ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第3話-荒野の二人組-

 カイの声で、ずっと眠っていたブレードイーグルが目を覚ましてくれた。

 でも、カイとブレードイーグルはなんだかあんまり仲が良くないみたい。

 カイの荷物も無くなっちゃったし、これから私達、一体どうすれば良いのかな?……

 [シーナ]

 

 [ZOIDS-Unite- 第3話:荒野の二人組]

 

 翌朝目覚めたカイとシーナは、朝食代わりのパパオを食べながらこれからどうするかを話し合っていた。

 話し合うと言っても、カイが考えた事をシーナに説明している。と言った方が正しいが。

 カイの荷物は全て、生活雑貨や食料に至るまで全部レドラーと共に吹き飛んでしまったので、まずはその辺りの物をまた一から買い直さなくてはいけない。

 ……が、荷物と共に財布も吹っ飛んでしまった以上、肝心の金が無い。

 現時点ではこれが一番の問題だった。

 一応、今までカイが情報屋として稼いで来た報酬は全て彼の個人口座に入っているので全くの無一文という訳でもないのだが、カイは情報収集の際に貴重品を持ち歩かない主義だった。というのも、情報収集の際に不慮の事態に見舞われて紛失しないよう、そういった貴重品は全てレドラーの座席の下に厳重に隠して行動する癖が付いていたのだ。

 つまり今回は、完全にそれが仇になってしまったのである……

 自分の口座から預金を下ろす為に必要なカードや通帳、更にはその再発行に必要な身分証も、全て吹っ飛んだレドラーに置きっぱなしだった。

 新たに通帳やカードを発行してもらうにしても、身分証も無しでは最低一週間は掛かる。

 銀行窓口に再発行の手続きをしに行く為にも、通帳やカードが再発行されるまでの間食い繋ぐ分の金を稼ぐ為にも、何処か近場の町へ行くしかない。

 

「というわけで、まずはこの先のエレミア砂漠を突っ切った所にあるサンドコロニーまで行こうと思う」

「サンドコロニー?」

「ああ。エレミア砂漠とイセリナ山の間にあるコロニーなんだ。砂漠越えや山越えの補給に大勢の人が立ち寄る分、市場も沢山あって一通り何でも揃うし、日雇いも結構募集してるから日銭稼ぎにも困らない。って訳だ」

 

 カイはそう言って二ッと笑う。

 市場の日雇いなら情報屋としての稼ぎが微妙だった頃に何度も経験している分、慣れた仕事だ。

 貰った日銭でちまちま必要な物を揃えるのも、サンドコロニーならばすぐに一通り揃うだろう。

 

「じゃぁ行こっか。そのサンドコロニーに。ね? ユナイト」

「グオ!」

「よっしゃ! じゃあ決まりだな!」

 

 どうやらシーナとユナイトも特に異存はないらしい。

 あとの問題は……

 

「って訳で、今度は目的地素通りすんなよ??」

 

 ブレードイーグルだ。

 案の定ブレードイーグルは不機嫌そうな鳴き声を吐いてそっぽを向いている。

 こいつが言う事を聞いてくれなければどうしようもない。

 

「なぁシーナ。どうやったらブレードイーグルは素直に言う事聞いてくれるんだ?」

 

 カイは困り果てた様子でシーナへ訪ねる。

 シーナはきょとんとした顔でカイとブレードイーグルを交互に見ると、立ち上がってブレードイーグルの目の前へと歩み寄った。

 

「イーグル。カイの行きたがってる場所にちゃんと連れて行ってあげて。じゃないと私達とっても困るの。お願い」

「キュルルルル」

 

 シーナの言葉に、ブレードイーグルは至って素直にシーナの方を向く。

 

「仰せの通りに。だって」

「……そりゃ良かった」

 

 カイはいまいち面白くない。

 まぁ、シーナはブレードイーグルの主である訳だし、シーナの言う事を聞くのは当然だ。

 昨夜喧嘩した手前、ブレードイーグルがカイの言う事を聞きたくないと言うのも確かに分かる。が、いつまでもへそを曲げられていては流石に困る。

 こうなればつまらない意地を張っていてもしょうがない。

 

「……なぁイーグル。昨日は俺が悪かったよ。だから少しは俺の言う事も素直に聞いてくれよ。な?」

「クルルル」

 

 カイがブレードイーグルに向かってそう言うと、流石にブレードイーグルもカイの方を向いて咽を鳴らすような小さい鳴き声をあげた。

 

「しょうがねぇな。だって」

「素直に目的地に向かってくれるならなんでも良いよ。よし! じゃあさっさと行こうぜ! サンドコロニーまで!」

 

 カイとシーナは、ブレードイーグルのコックピットへと乗り込んだ。

 意外な事に、ブレードイーグルは自立行動を解除したまま、カイに操縦を委ねて空へと舞い上がる。

 

(なんだ。意地っ張りだけど、そこまでわからず屋でもねーんだな)

 

 カイは思わずホッとしてしまう。

 昨日の音速飛行とは打って変わってのんびりと目的地へ向かうその後を、ユナイトがパタパタと展開翼を羽ばたかせて追いかけた。

 

   ~*~

 

 エレミア砂漠の天気は至って良好だった。

 春先だというのに酷い砂嵐が起きている訳でもなく、見通しも良い。

 カイはふと、レドラーと一緒に吹き飛んでしまった自慢のCDコレクションを思い浮かべた。

 こんな天気の良い空を飛びながら聞けば、また格別だっただろう……

 

「……Let's dive in to the blue sky

 We are never think falling

 Still continuing to run

 Just like Continue flying birds……」

「それなぁに??」

 

 不意に歌い出したカイにシーナが訊ねる。

 カイは後部座席を振り返って笑った。

 

「ブルースカイって曲だよ。共和国のサウンドライダーズってバンドの新曲」

「どういう意味? さっきの歌詞」

「真っ青な空に飛び込め。俺達は落ちる事なんか絶対考えない。飛び続ける鳥達みたいに、まだまだ走り続けるんだ。って意味」

 

 カイの言葉に、シーナは目を輝かせる。

 

「素敵な曲だね」

「だろ?! 俺もこの曲大好きなんだよ! レドラーと一緒にCD吹っ飛んでなきゃ、シーナにももっと色々聞かせてやれたんだけどなぁ……」

 

 カイはそう言いながらスクリーン越しの空を眺める。口座から預金を引き出せたらまた買い直そう。と思いながら。

 まぁ、古代ゾイドであるブレードイーグルにコックピット用のCDプレイヤーユニットが増設できるかどうかは怪しいが……

 そんな事を考えるカイに、シーナは後部座席から身を乗り出して無邪気な笑顔を向ける。

 

「ねぇカイ。その曲もう一回歌って」

「別に良いけど、これ新曲だから俺もまだサビしか覚えてないぜ?」

「良いの! その曲素敵なんだもん。もう一回聞かせて」

 

 シーナにせがまれてはしょうがない。

 

「しょうがねぇなぁ」

 

 まんざらでもなさそうにカイは前を向きながらニヤッと笑う。

 音楽を聴くのは勿論、歌うのもカイは大好きだ。そこそこ歌唱力にも自信がある。

 しかしその時、彼はふと前方の砂漠の上を走る2機のゾイドを見つけて目を凝らした。

 青いセイバータイガーに、赤いコマンドウルフ……見覚えのあるその2機に、彼はシーナへ訪ねた。

 

「悪いシーナ。ちょっとあそこのゾイド達、アップで表示出来ないか?」

「あの青いのと赤いの?ちょっと待ってね」

 

 シーナが後席用のコンソールで2機の拡大映像をモニターに表示する。

 間違いない。この2機とそのパイロットをカイはよく知っていた。

 

「シーナ、イーグルに通信機能あるよな?」

「うん。あるよ」

「一般通信コード6783_4159に繋いでくれ」

「分かった」

 

   ~*~

 

 一方、青いセイバータイガーのパイロットは後方から接近する機影をレーダーに捉えていた。

 怪訝な顔をする彼に、隣を走る赤いコマンドウルフのパイロットが通信を入れて来る。

 

「ザクリス。後ろに何かおるぞ」

「わーってるよ」

 

 ザクリスはモニターに映る黒髪の青年に面倒臭そうに答え、眉間に皺を寄せた。

 自分達と同じようにこの先のサンドコロニーを目指しているだけならばどうという事は無いが、見通しの良い砂漠のど真ん中は襲撃されやすい場所の一つだ。自分達を襲いに来た盗賊や根性の悪い商売敵だと少々面倒である。

 

「アサヒ。後ろの奴に少し鎌かけるから付き合え」

「はいよ」

 

 返事の後、通信を切ったアサヒのコマンドウルフが左へ反れて行くのを確認し、ザクリスもセイバータイガーの進路を右へ反らした。

 サンドコロニーへ向かっているだけの無害なゾイドであるならば、自分達を追いかけない筈だ。

 だが案の定、レーダーの捉える機影は馬鹿正直にセイバータイガーの後ろを付いて来ている。

 

「おいおい。こんなちゃちな鎌かけに引っ掛かるとか何処のド三流だ」

 

 呆れた声を上げながら、ザクリスはセイバータイガーを反転させると同時にロングレンジライフルの照準を合わせた。

 

「こんなド三流相手じゃ軽い運動にもなりゃしねー。とっとと撃ち落としてやるぜ」

 

 しかし、空を見上げた彼は思わず目を見開いて飛んで来ているゾイドを凝視した。

 鳥型の飛行ゾイド……こんなゾイドは帝国にも共和国にも存在しない筈だ。

 

「なんだこいつは……」

 

 警戒の色を含んだトーンの低い声がその口から零れた時だった。

 

「待て待てザクリス! 俺だ俺!!」

 

 モニターに映る慌てた様子の少年の顔を見て、ザクリスは思わず驚いた様子で声を上げた。

 

「カイじゃねぇか! なんだそのゾイド!!」

「ちょっと色々あったんだよ! とりあえず降りるからライフル下げてくれ。イーグルが警戒して降りようとしてくれないんだ」

「……わーったよ」

 

 ザクリスがロングレンジライフルの銃口を下げると、鳥型の飛行ゾイドがセイバータイガーの前にゆっくりと降り立つ。

 一拍遅れて、そのゾイドの隣に降り立った桜色のオーガノイドも含めて、ザクリスは全く訳が分からないといった表情を浮かべた。

 

「見た事のねぇゾイドにオーガノイド……こいつまた面倒事持ち込んで来たんじゃねーだろうな……」

 

 やれやれ。といった様子で溜息を吐くと、ザクリスは遠くからこちらの様子を窺っているアサヒのコマンドウルフへと通信を入れた。

 

「アサヒ。正体はカイだ。とりあえずお前もこっちに来い」

「なんだカイだったのか。わかった。すぐ行こう」

 

 コマンドウルフがこちらへ走って来るのを確認すると、ザクリスは通信を切りコックピットから飛び降りた。

 目の前の鳥型ゾイドは頭を低く降ろし、キャノピーを開く。中から出て来たのは間違いなくカイだ。

 

「ったく。金魚の糞みてーに付いて来んなよ。危うく撃っちまうとこだっただろうが」

「しょうがねぇだろ?慣れない機体で通信入れるのも一苦労なんだよこっちは」

 

 カイはそう言うとブレードイーグルを振り返り声を掛けた。

 

「シーナぁ! こいつ知り合いだから怖がらなくて良いぜ! 降りて来いよ!」

「シーナ??」

 

 聞きなれない名前に怪訝な顔をするザクリスの前へシーナが降りて来ようとするが、彼女が素足であるのを見て取ったザクリスは慌てた様子で大声を上げた。

 

「おい馬鹿! 素足で砂漠に降りて来んな! 足火傷するぞ!!」

「あ! やべ! そういえばシーナの靴無いんだった!」

 

 カイがしまった!と言った顔をするが、シーナは自分が素足である事も、下が日差しに熱された砂で覆われているのもちゃんと心得ていたらしい。

 彼女がキャノピーから飛び降りた先はユナイトの背の上であった。

 

「これで良いよね?」

「グオ!」

「ああ。それなら良い」

 

 ユナイトの背にちょこんと腰かけたシーナを見てザクリスはそう言うとカイへ向き直る。

 

「で? お前は一体どこであんな裸足の女神ちゃんを引っ掛けて来たんだ? ん?」

「だから色々あったんだって……」

 

 困ったように苦笑するカイの前で、赤いコマンドウルフが青いセイバータイガーの隣に並んだ。

 

「ようカイ! 久しぶりだなぁ!」

 

 そう言いながらアサヒがコックピットから飛び降りて来る。

 カイもアサヒに久しぶり。と挨拶を済ませると、昨日の出来事を2人に話し始めた。

 孤島の遺跡でシーナ達を見つけた事に始まり、盗賊に襲われレドラーを破壊された事。遺跡に眠っていたブレードイーグルで逃げて来た事……そのお陰で着の身着のままの無一文である事まで全て包み隠さずに……

 

「なるほど。じゃぁコイツは古代ゾイドってわけか。そりゃ見た事ねぇに決まって――」

「古代ゾイド人ってのはべっぴんさんだなぁ! 俺ぁてっきり桜の精かと思っちまったよ!」

「……お前なぁ……」

 

 言葉を遮られたザクリスが、シーナを見つめて目を輝かせているアサヒを呆れた様子で眺める。

 日系人のコロニー出身であるアサヒにとって、シーナのその容姿は桜を連想せずにはいられないらしい。

 確かに彼女の髪は綺麗な桜色であるし、彼女の左目の下にある紅色の模様は桜の花によく似ていた。

 アサヒは「よし!」と手を打つとシーナへ言った。

 

「もし良けりゃ、お前さんに似合う服を何か見繕ってやろう」

「はぁ?!」

 

 大声を上げたのは勿論ザクリスである。

 彼はアサヒの傍に行くと慌てた様子で捲し立てた。

 

「お前な! カイの話ちゃんと聞いてたか?! こいつ等スカーレット・スカーズの連中に目ぇ付けられてんだぞ?! 面倒事に巻き込まれる前に金だけ貸してとっとと解散した方が良いに決まってんじゃねーか!」

 

 スヴェンが率いる3人組の盗賊団「スカーレット・スカーズ」は、ゾイドの操縦技術こそそこまで大した事は無いが、とにかく粘着質でしつこい事で有名だ。

 カイ達とあまり長い間行動を共にしていては、共に襲われるかもしれない。

 だが、必死な様子のザクリスとは打って変わってアサヒは至って穏やかだった。

 

「そう冷たい事を言うな。スカーズの連中には俺らも目を付けられとる事だし、今更変わらんさ」

「いやまぁ、そりゃそうだけどよ!」

「大体、カイが連中に目を付けられちまった理由の半分はお前さんにも非があるだろう?」

「ぐッ……」

 

 ザクリスが思わず言葉に詰まる。

 以前ザクリスとアサヒはスカーレット・スカーズの悪行に悩まされていた辺境のコロニーに用心棒として雇われた事があった。

 丁度その頃、スカーレット・スカーズに情報提供料を踏み倒されてむしゃくしゃしていたカイが細やかな腹いせとして、2人に奴等の情報を格安で売ったのだ。

 お陰でザクリスとアサヒは本気の半分も出さずに呆気なく彼等を撃退したのだが、少々コテンパンにし過ぎた……主にザクリスが。

 そのせいで自分達だけでなくカイにまで矛先が向いてしまったのだからザクリスも当然責任は感じているが、こうも面と向かって言われては言い返す言葉もない。

 

「……わーったよ。好きにしろ」

 

 観念したようにそう言うと、彼はさっさとセイバータイガーの方へ戻ってしまう。

 その様子を見たシーナは不思議そうに首を傾げてアサヒへ訪ねた。

 

「ザクリス、怒ったのかな?」

「いや。あいつもあれでなかなか面倒見の良い男だ。俺らもスカーズの連中に目を付けられとる手前、あまり一緒に居ると逆にお前さんらが狙われやすくなっちまうと思ったんだろう」

「そうなの?」

「恐らくな」

 

 アサヒはそう言って肩を竦めて見せる。

 そんなアサヒにカイは申し訳なさそうに言った。

 

「手間掛けさせてごめんな。この借りは必ず返すから」

 

 だが、アサヒはカイの肩を励ますように叩いて笑った。

 

「今回は貸しだの借りだの思わんで良い。俺が好きで世話を焼いとるだけの話だ。それに年頃の若い娘が、着替えも靴も無しでは流石にマズいだろう。何も気にせず、大人しく世話を焼かせてくれんか?」

「……お前のその頼み方、ホントズルいよな」

 

 観念したような軽い溜息と共に、カイも思わず笑う。

 ついつい甘えたくなってしまう程、アサヒは他人の面倒を見るのが本当に上手だ。

 知り合って以来、何度助けられたことか……

 

「おーい。サンドコロニーに行くんじゃねーのかぁ? さっさとしねーと置いて行っちまうぞ」

「おー! 今行くよ!」

 

 外部スピーカーで呼びかけて来るザクリスに、アサヒは苦笑しながらそう返事をすると愛機の名を呼んだ。

 

牙狼(ガロウ)!」

 

 赤いコマンドウルフはその一声で自ら地面へ伏せ、キャノピーを開ける。

 彼はコックピットへ乗り込む前にカイ達を振り返った。

 

「それじゃ、行くとしましょうや。ご両人」

「そうだな」

「うん」

 

 シーナと共にイーグルのコックピットへ戻りながら、カイは本当にこの2人と知り合えて良かったと改めて思った。

 荒野で一人生計を立てていた身としては、頼れる人間が居るというのは本当に心強い。

 再び走り出したセイバータイガーとコマンドウルフの後に続くようにして、ブレードイーグルとユナイトは空へ舞い上がった。

 

   ~*~

 

 サンドコロニーはいつものように大勢の人で賑わっていた。

 デススティンガーの襲撃事件で一度壊滅したが、その後の復興に伴い帝国と共和国の両国からの支援で更に大きなコロニーとなったこの場所は、以前より沢山の店舗が軒を連ね、食料品や生活雑貨以外にもゾイドのカスタムショップや各種金融機関などが新たに進出して来ている。

 そして、カイ達にとっては見慣れた光景だが、シーナにとっては初めて目にする平和な町であった。

 シーナはキョロキョロと辺りを見渡しながら、まるで幼い子供のように目を輝かせていた。

 

「ねぇカイ。コレ何??」

 

 そう言って呼び止められるのも、もう何度目だろうか?

 カイはシーナとユナイトが立ち止まっている店の前へ向かう。生活雑貨とアクセサリーを扱っている店だ。

 シーナが指さす先には、綺麗なペンダントが沢山並んでいた。

 

「ペンダントだよ。首に掛けるアクセサリー」

「皆こんな風にお洒落出来るの?」

「ああ。この時代じゃ普通だよ」

「すごーい……あ、これイーグルに似てる!」

「グォグォ!」

 

 シーナが手に取ったペンダントには、大きく翼を広げたシルバー製の鷲が付いていた。

 

「イーグルも鷲型だからな」

 

 そう言って笑ったカイは、シーナの頭をポンっと撫でる。

 

「今度買ってやるよ」

「え?! 良いの?!」

 

 ギョッとした顔でシーナはカイを振り返った。

 カイは大袈裟な奴だなぁ。と笑いながらシーナが手にしているペンダントをそっと受け取る。

 

「おっちゃん。コレ今度買いたいんだけど、取っといてもらったり出来っかな?」

「おう。構わねぇよ」

 

 店主は笑顔でそう言ってペンダントを受け取ると、予約済みと書かれたタグを付けカウンターの奥の壁に掛けた。

 カイはありがとう。と店主に笑い掛け、シーナとユナイトを連れて再び歩き出す。

 シーナは少し心配そうな顔でカイを見上げた。

 

「ホントに良いの?」

「勿論! あ、でもその代わり貯金降ろせるようになるまでは我慢な」

「……うん! ありがとう!」

 

 シーナの笑顔に少し顔を赤らめながら、カイは向こうの店の前で立ち止まっているザクリスとアサヒの元へ足を速める。

 

(なんかシーナにねだられると俺、なんでも買っちまいそうだな……気を付けよう)

 

 と、考えながら。

 戦争の続く時代しか知らないシーナに平和な時代を満喫させたい。目一杯甘やかしてやりたい。と思ってしまうのは、少々過保護過ぎるだろうか?

 だが、こうして目を輝かせながら隣を歩くシーナを眺めているとそう思わずにはいられないのだ。幼子のようにはしゃぐ彼女の無邪気さは、その手足に刻まれた無数の痛々しい傷跡をより際立たせるようで……放っておけない。

 

「アサヒぃ……いつまで服見てんだよ」

 

 退屈そうなザクリスの声にハッと我に返ったカイは、危うく通り過ぎかけた2人の傍へ向かう。

 アサヒは恥ずかしげも無くあれでもないこれでもないと、婦人服を手にとっては戻しを繰り返していた。

 

「何してんの?」

 

 カイが訊ねると、アサヒは白いワンピースを手にしたまま振り返って苦笑した。

 

「いやぁ、服見繕ってやると言ったは良いが、シーナはあまり肌が見えん服の方が良いだろうと思ってな。決めかねちまってるところだ」

 

 アサヒはそう言って手にしたワンピースを斜掛けに戻す。

 恐らくアサヒもシーナの傷跡を気遣っているのだろう。

 カイはうーん……と考え込むと、不意にウエストバッグから小型タブレットを取り出し操作し始めた。

 

「何してんだ?」

 

 ザクリスが横からタブレットを覗き込む。

 画面には、サンドコロニーの観光案内が表示されていた。

 

「アサヒ、最近この向こうに輸入服の店が出来たみたいなんだ。そっちも見て見ないか?」

 

 カイはそう言ってタブレットの画面を見せる。

 店舗案内の横に表示されている店内写真には、着物風の服が小さく写り込んでいた。

 

「お! 良いな!!」

 

 アサヒはそう言って上機嫌に歩き出す。その様子を見たカイとシーナは顔を見合わせて笑い合い、ユナイトは不思議そうに首を傾げ、ザクリスは呆れたような溜息を吐いた。

 

   ~*~

 

 一行が買い物を済ませ、宿に着いたのは午後1時過ぎであった。

 せっかくシーナの服を買ったのだから、早速着替えてみてはどうだろうか?とアサヒが言い出し、それなら先に宿に行ってシャワーを浴びてから着替えた方が良いだろうとザクリスが言い出して今に至る。なのでカイはシーナがシャワーを済ませ着替え終わるまでザクリスとアサヒの部屋に居た。

 

「まぁ此処まで面倒見て放り出すってのも気が引けるってのは一理ある」

「だろう? だからカイ。そういう事で一つよろしくな」

「いや、でも流石にそこまでしてもらうのは悪いぜ……」

 

 何やらザクリスとアサヒがカイに何か提案しているようだが、カイは申し訳なさそうな顔をしている。

 そんなカイに、今更気にすんなとザクリスが頭を乱暴に撫でまわし、アサヒが景気よくその背をバシバシと叩き始めた時、部屋の扉をノックする音が響いた。

 途端に、わちゃわちゃと騒いでいた3人が一斉に扉の方を向く。

 

「おう。開いてるぜ」

 

 ザクリスがそう声を掛けると、ためらいがちにシーナが顔をちょこっと覗かせた。

 

「あの、服……着てみたけど……どう?」

 

 そう言って部屋に入って来たシーナの姿に、3人は感嘆の溜息を吐く。

 シーナは黒いハイネックのタイトシャツと黒いタイツの上に、白とピンクの着物風の上着と袴風の紅色のキュロットパンツを身に着け、両手をキュロットパンツと同じ紅色のアームカバーで覆い、足には白いブーツを履いていた。

 カイが貸していた男物の服を身に着けていても充分可愛かったが、身だしなみを整えきちんとした女物の服を身に着けたシーナの美しさは段違いだ。

 

「こりゃまた……アヒルが白鳥に化けたみてーだな」

 

 とザクリスが呟けば、

 

「似合うだろうとは思っとったが、こりゃ桜の姫君だな」

 

 とアサヒが感心したように呟き、

 

「シーナって、やっぱ美人だ……」

「「え?」」

 

 ぽ~っとした様子で呟いたカイに、ザクリスとアサヒが顔を向ける。

 からかう様子を隠そうともせず、ザクリスとアサヒはカイを見つめてニヤッと笑った。

 

「なんだお前。シーナに惚れてんのかぁ?」

「いよいよお前さんにも春が来たか。そうかそうか」

「ば?! ち、ちっげーよ!! そんなんじゃねーっての!!」

 

 真っ赤になって全力否定するも、カイは正直まんざらでもなかった。

 恋愛感情で好きなのかどうかは自分でもよくわからないが、シーナを美人だと思うのも、可愛いと思うのも、守りたいと思うのも全て本心だ。

 自分はシーナをどう思っているのだろう?恋愛対象なのか、それとも妹のように思っているのか……まだシーナの事をよく知りもしないのに……

 

「とにかく、滅茶苦茶似合ってるぜ! シーナ!」

「良かったぁ」

 

 年上2人のからかいから逃れるように言うカイに、シーナは照れたように微笑む。

 ……とりあえずハッキリ言えるのは、シーナの笑顔はとにかく可愛い。と思っているという事だった。

 

「じゃぁシーナも揃った事だし。俺達から提案なんだが」

 

 ザクリスが言うと、アサヒが頷いて言葉を継いだ。

 

「お前さん達が此処でしばらく過ごす間、俺らが護衛してやろうと思うんだ。どうだ?」

「え?! でも迷惑じゃ……泊まるお金だって出してもらっちゃったし、それに服だって……」

 

 戸惑うシーナに、ザクリスは腕を組んで壁に背を預けながら言った。

 

「気にすんな。どっちにしろ俺達だって此処で2、3日ゆっくりしようとは思ってたんだ。おまけに服に関しては完全にアサヒのお節介だしな」

「でも……」

 

 シーナは申し訳なさそうに俯く。

 そんな彼女にアサヒは穏やかな顔で優しく言った。

 

「なぁに。護衛と言っても、しばらくこのコロニーに一緒に滞在するだけの話だ。お互いスカーズの連中に目を付けられとる者同士、もし何かあれば助けるが、何もなけりゃそれに越した事は無い。一緒に居る間、お前さん達は安心して好きなように過ごせばいい」

 

 シーナはカイを見つめた。

 カイも、正直勿論申し訳ないとは思っている。

 だが、もしスカーズの連中にこのコロニーに滞在している事を知られて襲われたら?とビクビクしなくて済むのは有難い。

 おまけにシーナは黙っていれば古代ゾイド人だとバレないだろうが、ユナイトはどこからどう見てもオーガノイドだ。スカーズ以外にも狙う者は沢山いるだろう。

 そう言った意味でも、護衛する者が居るというのは確かに心強い。

 

「大丈夫だぜ。シーナ。こいつら一度言い出すと聞かねーんだ。此処は2人の厚意に甘えちまおう」

「……うん。わかった」

 

 シーナは頷くと、ザクリスとアサヒに微笑んだ。

 

「2人とも、ありがとう」

「おう」

「こちらこそ、しばらくよろしく頼む」

 

 そう言って笑い合った後、カイも笑みを浮かべてザクリスとアサヒの方を向いた。

 

「手続きが済んだら、此処で世話になった分の報酬はきっちり払わせてもらうからな」

 

 ザクリスとアサヒはカイの言葉に顔を見合わせたが、しょうがないと言った様子で苦笑し合うとカイへ視線を戻す。

 

「ま、その辺きっちりしとかねぇとお前の気もすまねぇだろうしな」

 

 ザクリスはニヤッと笑った。

 こういう所が彼等を頼ろうと思える所だ。

 変に恩を売って金を巻き上げようとするでもなく、かと言って全く見返りを求めない訳でもない。

 適度なギブアンドテイクが成り立つからこそ、お互い気持ちの良い関係を続けていける。だからカイはこの2人を信頼していた。

 

「じゃぁいい加減飯食いに行こうぜ。ろくな朝飯食ってねぇ分、腹が減ってしょうがねぇ」

 

 ザクリスがそう言ってサッサと部屋を出て行く。

 が、廊下から顔だけ覗かせると、彼は言った。

 

「おら。何ボサッとしてんだ。お前らだって昨日からろくなもん食ってねーんだろ。さっさと来ねーと飯奢ってやんねーぞ」

 

 そんなザクリスをきょとんと眺めた後、シーナは笑った。

 

「ザクリスって怖い人かと思ってたけど、アサヒが言ってた通り優しいんだね」

「……よせよ。照れるだろーが」

 

 ぷいっと廊下へ引っ込んだ彼は、置いてくぞー!とだけ言い残して歩き出す。

 カイ達は顔を見合わせて笑い合うと、彼の後を追いかけた。




[Pixiv版第3話はコチラ]
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9522805
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