瓦礫街で大ピンチの俺を助けてくれたのは、サンドコロニーで別れた筈のザクリスだった。
まさかクルトやルーカス兄ちゃんと知り合いだったなんてな……
おまけに元アカデミー生の元軍人だなんて、そりゃ頭も良いし強いワケだ。
……とは言え、この状況をどう切り抜けるつもりなんだ?
[カイ=ハイドフェルド]
[ZOIDS-Unite- 第22話:離脱と束縛]
一歩間違えればお陀仏……というザクリスの切り札。
それが一体何なのか、皆目見当も付かない状態ではあるが、カイは笑みを浮かべる。
ザクリスの事だ。何か策があるに違いない……が、彼が腰のポーチから取り出したのは……
「え?何それ……」
「何って、ミントタブレットだよ。見りゃわかるだろ。」
そう。何処にでも売っているようなミントタブレットのプラスチックケースだ。しかも3つ。ご丁寧な事に味が全部違う。
「こんな時にミントタブレットって……これ食って落ち着こう。ってか??」
「そんなとこかな。」
『なんて暢気な……』
呆れた様子のカイとクルトに気付いているのか、いないのか……
ザクリスは涼しい顔でブラックミントのケースの口を開く。
……しかし、ケースの口から姿を見せたのはミントタブレットではなく、3cm程度の細長い糸だ。しかもケースの中に繋がっているのか、それ以上の長さも出て来ない……
「糸??」
思わず首を傾げたカイの前で、ザクリスはさも当たり前のように愛用のジッポーライターを取り出す。
その瞬間、彼が一体何をするつもりなのか悟ったカイは、青ざめながら悲鳴にも似た声を上げた。
「まさかそれって!?」
『カイ?どうした??』
「伏せとけよ!!」
糸に火を点けられたブラックミントのケースが、ザクリスの手によって、先ほど自分達が出て来た瓦礫の隙間の奥へと投げ込まれる。
咄嗟に頭を抱え込むようにして伏せるカイと、そのカイを守るように半分覆いかぶさる形で伏せるザクリスの遥か後方で……投げ込まれたミントタブレットが火を噴いた……
爆発による轟音と振動もさることながら、その衝撃で自分達を取り囲む瓦礫まで地響きのような不穏極まりない音を立てる様は、とにかく生きた心地がしない。恐らく、ホエールキングで爆発音を聞いたクルト達も、今頃放心しているだろう。
「カイ。生きてるか?」
爆発が収まり、静まり返った瓦礫の中の空間で最初に声を上げたのはザクリスだった。
その声にハッとしたように、クルトも声を上げる。
『カイ!応答しろ!!カイ!!』
「……生きてるよ。なんとかな……」
そっと起き上がりながら、カイは恨みがましそうな視線と共にザクリスを見上げる。
「お前さぁ……爆薬入りのミントタブレットなんて何処で買ったんだよ。」
「あ?自作だよ自作。ミントタブレットのプラスチック爆弾味。なかなかいけるだろ?」
「食えるもんなら食ってみろ馬鹿野郎!死ぬかと思ったじゃねーか!!」
ムキになって怒鳴るカイに、ザクリスは至って面白そうに笑って言った。
「この程度で喚くなよ。とりあえず第一段階は成功だ。」
「第一段階??」
「ん。」
そう言ってクイッとザクリスが親指で指し示した先……自分達が先程出て来た瓦礫の隙間は、投げ込まれたプラスチック爆弾のせいで見事に崩れ、完全に塞がっている。
しかし、カイは文句有りげな視線をザクリスに向けたまま、警戒したように呟いた。
「……これでとりあえず、後ろから来てる連中の心配はしなくて良い。ってか?」
「流石に察しが良いな。じゃ、第二段階行くぞ~。」
何処か楽しんでいる様子で、ザクリスは手元に残ったケース……マイルドミント味とクールミント味のケースを手に、陽光が差し込んでいる突き当りの瓦礫の元へ歩み寄る。
そんな彼の背中に、カイはギクリとした様子で身を強張らせた後、必死に捲し立てた。
「あー!やっぱり!!残りの2つでそっち側ふっ飛ばして出ようって魂胆だろ?!一歩間違えりゃお陀仏どころの話じゃねーじゃん!ふっ飛ばした瞬間、上の瓦礫まで崩れるっつーの!!そうなりゃ俺達、瓦礫に仲良く圧し潰されて合い挽き肉になっちまうじゃねーか!!」
「お前なぁ……合い挽き肉とか言うなよ。一瞬想像しちまっただろうが……」
陽光が差し込んでいる瓦礫の隙間を調べていた手を止め、ザクリスがカイを振り返る。
「つーか、牛と豚ならともかく、人間と人間なら合い挽きではねーだろ。」
「そういう冷静な突っ込み今いらねーから!!」
「あーはいはい。瓦礫に潰されてミンチになるのは願い下げだって言いてーんだろ?安心しろって。ちゃんと生きて出られるように配置考えてるとこだ。気が散るから少し黙ってな。」
「……ホントに出られるんだろうな??」
「お口チャック。」
字面とは裏腹にドスの効いたその一言で、カイは渋々黙り込み地面に胡坐を掻く。
無造作に積みあがっている瓦礫の配置を把握し、どの瓦礫がどれを支えているのかを見極め、その上で自分が持っている爆弾の威力を踏まえつつ、爆破する場所を考える……その作業に全神経を集中しているザクリスをぼんやりと眺め、彼は感心とも呆れともつかない溜息を一つ吐いた。
(いくら頭が良いっつっても、何処をどう爆破すりゃ良いなんて、そんなの簡単にわかるもんなのか??凡人の俺には何が何だかさっぱりだぜ……)
諦めたような溜息を吐くカイの鼓膜を、クルトの声が遠慮がちに揺らす。
『カイ……』
「なんだよ?……」
『頼むから、一緒に吹っ飛んでくれるなよ?……』
「どうだかなぁ……お陀仏になる可能性の方が高ぇんじゃねーの?」
ぐったりした様子で呟きながら、呆れとも疑いともつかない眼差しでザクリスを眺めるカイだったが……
「よし。OK。」
程なくして、隙間にミントタブレット爆弾を設置したザクリスが再びジッポーライターの蓋を開ける。
こんなに早く爆弾を設置し終わると思っていなかったカイはギョッとしながら声を上げた。
「早っ?!マジで?!もう配置決まったのかよ?!」
「あぁ。若干爆弾の威力の方が強ぇかもしんねーが。ま、どうにかなるだろ。」
「どうにかなるだろって……本当に大丈夫なんだろうな?……」
思わず頭を抱えるカイなどお構いなしに、ザクリスは設置した爆弾の導火線に火を点ける。
今度はすぐ近くで爆発が起きる為、カイとザクリスは2人揃って爆弾の真反対側へと移動し、身を寄せ合うようにして伏せながら衝撃に備えた。
直後、大して長さも無い導火線は、最初に火を点けた物から順に爆薬を点火させる……
その激しい爆発音は、耳を塞いでいても凄まじい衝撃として身体に押し寄せ、爆風が粉々になった破片を2人へ容赦なく浴びせた。
……轟音と、振動と、衝撃、爆風。その全てが収まり、静寂が2人を包む。
直後、飛んできた石ころのような細かい瓦礫や砂埃をバラバラと散らしながら、カイとザクリスはゆっくりと立ち上がった。
「だぁぁ……マジで命がいくつあっても足りやしねぇ……」
「だがまぁ、一応上手くいったみたいだぜ?」
そう言って、ザクリスが先程爆破した瓦礫を親指で指し示す。
行く手を塞いでいた瓦礫には、無数のヒビが入っており、今にも崩れそうな状態になっていた。
「確かにヒビだらけにはなってっけど……これ、結局失敗なんじゃねーの?」
「あ?いきなりふっ飛ばしたら全部崩れて、お前のお望み通り、挽き肉まっしぐらだぞ。ちゃーんと狙い通りだよ。後は仕上げだけだ。」
ヒビだらけになった瓦礫の前に立ったザクリスが、カイを手招く。
怪訝そうな顔をしながらも、大人しく傍に来たカイをチラッと見て、彼は呟いた。
「じゃ。この瓦礫ぶっ壊してとっとと出るぞ。」
「ぶっ壊すって……どうやって―」
「そらよっ!!!」
カイの声を遮るかのように、ザクリスが左脚で瓦礫の中心部を思いっきり蹴り抜く。
ヒビだらけの瓦礫は、その蹴りによって吹き飛ばされるかのように粉砕された。
信じられないような光景に目を見開いたカイの腕をおもむろに掴み、ザクリスは彼を外へ放り出す。
直後、崩れ始めた瓦礫の間に飛び込むようにして、ザクリスも無事に外へと転がり出て来た。
「な?出られただろ?」
何事も無かったかのように立ち上がって砂埃を掃いながら、ザクリスは得意げに笑う。
そんな彼を見上げて、カイは心底呆れたように呟いた。
「いくらヒビだらけだったとはいえ、コンクリの塊粉砕するとか……お前の脚、一体何で出来てんだよ。」
「さぁな。軽量合金か何かじゃねーか?」
「あーはいはい。お前が人間辞めてるのはよくわかりました。」
ぼやきながら立ち上がったカイに、クルトが怪訝そうに訪ねる。
『つまりあれか?会話の内容から察するに、ザック兄さんがコンクリ蹴破ったのか?』
「ご名答。」
『……冗談だよな?』
「ほら見ろ。クルトまで冗談だよな?とか言ってんぞ。」
「まぁ、見てなかった奴は冗談だとしか思わねーだろうな。」
「あーもー説明面倒臭ぇなぁ……とにかく出られたんだ。サッサと行こうぜ。」
投げ遣りに話を終わらせて、カイは服や頭に残る砂埃を掃いながら辺りを見渡す。
どうやら結果として、フライングボードを隠していた辺りのすぐ近くに出て来たらしい。
カイは再び拳銃を取り出しながら呟いた。
「ボード隠してるとこまであとちょっとだけど、さっきの爆発音でまたぞろぞろ来るぞ。きっと。」
「ったく。ガキ1人追っ駆け回すのに街総出とか、暇人ばっかかよ。」
「そーゆー街なんだよ。」
「知ってるよ。」
ぼやきながら連れ立って走り出した2人は、ボードの隠し場所へと急ぐ。
その道中で出くわした瓦礫街の住人達から逃げる為、再び脇道へ飛び込んだり、応戦したりを2~3回繰り返しはしたものの、彼らはやっとボードの隠し場所へと辿り着いた。
ザクリスに辺りを警戒してもらいながら、ボードを隠した瓦礫の隙間を覗き込み、カイが明るい声を上げる。
「よっしゃ!盗られてない!」
狭い瓦礫の隙間で、主の帰りを待ちわびていたフライングボードとゴーグルを、カイは急いで引きずり出す。
だが、まさにその時だった。
カイのすぐ傍の瓦礫を弾丸が掠めた……それを合図とするかのように、武装した住人達と、先程のクラウの手下達が道の向こうからわらわらと走って来る。
「げぇ?!マジかよ!!」
フライングボードとゴーグルを抱えたまま瓦礫の影に身を隠し、弾丸をやり過ごしながら、カイは再度拳銃を手にする。残りの弾薬は、1マガジン分を切っていた。
「離脱まであとわずか。弾薬の残りもあとわずか。か……」
独り言のようにぽつりと呟いて、残弾を確認したマガジンをグリップに叩き込む。
不意に、カイの薄紫色の瞳がスゥッとその温度を下げる……諦めや絶望の類とは違うその変化に、いち早く気付いたのはザクリスだった。
(あー……ヤバいな。
普段自分から戦うのを避けている為、カイがこうなる事は極めて珍しいが……ザクリスは彼と知り合って以来、2回程、こういう状態になったカイを見た事がある。
ただ相手を殺す為だけに全神経を集中させているような、殺気に染まった冷たい瞳……こういう状態になったカイはとにかく無茶苦茶だ。自分が怪我をする事にも、相手をどれだけ傷付ける事にも、全く躊躇が無い状態になってしまう。
このままカイを戦わせてはいけない。と、ザクリスは思考よりも早く直感した。
宛の無い渡り鳥のような旅を続けていた頃とは違うのだ。今のカイには帰る場所が、帰りを待つ仲間が居る。こんな所で死なせるわけにはいかない。早く逃げさせなければ。
ザクリスが一旦瓦礫の影に身を隠し、マガジンを交換しながら叫んだ。
「カイ!カイ!!おい!こっち向け!!」
「え??」
ふと我に返ったように顔を上げたカイの目が、僅かに温度を取り戻す。
その目を見て、まだ完全に“堕ち”切ってはいなかった事に若干安堵しながら、ザクリスは呼びかけた。
「此処は俺が引き受けてやる!お前は先に行け!!」
「けどっ!ザクリスはどうすんだよ?!」
完全に温度を取り戻した目で大声を上げるカイに、ザクリスはニヤッと笑って見せる。
「心配すんな!お前を逃がしたら俺もとっととずらかる!後でお前の小タブに今日の護衛代の請求書送りつけてやるから安心しな。」
「いらねーよ!ったく。ちゃっかりしてんなぁ……わーった!!此処は任せた!死ぬなよ!!」
「誰に言ってんだよばーか!サッサと行け!!」
「おう!!」
カイがフライングボードで飛び立つのと、ザクリスが再び両手に構えた拳銃で応戦し始めるのは同時だった。
空へ舞い上がれば、彼の独壇場だ。背後から迫り来る弾丸を舞うように避けながら、仲間との合流ポイントへと向かうカイの後ろ姿をチラッと振り返って、ザクリスは笑みを浮かべる。
「まったく……まだまだ手の掛かる奴だな……」
独り言のように呟いて、ザクリスも応戦しながら隙を見て走り出す。
帰りを待つ仲間が居るのは、何もカイだけではない。
自分もまた、そういう存在に巡り会い、それを糧に今まで何度も死地から戻って来た……昔はいつ死んでも構わないとすら思っていたが、人間という生き物は……口で言う程簡単に命を捨てられない生き物らしい。
だが、追っ手を撒く為に飛び込んだ脇道の先で、彼は不意にその姿を消してしまった。
……そう。まるで、霞に攫われてしまったかのように……
~*~
一方、カイが瓦礫街を脱出する少し前の事……
アサヒは
ザクリスが瓦礫街へ向かって既に3時間。なんの連絡も動きも無い。
「やっぱり、俺も行った方が良かったかなぁ……」
ぽつりと零した一言に、
その声に、アサヒは表情を緩めるように苦笑を浮かべた。
「まぁ、俺が行ったところで足手纏いになっちまうのは目に見えてるんだ。今回は大人しく此処で待つ事にするよ。正直未だに、あの街に行く勇気も無いしな……」
そう言って、アサヒはふと足元に視線を落とす。
かつて一度だけ……仕事の関係でザクリスと共にあの街を訪れた時……自分はまだ、記憶を失ったあの日から1年経ったかどうかというような状態だった。
ろくに戦う事も出来ず、守られてばかりだった自分のせいでザクリスが取り返しのつかない重傷を負ったのを、アサヒは今でも負い目に感じていた。
グルルルル……
「どうした?
ふと顔を上げ、瓦礫街の方を見つめる
遠いせいで誰なのかまではハッキリしないが……瓦礫街から飛び出して来た誰かが大勢の者達に追われていた。
「ザクリス……じゃなさそうだが……」
アサヒは一瞬迷う。
タイガーの見張りを頼まれている以上、ほったらかしにする訳にはいかない。
だが、どうにも目の前で困っている人間を放っておけないのが、アサヒの性分であった。
彼は立ち上がると、不意に青いセイバータイガーの方へ駆け寄る。
収納スペースから取り出したのは、ホバーボードであった。
「
グルルッ
分かった。というような短い返事にふと微笑んで、アサヒはホバーボードで追われている者の元へ向かう。
どうやら追われているのは1人。しかも女性だ。逃げながら手にした拳銃で時折応戦しているようだが、追っ手達は拳銃一つで相手に出来るような数ではない……
アサヒはホバーボードに乗ったまま刀を抜くと、追っ手の群の中を一直線に横切るようにして数人切り伏せ、一旦距離を取る。突然割って入ったアサヒに驚いたのだろう。追っていた女性とアサヒ、どちらを先に始末すれば良いのか迷った追っ手達は、酷い混乱状態に陥った。
(烏合の衆ほど狩りやすい群は無いな。さっさと畳みかけちまうとするか。)
我先にと銃を乱射してくる追っ手に臆する様子もなく、アサヒは再びホバーボードで追っ手の群へと切り込み、着々とその数を減らしていく。その様子を見て敵ではないと察したのか、追われていた女性が此方を援護するかのように銃で応戦し始めた事に気付き、アサヒの口元にふと笑みが浮かんだ。
程なくして追っ手を全員蹴散らしたアサヒは、追われていた女性の前でホバーボードから降りた。
「怪我ぁ無いかい?」
「あぁ。お陰で助かったぜ……って……」
男のような口調で答えた女性は、次の瞬間目を丸くする。
その女性の顔を見たアサヒもまた、目を見開いていた。
「お前……まさかアサヒ??」
「ハスハ……だよな??」
互いにぽかんと見つめ合う2人だったが、次の瞬間、ハスハと呼ばれた女性はアサヒの肩にガッシリと腕を回しながら笑い出す。
「なんだよアサヒじゃねーか!!ちょっと見ねーうちに随分強くなったなぁおい!!」
「お前さんは相変わらず元気そうだなぁ……ちーっとも変わっとらんようで安心したよ……」
苦笑を浮かべるアサヒに、ハスハは肩に腕を回したまま、怪訝そうな表情で彼の顔を覗き込む。
「なんだよ。そのジジ臭ぇ喋り方。」
「あ……いや、これはえっと……まぁ、ちょっと……」
「……はっは~ん。さてはお前、チビで童顔なの気にして、ちょっとでも大人っぽく見えるようにキャラ作ろうとしてんだろ?」
「べ……別にそんな……お前に関係無いだろ!ほっといてくれ!」
普段の古めかしい口調から一転し、子供のような声を上げるアサヒに、ハスハはゲラゲラと笑い声を上げる。
「それそれ!やっぱお前、そっちの喋り方の方がしっくり来るぜ。」
やっと肩に回していた腕を解いたハスハを見つめて、アサヒは何処か観念したような溜息を吐く。
まるで少年のような……ハスハと出会った頃と同じ口調で、彼は呆れたように訊ねた。
「で?なんでこんな物騒な連中に追い駆け回されてたんだ?また自分から喧嘩売ったんじゃないだろうな?」
「あ?人聞き悪ぃ言い方すんじゃねーよ。あたしはただゴーストって奴から変なディスク貰っただけさ。そしたらタイミングの悪ぃ事に、ガーディアンフォースがディスクの事嗅ぎ回ってたらしくてよ。仲間だと思われて、追っ駆け回される破目になっちまったってワケだ。」
「ディスク??」
「あぁ。ほらコレ。」
ハスハは特に勿体ぶりもせず、手にしていた部品を差し出す。
……それは間違いなく、サンドコロニーでスカーレット・スカーズのレドラーから回収したあの部品と、全く同じ物であった。
「なんで……お前がこんな物を……」
「別にあたしは、こんなディスクなんざ更々興味ねぇよ。ただ、世話んなってるカスタム屋のおっさんが、妙にこのディスクの事気にしててな。そんなに気になるなら現物入手して来てやろうか?って話になったのさ。」
「あぁ……なるほど。」
確かにそれなら納得が行く。
まさかハスハに限って「戦闘能力を底上げする」などという触れ込みのディスクに手を出す訳が無い。
何故なら彼女は……
「で?お前1人じゃねーんだろ?
「あぁ、
「おっまえさぁ、
「いや、俺はお前のコマンドウルフの方が心配なんだけど……」
苦笑を浮かべるアサヒに、ハスハが意地の悪い笑みを浮かべる。
「あたしを誰だと思ってんだよ。お前のお師匠様だぜ?パーツ泥棒なんかに見つからないように、ちゃーんと隠してあるに決まってんだろ。」
そう……ハスハはかつて、瓦礫街の一件で負傷したザクリスが動けなかった間、彼に代わってアサヒに戦いのイロハを教えてくれたゾイド乗りだった。
「にしても、お前の相方がゾイド置いて留守にしてるって事は、瓦礫街に居るんだろ?……もしかしてディスクの事嗅ぎ回ってたガーディアンフォースって……そいつじゃねーだろうな??」
恨みがまし気にずいっと此方を睨み付けるハスハに、アサヒはまた苦笑を浮かべる。
「いやいやいや。俺もザクリスもガーディアンフォースじゃないよ。そりゃまぁ確かに、あいつもディスクの事探りに瓦礫街に行ったのは確かだけど……」
「じゃぁそのザクリスが、ガーディアンフォースと勘違いされて騒ぎになってんじゃねーのかぁ?」
「ど……どうなんだろ……?」
苦し紛れのような声を上げながら、アサヒは視線を泳がせつつ胸の内でぼやいた。
(ザクリス……早よ帰って来て誤解を解いてくれ……これじゃ俺がハスハにどやされちまう……)
確かにハスハはアサヒの師匠で、なんだかんだ情のある良い奴ではあるが……言葉遣いの通り、かなり気性の荒い性格をしている。
特に彼女は、自分の仕事の邪魔をされるのを最も嫌っている為、早く誤解を解かなければ当のザクリス本人が居ない以上、必然的にハスハの怒りの矛先が此方に向けられる事になるのを、アサヒは嫌という程知っていた。
……彼女を一度怒らせれば最後……とんでもなくおっかないという事も……
「ま、とりあえず待ってりゃそのうち戻って来るだろ?そいつ。それまでお前と一緒に待っててやるよ。話し相手が居ねーってのも退屈だろうしな?」
「あ。はい……」
案の定、ザクリスが戻って来るまで居座る気満々といった様子のハスハに、アサヒはすっかり諦めたような表情で力無く返事を返すのだった。
~*~
「来た!!」
合流ポイントで待機していたレンが明るい声を上げる。
フライングボードで此方に向かって来るカイのGPS信号をキャッチした彼は、通信を開いた。
「カイ!打合せ通りで大丈夫か?!」
『あぁ!頼んだ!!』
元気の良い返事に安心したような笑みを浮かべたのも束の間。
ぐんぐん此方に近づいて来るカイを見て、レンは思わず目を見開いた。
エドガーと違い、ゾイドの声こそわからないものの、レンはその分、フィーネから人並外れた視力や聴力といったものを受け継いでいる。それ故に、カイの怪我に嫌でも目が行ってしまったのだ。
彼はすぐに安全バーを外すと、キャノピーを開き、ライガーゼロの頭の上……頭頂部のヘッドフォークフィンの上に降り立ったカイの方へと駆け寄る。
「馬鹿!お前傷だらけじゃねーか!!」
「へーきへーき。ワイヤー使ってゼロに引っ張ってもらうくらい、どうって事ねーよ。」
「そーゆー問題じゃねぇだろ!ちょっとこっち来い!!」
レンは有無を言わさず、カイの腕を掴む。
彼はそのままカイを引っ張ってコックピットの前まで戻り、半ば無理矢理押し込むようにカイを操縦席へと座らせ、安全バーを下ろす。
まるで幼い子供に言い聞かせるように彼は呟いた。
「ボード抱えて、ちゃんと大人しく座ってるんだぞ。良いな?」
「いや、俺が此処座ってたらレンが……」
「俺は良いから!怪我人は怪我人らしく自分の心配しろって!」
「けど、操縦―」
「俺なら何処に乗ってようと、操縦席と変わんねーから大丈夫!心配すんな。」
「心配すんなって……」
思わずぽかんとしたカイに構わず、レンはキャノピーの開閉レバーを操作すると、挟まれる前に手を引っ込めてもう一度念を押すように「絶対大人しくしてろよ!」と言い残し、キャノピーが完全に閉まるのを待つ。
「よっ!と。」
閉まった後のキャノピーの上を駆け上り、ヘッドフォークフィンの付け根のくぼみに腰を下ろすと、レンは至って楽しそうに叫んだ。
「この乗り方久しぶりだな!行こうぜ!ゼロ!!」
「ガルォンッ!!」
了解したと言わんばかりの元気な声を上げた後、ライガーゼロ-プロトは走り出す。
放熱板であるヘッドフォークフィンの付け根に座っている為、勿論熱いのは熱いが、ストライクレーザークローやブースターを使わない限り、火傷するほどでは無い。それにゼロ自身も、頭の上にレンを乗せて走る場合はヘッドフォークフィンを閉じたままで走ってくれる為、そこそこ安定して座れる。
周囲を見渡し、ホエールキングが降り立っている場所は……と、確認しかけたところでレンはハッとした。
「あ。やべ。マップ……」
コックピットでは無い為、マップを表示する画面が無い事に気付き、レンは冷や汗を浮かべる。
彼は少し考え込んだ後、ズボンのポケットから小型タブレット取り出し、クルトへ連絡を取る事にした。
『レン?小タブから通話なんて何かあったのか?』
不思議そうに訊ねて来るクルトの声に、レンは申し訳なさそうに呟いた。
「いや、それがさ……今ちょっとマップ見れねーから、悪ぃんだけどゼロのGPS探知してナビゲートしてくれねーかなぁ?って。」
『マップが見れない??故障か??』
「故障じゃなくて……えっと……」
レンの表情に、若干面倒臭そうな色が滲む。彼は観念した様子で経緯を説明し始めた。
「打合せだと、カイをボードに乗せたまま、ワイヤーで引っ張って帰る手筈だったんだけどさ……アイツ傷だらけのボロボロだったから、予定変更して俺の代わりに操縦席に座らせてんだ……」
『は!?じゃぁお前は今何処に乗ってるんだ?!まさか……』
「うん。ゼロの頭の上……」
『お前なぁ!走行中の高速戦闘ゾイドの頭の上から落ちたら、どうなると思ってるんだ!!流石に危ないからその乗り方はやめてくれって、父さんやバンおじさんに言われただろ?!』
そう。レンがゼロの頭の上に直接乗るのは、今回が初めてという訳ではない。
ガーディアンフォースに入隊したあの日……初めて顔を合わせた時からレンの事を気に入ったライガーゼロ-プロトは、コックピット内が調整機材で散らかっているのを理解していたのか、操縦席の代わりに突然レンを頭の上に乗せて基地の演習グラウンドを駆け回るという騒動を起こしてくれたのである。
その一件以来、レンとゼロは暫く操縦席を使わずにグラウンドを走り回るこの乗り方を気に入っていたが、安全管理の面から見てかなり危険である為、トーマとバンからやめるよう注意されてしまったのだ。
それ以来、頭の上に直接座る乗り方はしないようにしていたのだが……
「んな事言ったって、怪我人をワイヤーで引っ張って帰る訳にもいかねーだろ?!おまけに俺は今回ボードブーツ持って来てねーから、カイにボード借りる事も出来ねーし!他に方法ないんだから仕方ねーじゃん!ゼロは父ちゃんのブレードライガーと違って単座なんだから!!」
『それはわかってるが……あーもう!お前絶対落っこちるなよ?!』
「落ちない落ちない!それよりナビ頼むよクル兄!な?この通り!」
『……お前って奴は……都合の良い時ばっかり……』
クルトがすっかり困り果てた顔で頭を抱える。
今では対等に互いを呼び捨てる仲だが……そんなレンやエドガーが幼い頃のように自分を“クル兄”と呼ぶ時というのは、こういう無茶や我が儘を押し通す際の“ご機嫌取り”だ。
クルト自身もそれは分かっているのだが……やはりいくつになっても、弟分達から兄と呼ばれるのは嬉しいものである。クル兄と呼ばれる事に対して、彼は滅法弱かった。
『……今回だけだからな!父さんに怒られる時はお前1人で怒られろよ!!』
「はーい。」
「ガルルゥ」
『……ゼロには怒ってないから……レンを落とさないようにだけ気を付けてくれ。』
グルルッ
そんなやり取りを聞きながら、カイはコックピットの中で苦笑を浮かべる。
「……やり取り、丸聞こえだっつの……」
流石幼馴染といった所だろうか。言い合いの中にも険悪さがまるで無い。
本当に仲が良いんだなと思いながら、カイは不意に表情を陰らせる。
彼の脳裏には、ザクリスに言われた言葉が思い浮かんでいた……
―別に俺じゃなくてもいい。こいつなら信用出来るって奴が見つかった時、抱えたもんをきちんと清算しとけ。―
(無理だよザクリス……他人との信用なんて、そう簡単に築けるものじゃない……)
自分に幼馴染と呼べるような者は居ない。
唯一信用出来ると思えた……なんでも打ち明けられると思えた親友は、あの街に奪われてしまった。
ガーディアンフォースの仲間達は確かに良い奴等ではあるが、抱えたものを打ち明ける勇気が出ない……打ち明けた結果、居場所をまた失ってしまうのではないかという事が、カイにとっては酷く恐ろしかった。
(せめて……お前に打ち明けられたら良かったのに……)
あの街で別れた際のザクリスの笑顔を思い出し、カイは目を閉じてフライングボードをギュッと抱え直す。
恐らく自分と同じ……誰かに打ち明ける事の出来ない過去を抱えた者同士だ。彼になら話せたかもしれない。これが任務でなかったら……こちらの会話が仲間に聞こえる状況でさえなければ……
(……俺、こんなんばっかだな……自分1人で抱えていられるほど強くないのに……向き合いもせずに、都合の良い時だけ他人を頼れたらとか考えて……最低だ……)
深い、静かな溜息を一つ吐いて、カイは顔を上げると、瓦礫街の方を振り返る。
もうとっくに見えなくなっている街の方向を見つめたまま、彼はポツリと呟いた。
「死ぬなよ……ザクリス……」
~*~
「あの野郎!消えやがった!!」
「お前も見たよな?……」
「あぁ。目の前でいきなり……どうなってんだ??」
ザクリスを追っていた者達は、彼が目の前で突然掻き消えた事に戸惑い、ざわついていた。
固定箇所で展開するタイプの光学迷彩の向こうへ消えたのならば、消える瞬間、電子的なブレが生じるが……そうではない。本当に目の前でスゥッと、まるで幽霊が目の前で姿を消すかのように消えてしまったのだ。
戸惑った住人達は慌てて引き返し、ある者は
だが、静まり返った脇道に、彼は確かに存在していた。
「……一体……どうなってんだ?……」
背後から追って来ていた者達が、いきなり自分が“消えた”と騒ぎ出し、何処かへ行ってしまった事に、ザクリスは思わず立ち止まって、不可解なその現象を、異様なその光景を、呆然と眺めていた。
この脇道へ飛び込む前も、飛び込んだ後も、特に違和感のような物は無かった。
一体自分に何が起きたのだろうか?と銃を片方ホルスターへ戻し手の平を見つめたが、とりあえず、自分が幽霊になってしまったワケではないらしい……
ホラーや心霊現象の類が大の苦手である彼は、突如として見舞われたこの現象に青ざめながら、もう一度警戒した様子で周囲を見渡す。自分以外には誰も居ない……と、思った矢先だった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。相変わらずだね。ザクリス。」
聞き覚えのあるその声に、ザクリスは目を見開いてゆっくりと背後を振り返った。
「クラウ……」
ザクリスは背後に現れたクラウとヒドゥンを、警戒の色を宿した瞳で見つめる。
しかしクラウは至って楽しそうにクスクスと笑い声を上げていた。
「まずはお礼くらい言ってくれても良いんじゃないの?一応、助けてあげたんだから。」
「……なるほどな。ヒドゥンのステルス迷彩フィールドか……話には聞いてたが、想像以上の能力だな。」
何処か諦めたかのような笑みを浮かべるザクリスに、クラウはニタリと笑う。
「で?なんで“組織から逃げ出した”君が此処に居るの?クラウ達の事を誰にも喋らない事。邪魔をしない事。それが見逃してあげる条件だった筈だけど?」
「……別に誰にも言ってねーし、邪魔をする気もねぇよ。」
「じゃぁ、どうして此処に居るワケ??」
「さぁな。」
ぶっきらぼうに答えてそっぽを向くザクリスに、クラウは無遠慮に歩み寄ってその顔を見上げる。
彼女の顔には、嘲るような笑みが浮かんでいた。
「まさかとは思うけど……変な事考えてないよね?クラウ達はいつでも君のお友達を殺せるんだよ?裏切り者だった君のお父さんみたいにさぁ??」
「ルークに手ぇ出した時がお前らの最後だ。いつまでも虎の首を踏みつけていられると思うなよ……」
「ふ~ん。」
殺気立った声で静かに呟いたザクリスへ、何処か含みのある声を上げた後……クラウはくるりと背を向けてヒドゥンの元に戻りながら楽しそうに喋り出した。
「君さぁ、サンドコロニーで守護鷲と一緒に戦ってたよね?」
「守護鷲??」
「ブレードイーグル。って言えば分かるでしょ?とぼけたって無駄だよ。クラウ知ってるもん。」
クラウはヒドゥンに背を預け、冷たい目でザクリスを眺めながら言葉を続ける。
「どうせその時にディスクを回収して調べたんじゃないの?だから此処に居るんでしょ?あのディスクの中身が、自分の作ったパンドラだって気付いたから。違う??」
「やっぱりそうなのか……だが一つ解せねーな。パンドラにゾイドを支配する作用は無ぇ。そしてパンドラを組める奴も、中身を弄れる奴も、俺と親父しか居ねぇ筈だ。誰がパンドラを改造した?」
「教えてあげる義理は無いし、君が知る必要も無いよ。」
そのまま静かに2人は睨み合っていたが、不意にザクリスが笑う。
怪訝そうな表情を浮かべたクラウに、彼は呟いた。
「教える気がねーならそれで良いさ。どうせ大人しく教えてくれるとは端から思ってなかったしな。あのディスクの中身がパンドラだって分かっただけで充分だ。俺が本当に知りたかったのはそっちだしな。」
「……知ってどうするつもり?クラウ達に盾突くなら、本当にお友達殺しちゃうよ?」
先程までの子供らしい態度から一転した冷たい声音で、クラウが脅す。
しかし、ザクリスは肩を竦めて見せるだけだった。
「良いのか?今ルークを殺すのは、お前らにとってデメリットでしかないって事くらい、俺も知ってんだぜ?」
「だから高を括って此処に来た挙句、ガーディアンフォースの子を助けたワケ?この街で君がディスクの事を嗅ぎ回ってた事や、守護鷲のパイロットを助けた事をクラウが報告すれば、何もかも終わっちゃうんだって事、わかってる??」
「そうだな。言いたきゃ言えよ。ディスクの中身がパンドラだって俺にバラしちまった事もな。」
「ッ……」
微かに怯えた表情を浮かべたクラウに、ザクリスは畳みかけるように言い放った。
「あいつらにとっちゃ、俺もお前も都合の良い捨て駒だ。まだ使えるから、捨てる時じゃねーから、こうして手の平に乗せられちゃいるが……早く捨てられたい俺と違って、お前はあいつらに捨てられたくねーんじゃねーか?」
その言葉に、クラウはキッと彼を睨み付けて叫んだ。
「うるさいッ。うるさいうるさいうるさい!!!あんたと一緒にしないでよ!クラウは違うもん!死にぞこないのあんたとは違うもん!!」
彼女の声に呼応するかのように、ヒドゥンの尾がザクリスを薙ぎ倒す。
特に避ける素振りも見せず吹き飛ばされたザクリスは、瓦礫に叩きつけられ、強打したこめかみから血を流していたが、それでも何処か勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……今此処で俺を殺したら、お前らの計画とやらに支障が出るんじゃなかったのか?だからさっきの連中から助けてくれたんだろ?そうカッカすんなよ。」
「チッ……だからクラウはあんたが嫌いなの。昔っからいつもそう。用が済んだならさっさと殺しちゃえばいいのに、リューゲン卿も、お姉様も、ハウザーも……誰もあんたを殺そうとしない。なんであんたはそこまでお姉様達に必要とされてるの??」
悲しみと憎しみを綯い交ぜにしたような表情で、クラウはザクリスを睨み付ける。
ザクリスは、不意に視線を落とし、消え入るようにぽつりと呟いた。
「それは……こっちが聞きてぇよ……」
「……あっそ。」
どうでもよくなったかのような投げ遣りな声と共に、クラウはヒドゥンを連れて歩き出す。
数歩歩いたところで立ち止まった彼女は、振り返りもせずに言い放った。
「惨めだね。殺してほしいのに殺してもらえないなんて。そんなに苦しいなら、自分で死ねばいいのに。」
再び歩き出しながら、クラウとヒドゥンは霞に飲まれるように姿を消す。
ザクリスは無表情のまま、ぼんやりと空を見上げた。
「死にたくても死ねねーんだよ。今は……まだ……」
空の色を溶かしたような真っ青な瞳は、何処か虚ろなようにも見えたが……その奥底には鈍い光が灯っていた。
決意や覚悟の類とは違う暗い意志の光は、やがてふっとなりを潜める。
「ったく。少しは遠慮なり手加減なりしろよな……痛ぇんだっつの……」
血でべたつくこめかみを押さえてぼやく彼は、もう普段の調子に戻っていた。
若干ふらつきながら立ち上がった彼は、周囲に人の気配が無い事を確認して歩き出す。
ふと脳裏を過ったアサヒの顔に、ザクリスは溜息を一つ吐いた。
「こんだけボロボロじゃ、説教コース確定だな……」
無茶はしない。と約束していたのにこの様だ。アサヒが怒り狂う姿しか想像出来ない。
それでも何処かホッとした足取りで瓦礫街を後にする彼の顔には、困ったような笑みが浮かんでいた。
自分にはまだ、やるべき事がある……死にたがりの自分が生きる理由ならば、それで十分だ。
こんな自分でも必要としてくれる者が居る……卑怯者の自分にとっては、勿体ないほどの居場所だ。
何度自分を取り巻く因縁を恨んだかわからないが、こうして生きる理由を胸に抱いているうちは……この世に居場所があるうちは……この無情な程の青空も、存外捨てたものではない。
だがそれは、裏を返せば……
(なぁ、カイ。お前は絶対……俺みたいにはなるなよ……)
懇願にも似たその祈りは、風に乗って蒼天の彼方に溶け込んでいった。