ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第28話-邂逅-

 帝国の軍人さん達との合同演習が今から始まるけど……カイとカイのお父さんはさっき喧嘩してたし。レンもエドガーもクルトも、なんだかピリピリしてたし。

 おまけに、さっき見た陽炎みたいな揺らぎも……気になるし。

 今日の演習、不安だな……すごく嫌な胸騒ぎがする……

 [シーナ]

 

 [ZOIDS-Unite- 第28話:邂逅]

 

 パクスフォルデ演習場にて、ガーディアンフォース対帝国軍の合同演習が幕を開けようとしていた。

 各々が愛機のコックピットに乗り込んで、準備を始める中、レンは笑顔で相棒を見上げる。

 

「さてと。俺達の相手にはルーク兄ちゃんも居る事だし。全力で行こうぜ! ゼロ!」

「ガルォン!!」

 

 気合に満ちた咆哮を上げ、ライガーゼロは急かすかのように姿勢を低くし、自らキャノピーを開いた。

 操縦席へ座ったレンが安全バーを下ろしている間に、キャノピーは勝手に閉まる。どうやらライガーゼロはこの演習が待ちきれないらしい。まるで早く遊びに行きたがっている子供のようだ。

 そんな相棒の様子に微笑まし気な笑みを浮かべた時、不意に通信回線が開かれる。

 

『レン。聞こえるか?』

「シュバルツ博士! どうかしたんですか?」

 

 きょとんとした表情で語り掛けるレンに、トーマは得意げな笑みを浮かべた。

 

『折角の演習なんだ。“ブレードゼロ”を精鋭相手に何処まで使いこなせるか試してみてくれないか?』

「え?!」

『つい先程、換装準備が完了した。一旦ホエールキングのメイン格納庫に戻って来てくれ』

「えぇ?!」

 

 驚きに目を見開いた直後、レンは少々不安げに呟く。

 

「でも博士……実弾ならまだ外しようがあるけど、ブレードは最悪手加減出来ないですよ?」

 

 だが、そんなレンに対し、トーマはふっと笑った。

 

『なぁに。遠慮は要らん。目測を誤って突っ込み過ぎても、相手の方が躱してくれるさ。それに向こうにも居るだろ? ブレード装備の厄介な相手が』

 

 その言葉に、レンはにこにこと笑っていたルーカスの姿を思い浮かべる。

 彼が今回の演習で使う機体はジークドーベル。バンの愛機である「ブレードライガー」の機体データをモデルに、帝国で開発された高速戦闘用ゾイドだ。勿論、ジークドーベルの背面にもヘルブレイザーと呼ばれるブレードが装備されている。

 ただ、横一線にブレードが展開されるブレードライガーと違い、ジークドーベルのヘルブレイザーはブレードがV型にしか開かない。一見すればリーチの短い廉価版装備のように思えるが、これはブレード展開時の空気抵抗をより抑える為の設計だ。

 おまけに中型ゾイドとしての機体の身軽さも相まって、最高速度はブレードライガーを超える。

 リーチを犠牲にスピードを取った高速格闘戦こそが、ジークドーベルの最も得意とする分野だ。

 その分、トップスピードを維持したまま相手に肉薄し、すれ違いざまの一瞬で精確に切り伏せるにはパイロットにも相当の技術が要求されるが、よりによってパイロットが高速戦闘用ゾイドを扱わせれば“無敵”と言っても過言ではないあの(・・)ルーカスである。彼が駆るジークドーベルはまさに“一迅の疾風(かぜ)”と呼ぶに相応しいだろう。

 対抗するには傍に近づけさせないか、此方も近接装備で迎え撃つかの2つに1つだ。

 

「わかりました。換装お願いします」

『了解した』

 

 トーマはそう返事をしてレンとの通信を切ると、今度は残りの4人へと通信回線を開く。

 

『お前達、よく聞いてくれ。レンのライガーゼロ-プロトを今から試作CASユニット「仮称:ブレードゼロ」に換装する。まもなく演習が始まるが、恐らく少し出遅れる形になるだろう。演習開始直後は、換装時間の確保及び、換装後のブレードゼロの出撃経路の確保に当たってくれ』

 

 やる気満々だった所に突然告げられた、開始直後の支援戦闘……しかし、エドガーとクルトは笑っていた。

 

「なるほど。この先の任務でも十分有り得る事態を、演習で実践……か。面白い。地上部隊への時間稼ぎは僕が引き受ける。クルト、レンとゼロの出撃経路の確保は任せた」

 

 何処か楽し気な様子のエドガーを乗せたジェノブレイカーが、ホエールキングの口腔ハッチへと駆け戻って行くライガーゼロとすれ違う。

 ライガーゼロが飛び込んだ後の口腔ハッチを守るように立ちはだかったディバイソンの中で、クルトも楽しそうに返事を返した。

 

「あぁ。此処は俺とテオとディバイソンに任せてもらおう。な? テオ」

[了解。ディバイソン。戦闘態勢に移行します]

 

 クルトはテオの言葉と共にコックピット上部から差し出された青いバイザーを受け取り、装着する。

 バイザーに映し出された照準を眺めながら、彼はシーナへと呼びかけた。

 

「シーナさんはヘルキャットの広域レーダーで敵機の位置情報を確認しながら、オペレートをお願いします」

『う、うん! 頑張るね!』

 

 緊張ですっかりきょどったシーナの返事に思わず和みながら、クルトは優しく囁く。

 

「緊張するとは思いますが、訓練通りに焦らず落ち着いてやれば、大丈夫ですよ」

『……うん。ありがとう』

 

 幾分安堵した様子のシーナの笑みに一瞬見惚れた後、彼は小さく首を横に振って、これから始まる演習に半ば無理矢理意識を戻し、カイにも呼びかける。

 

「カイはエドガーと一緒に時間稼ぎの方を頼む。航空部隊の足止めはお前が頼りだ」

『言われなくてもわーってるよ』

 

 まだ不機嫌な様子でそう返事を返したカイは、一足先に通信を切る。

 昂った怒りを吐き出すように長い息を一つ吐いて、彼はくしゃりを前髪を掴むように頭を抱えた。

 

「だぁぁ……最ッ低だな俺。よりによってクルトに八つ当たりとか、絶対ぇ後で何か言われるに決まってんのに……」

 

 父親と少し言葉を交わしただけでこの様だ。自分の情けなさに自分で呆れる。

 そんなカイを心配するかのように、ブレードイーグルが小さく鳴いた。

 

「クゥ?」

「悪ぃな……下らねー親子喧嘩にお前も巻き込んじまって」

「クルルッ」

 

 申し訳なさそうな様子のカイに、ブレードイーグルはふっと笑い飛ばすような短い返事を返す。

 「気にしてねーよ」と言われたような気がして、カイは思わず顔を緩ませながら目を閉じ、そっと呟いた。

 

「ありがとな。今日もよろしく頼むぜ。イーグル」

「キュルァ!」

 

 短くも力強いその返事に、カイは目を開く。

 先程まで苛立ちに荒んでいた薄紫色の瞳には、力強い光が宿っていた。

 大丈夫。

 ウィルやシドとも渡り合えるようになったのだ。

 自分とイーグルは絶対に負けない。

 例え相手が軍の精鋭だろうと、父親であろうと……

 カイは通信回線を開き直し、呼びかけた。

 

「一足先に配置に就く! 地上は頼んだ!」

『了解』

『あまり気負うなよ』

『頑張ってね。カイ』

 

 クルトのぶっきらぼうな返事も、エドガーの穏やかな笑みも、シーナの声援も、全て目と耳に焼き付けて、カイは共に空を舞う鋼鉄の翼へと呼びかけた。

 

「行こうぜ! イーグル!!」

「キュルアァァァァ!!」

 

 待ってました。と言わんばかりの高らかな鳴き声が響き渡る。

 たった1度大きく羽ばたいただけで、その巨体は驚くほど身軽に宙に浮き上がった。

 ブレードイーグルは頭上を覆う蒼天を見上げると、ソニックブースターを点火する。

 天空めがけて放たれた一本の矢のように、一直線に垂直上昇して行ったブレードイーグルの姿は、まるで地上に降臨していた空の王者が、自らの座に還って行ったかのようにすら錯覚させられた。

 

(流石、空の王者と呼ばれたゾイドだな……だが……)

 

 ブレードイーグルの圧倒的な離陸風景に感嘆の声を上げる帝国軍人達の中で、ルーカスはふと笑みを浮かべる。

 

(本当に驚くべきなのは、あれ程の性能を持つ未知のゾイドを操っているのが、訓練を受けて僅か2ヵ月にも満たない、17歳の少年だという事の方かもしれないな)

 

 ルーカスは、カイの戦闘操縦訓練の教官に抜擢されたという幼馴染2人……ウィルとシドを思い浮かべて思わず苦笑した。この短期間であれ程の成長を見せているカイを毎日のように相手取っているのだ。さぞ手を焼いているに違いない。

 そんなルーカスの想いを他所に、カイは視界を埋め尽くす一面の蒼を堪能していた。

 垂直上昇しながら時折ロールを打ち、宙返りで水平飛行に入る……今日のイーグルはいつになく機嫌が良い。自分の操縦とイーグルの意志が一体になったかのような感覚に、カイは胸を高鳴らせる。

 その様子を、先に空で配置に就いていた選抜航空部隊の隊員達も目にしていた。

 

『流石、ハイドフェルド大佐の息子さんですね。機体性能の良いゾイドほど、扱うには相当の技術が要求されるというのに……』

 

 自分の率いる第一航空大隊から選抜された、選抜航空部隊の若きアタッカー……アルト=ベルウッド中尉の言葉に、エリクは表情を陰らせる。

 正直、カイがこの短期間でこれほどブレードイーグルを扱えるようになっているとは思っていなかった……それを僅かばかり嘆きながら、エリクは微かな溜息と共に、小さく呟く。

 

「まだ……“あの子”は眠っている筈なのだがな……」

『大佐?』

「気にするな中尉。ただの独り言だ」

 

 不思議そうな声を上げたアルトにそう答え、エリクはブレードイーグルを見つめる。

 

(大丈夫だ。今ならまだ……まだ、間に合う……)

 

 胸の内で祈るように呟くエリクの前で、イーグルは演習開始の合図を待ちわびるかのように再び宙返りを打つ。

 そんなブレードイーグルの姿を見て、シーナは幾分安心したようにクスッと笑った。

 

「良かった。最初は心配だったけど、2人とも大丈夫そう。私達も頑張ろうね。キート」

「ミ゙ャァ」

 

 相槌を打つヘルキャット……キートに笑みを浮かべながら、シーナは全天候型広域3Dレーダーを起動させる。

 本来はディメトロドンやダークホーンに搭載されている全天候型3Dレーダーに改良を施し、索敵範囲を最大までアップグレードされたこのレーダーは、ヘルキャットの点検改修時にトーマが純正品から交換してくれた物だ。

 前線オペレーターとしてあらゆる状況下で正確に敵の位置を捕捉しなければならない事から、純正品の3Dレーダーでは索敵性能も索敵範囲もいささか不十分であろう。と……

 このレーダーと、ルネとの訓練のお陰で、敵の位置情報を把握し、戦闘員達に指示を出すのは随分慣れた。

 ヘルキャットのコックピット内の表示言語も一通り覚えた。

 大丈夫だ。クルトの言う通り、いつも通りにやれば……だが―

 

「え?……」

 

 ヘルキャットの広域レーダーが捉えた、演習相手である帝国軍機の機影。

 その更に後方に映し出された“無数の謎の機影”に、シーナは思わず思考が一瞬止まる。

 

「何? これ……」

 

 レーダーが障害物を誤認したのだろうか?と、彼女は顔を上げ、メインモニター越しに目を凝らす。

 しかし、目の前に控えている帝国軍の後ろには何も無い。ゾイドの姿は勿論、障害物一つすら……

 おかしい……レーダーに映し出されたこの機影は一体?……

 

『シーナ。どうかしたのか?』

 

 エドガーからの通信に、シーナは不安に駆られながら呟いた。

 

「あ、あのね! レーダーに映ってる敵の数が―」

『それではこれより! 合同演習を開始する! 両軍各機! 展開!』

 

 エリクの声に、帝国軍側のゾイド達が一斉に動き出す。

 エドガーは迫って来るセイバータイガー3機の方へジェノブレイカーを向かわせながら叫んだ。

 

『すまない! 僕はこいつらの相手で忙しくなりそうだ! レーダーの不具合ならクルトに相談してみてくれ!』

「あ、えっと……」

 

 不具合ではない。と言いかけて、シーナはそのままそっと口を噤む。

 始まってしまった演習に焦りと緊張が増し、彼女は全く動けなくなっていた。

 

(どうしよう……このままじゃ……)

「ミ゙ァァォ!」

 

 キートが注意を促す声を上げる。

 シーナがハッとしてレーダーに視線を落とせば、謎の機影達も動き出していた。

 

『シーナさん。大丈夫ですか?』

 

 シーナとキートが全く動かない事に気付いたのだろう。

 心配したクルトが通信を開いた途端、通信画面に表示されたクルトを見上げ、シーナは叫んだ。

 

「クルト! すぐ演習を中止して!! 何か来る!!」

『え――』

 

 クルトが戸惑った声を上げた直後だった。

 ガーディアンフォースと帝国軍がぶつかり合っている戦場に、無数の砲撃が放たれたのは……

 

「チッ!!」

 

 今まさに、迫り来るセイバータイガー3機と一戦交えようとしていたエドガーは、無粋な邪魔立てに思わず舌打ちを上げながら、目の前に迫っていた1機を最小限の動きで躱す。

 それと同時に、別の1機の前足をハイパーキラークローで引っ掴み、間一髪で砲撃の直撃を避けさせながら、彼は共通回線に叫んだ。

 

「各機散開しろ! 固まっていると狙い撃ちされるぞ!!」

 

 辺り一帯が着弾時の爆発音と爆風に包まれる中、両陣営のゾイドは散開しながら訳も分からずに砲撃を躱す。

 状況を把握しきれない彼らに、共通回線で今度はクルトの声が響き渡った。

 

『全機に伝達! 広域レーダーに敵影反応有り!! 直ちに演習を中止して迎撃を!!』

「敵の数と位置は?!」

 

 すかさずルーカスが訊ねれば、シーナがレーダー情報を読み上げた。

 

『敵影およそ120! 現在の位置は両軍会敵位置から西南西1800メートル地点! 尚も接近中!』

「という事は我々の背後か!」

 

 ルーカスがジークドーベルを反転させる。

 が、彼は次の瞬間、一瞬言葉を失った。

 

「これは……」

 

 周囲の軍人達も彼に倣うように後方を振り返っていたが、皆同様に言葉を失っている。

 そこに広がっていたのは、何も無い虚空から砲撃が放たれているという異様な光景……

 

(光学迷彩か……マズいな……)

 

 苦々し気な表情を浮かべながら、ルーカスは声に出さずそっと呟く。

 様子見の為に、初戦では帝国軍側はマーカー弾を使用する事になっていた為、実弾を装填しているのはガーディアンフォースのゾイド達だけだ。襲撃されている中、マーカー弾から実弾へ装填し直している暇など無い。

 近接装備で迎撃するにも、相手の姿が見えない以上、迂闊に飛び出す訳にもいかない。

 そんな帝国軍側の状況を察したのだろう。エドガーが通信越しに指示を飛ばす。

 

「シーナ! レーダー情報を全機に共有してくれ! そうすれば―」

『そんな必要ないよ』

 

 直後、エドガーの言葉を遮るようにして突如響いたのは、少女の声。

 その声に、カイとクルトは聞き覚えがあった……

 

「この声……まさか……」

 

 思わず息を呑んだカイの眼下では、少女の声を合図とするかのように砲撃が止んでいた。

 彼等の見据える先の景色が、不意に揺らぐ……

 そこに姿を現したのは、レブラプター、ダークホーン、ヘルディガンナー、ヘルキャット……その数が先程シーナが報告した機影数よりも遥かに多いのは、ステルス機であるヘルキャットがレーダーに映らないせいであろう。

 しかし、姿を現した敵の規模よりも目を引いたのは、先頭を進む3機。

 ゴジュラスに似た姿をした、怪しい緑色の光を放つ漆黒のゾイドと、高速戦闘用だと一目で分かる、真紅と銀色のゾイド……そして“誰もがその姿を知っている”ゾイドだ……

 そのゾイドの姿を見て真っ先に反応したのは……やはりエドガーであった。

 

「そんな馬鹿な……何故ジェノザウラーが……」

 

 そう。それはかつて彼の両親……レイヴンとリーゼが愛機とした物と同型のゾイド。

 死竜デスザウラーのゾイド因子を培養して生み出された魔竜……ジェノザウラーであった。

 だが、彼はすぐにその魔竜が異質である事を感じ取る。

 本来とは違う紺色の機体色もそうだが、目の前に姿を現したジェノブレイカーは明確な意思を持っていた。

 禍々しい程の狂気と、ただ全てを破壊せんとする凄まじい衝動を……

 

(信じられない……あんなゾイドを一体誰が……)

 

 ゾイドの言葉が分かるからこそ、その狂気と衝動を感じ取った彼は、思わずゾッとする。

 普通の人間ならば、到底扱い切れる筈が無い……まさに“化け物”だ。

 だが、そんな彼を嘲笑うかのように少女……否、クラウの声が響き渡った。

 

『はじめまして。って言っても、ガーディアンフォースのわんちゃんとは瓦礫街で一度会ってるけど。私はクラウ。この子は死竜デスザウラーの遺伝子を継ぐ破壊の猟魔竜(りょうまりゅう)。ヤークトジェノザウラーだよ』

「ヤークト……ジェノザウラー……」

 

 その姿を見て、その名を聞いて、この場の誰もが抱いたのは……驚愕と一つの疑問。

 プロイツェンとヒルツによってこの世に生み出されたジェノシリーズは全6機。

 そのうち1機はブレードライガーによって葬られ、リーゼの愛機であったサイコジェノザウラーは、デススティンガーの荷電粒子砲によって消滅。残る3機もイヴポリス大戦時にレイヴンの前に立ちはだかり、全て破壊されている……つまり、母体であったデスザウラーが破壊され存在しない今、現存しているのは赤いジェノブレイカーへと進化したレイヴンの乗る1機のみ。

 そして、そのジェノブレイカーから新たに特例で作られたジェノシリーズは、現在エドガーの登録機となっている青いジェノブレイカーのみの筈だ……

 目の前に姿を現したヤークトジェノザウラーは、一体誰が、どうやって生み出したというのだろう?

 

『この子も暴れたがってるし、折角だからこの子が“本物”だって証拠、見せてあげるね』

 

 クラウのその言葉にハッとした時には、ヤークトジェノザウラーは既にフットアンカーを下ろし、その身を巨大な砲身として伸ばしていた。

 実際に戦った事が無くとも、ジェノシリーズ特有のその体勢は、その場の全員を戦慄させるには十分過ぎた。

 マズい……“アレ”が来る……

 

「全機! 奴の射線上から離脱しろ!!」

 

 ルーカスの怒号にも似た声と同時に、眩いばかりの白銀の閃光が迸った。

 荷電粒子砲……この惑星Ziの地を、幾度となく焦土に変えて来た最恐最悪の破壊兵器……

 幸い、ルーカスの指示によって射線上に居た全てのゾイドが間一髪で離脱した……かに思えた。

 すぐには離脱出来ない、巨大輸送ゾイド1隻を除いて……

 

「レン!! 皆ぁ!!!」

 

 思わずカイが叫ぶ。

 そう。ヤークトジェノザウラーが荷電粒子砲を放った先に居たのは、ガーディアンフォースのホエールキング。

 勿論機内には、タイラーやトーマを始めとする乗組員達と、ユニット換装中のライガーゼロ-プロト。

 そして、レンが居た……

 もう駄目だ。直撃する……誰もがそう思い、絶望したまさにその時だった。

 放たれた白銀の閃光を遮るように、金色の光の壁が広がったのは……

 

「あれ?」

 

 思わずクラウが首を傾げる。

 Eシールドを装備したホエールキングなど聞いた事が無い。

 そもそも、通常のEシールドでは荷電粒子砲を防ぐ事など出来ない。

 唯一、荷電粒子砲を防ぎ切る事が出来るEシールド……電子振動シールドを展開出来るのは、英雄バン=フライハイトのブレードライガーのみの筈だ。と。

 ……そう。彼女は知らなかったのだ。

 ブレードライガーと同じ電子振動シールドを持つ機体が、この場に1機だけ存在した事を。

 

『旧式機だと思って舐めるなよ。コイツは対荷電粒子砲戦用の特別仕様なんだからな』

 

 白銀の閃光が止み、霧散した荷電粒子の光がチラつく中でクルトの声が響く。

 ホエールキングの前に立ちはだかり、金色の光の壁……電子振動シールドを展開していたのは、彼のディバイソンであった。

 

「……まさに間一髪……だな」

 

 安堵の溜息と共に、ルーカスがぽつりと呟く。

 クルトのディバイソンは、元々トーマの愛機だったもの。つまり、ジェノブレイカー討伐作戦の際に支給された“電子振動シールド発生装置”を搭載する機体だ。

 

(とはいえ……今回は運が良かった……)

 

 電子振動シールドを解除しながら、クルトは真剣な眼差しで、十戒のごとく分かれた味方機の先に立つヤークトジェノザウラーを見据える。

 ジェノザウラーはジェノブレイカーと違い、真正面にしか荷電粒子砲を撃つことが出来ない。

 ライガーゼロの出撃経路確保の為に控えていたのが、まさにその射線上であっただけの話だ。

 もし別の場所を狙われていれば、ディバイソンの移動速度では到底対応しきれなかっただろう。

 

『残念だったなゴースト。いや、クラウと言ったな。次は此方から反撃させてもらうぞ』

 

 ディバイソンのメインモニターと、クルトのバイザーデバイスそれぞれに照準が表示される。

 

[クルト。敵機の数が最大ロックオン数を超えています]

「構わん! 奴等を怯ませる事さえ出来ればそれで良い!」

[了解。ターゲット-ランダム。砲撃範囲-敵陣全体]

 

 瞬く間に照準がロックされ、テオの声が響いた。

 

[ターゲット:ロック]

『メガロマックス・バースト!!!』

 

 実弾砲から高出力のエネルギーキャノンに改造された17連突撃砲が火を噴く。

 空中でそれぞれの標的めがけて枝分かれしたエネルギー弾が、一斉に敵機へと降り注いだ。

 

「各機散開!」

 

 守秘回線にて部下へ指示を飛ばしたのはクラウではなく、極秘裏に開発された真紅の高速戦闘用ゾイド……デスキャットに乗るハウザーだ。

 しかし、ディバイソンの17連突撃砲を反撃の合図とするかのように、帝国軍とガーディアンフォースの両機が散開した敵機めがけて押し寄せる。

 敵機と帝国軍機がぶつかり合ったその時、ガーディアンフォース機の通信回線に待ちわびた声が響き渡った。

 

『サンキュークルト! お前のお陰で命拾いしたぜ! 後は任せてくれ!』

 

 通信画面に表示されたレンを見つめ、クルトはふっと笑う。

 

「礼なら後で良い。サッサと片付けて来いよレン。援護は任せろ」

『おう!』

 

 威勢の良い返事の直後、ホエールキングの口腔ハッチから飛び出したライガーゼロが、ディバイソンを飛び越えて前線へと一直線に駆け抜けていく。

 ライガーゼロ-プロト[試作CASユニット01-仮称:ブレードゼロ]赤を基調としたユニットを身に纏ったライガーゼロの背には、銀色に輝く2本のブレードが装備されていた。

 ブレードライガーのレーザーブレードや、ジークドーベルのヘルブレイザーとは違う両刃のブレードを展開しながら、レンは砲撃を再開した敵のダークホーンの右側を掠めるように走り抜ける。

 次の瞬間、何の前触れもなく地面へ倒れ伏したダークホーンは、右側の前後2脚が完全に切断されていた。

 

(よし。落ち着いて操作すればいけそうだ……)

 

 駆け抜けた勢いもそのままに次の標的へと駆けながら、レンは先程ダークホーンの脚を切断した右側のブレードの“角度”を元に戻す。

 無段可動ブレード……それが、このCASユニットの特徴だ。

 その最大の利点は、ブレードライガーのように機体ごとブレードを傾けずとも、切りかかる場所や間合いを自在に変えられる事。つまり、ブレードの軌道が読まれ難いのだ。

 ……しかしその分、ブレードの操作が複雑であるのが大きな欠点でもあり、レン自身も開発途中のこのユニットの扱いに、まだまだ苦労しているのだが……

 

「なるほど。面白い装備だ……」

 

 今度はレブラプターの真横から突っ込んで行き、その両脚のみを斬り飛ばしたライガーゼロの姿に、ハウザーがふと笑みを浮かべる。

 

(複雑な操作が要求されるであろう可動式のブレードで、ゾイドコアもコックピットも傷付けずに無力化する……実にあの大英雄の息子らしい戦い方だ。非情になり切れない未熟さは、優しさとは違うぞ……)

 

 次の相手は俺だ。と言うかのように、ハウザーはデスキャットで前に進み出る。

 案の定、その挑戦、受けて立つ。と言わんばかりに此方へ向かって来たライガーゼロを見据えながら、ハウザーは守秘回線で呼びかけた。

 

「ユッカ。航空部隊の相手は任せたぞ」

『了解』

 

 無機質な声で短く返答しながら、ユッカは自身の乗る漆黒の機体……デッドボーダーに搭載された主兵装である重力砲(G-カノン)と、副主兵装である150mmカノン砲を空へ向け、宙を舞う選抜航空部隊へと放つ。

 とはいえ、各部隊から選抜された精鋭達がそう簡単に被弾する訳が無い。

 彼等は的確に、砲撃を全弾躱した……筈だった。

 しかし、避けた筈の砲撃から広がった凄まじい威力の衝撃波に、ブラックレドラー数機が巻き込まれ吹き飛ばされる……その光景にカイも、エリクも、唖然と目を見開いた。

 

「なんだ……今の……」

「これだけの広範囲に広がる衝撃砲など聞いた事がない……一体何なんだ。あの主砲は……」

 

 デッドボーダーの重力砲(G-カノン)は、ウルトラザウルスが装備していた重力砲(グラヴィティカノン)とは全く原理が異なる。

 プラネタルサイト砲弾によって広範囲を重力崩壊させ、辺り一帯を圧し潰す物ではなく、高圧縮された重力波を打ち出す、いわば衝撃砲の進化版だ。地上に向けて放てば、巨大ゾイドに分類されるゴジュラスでさえ空高く吹き飛ばせるだけの威力があるが、それを彼らが知る由も無い……

 

『航空部隊各機! 奴の主砲に気を付けろ! 直撃すれば機体がバラバラになるぞ!』

 

 エリクの言葉に、カイも一瞬背筋がゾッとする。

 あれだけの衝撃波を放つ砲撃を直で喰らうなど、冗談でも笑えない。

 だが、逃げ回っているばかりでは埒が明かないのも事実だ。

 帝国軍側の遠距離兵装はマーカー弾のまま。ウイングソードやツインブレードで急降下による直接攻撃を行うにも、目には見えない衝撃波の弾幕を張られていては迂闊に突っ込む事も出来ない……

 カイは思わずギリッと悔しさに歯を食いしばる。

 今この空に居るゾイドの中で実弾が撃てるのはブレードイーグルのみだ。

 どうにかして自分が動かなければ……しかし、直撃を避けたブラックレドラーを木の葉のように吹き飛ばす程の衝撃波に阻まれているこの状態では、エネルギーバルカンを撃つ訳にはいかない。

 衝撃波に相殺され。掻き消されるならまだ良いが……もし万が一、弾かれたエネルギー弾があらぬ方向に反れた場合、最悪味方を直撃する可能性がある。

 

「キュルル!!」

「イーグル? どうした?」

 

 不意に声を上げたイーグルに、カイはメインモニターから視線を落とす。

 そこには、今まで使った事の無い機能がタッチパネルに表示されていた。

 

「衝撃探知レーダー?……お前こんな機能あったのか。」

「クルルルッ!」

 

 まるで、良いからサッサと使え!とでも言うかのように、イーグルが鋭く鳴く。

 表示された衝撃探知レーダーの文字を指で叩けば、サブモニターに表示されたレーダー画面に、広がる衝撃波がリアルタイムで赤く表示された。

 

「……なるほど。コイツは使えるな」

 

 カイがニヤッと笑う。

 目に見えない衝撃波を可視化する術があるのなら、後は此方の物だ。

 彼は衝撃探知レーダーに表示された衝撃波の隙間を縫うようにして、一気に急降下して行く。

 

『カイ!!』

 

 思わずエリクが叫ぶが、そんな彼の前でブレードイーグルは見えない筈の衝撃波を全て躱し、あっという間にデッドボーダーと距離を詰めていた。

 

「あの重力波の中を、抜けて来た?……」

 

 無機質ながら、ユッカの口調にも若干の驚きのような響きが混じる。

 目前に迫ったブレードイーグルを見上げるデッドボーダーの前で、その鋼の翼が銀色に輝いた。

 

「もらったぁぁぁぁ!!!」

 

 そのままデッドボーダーの首を断ち切るかのように思われたブレードイーグルに対し、ユッカは表情一つ変えずに、驚くべき反応速度でデッドボーダーを屈ませる。

 あと僅かという所で惜しくも狙いを外したブレードイーグルだったが、代わりにデッドボーダーの左側の重力砲(G-カノン)と150mmカノン砲が、レーザーブレードウイングによって切り裂かれ爆発した。

 だが、その爆発すら気にも留めていない様子で、間髪入れずに振り返ったデッドボーダーは、そのまま背後へと飛び去ろうとしたブレードイーグルへとニードルガンを叩き込む。

 無防備な背後からの攻撃に、カイは直角の軌道を描いて空へ舞い戻ろうとしたが、僅かに反応が遅かった。

 右のソニックブースターにニードルガンが直撃し、機体に激しい衝撃が走る。

 思わず一瞬身を強張らせたカイだったが、彼は残された左のソニックブースターと翼の羽ばたきを利用して体勢を立て直しながら叫んだ。

 

「親父!! 今だ!!」

 

 ブレードイーグルに気を取られ、デッドボーダーの対空砲火が途切れた今なら、一気に距離を詰められる。

 エリクも当然、この好機を逃すつもりは無かった。

 イーグルを振り返ったこの状態ならば、確実に首を落とせる……誰もがそう確信した。

 しかし次の瞬間、まるで死角からの気配を察知してハッとしたかのように、デッドボーダーが迫り来るストームソーダーを見上げる。

 

(マズい!)

 

 長年のゾイド乗りとしての勘が、エリクに警鐘を鳴らす。

 彼が直感した通り、デッドボーダーは大きく開いた口腔内から“何か”を発射した。

 

「くっ!!」

 

 寸前でコックピットへの直撃を避けるも、デッドボーダーが発射したそれが右翼に命中する。

 一気に機体の動きが鈍るのを感じると同時に、コックピット内に警報が鳴り響く……コンソールパネルの機体情報画面で、右翼のアイアンクローから翼中央の可動部までが損傷を示す赤色に染まっていた。

 損傷した右翼に出来るだけ負荷が掛からぬよう気を付けながら、エリクは空へと舞い戻る……その際にアイレンズ越しに目視で損傷具合を確認してみれば、アイアンクローは跡形も無く、その下に格納されていた2連装パルスレーザーガンも銃身が半分溶けて無くなった状態で剥き出しになっていた……勿論、翼中央の可動部も溶け、完全に癒着してしまっている。

 

「ゾイドの装甲を一瞬で融解させるとは……希硝酸まで装備しているのか……厄介な……」

 

 金属生命体であるゾイドを一瞬で融解させてしまう希硝酸兵器……しかし、どうも腑に落ちない。

 

(希硝酸兵器は、まだ開発段階で帝国軍機にも導入されていない新兵器の筈……それを何故、この敵が?)

 

 だが、それ以上思考を巡らせる事は叶わなかった……

 片翼が融解、癒着し、機動力の落ちたストームソーダーへ、デッドボーダーが残された右側の重力砲(G-カノン)を容赦無く放ったのだ……

 

「ッ!!」

 

 声を上げるよりも早く、身体が咄嗟に機体を操作する。

 放たれた重力砲(G-カノン)から広がる衝撃波を間一髪で避け、そのまま上昇していくストームソーダーだったが、急激な軌道の切り返しと急加速の負荷に、希硝酸によって融解した右翼が耐え切れる筈が無かった……

 次の瞬間、ストームソーダーの右翼が融解した中央可動部から真っ二つに割れ、吹き飛んで行く。

 その光景を見て言葉を失った航空隊員達とカイの目の前で、片翼を失ったストームソーダーは浮力を十分に維持出来なくなり、加速時のスピードも徐々に失われ……そして―

 

『大佐ぁぁぁぁ!!!』

 

 アルトの悲痛な声が共通回線に響き渡る。

 ストームソーダーステルスタイプがエリクを乗せたまま、下で待ち構えているあの衝撃波の弾幕へ向かって落下し始める様が、残酷な程ゆっくりと彼等の目に焼き付いた……

 その光景が、アルトの叫びが、駆け巡った思考と共にぐちゃぐちゃになってカイの心へ突き刺さる。

 

(嘘だろ?親父がやられるなんて……何やってんだよ! すぐに脱出装置を……いや駄目だ! あんな衝撃波の中へ生身で飛び出したら、間違いなく即死する! 落下するストームソーダーを空中で捕まえるなんて、体格差のあるレドラーじゃ無理だッ……イーグルでないと……くそ! ブースターさえやられてなきゃ……)

 

 そこでハッと思い至った唯一の手段は……カイを一瞬躊躇わせる……

 彼の脳裏に、瓦礫街での任務から帰還したあの日、シーナと交わした約束が過った。

 

―もう……無茶しない?……―

―あぁ―

―……約束する?―

―約束する―

 

 そう……約束した。

 シーナに。そして、彼女が約束のお守りにするね。と笑った、あのペンダントに……

 だが今は……今だけは!!

 

「ユナイトォォォォォォォ!!!!」

 

 力の限り叫んだカイの声に導かれ、ホエールキング内で待機していたユナイトが、一条の光となって飛び出す。

 ユナイトが合体した瞬間、ブレードイーグルと意識を共有したカイの視界が一気に開けた。

 見据えるのはただ一点。あの砲撃の衝撃波の中へと真っ逆さまに落ちて行く、父のストームソーダー……

 損傷したソニックブースターが急速に再生、チャージされると同時に、彼はブースターを点火して飛び出した。

 

「ぅおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「キュルアァァァァァァァァ!!!!」

 

 カイの声と、ブレードイーグルの声が一つに重なって響き渡る。

 一気に加速したブレードイーグルは、まるで巨大な弾丸のようにストームソーダーステルスタイプの元へ辿り着く……そのほんの僅か手前でブースターを切り、両の翼で急制動を掛けた時……鋼の鷲の金色の爪は、衝撃波に呑まれる寸前であった漆黒のストームソーダーの背をしっかりと捕らえていた。

 

(よし! 間に合った!)

 

 しかし、カイの表情が安堵に綻んだ次の瞬間。

 僅かに避け切れていなかった重力砲(G-カノン)の衝撃波が、ブレードイーグルを襲う……

 

「ぐぁっ?!」

 

 衝撃波が直撃したのは、丁度イーグルの左顔面……

 意識を共有しているせいで、カイは左顔面に強烈な拳を喰らったかのような痛みを味わい、思わず呻く。

 それと同時に身体全体に奔った激しい衝撃は、恐らく直撃した衝撃波のせいでコックピット内が激しく揺さぶられた為であろう事を、カイは瞬時に理解した。

 ……それでもブレードイーグルの両脚は、片翼を失ったストームソーダーをしっかりと掴んで放さない。

 

「くっ!……おい親父! 意識があるならしっかり掴まってろよ!!」

 

 そんな息子の声に、エリクは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐに操縦桿を握り直しながらシートに体を深く沈める。

 再びソニックブースターを点火し、一気に戦線を離脱しながらカイは叫んだ。

 

「選抜航空隊! その黒いゴジュラスみてーな奴からすぐ離れろ! 低空飛行で地上戦闘員の援護に回れ! ハイドフェルド大佐を下ろしたらすぐ戻る!」

『了解!』

『大佐を頼みます!』

『地上部隊へ入電! 只今より航空部隊は―』

 

 口々に声を上げる航空隊員達の通信を聞きながら、一時戦線を離脱する。

 駐機場に停泊中の帝国軍のホエールキングまで戻って来たカイは、その影に隠れさせるように片翼を失った漆黒のストームソーダーをそっと降ろした。

 翼を片方失った為にバランスが上手く取れなかったのだろう。一応自らの脚で地面に立ったストームソーダーだったが、直後、崩れ落ちるように地面に倒れ伏してしまった……

 ブレードイーグルが……いや、カイがそんな父の愛機の前にそっと降り立ち、心配そうに顔を覗き込んだ時、ストームソーダーの嘴型キャノピーが微かに軋みながら開いて行く。

 シートベルトを外し地面へと飛び降りたエリクは、しっかりとした足取りで地上に降り立ち、ブレードイーグルを真っ直ぐ見上げて来た……どうやら大した怪我はしていないらしい。

 

(ったく……冷や冷やさせやがって……)

 

 そんな言葉が一瞬浮かぶも、口を突いて出たのは自分でも驚くような一言だった。

 

『親父。怪我は?』

 

 その短い言葉に、エリクが僅かに戸惑いの表情を浮かべて目を見開く。

 何処かぽかんとした様子で、彼はそっと答えた。

 

「いや、私なら無事だが……」

『そっか……よ―』

 

 良かった。と思わず言いかけて、カイはハッとした表情を浮かべると、意地を張るかのようなジトリとした眼差しで、メインモニターに映るエリクを睨み付ける。

 

(いやいやいやいや! 良かった。じゃねーだろ! 全ッ然良くねーっつの! あんだけ偉そうな事言ってやがった癖に、俺より先にやられるとか何なんだよ! ざけんなバーカ!)

 

 脳内でそんな悪態を吐きながら、彼は先程言いかけた言葉を誤魔化すかのように、エリクへ背を向けた。

 此処で暢気に父親と話し込んでいる暇など無い。

 まだ前線では、多くの軍人とガーディアンフォースの仲間が戦っている……

 

『……後は俺達に任せて、大人しくしてろよな』

 

 外部スピーカーでぶっきらぼうにそう言い残すと、カイは振り返りもせずに空へ飛び立つ。

 再び戦線へ向かうブレードイーグルを見上げるエリクは、何処か寂しげな目をしていたが……ふと、その口元に諦めが付いたかのような笑みがひっそりと浮かんだ。

 ゾイドを降りろ。と……応じないのなら、最悪この演習で叩きのめしてでも諦めさせよう。と……そう思っていたのに、どうやらレンの言う通り、カイはもう……ただの我が儘でゾイドに乗っている訳ではないらしい。

 カイは今でも自分を嫌っている。いや、憎んですらいるだろう。それは演習開始前の態度からもハッキリ断言出来る。にも拘らず、一歩間違えば共に衝撃波に呑まれていたであろうあの状況下で、一切危険を顧みずに飛び込んで来た息子の姿に「来るな。」と思う一方……僅かに胸を打たれてしまった自分も確かに居た。

 そして何より、先程のカイの言葉……

 

―親父。怪我は?―

 

 あんな無茶をしてまで助けに飛び込んで来たという事は、身を案じてくれたという事は、冷たい態度をとり続けて来た自分を、今でもかけがえのない“家族”だと想ってくれているのだろうか?……

 

(……参ったな)

 

 思えば久しく、カイに“優しい父親”として接していない。

 この戦闘が終わったら、一体どう声を掛けたものか……

 

「ハイドフェルド大佐! ご無事ですか?!」

 

 ホエールキングから駆け出して来た乗組員達を振り返ったエリクは、僅かに緩んでいた表情を引き締める。

 

「幸い無傷だ。問題無い。君達はSSS(スリーエス)の回収作業を頼む。私はホエールキングのブリッジから、引き続き選抜航空部隊の指揮にあたる」

「はっ!」

 

 走って行く乗組員達を一瞥した後、エリクもまた、ホエールキングのメインブリッジへと急ぐ。

 まだ前線に立ち、懸命に戦っている者達に報いる為にも。

 憎んでいる筈の自分を助けてくれた、たった1人の息子に礼を言う為にも。

 まずは、この突然の襲撃者達を倒さなくては……と。

 

   ~*~

 

 その頃、地上部隊はかなりの大激戦を繰り広げていた。

 近接格闘装備を持つ高速戦闘部隊のゾイド達は、ルーカスを筆頭にレブラプターやヘルディガンナー、そしてヘルキャットをも蹴散らしながら戦場を縦横無尽に駆け回る。

 光学迷彩で透明化したヘルキャットの姿を捉える事が可能となったのは、選抜地上部隊の指揮を執っていた帝国軍第二装甲師団副団長……フリッツ=ノルデン中佐の機転のお陰だった。

 

「それにしても……姿の見えないヘルキャットを、マーカー弾でマーキングしようとは……ノルデン中佐も、この土壇場でよくこんな事を思い付いたものだ」

 

 ヘルキャットをヘルブレイザーで切り伏せながら、ルーカスが独り言のように呟く。

 砲撃部隊である第二装甲師団所属のレッドホーンとダークホーンが“実戦では役に立たない”と思われたマーカー弾で、ヘルキャットをマーキングしてくれているのだ。

 通常は機体表面の傷や汚れごと姿を隠せてしまう光学迷彩だが、帝国軍の訓練用マーカー弾に使用されているペイント塗料は、光学迷彩機……すなわちヘルキャットを主力とする特殊部隊の訓練にも使用出来るよう、光の屈折操作を阻む特殊な物質が配合されている為、この塗料が付着した場所は光学迷彩で覆い隠すことが出来ない。

 お陰で、マーカー弾を受けたヘルキャットは、炸裂した塗料が独り歩きしているかのような姿で、肉眼でも確認出来る状態になりつつあった。

 ……とは言え、ヘルキャットにマーカー弾を撃ち込んでマーキングする。というこの作戦……

 確かに口で言う分には簡単だが、レーダーにも表示されないヘルキャットへ砲撃を命中させるなど、ノルデン自身もハッキリ言って不可能だと思っていた……そんな作戦が見事に成功しているのは、(ひとえ)にシーナのお陰である。

 

「シーナ君! 次のヘルキャットの居場所を!!」

『11時の方向! 距離760!!』

「了解した!!」

 

 シーナに指示された場所を、砲撃部隊が撃つ。

 何もないかのように見える場所に、また一つ。蛍光イエローの塗料の跡が浮かび上がった。

 それと同時に、再びシーナの声が響く。

 

『次! 10時の方向! 距離620! 1時の方向! 距離1070!』

「ヤンセン! ヴェイケル! 10時の方向は任せたぞ!!」

 

 部下へ指示を出しながら、ノルデンのダークホーンが1時の方向へマーカー弾を放つ。

 姿が見えない。レーダーにも映らないヘルキャットが、確かにそこに居た。

 マーカー弾の塗料を浴び、姿がバレた事に慌てふためいて逃げ出そうとしたヘルキャットに、セイバータイガーが飛び掛かり、ストライククローを振り下ろして止めを刺す。

 その様を見届けて、ノルデンは自分のダークホーンの影に身を隠しているシーナのヘルキャットを見つめた。

 

(……いくら古代ゾイド人の視力がずば抜けているとはいえ、目視だけでこれほどオペレート出来るとは……とんでもない才能だな……)

 

 そう。シーナは今“視力のみを頼りにヘルキャットの位置を特定する”という離れ業をやってのけていた。

 一番始めにヘルキャットの位置を指示されたのは、ほんの5分前の出来事……最初は半信半疑であったが、指示された場所へマーカー弾を放った直後、本当にヘルキャットが居たと分かった時は心底驚かされた。

 一体どうやって見つけ出したのかと訊ねてみれば、彼女ははにかむように微笑んでこう答えたのだ。

 

「ヘルキャットが走った時に立つ砂埃と、何もない所から飛んできたビーム砲の光で分かったの」

 

 と……

 これだけの大乱戦の中でそれを見分けられるとは……到底視力だけでは説明が付かない。

 周囲の他のゾイド達がどう動いているのか? 一瞬で戦場を奔るビーム砲をどの機体が放ったのか?……それが把握出来ていなければ、舞い上がる砂ぼこりや飛び交うビーム砲に違和感を抱く事など不可能だ。

 更に驚くべきなのは、その僅かな視覚情報だけで敵の位置を正確にオペレートしている事である。

 立ち止まって砲撃を行っているヘルキャットならばともかく、移動しているヘルキャットの位置まで……

 

(走行時に立てる砂埃を頼りに、ヘルキャットの移動先を先読みしている……それも、自分が指示を出し、我々が指示された方角へ狙いを定め、砲撃を行うまでのタイムラグをほぼ正確に差し引いた上で……ベテランオペレーターでも、こんな指示が出せる者はそうそう居まい……)

 

 これでまだ訓練生だというのだから、なんと末恐ろしい子だろうか?と、ノルデンは舌を巻く。

 そして同時に、そんな逸材が味方に付いている事を実に頼もしく思った。

 ……いや、そもそもこの場の味方達は誰もが皆、何かしら光る物を秘めた逸材ばかりだ。

 不規則に後方から飛んで来る援護射撃……大質量のエネルギー弾である事から、恐らくディバイソンの17連突撃砲であろう。クルト自身の腕前なのか、それとも搭載しているというAIのお陰なのか、はたまたその両方か……繰り出される援護射撃はどれも絶妙のタイミングで、味方の死角から襲い掛かろうとしている敵を確実に牽制し、此方の攻勢維持に一役買っている。

 その援護射撃とヘルキャットへのマーキングというお膳立てを受け、帝国軍の高速戦闘部隊は皆、鬼神の如き戦いぶりを見せていた。特に、ルーカスのジークドーベルは一際目を引く。戦場を駆ける一迅の疾風(かぜ)は、たった1機で敵の小型ゾイド達を全て撃破してしまうのでは? という勢いで戦果を上げていた。

 地上部隊の援護に回った航空部隊のブラックレドラー達も、指揮官であったエリクが撃墜されたというのに、士気が下がっている様子は一切無い。中でも変わった戦い方をしている1機……その機体側面に描かれたP2という識別番号はアルトの物だ。

 彼はツインブレードによる直接攻撃のみならず、飛行ゾイドならではの圧倒的なスピードを巧みに利用し、ソニックブームを起こして敵の小型ゾイドを蹴散らしている。

 地を這うような超低空飛行で音速を超えるなど、並大抵のパイロットならばまず間違いなく真似しようとすら思わない芸当だが、彼は“音速の鐘(ソニック-ベル)”というあだ名を付けられるほどのスピード狂。音速戦闘における操縦技術は、帝国空軍内屈指と言って間違いない。

 彼等の活躍によって、ガーディアンフォース部隊は敵主力機と一対一の勝負に集中する事が出来ていた。

 

「このぉ! ちょこまかと鬱陶しい!!」

 

 エドガーとジェノブレイカーに苦戦を強いられ、クラウが苛立った声を上げる。

 ガーディアンフォースの青いジェノブレイカーは「荷電粒子砲発射後、放熱が完了するまでの間、機体性能を強制的に40%ダウンさせるリミッターを組み込む事」という条件と引き換えに、特例で作られたもの。

 ただでさえオリジナルのジェノブレイカーよりも性能が劣るクローン機であるというのに、そこに更にリミッターを架していると言うのだから、大した事は無いだろう。と彼女は思っていた。

 パイロットであるエドガーが、現代人と古代ゾイド人のハーフという“半端者”である事も、彼を見くびる要因の一つとなっていた。

 だが彼は、レイヴンから受け継いだ操縦センスと、リーゼから受け継いだゾイドに対する高い適正を持ち合わせていながら、その才能に甘んずることなく訓練によって腕を磨いて来た実力者……ヤークトジェノザウラーを以ってしても、慢心していたクラウが彼に勝てる訳が無い。

 

「どんなに凶暴なイレギュラー個体であっても、基本的な弱点は通常のジェノザウラーと大して変わらない。か……」

 

 独り言のように呟くその声は、真剣ながらも余裕が垣間見える。

 ジェノザウラーは荷電粒子砲を放つ際、必ずフットアンカーで機体を地面に固定する必要がある……ならば、話は簡単だ。要はフットアンカーを下ろす隙を与えなければ良い。

 オリジナルにはいささか劣る性能ではあるが、自分の相棒もれっきとしたジェノブレイカーだ。機動力もパワーも此方が優れている。そして何より、荷電粒子砲にリミッターが架せられているからこそ、エドガーは格闘主体の近接戦闘を得意としていた。

 ヤークトがハイパーキラークローを放つ。恐らく捉えて放電し、此方が動きを鈍らせた隙に荷電粒子砲の発射体勢を取ろうというのだろうが……

 

(甘いな。魂胆が見え見えだ)

 

 飛んで来たハイパーキラークローを尾で弾き飛ばすと同時に、ウイングスラスターを点火する。尾を振り抜いた際の遠心力に、スラスターの推進力を加え急加速した一回転によって、その尾が今度はヤークトの右顔面を容赦なく撃ちすえ、吹き飛ばした。

 

『きゃぁっ?!』

 

 悲鳴と共に地面へ転がったヤークトの首を踏みつけて、エドガーは薄く笑った。

 

『随分強そうな機体に乗っているのに、乗り手が三流じゃ意味がないな』

 

 わざと挑発するように外部スピーカーで呼びかければ、案の定クラウは激昂する。

 

『三流?! 冗談じゃない!! お前みたいな古代人もどきにそんな事言われる筋合いないもん!!』

 

 怒鳴り声と共に、ヤークトのパルスレーザーライフルがジェノブレイカーへ突き付けられるが、エドガーは慌てる様子も無く、展開していたエクスブレイカーでパルスレーザーライフルの接続ジョイントを切断する。その衝撃にコックピット内は大きく揺さぶられ、クラウは思わず両手で頭を庇うようにコックピットで縮こまった。

 

『大人しく投降しろ。女の子をいじめるのはあまり趣味じゃない』

『どの口で言ってんの?! バカスカ殴って来た癖に!!』

『……まだ1回しか殴っていない筈なんだけどな……』

『人を足蹴にして言う台詞じゃない!!』

 

 首を踏みつけられたままジタバタと激しく暴れ出すヤークトを、エドガーとジェノブレイカーがいささか呆れたように見つめる。

 瓦礫街での報告で、クラウと名乗った少女の年齢は推定15~16歳であろうとの話だったが……精神年齢的にはまだまだ子供のように感じた。

 そしてこのヤークトジェノザウラーも、恐らくこの世に生まれ落ちてまだそれ程経ってはいないのだろう。確かにゾッとするような禍々しい破壊衝動を持つ個体だが「放せ! 放せ! 俺はまだ暴れ足りない! 足りないんだ!!」と喚くその姿は、まだ遊びたいと駄々を捏ねる子供そのもの……

 

(こんな子供を戦わせて、一体何がしたいんだ……こいつ等は……)

 

 エドガーは思わず表情を曇らせる。

 自分の母親であるリーゼは、幼い頃、共和国軍の研究所に囚われていた。

 希望を見出す事も出来ず、人間への憎しみを募らせるばかりの日々……そんな母を自由の身にしてくれたのがヒルツであったと聞いている。それが、ダークカイザーの部下となるきっかけだった。と……

 もしかしたらこの少女も、自分の母親と同じような道を辿った末に、こうして此処にいるのだろうか?……

 だとしたら―

 

『エドガー!! 避けて!!』

 

 突然響いたシーナからの通信に、エドガーは咄嗟にジェノブレイカーを後退させる。

 デッドボーダーのレーザー砲から連射されたレーザーが、先程まで自分達の居た場所に着弾し、地面を抉った。

 

『もぉ!! 援護遅い!!!』

『そうか。以後気を付ける』

 

 クラウの怒鳴り声に外部スピーカーで返事を返した、デッドボーダーのパイロットの声……

 その声は無機質ながら“とある少年”の声に酷く似ていた。

 

「えっ……」

「グゥゥゥ?」

 

 思わず声を上げたのは……シーナだ。

 呆然とした表情でデッドボーダーを見つめる彼女に、キートが心配するような鳴き声を上げる。

 

『なぁ、今の声……聞き間違いじゃないよな?』

『あぁ。僕も一瞬驚いた……』

 

 ガーディアンフォース機の通信回線でクルトとエドガーが言葉を交わせば、1人の少年がシーナへ語り掛けた。

 ……先程響いたデッドボーダーのパイロットと、同じ声で……

 

『……シーナ。まさかあのゾイドに乗ってる奴って……』

「……」

『シーナ? シーナ! おい、聞こえてるか??』

 

 通信画面に表示された“同じ顔”が“同じ声”で自分を呼んでいる。

 あの黒いゾイドに乗っているかもしれない、自分の……双子の兄と……

 

(そこに……居るの?……なんで、私達と戦ってるの?……ねぇ、なんで?……)

 

 ただただ頭の中を埋め尽くしていく混乱の中に、次々と沸き上がる疑問。

 そこに、止めのようなクラウの一声が響き渡った。

 

『まぁいっか。戻って来た守護鷲の相手よろしくね。アレックス』

 

 その名を聞いた瞬間。見開かれた鶯色の大きな瞳に、絶望の色が広がった……

 

   ~*~

 

「畜生ぉ……強いな。まるで父ちゃんやルーク兄ちゃんと戦ってるみたいだ」

「ガルルルルルッ」

 

 レンはライガーゼロのコックピット内で疲れ切った荒い息をしながら、必死にブレードと機体を操作していた。

 勝負を挑んで来た謎の高速戦闘用ゾイド……デスキャットの強さは圧倒的であった。

 電磁牙と電磁クロー、2連衝撃砲……完全に近接戦用の装備しか持っていないデスキャットに対し、自分も近接格闘戦用をコンセプトに開発されたブレードゼロユニットで戦っている。まだ試作段階のこのユニットを完全に扱い切れていないとはいえ、自分の最も得意とする近接戦闘において、ここまで全く歯が立たないのは……バンとルーカス以外では初めての事であった。

 仲間の通信に加わる余裕すら無いまま、彼は前脚の電磁クローを振り上げたデスキャットへ切りかかる。

 しかし、振り上げていた電磁クローはわざと隙を見せる為のブラフ……迫り来るブレードをあっさりと躱したデスキャットは、すかざず2連衝撃砲でライガーゼロを吹き飛ばした。

 

「うわぁぁっ?!」

 

 地面を転がるライガーゼロは、レンの操縦ではなく自らの意志で四肢の爪を地面に立て、姿勢を立て直す。

 姿勢を低くしたまま、威嚇するかのような声を発する白獅子を眺め、ハウザーはそっと呟いた。

 

「10代の少年にしてはよく持ち堪えている方だが……まだまだ未熟だな」

 

 確かにあの可動ブレードは少々厄介だが、パイロットがまだあの装備を十分使いこなせていない事を、彼は戦いながらすぐに見抜いていた。

 機体の動きとブレードの動きを連動させない事で、太刀筋を読ませない……恐らくそれがあのブレードの一番の長所であろう。にも拘わらず、余裕が無くなれば無くなるほどブレードの軌道変更が疎かになって来ている。これではブレードが可動式になっている意味が無い。

 

「そろそろ時間か……これで決めさせてもらおう」

 

 デスキャットが駆けだす。

 地を一蹴りしただけで一気に加速したデスキャットに、疲れ切ったレンの反応が僅かに遅れた。

 

(ブースターも無しに、この短距離で急加速するなんて……マズい! 間に合わ―)

 

 咄嗟に回避行動を取ろうと頭を下げるライガーゼロだったが、まるでそうする事を読んでいたかのように、飛び掛かったデスキャットの電磁クローが振り下ろされる。

 伏せかけていたライガーゼロの頭を、思いっ切り地面へ叩きつけた強烈な一撃は、頭頂部のヘッドーフォークフィンをバラバラに破壊し、ライガーゼロのみならず、レンにも多大なダメージを与えた。

 そう。何故ならライガーゼロも、他のライガー系ゾイド達と同じ頭部コックピット式……その頭部へ直接攻撃を受けたのだ。電磁クローが振り下ろされた際の衝撃と、地面へ叩きつけられた際の衝撃。そしてその有り余る勢いのせいで地面でバウンドした頭が、再び地面にぶつかった際の衝撃……いくら安全バーによって体が固定されていても、3度に亘る激しい衝撃は、容赦無くダイレクトにレンを嬲る。

 

「がっ?! ぁ……」

 

 こめかみをサイドパネルに激しく打ち付け、意識を飛ばしてしまったレン……それと同時に、ライガーゼロ自身も沈黙してしまった。再起動を促す電子音だけが単調に響くコックピット内、メインコンソールに表示されているのは「SYSTEM FREEZE」の文字。

 しかし通信回線はまだ生きているらしく、ぐったりと力の抜けたレンの姿は仲間達の通信画面に映っていた。そのこめかみから伝う赤も、ハッキリと……

 

「レン?……」

 

 信じられないといった表情を浮かべたエドガーの顔が、ゆっくりと青ざめて行く……

 彼にとってレンは幼馴染であり、親友であり、そしてライバルでもある。そんなレンがここまで手酷くやられた姿など、今まで見た事が無かった。

 

「レン……なぁ、レン! しっかりしろ!! 応答してくれ!!」

『余所見してて良いの?』

「ッ?! しまっ―」

 

 クラウの声と共に、ヤークトのハイパーキラークローがジェノブレイカーの首を捕らえる。

 先程まで一方的にやられていた恨みを晴らすかのように、最大出力の放電がジェノブレイカーを包んだ。

 

『うあぁぁぁぁぁぁぁ!!』

『エドぉ!!』

 

 響き渡ったエドガーの苦悶の絶叫に、クルトが声を上げる。

 すかさずヤークトへ砲撃しようとした彼であったが、直後、バイザーデバイスに表示された機影に気付き、彼は僅かに狙いを逸らす。

 放たれた3発のエネルギー弾がヤークトの周囲に着弾し、派手な土煙を巻き上げた。

 

『下手っぴ。何処狙ってんの??』

『余所見をしていて良いのかな?』

『え?……』

 

 外れた砲撃をせせら笑ったのも束の間。

 先程の自分を真似るかのような声に、クラウが声のした方向を向く。

 そこから巻き上げられた土煙に紛れて飛び込んで来たのは……

 

『ジークドーベル?! いつの間にッ……』

 

 驚愕の声を上げたクラウの目の前で、ジークドーベルのヘルブレイザーが、放電攻撃を続けているハイパーキラークローのワイヤーを切断する。

 慌てて後退したヤークトを睨み付けながら、ルーカスとジークドーベルが地面に崩れ落ちたジェノブレイカーを守るように立ちはだかった。

 

「エド、まだ動けるか?」

『意地……でも……動くッ……このままじゃレンが……皆がッ……』

 

 地面に崩れ落ちたジェノブレイカーを起き上がらせようと、操縦レバーを引くエドガーだったが……先程の放電攻撃によって痺れた身体は全くと言っていい程言う事を聞かない。僅かに起き上がりかけたジェノブレイカーは、すぐにまた地面へと崩れ落ちた。

 そんなエドガーを宥め、安心させてやるかのように、ルーカスは優しく囁く。

 

「すまん。野暮な質問だったな……無理するな。後は俺達に任せて休んでろ」

『……わかった……ごめん。ルーク兄さん……』

 

 動きたくても動けない悔しさに肩を震わせるエドガーに、ルーカスも表情を曇らせる。

 あれだけの放電攻撃を喰らったのだ。普通ならば意識が飛んでいてもおかしくは無いのに……恐らく気力だけで必死に意識を保っているのだろう。

 ルーカスは後方支援に徹している従弟へ呼びかけた。

 

「クルト! レンとエドを守ってやってくれ! ヤークトジェノザウラーとやらは俺が引き受ける!」

『無茶ですシュバルツ少佐! 先程の攻撃時に貴方だってッ―』

 

 自分を制止しようとするクルトに、ルーカスはふっと笑った。

 

「なに。俺達は機体と身体に電流がほんの一瞬通っただけだ。問題無い」

 

 ルーカスが相棒を駆ってヤークトへ切りかかる。

 クルトの言う通り、通電しているハイパーキラークローのワイヤーを切断したあの瞬間、自分とジークドーベルも感電はした。鈍い痛みを伴う微かな痺れが操縦を妨げているのは確かだ。

 だが、その程度の事を気に留めている余裕など無い。誰かが絶え間なくヤークトの荷電粒子砲発射を阻止していなければ、甚大な被害を受けるのは必至なのだから。

 そんな中、ハウザーはデスキャットでライガーゼロの頭をおもむろに踏みつけた。

 

(未熟なパイロットではあるが、危険な芽は早く摘んでおかなければな……)

 

 踏みつけた脚に力を入れれば、ライガーゼロの頭がミシミシと嫌な音を立てる。

 共和国ゾイドの全面ガラス式のキャノピーと違い、帝国ゾイドのような装甲キャノピーである為、そう簡単には壊れそうにないが、システムがフリーズし身動きの取れない今ならば……

 

「野郎ッ……コックピットごと踏み潰す気か! させるかよ!!」

 

 カイがすかさず援護へ向かおうとするが、その行く手をデッドボーダーの重力砲(G-カノン)が阻む。

 

『お前の相手は俺だ』

「チッ!!」

 

 感情の無いその無機質な声が……自分と瓜二つのその声が、カイの神経を逆撫でる。

 アレックスの事はシーナからチラッと聞かされた程度でしか知らないが、それでも、デッドボーダーのパイロットがアレックスだとは思えなかった。思いたくなかった。

 カイとアレックスはよく似てる。シーナはそう言った……だから余計にでも苛立ってしまうのだろう。淡々と機械のようにゾイドを操縦する奴と自分が似ているだなどと、認めたくなかった。

 

『邪魔してんじゃねぇ!!』

 

 身を翻し、デッドボーダーへ向き直ったカイは、コックピットごと蜂の巣にする事すら厭わぬ勢いで、エネルギーバルカンを容赦無く撃ち込む。

 避ける間も無く頭に無数のエネルギー弾を浴びたデッドボーダーだが、レーダーシールドに守られた頭部はその程度では大したダメージなど通らない……しかし……

 

「ん?……」

 

 突然パワーダウンしたデッドボーダーに、ユッカがコンソールパネルの機体情報画面へ視線を落とす。

 後頭部に接続されているエネルギー循環用のフェルチューブに穴が開き、エネルギー漏れを起こしていた。

 デッドボーダーから漏れ出したエネルギーが、まるで緑色のオーラのようにゆらゆらと湧き上がる……その様を見たクラウは不機嫌な表情で呟いた。

 

「あーあ。もうやられてる……」

 

 デッドボーダーにとって、エネルギー循環パイプであるフェルチューブは最大の弱点だ。漏れ出たエネルギーがああして目に見えるという事は、相当量のエネルギーが駄々漏れになっているだろう。

 

(ま。そろそろ迎えも来る頃だし、別に良っか。怒られるのはクラウじゃなくてユッカだもん。知ーらない)

 

 我関せずを決め込んだクラウとヤークトジェノザウラーの頭上を、ブレードイーグルが飛び越して行く。

 レンの元へ向かうカイの目の前では、ライガーゼロの頭を踏み潰そうとしていたデスキャットが、ディバイソンからの援護砲撃を躱して横に飛び出した所であった。

 

「っらぁぁぁぁ!!」

 

 ソニックブースターで一気に加速したカイは、ストライククローを発動させた両脚の爪で、デスキャットに強烈なドロップキックをお見舞いする。

 いくら優秀なパイロットであるハウザーも、音速で飛んで来たその蹴りには流石に反応出来なかった。蹴り飛ばされたデスキャットはそのままふっ飛ばされ、派手に地面を転がった。

 ……しかし、後先考えずにそんな事をしたカイも、勿論無事ではない。

 イーグルの機体の大きさで、地上に居るゾイドに真横からドロップキックなど入れようものなら、当然翼が地面に接触してしまう……デスキャットをふっ飛ばすと同時に、翼を地に持っていかれるようにしてイーグルも無様に地面を転げる破目になった。

 

「くっ……なんて無茶苦茶な……」

 

 思わずそうぼやきながら、ハウザーはデスキャットを起こす。

 直後、間髪を入れずに飛んで来た衝撃砲をギリギリで躱して振り返れば、同じように起き上がったブレードイーグルがフリーズしているライガーゼロを背後に庇う形で立ち塞がり、衝撃砲で此方を攻撃していた。

 

「……なるほど。あくまで仲間を護る事が目的か。深追いする気がないのなら此方も動き易い」

 

 丁度迎えも到着した事だ……今回は此処で一旦幕引きとしよう。と、ハウザーは空を見上げる。

 ヒドゥンの能力によって姿の見えない状態のホエールキングが、音だけを響かせながら降下して来ていた。

 

『ガーディアンフォース。並びに帝国軍に告げる』

 

 頑なに外部スピーカーを使用しなかったハウザーが、やっと口を開く。

 変声器によって変換された別人のような自分の声を聞きながら、彼は言葉を続けた。

 

『残念ながらタイムオーバーだ。今回の勝負は、互いに痛み分けという事にしておこう。我々の名は“幻影騎兵連隊(ファントムリッター)”またいずれ、諸君らと会い見える時が必ず来るだろう。我々は常に、その時を心待ちにしている』

 

 そう言い残し、デスキャットが、デッドボーダーが、ヤークトジェノザウラーが……掻き消える。

 誰もがその光景に唖然とする中、最初に口を開いたのはノルデン中佐だった。

 

「シーナ君。レーダーに反応は?」

『ううん……何も映ってない』

「……そうか」

 

 ノルデン中佐は静かにそう呟くと、長い溜息と共に警戒を解く。

 他の帝国軍人達も、そして、ガーディアンフォースの面々も、誰もが皆、嵐が通り過ぎた後のような演習場を見渡し、先程までの戦いを思い返していた。

 

幻影騎兵連隊(ファントムリッター)……か……」

 

 ホエールキングのブリッジで途中から航空部隊の指揮にあたっていたエリクが、そっとその名を復唱する。

 突如として現れ、姿を消した謎の敵……その正体や目的は勿論だが、彼が最も怪しんでいるのは、敵側のパイロットただ1人であった。

 

(アレックスと呼ばれた、あの黒いゾイドのパイロット……奴は一体何者だったんだ?)

 

 考えこみながらも、エリクはそっとホエールキングのメインモニターを見上げる。

 そこには、ブレードイーグルから降り立ち、ライガーゼロへ駆け寄るカイの姿が映し出されていた。

 鮮やかな紫色の瞳は、真剣に……そして何処か悲し気に、息子の姿を見つめる。

 

(カイ……シーナ……どうか―)

 

 祈るようにそっと目を閉じた後、再び目を見開いた彼は乗組員達に指示を出す。

 

「被害状況の把握及び報告は後で良い。ガーディアンフォースと共に負傷者とゾイドの収容を急げ。医療班各員。並びに整備隊員は直ちに準備を整えろ」

「了解」

「此方ブリッジ。敵機の撤退を確認。整備隊機体回収班は医療班員と共に直ちに出動」

「此方。帝国軍第一航空大隊所属、選抜航空部隊輸送班。ガーディアンフォース、応答願います―」

 

 一気に慌ただしくなっていくブリッジに響く、無数の声……

 それを聞くともなく聞きながら、エリクは誰にも気付かれないような溜息を一つ吐く。

 幻影騎兵連隊(ファントムリッター)による突然の襲撃……その戦闘は、僅か2時間にも満たぬ出来事であった。

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