ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第16話-新しい仲間-

 ガーディアンフォースベースで3年ぶりに母さんと再会した。

 とりあえず母さんもリズも元気そうで何よりだ。

 なんかクルトもちょっと態度改める気になったみたいだし……

 あとはレンとエドガーが早く任務から戻って来てくれると良いんだけどな。

 [カイ=ハイドフェルド]

 

[ZOIDS-Unite- 第16話:新しい仲間]

 

 爽やかな朝の日差しに照らされた荒野を、ゾイドが2機……連れ立って歩いている。

 レンのライガーゼロ-プロトとエドガーの青いジェノブレイカーだ。

 ウエストサイドコロニーでの任務を終え、ヘルトバンのガーディアンフォースベースへの帰路に付いた2人だったが、レンは、ライガーゼロのコックピットで思考を巡らせるように無言で眉根に皺を寄せていた。

 そんなレンの様子を察したのだろう。エドガーがふと通信越しに声を掛ける。

 

「後味の悪い任務だったな……大丈夫か?」

 

 その言葉に、レンは悲し気な顔で呟いた。

 

「……俺は、お前みたいにゾイドの言葉が分かる訳じゃねーから、まだマシだよ……俺よりもエドの方が辛かったろ? 今回の任務……」

「……まぁ……な。救ってやれるものなら、救ってやりたかった……」

 

 暗い声でそう返事を返したエドガーに、レンは溜息を一つ吐くと、メインモニター越しの空を見上げる。

 どんなに後味の悪い任務をこなした後でも、朝は必ず巡って来る……自分達の暗い気持ちなど知りもしないで澄み渡る空が、その無情さを更に掻き立てているようで何ともやるせない。

 

「母ちゃん達には今朝通信で報告上げてるけど、ベースに帰ったら報告書まとめねーとなぁ……」

「言うな……余計気が重くなる……」

「わりぃ……」

 

 そのまま気不味い沈黙に包まれて、2人はベースを目指す。

 そんな彼らを乗せているライガーゼロとジェノブレイカーの表情も、何処か悲し気であった。

 

   ~*~

 

 昼過ぎにベースへと到着したレンとエドガーに真っ先に気付いたのは、午後の操縦訓練を始めようとしていたカイとトーマ。そして第二格納庫でもうすぐ到着するライガーゼロ-プロトとジェノブレイカーのメンテナンスの準備をしていたクルトであった。

 

「レン! エドガー!」

 

 5日ぶりにベースへ戻って来た2人に笑顔で駆け寄るカイであったが、自分の相棒から降り立った彼らの表情は暗く、その表情を目の当たりにしたカイもまた、心配そうな表情を浮かべる。

 だが、そんなカイとは対照的にレンは彼の姿を見つけた瞬間、笑顔を作って見せながら明るい声を返した。

 

「よ! カイ! 俺とエドがいねぇ間、クルトと喧嘩とかしなかったか?」

「あぁ……まぁ、色々あって今は停戦協定結んでるけど……」

「お! マジで?! 良かったぁ~。」

 

 ポンポンと景気良くカイの肩を叩くレンの背後から、クルトがおもむろに閉じたままのラップトップで無理に明るく振る舞っている黒髪のツンツン頭を軽く小突く。

 ビクッと身を強張らせて振り返ったレンに、クルトは呆れた表情を隠そうともせず口を開いた。

 

「本当にお前は昔っから変わらんな……何かあると、すぐそうやって無理矢理明るく振舞おうとする。言っておくがバレバレだからな? それ」

「あ~……あはははは」

 

 笑って誤魔化すレンに、クルトはラップトップを小脇に抱え直し、空いた方の手で彼の頭をわしゃわしゃと撫でながら穏やかに呟いた。

 

「今回の任務……何かあったんだろ?」

「まぁ……ちょっと……」

「そうか。どうせこれから臨時ミーティングだろ? 先にミーティングルームに行ってろ。俺達もすぐ行く」

 

 そう言って励ますように軽く背をポンポンと叩いてやれば、レンはそれ以上何も言わずにこくりと一度だけ頷いて小走りに基地のメインブロックへと立ち去る。

 その後ろ姿を心配そうに眺めるカイとクルトの更に後ろから、エドガーが疲れた様子で口を開いた。

 

「レン……相当堪えてるな……」

「エドガー、その……レンの奴、何かあったのか?」

 

 遠慮がちに訊ねるカイに、エドガーは力のない笑みを微かに浮かべて呟いた。

 

「まぁ……小さい頃からゾイドと一緒に育った僕達にとっては、正直かなりキツい任務だった。特にレンは……僕と違ってゾイドの声こそ聞こえないが、人一倍ゾイドに対して優しいから……」

「そっか……」

 

 心配そうにレンの走り去った方向を振り返るカイに、エドガーがそっと声を掛けた。

 

「おそらく朝礼で僕達が帰還したら臨時ミーティングだと聞いてるだろう? 僕達も行こう」

「……あと5分くらい時間置いてからな」

 

 ボソッとそう付け足したクルトにカイとエドガーが歩き出すのをやめて顔を見合わせれば、クルトは困ったように頭を掻きながら面倒臭そうに呟いた。

 

「少しくらいレンに時間をやれと言ってるんだ。言わせるな……」

 

 その言葉にエドガーはハッとした表情でこくりと頷き、カイも、クルトの言わんとする事を察した様子で静かに頷いて見せるのだった……

 

   ~*~

 

 ミーティングルームに集まったカイ達はモニターに映し出されている2人の男性にすぐ気づいた。

 黒髪黒目の男性と、薄墨色の髪に薄紫色の瞳の男性。……初対面であるカイでも、その顔はよく知っていた。英雄バン=フライハイトと、歴史に翻弄された稀代のゾイド乗りレイヴンである。

 

「お。来た来た。」

 

 しかし、バンはミーティングルームに入って来たカイに気付くと、楽し気な笑みと共にそう呟いて気楽に声を掛けて来た。

 

「初めまして……つっても、なんか俺有名になっちまってるっぽいから知ってるかもしれないけど。俺はバン=フライハイト。君がハイドフェルド大佐の息子さんだろ?」

「あ、はい!カイ=ハイドフェルドです!よ、よろしくお願いします。」

 

 いきなり話しかけられてしどろもどろに返事を返すカイを、やっぱりバンは微笑まし気な笑い声と共に見つめる。

 

「そう固くなるなって。同じガーディアンフォースの仲間同士なんだし。あ。そろそろ始まるっぽいな。お前らも席に着いとけよ~。」

 

 ミーティングルームに入って来たオペレーター達……フィーネ、リーゼ、シーナの3人に気付いたバンがそう声を掛ける。昔から全く変わらない彼の態度に、隣に映っているレイヴンが小さな溜息を一つ吐いた。

 

「ではこれより、臨時ミーティングを始めます。」

 

 フィーネの言葉でミーティングは始まった。

 内容は、今回のレンとエドガーの任務中に起きた事件……

 ウエストサイドコロニー近辺で頻発している傭兵同士の小競り合いの鎮圧……だった筈が、突如、傭兵のゾイドの内の1機が暴走を始め、これを撃破。ここ数日で同様の暴走事件が各地で散見される事……これからもこういった事件が増えるのではないか?という見解と今後の対策についてという物であった。

 

「俺達も、視察中の辺境支部にて同様の任務を数件扱ったが、どれも酷いものだった。本部からこの暴走事件に関する任務に就いたのはレンとエドガーだったな。報告を頼めるか?」

 

 レイヴンの言葉に、エドガーがチラッとレンの顔色を窺ってから口を開く。

 

「僕達の任務も、事件内容自体は他の事件と同じ物でしたが……今回の任務において僕達は「何者かが外部からゾイドを暴走させている」と確信を得ました。」

「何者かが外部からゾイドを?……その確信となった決定的理由を、詳しく聞かせてくれないか?」

 

 直後、不気味なほどの沈黙が一瞬奔る……

 意を決したように口を開いたエドガーは、静かにこう呟いた。

 

「……暴走したゾイドの声を聞きました。『体が言うことを聞かない。苦しい。助けて。』と……」

 

 口調こそ静かではあったが、その言葉の直後……エドガーが己の無力さを悔いるかのように拳をギリッと握りしめたのを視界の端で捉え、カイもそっと俯くのだった。

 

   ~*~

 

「ゾイドの暴走……か……」

 

 ミーティングルームを後にしながら、廊下でカイが考え込むように呟く。

 皆一様に暗い表情をしている中で、ふと声を上げたのはシーナだった。

 

「ねぇ、カイ。ゾイドの暴走の原因って、もしかしてあのディスクじゃないかな?」

 

 彼女の唐突な言葉に、それぞれの持ち場へ戻ろうとしていた一同が足を止める。

 一番先に口を開いたのはレンだった。

 

「一体……どういうことだ?あのディスクって?……」

「盗賊さん達が使ってた、ゾイドを学習欲で支配して無理矢理―」

 

 そこまで語ったシーナの口をカイが思わず反射的に塞ぐも、時既に遅しとはまさにこれである。

 レン、エドガー、クルト……果てはトーマやフィーネ、リーゼからも視線を向けられ、カイは気不味そうな表情を浮かべると、誤魔化すように頭を掻きながらシーナの口を塞いでいた手を放した。

 

「その様子だとお前も知ってるな。カイ。一体何の事なのか説明してもらおうか??」

 

 クルトの突き刺すような視線と冷たい声に、カイは観念した様子で語り出した。

 

「スカーレット・スカーズって盗賊のレドラーに搭載されてたディスクの事だよ……さっきシーナが言った通り、ゾイドを学習欲で支配して戦闘能力を上げるヤバい代物。」

「おまけに、ディスクの搭載されているゾイドの戦闘データを吸い上げて集めてる人がいるみたいなの。」

 

 カイの言葉とシーナの補足に、一同は顔を見合わせる。

 ……が、真っ先に噛み付いて来たのはやはりクルトだった。

 

「お前な!!何故さっきのミーティングでそれを報告しなかったんだ!そんな違法ディスクがあるなら、今回の事件との関係が無かったにしても十分議題に出すべきだろう!!」

「今回の事件と関係あるか無いか以前に!そんな違法ディスクを回収して勝手に調べたなんて言えるかよ!ディスク調べたのはガーディアンフォースに入る前だったし、罪に問われでもしたら―」

「個人で勝手にそんな違法ディスクを調べた挙句!!保身の為に黙っていたというのか?!貴様それでもガーディアンフォースの端くれか!!少なくとも今は平和維持の担い手という立場でありながら―」

「俺が自分で調べたなら素直に白状してるっつーの!!!」

 

 カイの怒鳴り声に、クルトは一瞬目を丸くした後、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「ほう?じゃぁ誰が調べたっていうんだ?まさかシーナさんに罪を(なす)り付けるつもりじゃないだろうな??」

「いや、(なす)り付けるっつーか……」

「あの……私が調べるって言って……その……勝手に調べちゃったんだけど……」

 

 不安げな表情と共におずおずと挙手したシーナを見つめて、クルトは絶句し、トーマは頭を抱え、他の者達も途方に暮れたような表情で顔を見合わせるのだった。

 

   ~*~

 

「……なるほど。つまりユナイトの意識共有を応用してディスクの中身を調べてみたものの、そのディスクを介してデータを収集していると思しき人物に気付かれ、ディスクはとっくに破壊された後。おまけに違法ディスクを個人で回収し調べる事も、場合によっては罪に問われる事を知らなかったと……まぁ、現代語すらままならないシーナが現代の法律や条例を知らないのは仕方のない事ではあるが……」

 

 結局揃ってミーティングルームに引き返し、詳しい事情を聞いたトーマが腕を組んだまま難しい顔で呟く。

 向かいに座ったシーナはすっかり泣きそうな顔で視線を落としており、その隣に座っているカイも神妙な面持ちで同様に俯いている。

 自分達で違法ディスクを調べる行為は完全に法すれすれのグレーゾーン……いや、むしろ限りなく黒に近い。

 今回ばかりは、裏社会に片脚を突っ込んだ生活をしていたが故にそういった危機感覚が麻痺していた……では到底済まされない話だ。曲がりなりにも、今はガーディアンフォースの一員なのだから……

 

「そもそも。お前が止めていれば済んだ話なんじゃないのか?シーナさんが知らないのは仕方のない事だとしても、お前は違法ディスクを回収して調べる行為が法に触れる可能性があると知っていたんだろう?何故止めなかったんだ。この馬鹿。」

「俺も止めときゃ良かったって思ってるよ。この件に関しては完全に俺の危機感が無さ過ぎた……」

 

 クルトの刺々しい言葉に対して素直に非を認めるも、ルーム内の重苦しい空気は依然変わらない……

 息の詰まりそうな沈黙の後、トーマがふとカイへ訊ねた。

 

「カイ。君は確かガーディアンフォースへ入隊する以前は情報屋をしていたという話だったな。」

「ああ。」

「そのディスクの情報を他の者に売った事は?」

 

 その言葉に、思わずきょとんとした表情を浮かべながらカイは首を横に振る。

 

「いいや。誰にも売ってない。」

「他にそのディスクの事を知っている者は居るか?」

 

 直後……ザクリスとアサヒの姿が一瞬脳裏を過る。

 出来れば彼らに何らかの嫌疑をかけられるのは避けたいが、だからといって下手に隠しておけば後々問題になるのも確かであるし、そもそもカイは嘘を吐くのは嫌いな性分であった。

 

「俺とシーナの他には2人だけ。一緒にスカーズの連中と戦ってくれた賞金稼ぎと傭兵が居るけど……あいつらは情報を買う事はあっても売る事は無いし、違法ディスクを調べたなんて言いふらすほど馬鹿じゃない。だからあの2人からそのディスクの情報が洩れる事はまずあり得ない。それは断言できる。」

 

 そう言って真っ直ぐ目を見つめ返してきたカイに、トーマは暫く吟味するような沈黙を経て口を開いた。

 

「……わかった。その違法ディスクを調べてしまった件については不問としよう。」

「な?!良いんですか?シュバルツ博士……」

 

 驚きの声を上げた実の息子に呆れたような視線を向け、トーマは疲れた声音で呟いた。

 

「勿論『良い』とは到底言えんが、だからといってどうする?ディスクの概要を知っているのはカイとシーナ、そしてカイの言った賞金稼ぎと傭兵だけ……おまけに回収した違法ディスクの現物は既に破壊され処分済みなんだ。仮に彼等を罪に問うたとしても、証拠不十分で不起訴になるのは目に見えている。違うか?」

「……いえ、確かに仰る通りです。」

 

 すごすごと口を閉じたクルトの隣で、トーマはやっと組んでいた腕を解き、テーブルから少し身を乗り出すようにしてカイとシーナへ告げた。

 

「だが!不問とする代わりに、そのディスクについて知りうる事を全て話してもらおう。先程廊下で聞いた内容から察しても、ゾイドの連続暴走事件と無関係ではなさそうだからな。」

 

 彼のその言葉に、カイはシーナと顔を見合わせ、知り得ることの全てを語り出したのだった。

 

   ~*~

 

「それにしても、そんな危ないディスクが裏社会に出回ってたなんてなぁ……」

 

 ミーティングルームでの話し合いを終え、オフィスで任務の報告書を作成しながら、レンがふと呟く。

 その隣のデスクで違法ディスクに関する報告書を作成しているカイが苦笑を浮かべた。

 

「そりゃまぁ……スカーズとの一悶着が無きゃ俺だって知らなかったくらいだし。」

「意外だな。てっきりカイは事前に噂くらい知っていたのだろうと思っていたが……情報屋だったんだろう?」

 

 レンの向かいのデスクで同様に報告書をまとめているエドガーが不思議そうな声を上げる。

 カイは右手で頭を抱えるようにデスクに肘を突き、左手に持っているボールペンを指先でクルクルと回しながら釈然としない様子で声を上げた。

 

「それが全く……だから『情報屋界隈でもそれらしい噂すら流れてない。』ってのがどうも引っ掛かるんだよ。普通なら噂の一つや二つ流れてたって可笑しくないレベルのブツなのに、情報がまるで無いなんて……そんなもんを、一体どうやってスカーズみたいな破落戸(ごろつき)レベルの小悪党が手に入れたんだか……」

 

 どんよりとした重たい溜息を吐いた直後、回していたボールペンを取り落とし、書きかけの報告書の余白にぐにゃりとした線が入ったのを見たカイが「やっべ!やらかした!」と声を上げ、修正テープを探し始める。

 レンとエドガーはそんな彼の様子に苦笑を浮かべ合い、同様に自分のデスクをごそごそと漁り始めた。

 先に目当ての物を見つけたエドガーが「使うか?」と言って引き出しから取り出した修正テープを差し出せば、カイは申し訳なさそうな笑みと共に「サンキュー!」と声を上げ、いそいそと報告書に入った線を消しにかかった。

 

「しかし……僕達よりも裏社会の情報に詳しいカイですら聞いた事が無いとはな……」

「まぁ一つだけ確実に分かる事といえば……あのディスクの裏に居るのは単独犯じゃないって事くらいかな。」

 

 独り言の様なエドガーの呟きに対し、カイは使い終わった修正テープと共にそんな一言を返す。

 直後。面食らったように目を丸くしたレンが口を開いた。

 

「単独犯じゃないって……シーナが通信先で見た『戦闘データを集めてた奴』ってのは1人だけだったんだろ?」

「だって考えてみろよ。仮にあのディスクを1人で開発出来る天才プログラマーが居たとしても、そのディスクを量産して裏社会にばら撒いた挙句、情報操作して噂すら揉み消すなんて1人じゃ到底無理だ。おまけに、本当の目的が戦闘データの収集なら、十中八九そのデータを元にもっと大それた悪事を企ててる。間違いなくバックにヤベー組織が居るだろコレ……」

「た、確かに……」

 

 圧倒されたような表情で頷いたレンを呆れ顔で一瞥した後、エドガーがボソッと囁いた。

 

「……それ、クルトには言うなよ。」

「え?なんで??」

 

 きょとんとした表情で訊ね返して来たカイに思わず溜息を一つ吐く。

 

「言えば絶対また噛み付いてくるぞ……そこまで察していながら隠していたのかこの馬鹿!って……」

「あ~……確かにアイツなら言うな。絶対……」

 

 クルトの怒り狂う姿が脳裏を掠め、カイはげんなりと呟いた。

 いくら自分に非があるとはいえ、いつまでもネチネチとその事を糾弾され続けるのは―

 

『ビィィィ!ビィィィ!ビィィィ!―』

 

 突如鳴り響いた警報音に、カイが思わずビクリと肩を震わせる。

 レンとエドガーが勢いよく椅子から立ち上がって走り出した。

 

「緊急出動音だ!行こうぜ!カイ!!」

「えぇぇぇ?!」

 

 レンの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げながらも、カイは慌てて2人の後を追った。

 そう。ガーディアンフォース入隊後、初の出撃である……

 

   ~*~

 

『共和国領、レッドリバー基地付近で共和国軍第七憲兵隊との交戦中に暴走を始めたヘルキャットは、荒野を南西に逃走中。現在レッドリバー基地所属のプテラスが追跡しているけれど、このままだと、逃走進路の先にあるシーサイドコロニーに被害が出る恐れがあります。』

 

 ガーディアンフォースベースの保有するホエールキングのブリッジ……

 メインモニターに映るフィーネから任務の詳細を聞き、カイは緊張に顔を強張らせていた。

 ホエールキング内の格納庫で出撃を控えているのは、クルトのディバイソンと、コンディションチェックを終えたばかりのレンのライガーゼロ-プロト、エドガーのジェノブレイカー……そしてブレードイーグルだ。

 

『コロニーへの被害を未然に防ぐ為、暴走ゾイドを捕捉次第、直ちに出撃して下さい。前衛担当はフライハイト少尉とエドガー。今回初任務となるクルト博士とカイはバックアップを担当。以降の判断は私と、ブレードイーグルに同伴するシーナのダブルオペレーションで対応します。本作戦について何か質問はありますか?』

 

 その言葉に、シーナが恐る恐る挙手して口を開いた。

 

「あの……制圧っていう事は……今暴走してるゾイドもその……殺さないといけないの?」

 

 ゾイドを殺す……彼女の言葉にレンとエドガーの表情が僅かに曇る。

 だが、フィーネは安心させるように微笑んで優しく答えた。

 

「大丈夫。そうならないように、皆で力を合わせて暴走している子を止めましょう。」

 

 暴走しているゾイドを殺さずに止める……それがどんなに難しい事かは各々理解しているが……

 それでも、フィーネの言葉に全員の表情が変わった。

 何者かに操られ、助けを求めながら暴れまわっているゾイドを「必ず助ける」と。

 そして、その思いを一番強く抱いているのは……先日の任務でそれを叶えられなかったレンとエドガーであった。

 

「目標を捕捉した!どうする?フライハイト主任。このまま降下しちまうか??」

 

 ホエールキングの操舵を務める男性……ガーディアンフォースの専属輸送パイロット、ダリル=タイラーがフィーネへと指示を仰ぐ。

 フィーネは通信画面越しにカイとシーナを見つめ口を開いた。

 

『カイ。シーナ。降下前にブレードイーグルで先に出撃して、共和国軍のプテラスから追跡の引き継ぎを。あくまで前衛が到着するまで目標を見失わない事が目的だから、なるべく戦闘は避けるように。』

「了解!」

「りょーかいっ!」

 

 ブリッジから走り去って格納庫へ向かうカイとシーナの後ろ姿を振り返るレン達に、フィーネは言葉を続ける。

 

『降下完了後、ライガーゼロ、ジェノブレイカー、ディバイソンも直ちに出撃して下さい。くれぐれも、無茶だけはしないようにね。』

 

 フィーネの言葉に、レン達も口を揃えて返事を返した。

 

「了解!」

 

   ~*~

 

 降下を始めたホエールキングの格納庫で、レンは相棒であるライガーゼロ-プロトのコックピットに乗り込み、操縦レバーを握りしめてポツリと呟いた。

 

「お前も悔しかったよな。あのゴルドスを助けられなかった事……」

「グルルルッ」

 

 返事を返すかのような声を上げるライガーゼロに、レンは悲し気な表情を露にする。

 ウエストサイドコロニーでの任務で暴走していた傭兵のゴルドス……そのゴルドスに止めを刺したのは、他でもないレンとライガーゼロであった。

 撃破された周囲のゾイドから這い出て来た負傷者の人命を優先した、苦渋の判断……あの状況下ではそれしか方法が無かったのは理解している。だがそれでも、無理矢理外部から暴走させられた挙句、その命を絶たれたゴルドスの事を考えると、本当にそれしか方法が無かったのだろうか?と悔やまずにはいられなかった。

 

「人の命か?ゾイドの命か?なんて……やっぱ俺、選べないし選びたくないよ。父ちゃんみたいに両方助けられるくらい強くなりたい。だからさ……今度は絶対助けようぜ。ゼロ。」

「ガルォンッ!」

 

 気合に満ちたライガーゼロの返事に、レンはやっと少し笑みを浮かべる。

 だが、その直後……

 

『まったく、なんで俺達にはそういう愚痴を面と向かって言ってくれないんだ?お前は。』

「クルト?!それにエドまで?!お前らいつから聞いてた?!」

 

 不意にメインモニターに表示された2人の幼馴染に、レンが目を見開く。

 彼の問いに答えたのは、苦笑を浮かべたエドガーだった。

 

『悪いが、最初から全部。』

「いくら幼馴染だからって、盗み聞きはあんまりだろ?!」

 

 情けない表情で抗議の声を上げるレンに、クルトが涼しい顔で呟いた。

 

『言っておくが、俺達にお前の愚痴をこっそり送って寄越したのはゼロだからな?』

「えぇぇ?!……おいおいゼロぉ~……勘弁してくれよぉ……」

 

 途方に暮れたようなレンに対し、ライガーゼロは低く咽を鳴らすような静かな声を上げる。

 その声を聞いたエドガーが、微かに微笑んでレンへ囁いた。

 

『だってレン、他の人になかなか相談しないんだもん。だそうだ。相棒に此処まで気を遣わせる程溜め込むな。』

「うぅ……」

 

 ぐぅの音も出ないといった様子で閉口したレンに、クルトとエドガーはふと穏やかな笑みを浮かべた。

 

『安心しろ。暴走ゾイドを止めてやりたいのは俺達も同じなんだ。お前1人で気負うな。』

『それとも、僕達じゃ頼りにならないか??』

 

 その言葉に、レンは微かにハッとしたような表情を浮かべる。

 次の瞬間には、彼の顔はいつもの明るい笑顔を取り戻していた。

 

「頼りにならないなんて、これっぽっちも思ってねーよ。行こうぜ!エド!クルト!勿論ゼロもな!」

 

 降下が完了し、まだ半分程度しか開いていないハッチからレンとライガーゼロが勢い良く飛び出していく。

 その様を眺めて安心したように笑みを交わし合ったエドガーとクルトも、一拍遅れて出撃するのだった。

 

   ~*~

 

「此方は、ガーディアンフォースのカイ=ハイドフェルドです。現時刻を以って暴走ゾイドの追跡及び制圧はガーディアンフォースが引き継ぎます。ご協力、ありがとうございました。」

『此方こそ、ガーディアンフォースの手を煩わせる事態になってしまって大変申し訳ない。暴走中のヘルキャットは現時点では光学迷彩を起動していないが、場合によっては姿を見失う危険がある。充分注意されたし。ガーディアンフォースの健闘を祈る。』

 

 フィーネから送られてきた引き継ぎ文の丸読みだが、無事に暴走ゾイドの追跡を共和国兵から引き継いだカイは、後方へと飛び去って行ったプテラスをふと眺めた後、小さな安堵の溜息を吐く。

 あとはこのまま暴走するヘルキャットを追跡していれば、ブレードイーグルのGPSを頼りにレン達が合流して、止めてくれる筈だ……だが……

 

「暴走したゾイドって、あんな風になっちまうのか……」

 

 暴走ゾイドが逃走と聞き、カイはてっきり一直線にただひたすらゾイドが走り続けているのだろうとばかり思っていた。だが、実際はそんな単純なものではない……

 まるで何かを振り払おうとしているかのように頭を振り、道中の岩や崖などの障害物に片っ端から身体をぶつけ、時折脚がもつれるようにして倒れ込み地面をのたうち回るその姿は、悶え苦しんでいるのが一目でわかる。それでも尚、よろめきながら立ち上がってまた走り出す……ただただ(むご)いとしか言い様の無い光景に、彼は悲しさと怒りの入り混じった表情を浮かべる。

 そしてそんなカイの後ろ……ブレードイーグルの後席に乗っているシーナも、悲しさを露わにした表情で苦しむヘルキャットをみつめていた。

 

「あの子、凄く苦しんでる……それにとても混乱してるみたい……早くレン達が追い付いてくれると良いんだけど……」

「あぁ……」

 

 2人は悶え苦しみながら走るヘルキャットを追いながら、レン達の到着をただ祈る事しか出来なかった。

 

   ~*~

 

「畜生!!なんで操縦が効かねーんだよ!!どうなってやがる!!」

 

 一方、暴走し走り続けているヘルキャットのコックピット……

 怒りと不安に任せて怒鳴りながらコンソールパネルに拳を叩き付けていたのは、スカーレット・スカーズのスヴェンであった。

 一体何故こんな事になってしまったのか……自分達はただ、サムの指示で武器商人から弾薬等の消耗品を受け取りに来ただけだったというのに、憲兵隊に取り引きを嗅ぎつけられ、レッドリバー基地の目の前まで追い立てられて来てしまった挙句、突然のヘルキャットの暴走……踏んだり蹴ったりどころの話ではない。

 更に最悪なのは、暴走したヘルキャットが憲兵隊のゾイドだけではなく、オスカーとスティーヴが乗るヘルキャットまで破壊し、走り続けているという事だった。

 今頃2人はどうなっているのだろう?破壊されたヘルキャットから這い出てきた所を憲兵隊に捕まっているかもしれない。早く引き返して助けてやらなければならないというのに、自分のヘルキャットは全くの操縦不能……おまけに頭は振り回すわ、障害物に自分からぶつかるわ、時折地面に倒れ込んでのたうち回るわ……乗っているスヴェン自身もコックピット内で頭や身体を何度強打したか分からない。

 ここまで暴れられては、下手にキャノピーを開け外へ飛び出したが最後。何処に放り出されるか分からない上に、最悪ヘルキャットに踏み潰されたり機体の下敷きになったりするかもしれない……

 そう考えると脱出する事も出来ず、止まってくれるまで……或いは誰かが止めてくれるまで、テーマパークの絶叫アトラクションも真っ青になる程の地獄と化してしまったコックピットで、こうして縮こまっている以外に成す術が無かった。

 ……レーダーが捉えた機影に気付くまでは。

 

「なんだ?軍の連中か??」

 

 レーダーに映された機影の1つは、レッドリバー基地を後にした直後から追って来た物の筈だが……その後方から真っ直ぐ此方へ急速接近する新たな機影が3つ……追手の援軍だろうか??

 

「まさか軍の奴らッ……俺ごとヘルキャットを破壊して止めようってんじゃねーだろうな?!」

 

 思わずそんな考えに行き着いた彼は、慌てふためきながらも意を決し、コックピットの外へ飛び出そうとキャノピーの開閉レバーを操作する。だが、ヘルキャット自身が暴走しているせいなのだろうか?通常開閉レバーも、非常開閉レバーも全く作動しない……

 絶望に青ざめながら、スヴェンはレーダーに映る機影を呆然と眺める事しか出来なかった。

 

   ~*~

 

「来た!!」

 

 ヘルキャットの後方から追い付いて来たライガーゼロ-プロト、ジェノブレイカー、そしてディバイソンを見つけたカイは、希望に満ちた表情で彼等に通信を入れる。

 

「レン!エドガー!クルト!暴走してるのはそのヘルキャットだ!」

『あぁ!追跡サンキューなカイ!後は俺とエドに任せて、クルトとバックアップに回ってくれ!』

「了解!」

 

 レンの言葉に、カイはブレードイーグルをディバイソンの左後ろまで下がらせ様子を伺う。

 その目の前で、レンとライガーゼロが丁度地面へ倒れ込んだヘルキャットを取り押さえようと飛び掛った。

 だが……

 

「うわっ?!」

 

 ヘルキャットは地面の上へ取り押さえられた瞬間激しく暴れ出し、ライガーゼロを力尽くで跳ね飛ばすと、不気味な程の静けさと共によろりと立ち上がる。

 

「ライガーゼロの方が遥かにパワーは上の筈なのに……嘘だろ?……」

 

 思わず譫言(うわごと)のように呟いたエドガーの目の前で、ヘルキャットはジェノブレイカーへと狙いを定め、狂った様に飛び掛った。

 間一髪のところでヘルキャットを避けたエドガーだったが、ヘルキャットはそのままジェノブレイカーの脇を走り抜け、今度は後方に居たディバイソンに飛び掛る。

 

「クルト!避けろ!!」

 

 思わずエドガーが叫ぶが、クルトは飛び掛かって来たヘルキャットめがけ、ディバイソンのツインクラッシャーホーンで真っ向からぶつかり合う。

 いくら暴走しているとはいえ、偵察機として開発された軽量高速ゾイドであるヘルキャットが、重武装、重装甲のディバイソンとパワー勝負で敵う訳がない……

 

「突撃戦用ゾイドをあまり舐めるなよ。特に、パワーにおいてはなッ!」

 

 ヘルキャットの両脇にツインクラッシャーホーンを引っ掛けたまま、クルトはディバイソンの頭を目一杯持ち上げて動きを封じる。両前足が地面から完全に浮き上がってしまったお陰で、後ろ足だけでなんとか立っている状態にされてしまったヘルキャットは、抵抗も空しく身動きが取れなくなってしまった。

 

『レン!エド!今のうちだ!コンバットシステムがフリーズする程度に攻撃して―』

「駄目!!!」

 

 突然クルトの言葉を遮ったのは、シーナだった。

 

「あのディスクで暴走しているんだとしたら、コンバットシステムはフリーズしない!動かなくなるまで攻撃しちゃったら、この子が死んじゃう!!」

『くっ……ですが、どうにかして大人しくさせなければ!いくらディバイソンでもこのままの体勢を維持し続けるのは……』

 

 クルトの言葉に、シーナは一瞬考え込むとフィーネに通信を入れ、思いがけない提案を口にした……

 

『え?!シーナがヘルキャットのコックピットに乗り込んでディスクを探して取り外す?!』

 

 フィーネが思わず訊ね返すのも無理はない。

 暴走ゾイドに乗り込んでディスクを外す。口で言う分には簡単だが、その提案はあまりにも危険だった。

 

「あの子を傷付けずに大人しくさせるには、それしか方法が無いと思うの……お願いフィーネさん。私に行かせて。ユナイトと一緒にヘルキャットの中へ入れさえすれば、あとはコックピットへ―」

『ですが!そもそも、例のディスクが原因だと完全に特定出来た訳では……』

 

 遮るように声を上げたクルトに対し、最初に声を上げたのはエドガーだった。

 

『いや、原因は恐らく例のディスクの筈だ。そうだろう?シーナ。』

「うん。ディスクは絶対ある……あの子が言ってるの『もう嫌だ。怖い。早く外して。』って……」

 

 ゾイドの言葉が分かるシーナとエドガーには、助けを求めるヘルキャットの声がハッキリと聞こえていた。

 恐らく原因は例の違法ディスクと見て間違いないだろう。

 

「けど、元々乗っていたパイロットがまだ中に居るんだろ?そいつにディスクを外させる方が確実じゃないか?」

 

 カイの言葉に、シーナは首を横に振る。

 

「追跡している間、フィーネさんの指示でヘルキャットのパイロットと連絡を取ろうとしたけど繋がらなかった。恐らく暴走してるせいで通信機器が麻痺してるんだと思う。」

「げっ……マジかよ……」

『それならば外部からスピーカーで呼びかけて、ディスクを外すよう指示してみます!』

 

 クルトはそう言うが早いか、外部スピーカーを使用し指示を呼びかける。

 

『此方はガーディアンフォースだ!ゾイドの暴走原因に違法ディスクが関与している可能性がある!ただちにディスクを取り外し、ゾイドを停止させろ!』

 

 だが……

 

「違法ディスク??俺達がレドラーに取り付けてた奴の事か??……そんなもん、こいつに取り付けた覚えなんてねーぞ??……」

 

 そう……まさか「手に入れた時から」あのディスクがヘルキャットに搭載されていたなど、彼が知る由も無い。

 スヴェンは途方に暮れた顔で周囲を見渡した後、ふと、非常用の小型ライトを見つけ、それをキャノピーグラス越しに外へ向けると、藁にも縋る思いでモールス信号を発した。

 

「おい!ヘルキャットのコックピットで何か光ってる!!」

 

 スヴェンの発するモールス信号に気付いたのはカイだった。

 

「レン!お前モールス信号わかるか?!」

『あ、ああ!一応非常講習で習った!ちょっと待ってくれ!』

 

 瞬く光が見える場所までライガーゼロを移動させ、レンがメッセージを読み取る。

 

『ディスク、無し、原因、不明。ディスクが無いから原因が分からねーって言ってる!どうする?!』

 

 レンの言葉に「そんな馬鹿な……」といった沈黙が奔る。

 しかし、シーナには確信があった。

 

「もしかしたら、あのヘルキャットを手に入れた時からディスクが搭載されていて、存在を知らないのかも……やっぱり行かせて!絶対あの子を助けてみせるから!」

『けど!もし万が一ディスクが本当に無かったらどうするんだよ?!』

 

 レンの言葉に、シーナは答えた。

 

「お願い。私を信じて……早くしないと手遅れになっちゃう。」

 

 その一言で、決断を下したのはフィーネであった。

 

『わかったわ。シーナ、あのヘルキャットからディスクを取り外して。』

「りょーかい!」

 

 元気よく返事をした直後、シーナが光となって掻き消え、ユナイトと共にヘルキャットへと向かう。

 その様を見守りながら、一番奮闘しているのはクルトであった。

 

[クルト、ディバイソンの首部アクチュエーターへの負荷が甚大です。このままでは稼働不能に……]

「それくらいわかってる!!だが今は持ち堪えるしかないだろう!!」

 

 テオの言葉と、コックピット内で鳴り出した警告アラーム……いくらパワー自慢のディバイソンと言えど、暴れるゾイドを首の力だけで支えている状態だ。あまり長時間はもたない。

 ふと、なんの前触れもなく警告アラームが止んだ。

 

「なんだ?一体何が……」

『ディバイソンから首がもげそうだって声が聞こえた。すまないクルト。お前1人に押し付けたままだったな。』

 

 ヘルキャットの胴の真ん中を一対のエクスブレイカーでがっつりと捕まえて、エドガーのジェノブレイカーがほんの数歩後退する。ジェノブレイカーにヘルキャットを任せたお陰で負荷から解放されたディバイソンが、自身の首がまだ繋がっている事を確認するかのように軽く頭を左右に振った。

 

『大丈夫か?クルト。』

「ああ。一応な……帰還したらきっちりメンテナンスしてやらなければならんだろうが……」

 

 心配そうに駆け寄って来たライガーゼロから届くレンの言葉に、クルトが苦笑を浮かべる。

 そんなディバイソンの隣にブレードイーグルが降り立ち、ジェノブレイカーに捕まえられているヘルキャットをじっと見つめていた。

 

「シーナ……頼むから無茶だけはするなよ……」

 

   ~*~

 

「うわぁぁぁ?!」

 

 ヘルキャットのコックピット内で、スヴェンが悲鳴を上げていた。

 ……いきなり自分の膝の上に見ず知らずの少女が現れたのだ。霊や化け物の類だと思っても無理もないだろう。

 だが当のシーナは悲鳴を上げたスヴェンを見つめ、不思議そうに目を丸くしていた。

 

「あれ?おじさん確か……カイを追いかけてた盗賊さん……だよね?」

「は??」

 

 唐突にそんな事を言われ、スヴェンも目を丸くする。孤島の遺跡でもサンドコロニーでも、カイしか目に映っていなかった彼は、シーナの存在を殆ど知らないに等しかった。

 

「嬢ちゃん……なんで俺があの情報屋のガキを追いかけてたって知って……」

「ごめんね。今説明してる時間が無いの。早くこの子からディスクを外して止めてあげないと。」

 

 そう言ってシーナは、ヘルキャットのコアに取り付いているユナイトへ声を掛けた。

 

「ユナイト!ディスクの場所分かる?!」

『グオグオ!!』

 

 ユナイトに指示された場所……操縦桿の下、フットペダル等のある場所の裏側に手を伸ばし、手探りでそれらしい部品を探すが、よくわからない。

 

「おじさん。ちょっと足どけてて。」

「お、おう……」

 

 座席の上で体育座りをするかのように足をどけたスヴェンの前で、シーナはフットペダルの下にごそごそと入り込むと、陰になって見辛い場所を眺め目を凝らす。カイからライトを借りてくれば良かったと思った時、スヴェンがコックピットからモールス信号を発していた事を思い出した彼女は、一度足元から出て来てスヴェンへ訊ねた。

 

「ねぇ、おじさん。ライトある??」

「ライト?ああ。ほら。」

「ありがと。」

 

 ライトを受け取り、再び足元に姿を消したシーナを怪訝そうに見つめるスヴェンだったが、直後、シーナが大声を上げた。

 

「あった!!!」

 

 ディスクが入っていると思われるハーディディスクユニットを見つけたシーナは、急いでディスクを取り出そうと試みるが、ディスクの取り出し口と思われる場所も、取り出しスイッチと思しき物も見当たらない。

 ならばユニットごと取り外せば……と考え周辺を探ってみるが、ユニットはボルトでがっちりと固定されており、到底素手で引き剥がしてしまえるような状態ではない上に、接続部もソケットが固く、なかなか外れない。

 焦るシーナに、スヴェンがおずおずと声を掛けた。

 

「嬢ちゃん……ディスク見っけたのか?」

「うん。でもとれないの……せめてソケットを外すか、コードを切っちゃうか出来れば良いんだけど……」

 

 彼女の言葉に、スヴェンは自分の服のポケットを慌てて探り出す。

 程なくして折り畳みナイフを引っ張り出した彼は、それを足元へ差し出しながら言った。

 

「これでどうにか出来ねーか?!」

「ありがとう!やってみる!」

 

 受け取った折り畳みナイフを手に、三度足元へ消えたシーナは祈るように呟いた。

 

「お願い。止まって……」

 

 ユニットに繋がっているコードを、シーナがナイフで断ち切った……

 次の瞬間、もがいていたヘルキャットは微かに痙攣するような挙動を見せた後、コンバットシステムのフリーズ表示がメインモニターに表示されると同時に、ガクリと脱力してようやく止まったのだった。

 

   ~*~

 

「事件解決に尽力して頂き、感謝致します。」

 

 暴走の止まったヘルキャットの中から助け出したスヴェンの身柄を、共和国軍第七憲兵隊が引き取りにやって来た頃には夕方になっていた。

 あとはスヴェンと暴走したヘルキャットを共和国軍に引き渡しさえすれば、任務は完了。

 ……の、筈なのだが……

 

「ふふふっ。これでもう大丈夫だからね。あはは。くすぐったいよ。」

 

 システムフリーズ状態から一度再起動を掛けた事で正気に戻ったヘルキャットは、自分を助けてくれたシーナの事が分かるのか、その巨大な顔をシーナに摺り寄せ、咽を鳴らすような声を上げていた。

 とはいえ、結局違法ディスクの入ったハードディスクユニットはヘルキャットにくっ付いたまま……

 共和国軍が機体ごと回収して解析するという話になっていた。

 

「……なぁ、クルト。」

「あ?」

 

 ポツリと自分の名を呼んだカイに、クルトが面倒臭そうな返事を返す。

 だが、カイはそんなクルトの態度にすら気付いていない様子でシーナとヘルキャットを見つめていた。

 

「あのヘルキャット、ディスクと一緒に解析されるって話だけどさ……その後って、どうなっちまうんだ?」

 

 カイの不安げな表情と声音に、クルトも寂しげな表情を浮かべると、シーナにすっかり懐いた様子のヘルキャットを眺めて呟いた。

 

「恐らく解析される時点で、ある程度バラされてしまうだろうからな……もう二度と会う事は無いだろう……」

「……やっぱ、そうだよな……」

 

 カイとクルトのやり取りを聞いていたレンとエドガーも、2人の傍で悲し気に呟く。

 

「せっかく助けたってのにバラされちまうなんて……そんなの……」

「ある程度予想していた事ではあるが……辛いな……」

 

 だが感傷に浸る間も無く、ガーディアンフォースのホエールキングが彼らとその相棒を回収する為に彼らの後方に着陸する……カイ達が揃って振り返った先で、ホエールキングの口腔ハッチがゆっくりと開き始めた。

 

「シーナ!帰るぞ!」

「あ、うん!」

 

 カイの呼び声に返事を返し、シーナはヘルキャットを見上げて優しく語りかけた。

 

「じゃ、またね。」

 

 そう言ってホエールキングの方へ小走りに向かうシーナの後ろ姿を見たヘルキャットは……

 ……そっと彼女の後をついて来た。

 

「あれ?どうしたの??」

 

 不思議そうに振り返り、シーナが再びそっとヘルキャットに駆け寄る。

 ヘルキャットはゴロゴロと咽を鳴らすような静かな声を上げ、そっと彼女を見つめていた。

 勿論、その場の全員もシーナとヘルキャットの様子に気付いた様子で、各々不思議そうに顔を見合わせる。

 そんな中、ヘルキャットの言葉を聞き取ったシーナが仲間を振り返り訊ねた。

 

「ねぇねぇ!この子、一緒について来たいって!駄目かなぁ??」

 

 その言葉を聞いたレンが、ハッとしたようにクルトへ提案した。

 

「なぁクルト!例の違法ディスクの解析、ガーディアンフォースの方で進めるって事で話付けられねーか?」

「ディスクの解析を此方で?……だが共和国軍とはもう話が……」

「そこを何とか!一級工学博士だろ?!どうにか上手く丸め込んでくれよ!な?!この通り!!」

「そう言われてもだなぁ……」

 

 困ったように呟くクルトに、エドガーが意地の悪い笑みを浮かべて囁いた。

 

「良いのか?あのヘルキャットが解析の為に分解されるとシーナが知ったら……きっと暫くまともに仕事も手に付かなくなるくらい、悲しむと思うがな?……」

「ぐぬっ……」

 

 シーナを引き合いに出され、クルトは言葉に詰まるようにして思考を巡らせた後、意を決したように口を開いた。

 

「……わかった。憲兵隊の隊長ともう一度話をして来る。お前らはそれまで大人しくしてろよ。」

「よっしゃー!!」

 

 憲兵隊の隊長の元へ走っていくクルトを見送った後、レンはシーナとヘルキャットの元へ駆け寄る。

 その姿を見てカイとエドガーも顔を見合わせると、それに続いた。

 

「レン、カイにエドガーも……この子、連れて帰っちゃ駄目?」

 

 微かに不安げな表情で問いかけて来るシーナに、レンが笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫だぜシーナ!クルトが今、憲兵隊の人達と話付けてくれてるとこだ。あいつ頭良いしそこそこ口も立つから、上手く説得して一緒に帰れるようにしてくれるぜ!」

「ホント?!」

 

 驚きと嬉しさにシーナが声を上げた直後……クルトが此方へ走ってきながら大声で叫んだ。

 

「シーナさぁぁぁん!!許可取れましたよぉ~!!そのヘルキャットと一緒に皆で帰りましょ~!!」

 

 その言葉に、シーナは幼い子供のように「やったぁ~!!」と声を上げると、自分の顔を覗き込んでいるヘルキャットの鼻先に抱き着いて優しく呟いた。

 

「これからよろしくね。ヘルキャット。」

 ゴロロロロロ

 

 嬉しそうに咽を鳴らすヘルキャットと、そんなヘルキャットに抱き着いているシーナを見詰め、カイ達は各々顔を見合わせてホッとしたように微笑み合った。

 新たな仲間の参入を祝福するかのような鮮やかな夕陽が、穏やかな空気に包まれた彼らを照らし出す。

 ……後に、このヘルキャットが窮地を救う希望の光となる事を、この時はまだ誰も知る由も無かった。

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