「では、まず改めて自己紹介をしておこう。私はこのガーディアンフォースの専属開発整備班の総合主任を務めるトーマ=リヒャルト=シュバルツだ」

「私は、ガーディアンフォースベースのオペレーター主任を務めている、フィーネ=エレシーヌ=フライハイトです。よろしくね」

 

 女性はそう自己紹介すると、不意にシーナへと微笑みかける。

 その優しい微笑みに、シーナも思わず微笑み返すが、ルーカスが後を引き継ぐように言葉を続けた。

 

「では、新入隊員の3人もそれぞれ自己紹介を」

 

 その言葉に、先に席に着いていたクルトから自己紹介を始める。

 

「自分は、クルト=リッヒ=シュバルツと言います。登録機はディバイソン。一級工学博士として専属開発整備班の一員として従事する傍ら、前線での後方支援を担当させて頂きます。どうかこれからよろしくお願いいたします」

「えっと、カイ=ハイドフェルドです。孤島の遺跡で見つけた古代ゾイドのブレードイーグルと一緒に入隊する事になりました。これからよろしくお願いします」

「シーナです。カイと一緒にブレードイーグルに乗ってて、あと、この子はユナイト。まだこの時代の事とか、色々知らない事だらけだから、これからよろしくお願いします」

 

 一通りの自己紹介が済んだ時点で、最初に声を上げたのはクルトだった。

 

「えっと……ではその……つまり、オーガノイドを連れていらっしゃるという事は……」

「うん。私、古代ゾイド人なの」

「グオグオ」

 

 シーナの言葉に、クルトが目を丸くして彼女とユナイトを交互に見つめながら独り言のようにポツリと呟いた。

 

「2名と1頭と1機の1頭は、オーガノイドの事だったのか……」

「ああ。驚いただろう?」

 

 なんでも無さそうにフッと笑うルーカスに、クルトは無言で苦笑を浮かべる。

 その向かいの席で、フィーネが書類を取り出しながらシーナへ優しく声をかけた。

 

「これから入隊の為に必要書類をいくつか記入してもらう事になるけれど、もし、現代語の読み書きがまだ出来なかったら、記入は古代語でも大丈夫だから心配しないでね」

「え……でも、古代語で書いちゃったら読めないんじゃ……」

 

 戸惑った様子のシーナに、トーマがにこやかに説明する。

 

「フィーネさんは、君と同じ古代ゾイド人なんだ。記入言語が古代語でも、後できちんと現代語に翻訳しておいてくれるから安心してくれ」

「え?! フィーネさんも古代ゾイド人なの?! でも、じゃあ、フィーネさんのオーガノイドは?……」

「私のオーガノイドは、普段夫と一緒に任務に行ってるの。名前はジーク。基地に戻って来た時にまた改めて紹介するから、その時はユナイトも仲良くしてあげてね」

「グオ!」

 

 同じ古代ゾイド人やオーガノイドが居ると解って嬉しそうなシーナとユナイトを眺め、カイもホッと安堵する。

 

(良かった……この様子なら、シーナもすぐに打ち解けられそうだな)

 

 そう思いながら、彼も早速配られた書類の記入を始めた。

 

   ~*~

 

「まさか私以外にも古代ゾイド人の人が居るなんて、ビックリしちゃった」

「ふふ。そうね。私も会えて嬉しいわ。丁度息子達と年も同じくらいだし、なんだか娘が出来たみたい」

「えへへ」

 

 書類の記入を終え基地内を案内してもらいながら、シーナは案内役のフィーネと笑顔で話し込んでいた。

 だが、和気藹々(わきあいあい)としているその後ろを歩いているカイとクルトはと言えば……相変わらずギスギスとした空気が漂っており、全く仲良くなる気配が感じられない。

 

「まさかお前が、3年間も行方不明だったハイドフェルド大佐の息子だったとはな……」

「どうせ親不孝者だの、ツラ汚しの放蕩息子だの言いたいんだろ。安心しろよ。自覚くらいあっから」

「自覚があるなら、大人しく家に戻れば良かっただろう。ガーディアンフォースの任務はアマチュアゾイド乗りがこなせる程、甘くはないぞ」

「こちとら家庭の事情ってもんがあるんだよ。任務ぐらい根性でどうにかしてやる」

「ハッ……」

 

 嘲るようなクルトの短い笑い声に、カイは思わずクルトを睨み上げた。が、涼しい顔で歩きながら目も合わせようとしない彼に、カイは苛立ちを吐き出すような短い溜息を一つ吐いてぷいっと窓の外へ視線を移し、歩き続ける。

 

(ったく、こんな時に限ってルーカス兄ちゃんはシュバルツ博士と話がある。っつっていなくなっちまうし……今日は基地の案内と宿舎への私物の搬入だけ……つまりほぼ一日中この堅物と一緒って事だもんなぁ。とっとと案内終わんねーかなぁ……)

 

 思わずそんな事を考えてしまう。

 一般人がまず踏み入る事の無い、国際平和維持特殊部隊ガーディアンフォースの本部基地……その中を案内して貰えるなんてわくわくしてしょうがない事の筈なのに、純粋に楽しめないのが何とも恨めしい。

 だが、そんな暗い気分の時に限って時間とは意地悪にゆっくりと進むものだ。

 作戦会議室、オペレータールーム、トレーニングルーム、食堂、レストルーム、医療ルームとそれに付随する基地内病棟……その途中に度々入る非常口やお手洗いの説明の度に「見りゃわかるっつーの」と内心で毒を吐く自分が何とも情けなく、惨めだった。

 

(ホント……俺、上手くやって行けんのかな……)

 

   ~*~

 

「こっちの通路は、それぞれ第一格納庫から第三格納庫まで繋がっているの。第一格納庫には普段、バンのブレードライガーとレイヴンのジェノブレイカーが居るんだけれど、今は視察で留守にしているから、今日は第二格納庫と第三格納庫だけ案内するわね。丁度、訓練を終えて他の隊員も帰って来てる筈だから、ついでに紹介するわ」

 

 フィーネがそう言いながら、第二格納庫へ出る扉を開く。

 格納庫内には、ディバイソンと青いジェノブレイカー……そして、見た事のない白いライオン型ゾイドが静かに佇んでおり、その周囲を整備班の作業員と思われるツナギ姿の人々がせわしなく行き来していた。

 

「このゾイド……新型……なのか? 見た事が無い……」

「ああ。ライガーゼロっていうんだ。俺はゼロって呼んでる」

 

 独り言のつもりで呟いた言葉にまさか返事が返って来るなどと思っていなかったカイは、思わず声の主を探してキョロキョロと辺りを見渡す。が、周囲にそれらしい人物は誰も居ない……

 しかし、声の主には辺りを見渡して首を傾げているカイの姿がバッチリ見えているらしい。

 

「こっちこっち! 上だよ! 上!」

「上??」

 

 不思議そうに顔を上げたカイの視線の先……ライガーゼロと呼ばれた機体のコックピットから、不意に誰かがカイの目の前へと真っ直ぐ飛び降りて来る。

 思わずぶつからないようにと一歩身を引いたカイの前に降り立った声の主は、なんでも無さそうにニッコリとカイを見つめて握手を求めるように手を差し出した。

 

「お前、昨日配属が決まったっていう鷲型ゾイドのパイロットだろ? 俺はレンって言うんだ。お前は??」

「お、俺はカイ。カイ=ハイドフェルド。よろしく……」

 

 至ってフランクなレンの態度に若干拍子抜けしつつ、カイは握手に応じる。

 身長も、体格も……そして恐らく年齢も、自分と大して変わらない。

 ごくごく普通の少年にしか見えないレンを見つめ、カイは目を瞬かせた。

 

(ルーカス兄ちゃんが言ってた、俺と同い年の隊員って……もしかしてコイツ??)

 

 だが、ぽかんと考え事をしているカイなどお構い無しに、レンは嬉しそうに話しかけて来る。

 

「なぁなぁ! カイはいくつなんだ?? 多分俺とあんまり歳変わんねーよな??」

「え?! えっと、まだ16だけど、来月で17」

「マジで?! 俺も7月で17!! 同い年じゃん! つーか来月誕生日って、何日??」

「に、24日……」

「よっしゃ! じゃぁそん時はパーッと騒ごうぜ!!」

「お、おう……」

 

 初対面でこんなに隔たり無くグイグイと話し掛けて来るタイプの人間とはあまり縁が無かったせいで、カイはレンに対して戸惑いを隠しきれず、ぶっきらぼうな返事しか出来ない。

 そんなカイの様子に気付いたのか、フィーネが苦笑を浮かべながらレンへ声を掛けた。

 

「レン。カイが困ってるから、もう少し静かに話してあげて」

「お? なぁ~んだ。母ちゃんが案内してたのか。格納庫に居るもんだから、てっきりシュバルツ博士が案内してんのかと思ったぜ」

 

 レンの口からサラリと飛び出した言葉に、カイは思わず目を丸くする。

 フィーネの名前は確かフィーネ=エレシーヌ=フライハイトだった筈だ……その息子という事はつまり……

 

「え、フライハイト主任の息子って事はえっと……レンの父ちゃんってまさか……」

「ん? ああ。そうだよ。父ちゃんの名前はバン=フライハイト」

「マジで?! 大英雄じゃん!!」

 

 まさか目の前に居るのがあの大英雄の息子とは……恐らくどんなに有名な芸能人の息子に会うよりも凄い事だ。

 まぁ仮にそうでなくとも、自分と同じ年齢でガーディアンフォースの隊員を務めている。という時点で普通の少年な訳がないが……一瞬でも「自分とあまり変わらない」などと考えたのは淡い幻想だった……

 しかし、そんなカイにレンは困ったように頭を掻きながら苦笑を浮かべる。

 

「あ~ヤベ。言っちまった……父ちゃんの事言うと絶対皆そういう反応するんだよなぁ……英雄の息子だからって遠慮しちまうのか、俺、同年代の友達なかなか出来なくて正直困ってんだけどさ~……」

「……じゃぁ、さっき名前名乗った時にファーストネームしか言わなかったのって……」

「そ。ファミリーネームまで名乗っちまったら一発でバレちまうだろ?? だから任務以外の時はファーストネームしか名乗らねーようにしてんだ」

 

 レンのその言葉に、カイもふと家出する前の日常を思い出す。

 自分も父親が帝国軍の大佐をしている。というだけで、学校では妙に敬遠されクラスで浮いていた……恐らくレンはもっと苦労しているのかもしれない。そう思うと、先程まで感じていた隔たりじみた気後れがふと和らぐ。

 

「そっか。レンも苦労してんだな」

「も?……って??」

「俺もさ、学校通ってた頃は親父が帝国軍の大佐なんかやってるせいで、友達ロクにいなかったから……ちょっとだけレンの苦労解るような気がしてさ……」

「カイ……」

 

 自然とお互いに笑い合うカイとレン……だが、その後ろから不意に若干呆れたような声が響いた。

 

「……で? 俺への反応は無しか? レン」

 

 声の主は勿論。クルトである。

 いちいち面倒臭い奴だなとカイが内心毒を吐く目の前で、レンは全く嫌な顔をしないどころか、悪びれる様子も無くあっけらかんと笑いながら口を開いた。

 

「だってお前が今日入って来るのは前から知ってたし、やっぱ初対面の奴の方が気になるじゃねーか。どんな奴なんだろうなー? とか、友達になれっかなー? とかさ」

「浮かれるのも結構だが、おめでとうの一言くらい期待してもバチは当たらないだろ??」

「おう。正式配属おめでと」

「死に物狂いで訓練受けてやっと入隊して来たというのに……言うのが遅いんだこの馬鹿! こうしてくれる!!」

「ちょ?! 何すんだよぉ~!! 俺一応訓練上がりで疲れてんだぞぉ~?!」

 

 クルトにヘッドロックを掛けられレンがじたばたと騒ぐが、クルトもレンも互いに楽しそうで、親し気な雰囲気なのが一目でわかる。

 

「レンとクルトって……知り合いなのか?」

 

 若干遠慮がちに訊ねるカイに、レンがクルトの腕から抜け出して答えた。

 

「ああ。父ちゃんとシュバルツ博士がどっちもガーディアンフォースで働いてるから、俺達幼馴染なんだ。あともう一人、向こうの青いジェノブレイカーのパイロットやってるエドガーって奴もそう」

「エドガー??」

 

 レンの言葉に、カイはようやく青いジェノブレイカーの方へ視線を向ける。

 ライガーゼロの隣に佇む青いジェノブレイカー……その足元に立っていたのは紺色のパイロットスーツに身を包んだ薄墨色の髪の少年。しかも、青いオーガノイドを連れており、シーナとユナイトの2人と何やら話し込んでいた。

 

「青いオーガノイド……もしかして、あいつも古代ゾイド人なのか??」

「いや。スペキュラーはエドの母ちゃん……オペレーターのリーゼさんのオーガノイドなんだ。ジェノブレイカーは機体性能が良すぎて脅威になりかねないからってんで、普段リミッター掛かってるからさ、訓練や任務の時は、必要に応じてスペキュラーにリミッターを解除してもらってるんだ」

 

 その言葉に、オペレータールームへ案内された際に紹介されたリーゼの姿が頭を過る。

 

「マジかよ。あの人も古代ゾイド人だったのか……」

「そ。だから俺とエドは現代人と古代ゾイド人のハーフなんだ。おーい! エドぉ~!!」

 

 レンはなんでも無さそうに笑いながら答えると、シーナと話していたエドガーを呼んだ。

 呼ばれたエドガーはスペキュラーとシーナ、ユナイトと共に此方へ小走りに駆けて来ると、無言のままカイとクルトを交互に眺め、不意にカイへ握手を求めるように手を差し出した。

 

「君がカイか。僕はエドガー。これからよろしく」

「え……なんで俺の名前……」

 

 自己紹介をしてもいないのに名前を呼ばれ、戸惑うカイにエドガーはクスッと笑う。

 

「さっき向こうで、シーナとユナイトから聞いた」

「そっか。よろしくな。エドガー」

 

 握手を交わした後、エドガーはクルトへ向き直って笑いかけた。

 

「配属おめでとう。クルト。やっとこれでまた3人揃ったな」

「良かった……お前はレンと違って俺の事忘れないでいてくれたか……」

「おいおい。別に俺だって忘れてた訳じゃないぜ?? ちょこっと後回しにしただけで」

「それが地味に酷いと言っているんだ!」

 

 クルトの言葉にレンとエドガーから笑い声が上がり、一拍遅れて、カイとシーナも互いに顔を見合わせてクスッと笑い合う。最初はどうなる事やらと思っていたが、この面子ならどうにか上手くやって行けそうだ。

 

「後は第三格納庫へ寄ってブレードイーグルから荷物を降ろして来ましょう? そうすれば後は隊員宿舎の部屋に案内して今日は終わりだから」

「ああ!」

「うん!」

 

 フィーネのその言葉にカイとシーナが頷くと、一同は揃って第二格納庫を後にした。

 

   ~*~

 

「よし。こんなもんかな」

 

 自室として案内された隊員宿舎の104号室……そこで今しがた荷物の片づけを終えたカイがドサッとベッドに腰かけて室内をぐるりと見渡す。

 オフホワイトで統一された部屋は圧迫感こそないものの、少々無機質で落ち着かない。

 おまけにスカーレット・スカーズに一度私物を全て駄目にされた事と、収納スペースの無いイーグルで旅をしていた事も相まって、現在自分の私物は必要最低限の物ばかりだ。お陰で着替えを仕舞ったクローゼットはほぼ空に等しく、野営に使っていたアウトドア用品は全てベッド下の収納に呆気なく収まり、残りの細々とした日用品も机の引き出しの中。という状態である。

 つまり、この少々無機質な部屋の中で目に留まる自分の私物と言えば、ベッドの枕元のコンセントに繋いだ小型タブレットの充電器と、机の上に置かれた愛用のウエストバッグ……そして最も収納場所に悩んだ結果、机の端に無造作に置かれた金属マグとその中で大人しくしている歯ブラシだけ。

 

「私物少な過ぎて……なんだかちょっと良い牢屋みてーな感じだな……」

 

 思わず呟いた言葉に自分で苦笑してしまう。

 流石に牢屋呼ばわりは酷過ぎだ。せめて宿のシングルルームくらいにしておこう……もっとも、ユニットバスが付いていない分、この部屋の方が広くて快適なのは間違いないが。

 トイレは隊員宿舎の各階の突き当り。シャワールームとランドリールーム、洗面台は1階にある。基地内には売店もあるし、休日には普通に外出も可能……もう少し私物を増やして部屋を快適にしさえすれば、生活面での不自由は特に無さそうだ。

 

「明日から訓練……訓練かぁ……」

 

 ベッドに腰かけたまま、後ろへ倒れ込むように体を投げ出す。

 天井のLED照明をぼんやりと眺めながら、カイは明日から始まる訓練の事をふと考えた。

 同期隊員とはいえ、クルトは既に軍での訓練を終了している為、明日からは通常勤務らしい。

 一方の自分はと言えば、我流で覚えたゾイドの操縦技術を基礎からもう一度訓練し直す所から……シーナもオペレーターとしての技能を学ぶ傍ら、現代語の勉強などに追われる事になる。

 自分達でシーナの空白の記憶を探す暇は暫く無くなってしまうが、代わりに自分達が訓練に明け暮れている間、ガーディアンフォースと国際考古学連盟の方で過去の遺跡資料などにシーナやアレックス、ブレードイーグル達の記録がないかどうか調べておくので、何も心配せず訓練に集中して欲しいとの事だった。

 

(俺みたいな一般人のアマチュアゾイド乗りに随分と至れり尽くせりだなと思ってたけど……よくよく考えてみりゃ、俺の為じゃなくて全部シーナ達の為だよな。これって……)

 

 ふとそんな事を考えて、カイは暗い気持ちになる。

 古代ゾイド人もオーガノイドも、そして古代ゾイドも……自由にしておけば狙う者が後を絶たない上に、最悪の場合、国家間の新たな争いの火種にもなりかねない。実際に帝国と共和国の間で長年起きていた戦争ではオーガノイドや古代ゾイド人を巡る戦闘も起きていた……

 シーナが自分と離れ離れになるのを嫌がっていた事はルーカスも知っている。下手に引き離してしまえば、折角保護してもシーナがブレードイーグルとユナイトを引き連れて、飛び出して行ってしまう可能性があると考えるのは妥当な判断だろう。

 ならば戦闘員としては大して使い物にならないとしても、シーナが安心してガーディアンフォースに留まり続ける為の『理由』としての利用価値が自分にはある……いや、寧ろそうでもない限り、自分のような大した操縦技術も持たないアマチュアゾイド乗りをわざわざガーディアンフォースへ推薦した理由も、ガーディアンフォースがこんな異例の入隊を承諾した理由も、説明が付かない。

 兄のように慕っているルーカスが、シーナとガーディアンフォースを繋ぐ鎖として自分を利用したとは考えたくないが……

 

「……まぁ、空を飛び続ける事が出来るだけで、俺は充分だけどさ……」

 

 悶々と考えていても仕方がない。

 クルトはいまいち気に入らないが、少なくともレンやエドガーとは上手くやって行けそうであるし、トーマやフィーネをはじめとする基地職員達も良い人ばかりだ。

 それに、訓練など受けた事は無いにしても、家出してからシーナと出会うまでなんだかんだ切り抜けて来ただけの強運が自分にはある。体力と、ザクリス仕込みの射撃の腕にもそこそこ自信がある。

 

「訓練くらいどうにかしてやる……意地でも……」

 

 ポツリと呟いて、カイはそっと目を閉じた。

 ならず者達に追われ続けた一週間分の疲労と、ガーディアンフォースへの入隊に対する不安や緊張による気疲れ、そして今日一日分の疲れに追い打ちを掛ける、ふかふかのベッドという細やかな安心感……

 カイはそのまま、微かな寝息と共に静かに眠りに落ちていった。

 

   ~*~

 

 一方、第三格納庫ではトーマとルーカスがキャットウォークからブレードイーグルを眺めて話をしていた。

 

「それにしても、今回はまた随分と勝手をしたな。兄さんに怒られるぞ」

「心配ありません。昨夜既に1時間近く説教を喰らったばかりです」

 

 悪びれる様子もなく答えるルーカスに、トーマが苦笑を浮かべる。

 彼はブレードイーグルを見つめて囁くように呟いた。

 

「まさかデスザウラーやウルトラザウルス以外にも古代ゾイドが現存していたとは驚きだ。しかも明確な自我があり、性能も未知数とは……また随分扱い辛いゾイドをウチに押し付けてくれたな」

「ガーディアンフォースと叔父上だからこそですよ。此処より安全な場所はありません。ブレードイーグルを狙っている者はフォルトナーだけではありませんから……」

 

 何処か含みのあるその言葉に、トーマはチラリと甥の横顔を眺める。

 ルーカスのアイスブルーの瞳は、微かに憂いを帯びた光を宿してブレードイーグルを見つめていた。

 その様子にトーマは軽く溜め息を吐き、声を潜めて口を開く。

 

「……例の正体不明の犯罪集団と、リューゲン公爵家の不穏な動きか……」

「ええ……」

「お前の考えでは、あの正体不明の犯罪集団とリューゲン公爵家が裏で繋がっていると?……」

「恐らく……今回ブレードイーグルを保護した際、リューゲン大佐率いる第四装甲師団も姿を現しました。ですが決定的な証拠は依然掴めないままです。どうやらあちらも俺を随分と警戒しているらしくて……」

 

 普段の気怠げな表情ではなく、はっきりと疲れの色を滲ませてルーカスは呟く。

 トーマはそんな甥を心配げに眺めると、キャットウォークの手摺りに背を預けて励ますように優しく言った。

 

「お前も辛いな……リューゲン公爵家の裏を探り始めてもう6年か……」

「俺はまだ楽な方ですよ。軍に居れば制約は多いが、代わりに父上の庇護がある。だがアイツは……ザックは自由になった代わりに守ってくれる者が誰もいない……」

 

 ルーカスの脳裏には、士官学校時代の親友の姿が思い浮かんでいた……

 追い詰められていた彼を自由の身にしたのは良いが、結果として彼から何もかもを奪ってしまった……それを後悔していないと言えば嘘になる。本当にそれが正しい判断だったのかと、今でも思い悩んだままだ。

 だからこそ、親友を縛る忌々しい呪縛を暴き解く為にリューゲン公爵家の裏を探り続けている。

 それがどんなに危険かわかっていても……

 

「それにしても……ハイドフェルド大佐がよく許可を出したな」

「あぁ……カイの事ですか」

 

 ふと話題を変えるように明るく訊ねて来たトーマに、ルーカスが苦笑を浮かべる。

 カイをガーディアンフォースへ推薦し、承認された事を説明した際のハイドフェルド大佐の苦々しい表情を思い出しながら、ルーカスはそれでも何処か誇らしげに語った。

 

「まぁ……ハイドフェルド大佐も薄々はこうなるであろう事を覚悟していたという事でしょう。どちらにせよ、本来の主であるシーナ以外に、この未知のゾイドに認められたパイロットはカイだけです。此処で少し訓練を積めば、あの子は化けますよ」

「そうは言うが……いくらハイドフェルド大佐の息子と言っても、あの子は一般人だ。ガーディアンフォースで他の者達と肩を並べられるようになるには随分掛かると思うがな……」

 

 心配そうなトーマの言葉に、ルーカスはクスクスと笑い声を上げる。

 

「ただの一般人が、3年間も行方を眩ませたまま情報屋として飛び回っていられると思いますか?」

 

 ルーカスの一言に暫し沈黙した後、トーマはそっと口を開いた。

 

「……成程……確かに警察や憲兵の捜索の手を掻い潜って来た実績は十分ある」

「ええ。大の大人でも難しい事を、彼は家出した14の時からやってのけた。おまけにこんな自我の強いゾイドに認められ、粗削りながらも乗りこなせている。特殊部隊の隊員としてやっていけるだけの素質は十分だと思いますよ。あの子は頭もキレるし勘が良い。まぁ、少々頭がキレ過ぎて物事を深く考えすぎる傾向もありますが……任務に出るようになれば、その用心深さと勘の良さは彼の武器になるでしょう」

 

 そこまで語ると、ルーカスは明るい表情で叔父を見上げて訊ねた。

 

「そういえば、現在この基地で飛行ゾイドを扱えるのは叔父上だけですよね? 彼の操縦訓練は叔父上が教官ですか??」

「ああ。暫くはな。だが俺もライガーゼロ-プロトの調整やCASユニットの開発改修で忙しい身だ。近々都合を付けて、共和国から有能な人材が指導役として派遣される事になっている」

 

 肩を竦めて見せたトーマに、ルーカスは安堵の笑みを浮かべてそっと呟いた。

 

「どうか、カイをお願いします。叔父上」

「ああ。出来る限りの事はさせてもらおう。任せてくれ」

 

 トーマの言葉に、ルーカスは小脇に挟んでいた軍帽を被り直す。

 若干気怠げな様子に戻りながら、彼は敬礼して告げた。

 

「では、自分はこれで失礼します……いい加減戻らなければ」

「ああ。引き留めて悪かったな。気を付けて」

 

 キャットウォークの階段を降りて行く甥の背中に、ふとトーマは声を掛けた。

 

「ルーク!!」

 

 身内や親しい者からしか呼ばれないその愛称にルーカスがハッと振り返れば、そこにはシュバルツ博士としてではなく、叔父として優しい笑顔を浮かべたトーマが居た。

 

「あんまり無茶ばっかりやるんじゃないぞ」

「……わかってるよ。父さんの言う事は聞かなくても、叔父さんの言う事を聞かなかった事はないだろ?」

 

 形式ばった口調ではなく、子供の頃のような口調でそう言って、ニヤッと笑ったルーカスはそのまま第三格納庫を後にして滑走路に駐機されているホエールキングへと駆けていく。

 トーマは、そんな甥の後ろ姿が見えなくなるまでずっと優しい眼差しを向けていた。

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