瓦礫街での任務が終わって帰路に就いたホエールキング。
その中で、レンに過去を打ち明けた……誰かと向き合うって勇気が要るけど、レンは受け止めてくれた。
それだけじゃない。こんな俺に、親友になろうって言ってくれたんだ。
なぁ、ラシード……俺、また親友が出来たよ。
[カイ=ハイドフェルド]
[ZOIDS-Unite- 第24話:重ねたもの]
瓦礫街での任務が無事完了した。
ゴーストとの接触によって、その目的も漠然とながら判明し、負傷こそしたが、カイも約束通り生きて戻って来た。おまけにレンへ過去を打ち明け、親友となれた事で、消せない過去にも一区切り付ける事が出来たようだ。
しかし、ガーディアンフォースベースに戻って来てからはとにかく忙しかった。
「カイ~!!」
「シーナさん!あの!あまり走ってはッ……」
「んぁ?……」
まず、シーナの呼び声とクルトの慌てた声で目が覚めた。
両目に涙を浮かべたシーナによる全力疾走からの抱擁……普段なら微笑ましい限りなのだが、飛び付いたシーナの腕が、盛大に肩の傷口へダメージを与えた。
「痛ってぇぇ?!」
思わず大声を上げれば、シーナはすぐハッとしたようにカイから離れ、心配そうに彼を見つめる。
「ご、ごめんね。大丈夫??」
「あぁ、大丈夫……一応。」
一瞬で眠気を吹き飛ばされたカイは、まだズキズキとしている肩を押さえながら苦笑を浮べた。
ベッドの上で起き上がってみれば、ホエールキング内の医務室ではない事にすぐ気付く。
見慣れぬ室内の風景に首を傾げていれば、恐らくずっと付き添ってくれていたのだろう……パイプ椅子に腰かけたレンが穏やかに笑った。
「あぁ、此処はベースの基地内病棟だよ。ぐっすり寝てたからこっちに一旦移ったんだ。」
「基地内病棟……そっか、帰って来たんだな。あ。レン、おはよ。」
「おはよ。っつっても、もう夕方だけどな。」
苦笑を浮かべた後、レンは心配そうにカイを見つめているシーナへ呟いた。
「悪ぃなシーナ。カイの奴、任務で怪我しちまっててさ。飛び付くのはしばらく我慢な。」
その一言が、シーナの顔色を変えた。
両目に再び涙を浮かべながら……珍しく、彼女はむっとした顔で怒ったのだ。
「カイ、サンドコロニーで私がディスク調べる時、無茶はしないでって言ったよね?」
「あ、あぁ……」
「なんで私は無茶したら駄目で!カイは無茶しても良いの?!不公平だよ!!」
「えぇぇ……」
幼い子供のように怒るシーナに、カイは苦笑を浮かべ、クルトとレンは全く以ってその通りだと言わんばかりにうんうんと頷いている。
「私ずっと心配してたんだよ!ユナイトも!エドガーも!スペキュラーも!皆も!他の人が傷付くのが嫌ってカイは言ったけど!私達だってカイが傷付くの嫌なの!!なのに……なのにっ……」
「あー……シーナ?ごめん。ごめんな?な??」
苦笑と共にカイがそっと顔を覗き込んだ直後、シーナはぽかぽかとカイの胸を叩きながら泣き出した。
「カイの馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!馬鹿ぁ!!」
「シーナ、痛い。痛いから……傷響くから……」
カイは降参した様子でぐったりと呟くが、無茶をした自覚がある手前、逃げるのも気が引けるのか……大人しくシーナに叩かれている。
どう止めるべきかとオロオロしているレンの様子を見かねて割って入ったのは、クルトだった。
「シーナさん。そのくらいにしてやって下さい。カイも疲れていますから。」
そっと後ろから両肩を掴んで優しく引き離せば、シーナはそのまま両手で涙を拭きながらぐすぐすと泣き出し、その泣き顔を見たクルトは、手の平を返すようにカイへ恨みがましそうな視線を向ける。
「ほら見ろ。お前の無茶でシーナさんがどれだけ傷付いた事か。」
「お前どっちの味方なんだよ……」
「当然。シーナさんの味方に決まってるだろう。」
「あーはいはい。ですよね……」
呆れた様子で視線を泳がせた後、カイも泣きじゃくるシーナの頭を優しく撫でて、囁くように今一度、謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなシーナ。皆心配してくれてたのに、俺、ちょっと周りの事見えてなかった……無茶しちまって、本当にごめんな。」
「もう……無茶しない?……」
「あぁ。」
「……約束する?」
「約束する。」
頷いたカイに、シーナはくすんと小さく鼻をすすると、上着の下に身に着けている「約束のお守り」を取り出してカイに差し出した。
カイは差し出された銀色の鷲にそっと手を置き、反省した様子で呟く。
「もう絶対、無茶はしません。約束します。」
「うん。」
やっと微笑んだシーナに、やり取りを眺めていたレンとクルトが不思議そうに顔を見合わせる。
「それ……おまじないか何かか?」
「おまじないっていうか……このペンダントね、約束のお守りなの。」
レンの問いにシーナは涙を拭きながら笑顔で答え、再びお守りを上着の下へしまう。
彼女のその笑顔に、自然とレン達も笑顔を浮かべながら互いに顔を見合わせた。
その後カイは、レンに宿舎の自室から着替えを取って来てもらい、病棟服から任務服へと着替え、最先任であるガウスの執務室へ向かう。今回の任務の報告を手短に済ませた頃には、午後6時過ぎになっていた。
早朝に出発し、午前中ずっと瓦礫街に居た事が俄かに信じられない程、任務と共に長い一日が終了した。
……までは、まだ良かったのだが……
翌日、提出された任務の録音データを確認したガウスに、カイとクルトが午後一で呼び出されたのは……当然、言うまでもないだろう。
「まぁ……クルトはもう成人済みではあるが、なんだかんだ2人ともまだ10代だし。若気の至りも大いに結構なんだけどさ?もう少し、時と場合ってのを考えようか……」
「はい……」
「申し訳ありません……」
執務室のデスクの前で、深々と頭を下げるカイとクルトに、ガウスは呆れ顔で溜息を吐く。
「今回の録音データ、俺だけじゃなく委員会にも報告として提出しなきゃならないんだけど……流石にあんな大喧嘩を国のお偉いさん方に聞かせる訳にもいかんのよ。特にクルト。お前一応、シュバルツ元帥の甥御さんなんだから、身内に恥かかせるような言動は慎もうな?」
「はい……」
「カイも。今回の任務は色々思う所もあっただろうし、気が立ってたのはわかるよ。けどぶっちゃけあれ、完全にクルトへの八つ当たりだったろ?違うか??」
「いや……逆切れだったのも、八つ当たりだったのも……自覚してます……」
「ならば結構。」
ガウスは椅子の背凭れに体を預け、ぐったりとした様子で言葉を続けた。
「……あのね?別に俺もね?仲良しこよししなさいと言ってる訳じゃないんだよ。保育所じゃないんだから。日常生活で喧嘩する分には、そりゃもう思う存分やれば良い。うちの医療スタッフは皆優秀だし。拳の語り合いから生まれる友情って奴も、青春真っ盛りの10代ならではだからね。けどさぁ……せめて任務中なやめような、任務中は。こうやって面倒な説教しなきゃいけなくなるから。」
「「はい……」」
こうしてガウスに厳重注意という名の説教を受けた2人は、任務の報告書に加えて反省文……もとい、軽度不祥事発生報告書というものを書かされる破目になり、加えてクルトには録音データの編集作業も追加された。
怪我の関係もあり、午前中が書類作成。戦闘操縦訓練は午後だけ。という事になりはしたが、これまた訓練は訓練で一苦労であった。
ブレードイーグルが瓦礫街の任務で置いてけぼりを喰らった事で、すっかりいじけてしまっていたのだ。
なんでも、エドガー曰く
「任務なら俺を連れて行けば良かったのに。薄情者め……と延々独り言を言っていた。」
との事である。
事情を説明し、イーグルがやる気を出してくれるまで約2時間……それだけでもかなりぐったりしてしまうが、イーグルがどんなに機嫌を直してくれても、怪我ばかりはどうしようもない。
腕と足の傷はともかく、肩の傷と烙印は丁度シートベルトに押さえつけられる位置であり、お得意の急上昇、急降下、急旋回、急加速といったものがことごとく上手くいかず、見かねたウィルがこまめに休憩を挟んでは傷の具合を訊ねて来る始末だ……
傷が治るまで操縦訓練そのものを暫く控えるか?とも聞かれたが、一応医師からは訓練許可は下りているし、何より1ヶ月しか居られないウィルとシドを手空きにしてしまうのは気が引けてしまい、やれる範囲で続行すると答えてしまった……なんだかんだ、自分も根が真面目なのだろうか?
「よっしゃぁぁぁ……やっと提出書類終わったぁぁぁぁ……」
ぐったりとそんな声を上げる頃には、帰還から3日が経っていた。
本日は土曜日。何故休日に細々と自室で書類を書き続けなければならないのか……と嘆きもしたが、なんだかんだ昼までに終わって良かった。と、ホッとする。これで午後からは完全にフリーだ。
今日は何をしよう?と考えた瞬間、一番最初に脳裏を過ったのが、ザクリスから本当に送り付けられて来た瓦礫街での護衛代の請求書である。
(冗談かと思ってたのに、マジで送って来るんだもんなぁ……流石にビビったぜ……ま、命助けて貰ってんだから文句は全くねぇんだけど。)
ともかくまずは銀行に行こうと決めはするが、その後はどう過ごそうか?中古ショップを巡ってCDでも買い漁ろうか?いや、そもそもその前に昼飯だな……などと考えていたその時、ドアをノックする音が響いた。
「あ~ぃ……開いてま~す……」
椅子の背凭れに体を投げ出し、天井を向いたまま脱力した声を上げれば、開いたドアから私服姿のレンがひょこっと顔を覗かせる。
「カイ。報告書まだ掛かりそうか?」
「今終わったとこ……滅茶苦茶疲れた……」
「おぉ~!お疲れ~!!」
脱力したままのカイの頭を、レンが嬉しそうにわしゃわしゃと撫でまわす。
書類作成を終わらせたばかりでまだ疲れているのか、特に反応も返さずレンの好きにさせているカイだったが、直後。頬に冷たい物をペタッと押し付けられ、弾かれるように体を起こす。
バッ!とレンを見上げれば、彼は苦笑を浮かべながら冷たい缶コーヒーを差し出していた。
「悪ぃ悪ぃ。これ差し入れ。」
「サンキュー。」
そっと受け取った缶コーヒーを開け、数口ほど一気飲みすると、カイは一心地付いたかのように呟いた。
「あ~……生き返る……」
しみじみとした声に、レンが噴き出すように笑う。
「徹夜開けのクルトみてーな事言ってら……」
「マジで?」
「マジで。」
「うへぇ……」
やはりぐったりと苦笑を浮かべるカイに、レンはふと思い立ったように訊ねた。
「なぁカイ。今日、これから予定あるか?」
「あ~……とりあえず昼飯?と、銀行かな。後はまだ何にも考えてない。」
「そっか!なら飯食った後、家に遊びに来いよ。」
唐突なその提案に、カイは目を見開いてぽかんとレンを見上げた。
「家って?宿舎の部屋??」
「違う違う。基地に隣接してる関係者住宅地の方の家。」
なんでもなさそうに答えたレンに、カイは首を傾げる。
「え?お前、宿舎じゃなくて通いだったっけ?」
「そうだぜ。もしかして気付いてなかったのか?」
「いや……だってお前の部屋、確か101だろ??」
いまいち飲み込めていない様子のカイに、レンはけらけらと笑った。
「あぁ、宿舎の部屋は夜勤の時くらいしか寝泊りしてないんだ。俺。普段はただの私物置き場。兼、更衣室代わりってとこかな。」
「……全ッ然知らなかった。」
「えぇぇ?!帰る時に「また明日な!」って声掛けてたじゃん!」
驚きの声を上げるレンに、カイは頬杖を突きながら呆れたような視線を向ける。
「部屋があるって聞いてた手前、通いだなんて考えもしなかったぜ……」
「わはぁ……先入観ってスゲー……」
苦笑を浮かべたレンだったが、すぐまた元通りの明るい笑顔に戻って改めて訊ねた。
「ま、何はともあれ、まずは昼飯食おうぜ。美味い店知ってんだ。」
「お……おう。」
とりあえず、カイは微かな戸惑いと共に小さく一度だけ頷くのだった。
~*~
「うっま!何コレ?!」
レンに連れて来てもらったヘルトバンのとある店で、カイが声を上げる。
その様子に明るい笑い声を上げながら、レンも自分の昼食に口を付けた。
「何って、ホットドッグくらいカイだって食った事あるだろ??」
「そりゃあるけどさ、こんな具沢山の奴は食った事ねーよ。滅茶苦茶美味いんだけど。」
カイは小さな子供のように目を輝かせながら、一心にホットドッグを頬張る。
普通のホットドッグといえば、ソーセージとケチャップ。マスタード。あとの具材は店によって多少異なるものの、ザワークラウトだのスライスピクルスだのが殆どだ。
だが、レンが連れて来てくれたこの店は、所謂「創作ホットドッグ」ばかりが並ぶ人気の専門店。具材も変わり種が多い。
レンがおすすめだと言って買って来てくれたホットドッグには、ソーセージの他にレタス、パプリカ、玉ねぎ、玉子フィリング、刻んだ海老等が入っており、ソースもケチャップの他に、シーザードレッシングと削りたてのチーズがたっぷりとかけられていた。ホットドッグというよりも、まるでサンドイッチだ。
「この店の人気商品のシーザードッグって奴に、トッピングで玉子と海老追加したんだ。俺この組み合わせがすっげーお気に入りでさ、せっかくだからカイにも食わせてやりてーなって。」
「お前ホント良い奴だなぁ……頑張って書類終わらせて良かったぁ……」
しみじみとした声で呟きながら、カイは満足げな息を一つ吐く。
「創作ホットドッグの専門店って事はさ、他にも色々メニューあるんだろ?良かったらまた来ようぜ!俺メニュー全制覇してみてぇ!」
「勿論!……あ、でもマグマドッグだけはやめとけよ。」
神妙な面持ちで声のトーンを下げながらひそひそと囁くレンに、カイは苦笑を浮かべた。
「マグマドッグって……えっと、名前からして滅茶苦茶辛い……とか?」
「あぁ。挟んであるソーセージがチョリソーで、そこに刻んだ玉ねぎと青唐辛子がギッシリ挟まってて、マスタードと、ケチャップの代わりのジョロキアソース掛かってる。味はぶっちゃけ辛いを通り越して痛い。」
「それもう完全に罰ゲームメニューじゃねーか。誰が食うんだよ……」
そこまで言った後、ハッとした様子でカイはレンを見つめる。
「え?!お前食ったの?!」
「いや、つい好奇心で……」
「マジかよ……で?完食したのかよそれ。」
「いやいやいやまさかまさか!一口で断念してクルトに譲った。」
レンの一言に一瞬思考が止まった後、カイは恐る恐る訊ねた。
「……で、クルトはそれ全部食ったの?」
「あ。うん。普通に……」
「信じらんねぇ……辛党っつっても限度があるだろ……」
全く理解出来ない。と言った様子のカイに、レンは苦笑を浮かべて一つ訂正する。
「いや、クルトは別に辛党って訳じゃねーよ。」
「え??」
「あいつ、チーズ以外ならなんでも食えるんだよ。味覚の許容範囲が海のように広いっていうか……」
「……それってつまり、滅茶苦茶頭が良い代わりに、舌が絶望的に馬鹿なだけなんじゃねーの??」
「ん~……かもなぁ……」
流石に擁護しきれないのか、レンもついに理解出来ないといった表情を浮かべる。
幼馴染のレンやエドガーですら、クルトの味覚については幼い頃から首を傾げて来た。到底食べられないような辛い物でも、一口だけで胸やけしそうなほど甘い物でも、本当に何でも至って美味しそうに食べるのだ。
いや、それだけならばまだ100歩譲って「凄いなぁ……」の一言で済ませられるのだが……
「クルトってさぁ……時々料理にあり得ないもんかけたりするんだよ……」
「えぇぇ??……」
そう。気分の味ではなかった場合、クルトはいきなり妙な組み合わせを試し始める。
サラダにチョコレートシロップをかけてみたり、アイスクリームにバーベキューソースをかけてみたり、スープにガムシロップを入れてみたり……挙げ始めればキリがないが、正直ただの味音痴なのでは?と思わずには居られない。まぁ、普通の料理も普通に美味しいと言って食べる為、味音痴という訳ではないのだと信じたいが……
ぐるぐると考え込むレンのポケットから、不意に小型タブレットの着信音が鳴り響いた。
「あ。ちょっとごめん。」
レンはすぐさま通話に出る。
「うぃーす……あぁ、無事に終わって一緒に昼飯食ってるよ……うん……うん。オッケー!ちょっと用事あるらしいから、それ済ませたら連れて行く……うん。じゃぁよろしくな。」
手短に通話を終わらせ、レンは再び小型タブレットをポケットにしまう。
そんな彼を不思議そうに見つめ、カイは首を傾げた。
「なんか用事?」
「いや、弟から。今日友達遊びに来るって伝えてあるから、楽しみなんだろうな。兄ちゃんの友達、仕事終わった?だってさ。」
「あ~……マジか。あんまり待たせるのも悪ぃし、サッサと食って行くか。」
そう言って食べるペースを上げるカイに、レンは慌ててわたわたと声を掛ける。
「あ!いや!そんな急ぐ必要はねーよ!うん!なんか弟達も今立て込んでるっぽいし!」
「弟達??弟、1人じゃねーんだ?」
「いやッ……えっと、弟は1人だけど……」
途端に歯切れの悪い反応になったレンに、カイは怪訝そうな表情を浮かべた。
「……レン、なんか隠してねーか??」
「あー……はい。隠してます……」
驚くほど素直にそう認めたレンだったが、彼は直後、両手を合わせて深々と頭を下げながら懇願の声を上げる。
「でもごめん!今はまだ言えねーんだ!家に着いたらすぐわかるから、今は聞かないでくれ!この通り!!」
「わ、わかったわかった!聞かねーから……とりあえず飯食っちまおうぜ。」
カイが苦笑を浮かべて食事の続きを促せば、レンはパァッと明るい表情を浮かべる。
2人揃って再びホットドッグを頬張りながら、カイはレンが何を隠しているのだろう?と疑問に思うのだった。
~*~
昼食を終え、銀行へ寄り道した後、カイはレンの案内で彼の自宅へと辿り着く。
「……案外、フツーの家なんだな。」
玄関の前で家の外観を眺めながら、カイが呟く。
庭付きの、二階建ての一戸建て。この時代の都会では、さほど珍しくない。
英雄一家の自宅だなど、言われなければ誰も分らないだろう。
「無駄にデカい家建てたってしょうがねぇって、父ちゃんがさ……
けどまぁ、ぶっちゃけ家なんて住めりゃそれで事足りるんだし。これで充分だよ。」
そう言って笑うレンが少し羨ましい。
自分の実家は……
「ほら!入った入った!」
「わ、わかったから押すなって!」
ぐいぐいと背を押されながら、カイも笑う。
しかし、玄関の扉を開けた直後、黄色い何かが猛スピードで走って来た。
「キュイ~!!!」
「こら!待てってデューク!!外出たら危ねーぞ!!」
走って来た黄色い何かを追い駆け、玄関に飛び出して来たのは、レンそっくりの金髪の少年だ。
少年は、レンの脚に抱き着いている黄色い何かを抱え上げると、呆れたように呟いた。
「ったく。お前はぁ~……」
「よ!ただいま。」
「遅ぇんだよ。兄貴のばーか。」
生意気にレンを見上げる少年と、その少年が抱え上げた黄色い何かを交互に見つめて、カイはぽつりと呟く。
「えっと……レンの弟?」
「あ、うん。俺、シンって言うんだ。こいつはデューク。」
「キュイ!」
シンの腕の中で此方を向き、声を上げた黄色い何か……デュークを見つめ、カイは目を見開いた。
「デュー……ク?……これって……」
それは、サイズこそ抱えられる程度の大きさではあるものの……二足歩行の恐竜型。オーガノイドをデフォルメして小さくしたような姿をしていた。
「仔犬ならぬ、仔オーガノイド……?」
思わず顔を近づけて、デュークの顔を凝視する。
ユナイトよりもシンプルなツルンとした丸い頭に、大きな緑色のアイレンズ……成長したらユナイトやスペキュラーのような大きさになったりするのだろうか?
だが、不思議そうにまじまじとデュークを見つめるカイに、シンは明るい笑い声を上げた。
「違う違う!デュークはオーガノイドじゃねーよ!」
「え?じゃぁ一体……」
「俺がアカデミーに在籍していた頃作ったペットロボットだ。AI搭載型のな。」
その声に顔を上げれば、私服姿のクルトがシンの隣に立っていた。
「え?!クルト?!なんでお前がレンの家に居るんだよ?!」
「第一声がそれか……良いだろ別に。幼馴染の家に遊びに来ていたって。」
「いやまぁ……そりゃそうだけどさ……」
苦し紛れのような声を上げるカイの前に、今度はフィーネが玄関先に姿を現し微笑んだ。
「いらっしゃい。カイ。皆で準備して待ってたのよ。」
「準備?なんの??……」
段々と思考が追い付かなくなって来たカイの後ろから、今度はまた別の声が聞こえる。
「フィーネさ~ん!ケーキ買って来たよ~!」
「シーナ?!それにエドガーまで?!」
振り返れば、ユナイトと共に小走りに走って来たシーナと、その後ろから歩いて来たエドガーの姿があった。しかもエドガーの手には、何処からどう見てもホールケーキが入っているとしか思えない箱が抱えられている。勿論2人も私服姿だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!なんで皆レンの家に居るんだ?!俺何にも聞いてねーんだけど?!」
集まっているいつもの面々をせわしなく見渡しながら、カイが大声を上げれば、エドガーがクスクスと笑う。
「その様子だと、どうやらサプライズは成功したみたいだな。」
「……サプライズ??」
途方に暮れたように呟くカイの手を掴み、レンは笑った。
「ほらほら!主役が来なきゃ始まらねーんだから!サッサと来いって!」
「主役?!え?!俺が?!何の?!」
「いーからいーから!」
ぞろぞろと皆で家に入り、最後に入ったエドガーが、そっと玄関の扉を閉める。
その顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいた。
~*~
「……なんだこりゃ……」
案内されるがまま部屋に通されたカイは、すっかり困惑した様子で室内を見渡していた。
リビングとダイニングキッチンが一緒になったその部屋の壁には、画用紙をセロハンテープで繋ぎ合わせた長い紙が貼られており、そこに「Happy Birthday!Kai!!」と綴られている。その周囲は色とりどりのモールや輪飾りなどでぐるりと縁どられており、シンプルで落ち着いた色の室内で妙に目立っていた。
ダイニングテーブルの上にはポテトチップスを始めとしたスナック菓子が数種類に、ペットボトルのジュースがいくつか、そしてコーヒーサーバーが置かれている。
リビングソファーの前に設置されたテレビには、テレビゲームが接続されており、プレイヤーが電源を入れるのを待ち構えていた。
「パーッと騒ごうぜ。って、言っただろ??」
そう言って、レンが怪我をしていない方の肩をポンッと叩けば、カイはレンをぽかんと見つめる。
「そっか……今日、俺の誕生日なんだっけか……」
「おいおい!自分の誕生日忘れるなよ!!」
思わずレンが声を上げれば、キッチンの冷蔵庫に買って来たケーキを一旦仕舞いながら、エドガーが穏やかに微笑んで呟いた。
「仕方ないさ。任務の後、ずっと書類に追われていた訳だし。それどころじゃなかったんだろう。」
「やっぱ忙しいんだなぁ~……ガーディアンフォースって……」
関心したような声を上げるシンに、クルトが呆れた声を上げる。
「こいつの場合、任務の報告書だけじゃなく、余計な書類まで書く破目になったからな。」
「それはお前も一緒だろーが。」
「うぐっ……」
恨みがまし気な声でカイが呟けば、クルトが言葉に詰まる。
そんなクルトを見上げて、シンは不思議そうな表情を浮かべていた。
「クル兄も何かしたの?始末書??」
「ま、まぁ……ちょっとな。」
「え~!何々?!俺クル兄の話聞きたい!!教えてくれよぉ!」
誤魔化すように視線を逸らすクルトに、シンが声を上げる。
何でもない。と、教えて。の応酬を眺めるカイに、レンがこそっと愉快そうに耳打ちした。
「シンの奴、クルトに滅茶苦茶懐いててさ。クルトもシンの前だと、カッコいい博士のお兄ちゃんで居ようと必死なんだ。」
「へぇ~……なんか、意外な一面見た感じだ……」
ぽつりと呟くカイの目の前では、しつこいシンをくすぐって話題を逸らそうとしているクルトと、そんなクルトの手にカプカプと噛み付いて、くすぐるのを阻止しようとしているデューク。そして大笑いしているシンの姿があった。
(あんな風に笑うクルト、初めて見た……)
真面目で、固くて、融通の利かないイメージだったクルトが、楽しそうにシンとじゃれ合っている姿を見て、カイの中での彼の印象が、ほんの少し、変わった気がする。
自然と口元に笑みが浮かんで来たカイへ、シーナが楽しそうに声を掛けた。
「レンから誕生日って聞いて、皆で準備したんだよ。気に入った?」
「……あぁ。勿論!誰かに誕生日祝ってもらうなんて、久しぶりだ。」
そう言って明るくニカッと笑うカイに、他の面々も、何処か嬉しそうに顔を見合わせて笑い合う。
楽しいバースデーパーティーが、始まった。
「夕飯が出来るまで、皆のんびりしてて頂戴ね。」
フィーネのその言葉で、カイは早速レンに促され、テレビゲームの前に居た。
レンがゲームソフトが収納されたケースを差し出し、どれが良い?と訊ねて来る。
ゲームなど、家出して以来全くしていないなと思いながらソフトを眺めるカイの目に、ふと、とあるゲームソフトが留まった。
「これ……ファンタジーバーサストじゃん。」
ケースからソフトを取り出し、パッケージを眺める。
ファンタジーの世界観で設定されたキャラクター達で行う対戦型格闘ゲーム……そのパッケージイラストの端には、インクのような黒髪に金色の瞳をした狼人間の青年の姿があった。
「あ!やっぱお前もファンタバ知ってたんだ!」
「あ……うん。ラシードの名前、コイツからとったんだ。」
「話聞いた時から、そうなんじゃねーかなー?って思ってたんだ!」
陽気に笑うレンに、カイも釣られて笑みを浮かべながら、そっとパッケージイラストのラシードを指で撫でる。
「こんな所で、また会うなんてな……」
何処か懐かしむようなその呟きに、レンがそっと訊ねた。
「よかったら、それやるか?」
「良いけど……俺、一応裏ステージまで全クリする程度にはやり込んでたから、負けても知らねーぞ?」
ニヤッといたずらっ子のような笑みを浮かべるカイに、レンも大きく頷く。
「大丈夫大丈夫!俺も全クリしてっから!」
「じゃ、手加減いらねーな?」
「上等!」
楽しそうにゲームを起動させ、コントローラーを握る2人に、エドガーがくすくすと笑う。
「レンはともかく、カイもゲーム好きだったのは、少し意外だな。」
「そうかぁ?俺もゲームは色々やり込んでたぜ。格ゲーばっかだったけど。」
きょとんと声を返すカイの隣で、レンが嬉しそうに笑う。
「俺は格ゲー仲間が出来て嬉しいよ。エドはストーリーの気になったRPGをたまにやるだけだし。クルトはパズル系と音ゲー以外基本やらねーし。シンはレースゲームだと強ぇけど、格ゲー下手だし。」
「うるせーなぁ!兄貴が馬鹿みてーにフルボッコにすんのが悪ぃんだろ!!」
やけにムキになった様子で怒鳴るシンに少々驚きながら、カイはこそっとレンに訊ねた。
「お前さ、弟と仲悪ぃの?」
「いや、ただの反抗期。ちょっと前までは兄ちゃん兄ちゃんって可愛かったのになぁ……」
苦笑を浮かべた後、レンはキャラクター選択画面で何を使うか悩みながら呟いた。
「シンは母ちゃん子だから、反抗期でも母ちゃんの言う事は素直に聞くんだ。けど、父ちゃんは仕事でなかなか帰って来れねーだろ?だから消去法で反抗相手が俺ってわけ。」
「反抗期ねぇ……シンっていくつだよ。」
「14。」
「あ~……俺他人の事言えねーや……」
カイも苦笑を浮かべる。14歳と言えば自分が家出した当時の年齢だ。
そうか、反抗期とはそういうものだったか……などと思いながら、ふと、カイは気付いた。
(……そう考えると、親父相手に反抗期出来てた俺って、まだマシだった……のかな?……)
反抗できる親が居た。というだけ、恵まれていたのかもしれない。
別にシンが可哀想だと言うつもりはないが、父親……バンがなかなか帰って来られないのは、やはり寂しいだろう。クルトとじゃれ合っていた時の様子から察するに、きっと、兄であるレンともああしてじゃれ合っていたい年頃の筈だ。
「カイ。キャラ決まったか?」
「え?あぁ、うん。俺はコイツしか基本使わねーから。」
カイはそう言って、かつての親友と同じ名前の狼人間を選択する。
早速ゲームに没頭し始めた2人を眺め、シンは椅子に座ってポテトチップスを食べながらぼんやりと呟いた。
「兄貴の友達ってさ、基本的に兄貴としか喋んねーのな……」
「仕方がないさ。一番仲が良いのがレンだからな。それに、緊張してるんだろ。」
シンの隣の席に座り、コーラをグラスに注ぎながらクルトが呟く。
そんなクルトへ視線を移し、シンは不思議そうに訊ねた。
「緊張?なんで?」
「カイは事情が色々複雑でな。恐らく他人の家に遊びに来たの自体、随分久しぶりなんじゃないか?」
「へ~……」
ぼんやりと声を上げたシンの見ている前で、クルトは先程コーラを注いだグラスに、今度はオレンジジュースを注ぎ始める。すっかり慣れっこだといった様子のシンは、それに関してノーリアクションのままクルトを見上げ、不思議そうに訊ねた。
「じゃぁさ、兄貴の友達と俺もすぐ仲良くなれる~なんて言ったの、なんで??俺、正直仲良くなれそうな気がしねーんだけど。」
「なぁシン。ニュースになってた鷲型ゾイドが、ガーディアンフォースの登録機になったのは知ってるだろ?」
「え?うん。ちょっと前ニュースでやってた。」
「その鷲型ゾイドの専属パイロットがカイなんだ。」
クルトのその一言で、シンの目の色が変わった。
「マジで?!ホントに?!」
「あぁ。お前、ずっと珍しいゾイドに乗るの憧れてただろ?カイも話しかければ普通に話せる奴だから、ゲームが一段落したら話聞いてみたらどうだ?」
「うん!!」
満面の笑顔で元気よく頷くシンの頭を、クルトはまるで、本当の兄のような眼差しでわしわしと優しく撫でた。
幼い頃からジークに懐いていた彼が、ジークが父と任務に行ってしまう度に泣いていた姿をふと思い出す。
そんなシンの為にデュークを作ってやって、早3年……反抗期に入りレンに対してツンケンしていても、なんだかんだ根は素直でゾイドが大好きな子だ。カイからブレードイーグルの話を聞けば、喜ぶに決まっている。
(ま、今日の主役はカイだしな。少しくらい譲ってやるか……)
穏やかな溜息を一つ吐いて、クルトはオレンジコーラにのんびり口を付けた。
~*~
楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
ゲームではカイにボロ負けしたレンが「もう一回!」を繰り返して連敗を重ね、あまりにも自分が勝ち過ぎるせいで、カイの方が「もしかしてわざと負けてる……訳じゃねぇよな?」と訊ねる始末。
「そもそも!ファンタバキャラの中でも一番扱いにくいで有名なラシードの鬼コンボを平然と繋げられるのがおかしいんだって!!」
と、レンが言うので、試しにカイが「使用するのは通常攻撃のみ。」という特大ハンデを付けてやってみたが、やはりあと少しという所でレンが負けてしまった。
流石にぐうの音も出ないレンに、カイはにっこりと「ドンマイ。」としか言えず、リベンジに火の付いたレンにとことん付き合わされる事になった。
シーナはのんびりとそんなカイとレンの対戦をにこにこと観戦していたが、やがてオーガノイドそっくりのデュークが気になったのか、ユナイトと共にデュークと仲良く遊び始め、そんなシーナに、デュークの製作者であるクルトがあれこれと説明し始めてすっかり良い雰囲気になっていた。
エドガーはフィーネの料理の手伝いを買って出て、夕食の準備に加わり、それに気付いたクルトが「俺も何か手伝いましょうか?」と席を立てば、幼馴染達から「お前は駄目!!」と一蹴されて終わった。
その様子を横目に眺め、カイは昼間聞いたクルトの味覚の話を思い出し苦笑を浮かべる。どうやらクルトに料理はさせない方が良いらしい……
そんな中、シンはカイに話しかけるタイミングを今か今かと見計らっていたが、レンがリベンジを止めない為、なかなか話しかけられず、仕舞いにはゲームを早く終わらせようとレンへちょっかいをかけ始めた。
幸いだったのは、弟のちょっかいに辛抱強く耐えていたレンがとうとうキレ掛けた時、タイミングよく夕飯が出来上がった事だろう。
皆でテーブルの上を片付け、料理を並べ始めた時、シンはやっとカイに話しかける事が出来た。
「なぁなぁ!兄ちゃんがあの鷲型ゾイドのパイロットってホントか?!」
取り皿とフォークを渡しながら話しかければ、カイはニヤッと笑いながら頷いた。
「おう。ブレードイーグルって言うんだ。」
「すっげぇ!!良いなぁ~!!カッコいいなぁ~!!」
興奮した様子のシンを微笑まし気に見つめるカイに、レンがコーンポタージュの入ったスープカップを差し出しながら呟いた。
「こいつ、父ちゃんがブレードライガー乗ってるもんだから、珍しいゾイドに乗るのが夢なんだ。」
「あぁ、だから珍しいゾイドに乗ってる俺にも興味あるって訳か。」
納得した様子のカイは、シンに優しく訊ねた。
「で?何が聞きたい?なんでも答えるぜ?」
「マジで?!じゃぁブレードイーグルの事教えてくれよ!!どんなゾイドなんだ?!」
「そうだなぁ……どんなゾイド。か……」
適当に取り皿へ夕食を取り、ソファーの方へ座りながら少し考え込んだ後、ブレードイーグルとの出会いから語り始めたカイと、目を輝かせながらその隣に座り話に聞き入るシンを眺め、シーナがくすっと笑った。
「良かった。カイだけじゃなくてシンも楽しそうで。」
そう言いながら、膝の上に抱えたデュークの頭を撫でるシーナに、エドガーが笑う。
「シーナも、デュークの事随分気に入ってるみたいだな。」
「うん。とっても可愛いんだもん。ねー?デューク?」
「キュイキュイ!」
嬉しそうに声を上げるデュークにシーナが笑えば、レンが苦笑する。
「それにしても、デューク抱えてて重くねーか?そいつ一応30キロ以上あるんだけど……」
「ん~……ちょっと重いけど平気。それにシンだって普通に抱えてたし。」
ケロリと答えるシーナに、クルトも何処か申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。
「正直、設計当初は抱きかかえるのを全く考慮していなかったもので……パーツも、アカデミーの開発科や技術科の金属廃材から削り出して作ったものですから……」
「まぁ端的に言えば、金属の塊だからな。」
エドガーがそう呟けば、デュークがしゅんとした様子で項垂れる。
その様子を見てシーナは励ますように声を掛けた。
「あぁ、違うのデューク。別にデュークが太ってるって言ってる訳じゃないよ。それに、金属で出来てるって事は、デュークは強くて頑丈って事でしょ?元気出して。」
「キュ~!」
嬉しそうな声を上げ尻尾をパタパタ振る姿は、どちらかというと仔犬のようだ。
そんなデュークにクスクスと笑った後、シーナはふとクルトへ訊ねた。
「ねぇ、同じような子作って貰って、宿舎の部屋で飼っちゃ駄目かな?」
「あ~……どうなんでしょう?作るのは全く構わないのですが……」
そう言って、クルトはチラッとフィーネに目配せする。
フィーネはそんなクルトの視線に気付くと、優しく微笑んで答えた。
「普通の生き物は駄目だけれど、ペットロボットは部屋から出しさえしなければ飼っても大丈夫よ。」
「ホント?!フィーネさん!」
パァッと目を輝かせるシーナにフィーネが頷けば、クルトがテーブルから身を乗り出す。
「じゃ、じゃぁえっと!どんな見た目が良いですか?!色とか形とか!あと、大きさとか!」
その言葉に、シーナは少し考え込みながら呟いた。
「真っ白な体で、尻尾の先が黒くて、目は紫で……大きさは……う~ん……デュークくらいが良い。」
「白と黒で紫の目か。まるでブレードイーグルみたいだ。」
エドガーの言葉に、シーナは照れたように笑う。
「うん。フォトン……お父さんのオーガノイドみたいな子が欲しいなって思って。ユナイトは此処に居るし、ハンチ……アレックスのオーガノイドは、アレックスと一緒に何処かで生きてるかもしれないから……」
シーナの言葉に、クルトは明るく笑って頷いた。
「わかりました!じゃぁ、シーナさんの誕生日までに作っておきますね!」
しかし、シーナがふと寂しそうな表情を浮かべる。
「……ごめんね。私、誕生日がわからないの……」
「え?!」
思わず驚きの声を上げたクルトは、レンやエドガーと顔を見合わせる。
その様子に気付いたのか、カイとシンもテーブルの方へやって来て不思議そうに訊ねた。
「どうしたんだ??」
「シーナが、自分の誕生日分からないって……」
「えぇ?!」
レンの言葉に驚きの声を上げた直後、カイはふと思い出した。
古代ゾイド人が、イヴ歴という暦を使っていた事を……
「なぁ、シーナ。イヴ歴での自分の誕生日は分かるか?」
「うん……私が生まれたのは、イヴ歴2124年の、ジェナ月の12日……」
「母ちゃん、ジェナ月の12日っていつか分かる?」
レンが訊ねるが、フィーネは困った表情で首を横に振る。
「ごめんね。お母さんも古代の暦を今の暦へ正確に当てはめ直せないの……古代ゾイド人が眠りに就いた後、大規模な地殻変動が起きていて、地軸の傾きが変わっているから、お母さんやシーナが生きていた頃と、季節の廻り方も違うし……だから、入隊日の履歴書も、生年月日だけはイヴ歴のままで提出してあるの。」
「そっかぁ……」
ガックリと項垂れるレンに、シーナが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「なんか、ごめんね……」
「いや、シーナが謝る事ねーって!別に誕生日じゃなくてもプレゼントは渡せるんだしさ。」
「とはいえ、シーナの誕生日だけ祝えないのは、少し寂しいな……」
エドガーの呟きに、揃って頭を捻り始めた時……ふと、口を開いたのはカイだった。
「……4月12日。」
「え?」
「ジェナ月ってのが何月になるのかはわかんねーけどさ。シーナが目覚めたのが4月7日だろ?だから、4月12日って事にしとかねーか?誕生日。」
その言葉に、シーナが笑顔を浮かべる。
「うん!」
「ちなみに、シーナは今いくつなんだ?」
レンが不思議そうに訊ねれば、シーナは困ったような笑みを浮かべる。
「記憶が途切れてるから、なんとも言えないんだけど……ユナイトに残ってた記録だと、眠りに就いたのがイヴ歴2140年のレギ月の6日だから、16歳になる年に、誕生日を迎える前に眠りに就いてる筈。だから、履歴書には16歳って。」
「じゃぁ僕の妹と同い年だ。」
エドガーの言葉に、カイが首を傾げる。
「エドガーは妹いるんだな。今日来ねーの?」
「あぁ。配達員をしているから、今日は仕事で……でも、多分そのうち顔を合わせる事もあると思う。」
「そっか。」
カイは微笑むと、シーナの肩をポンと叩いて明るく言った。
「じゃぁ、来年はシーナの誕生日も祝おうな!」
「うん!ありがとうカイ。」
笑顔で頷くシーナに、皆一様に笑顔を浮かべる。
ふと、カイは穏やかな空気の中で考えた。
(誕生日って、ただ歳を重ねるだけだと思ってたけど……違うんだな……)
今までは、大して思い入れも無かった誕生日だが……
あの任務の後、友情や約束を重ねて今日を迎え、歳を重ねた。
大切な物を抱えて生きて来た証が、このバースデーパーティーなら……それも良いかもしれない。
ごく普通の少年として生きるには色んな物を抱え過ぎた。と思っていたが、仄暗い過去も、過ちも、自分を形作って来た物の一つだ。それを糧に明るい空を飛ぶのは、きっと、悪い事ではない……今なら、そう思える。
運ばれて来たバースデーケーキに灯された蝋燭を吹き消す時、カイは重ねて来たものにそっと、心の中で一つの願いを重ねた。
(どうか……皆と笑い合える日が、来年も来ますように……)
ありふれた願いだが、それでも……そう願える仲間に出会えたのだという事が、彼にとって一番のバースデープレゼントだった。