ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第39話-お転婆皇女マリーベル-

 突然飛び込んで来た、皇女マリーベルの護衛任務。

 失礼の無いように。だとか、訓練部隊の俺達に務まるのか? とか、色々不安ではあったけど……レンとマリーベル殿下、なんか妙に仲良さそうなんだよな。

 これってひょっとして……ひょっとすんのかな?

 いや、でも……まさか……なぁ?それはねぇよな?多分……

 [カイ=ハイドフェルド]

 

 [ZOIDS-Unite- 第39話:お転婆皇女マリーベル]

 

「ゾイドの師匠??」

 

 一先ず通された応接室で、ぽかんとした声を上げたのはカイだった。

 

「あぁ。つっても俺にとっては、マリーも弟子って言うより妹みてーなもんなんだけどさ」

 

 そう言って、レンは隣にピタリと寄り添うように座っているマリーベルの頭を撫でる。

 レンの説明によれば、ルドルフにゾイドの乗り方を教え込んだのが彼の父、バン=フライハイトなのだとか。と言っても、それ自体は有名な話である為、カイも当然知っていた。

 大英雄仕込みの操縦技術に磨きをかけたルドルフは、マリーベルと同じ齢12にして、シンカーを用いた帝国レース競技の最高峰「ガイロスグランプリ」にお忍びで参戦し、初出場にして優勝をもぎ取った程のゾイド乗りでもあるのだから。

 初耳だったのは此処から先だ。マリーベルはその話をルドルフから聞かされ、自身もゾイドの操縦を覚えたい。と言い出し、4年前からレンに操縦技術を教えて貰っているらしい。

 ルドルフの師匠であるバンは、ガーディアンフォースの司令官として多忙の身。皇族親衛隊長であるロッソは、立場上どうしてもマリーベルに対して改まった態度で接してしまう。そこで、幼少期から親交があり、特に堅苦しい態度を取らないレンが指名されたとの事だが……

 

「私はレン様の妹分に甘んじているつもりはありません! いつか素敵な女性になって、レン様と生涯を共にすると心に誓っているのですから」

 

 ちょっといじけたようなその一言に対し、レンはまるであやすように、マリーベルの頬を両手の平でもちもちと揉むように撫でる。

 

「それは何度も聞いたって。けど、そのうち俺なんかよりもっと良い奴が見つかるかもしれないだろ? あんまり頑なになるなよ。良い出逢い逃がしちまうぞ?」

「むぅ……」

 

 レンにとって、マリーベルは妹分であり愛弟子。と言った所なのだろう。

 だが、マリーベルにとってのレンは師匠や兄貴分である以前に、想いを寄せる一人の男性であるらしい。子供らしい膨れっ面でレンを見上げるマリーベルは、どうにも納得がいかない様子だ。

 

「マリーベル。あまりレンを困らせてはいけないよ」

「……はい。お父様」

 

 若干不服そうに座り直すマリーベルを見つめた後、ルドルフはホッとした様子で、ようやく今回の件について語り出した。

 

「これが昨夜、幻影騎兵連隊(ファントムリッター)と名乗る者達から送られてきた殺害予告です」

 

 テーブルの上に差し出されたハガキ大の紙片を、クルトが手に取り読み上げる。

 

「2日後の夜、月満ちる頃、マリーベル皇女殿下のお命を頂戴しに参ります。幻影騎兵連隊(ファントムリッター)……随分とありきたりな文面だな……」

 

 若干呆れたように呟いたクルトに、カイも同様の表情でクルトを見つめる。

 

「殺害予告に高尚もへったくれもあるかよ」

「まぁ、それもそうか」

 

 肩を竦めるクルトの向かいで、ルドルフは表情を硬くして呟いた。

 

「この殺害予告が発見されたのは、マリーベルの寝室です」

 

 その一言に、カイ達の表情も一気に硬くなる。

 

「城内の者達は、全て例外無く素性を徹底的に調べ上げた上で雇用しています。ですから、城内に内通者が居る可能性はほぼありません。つまり、城内の者達に一切気付かれず、マリーベルの寝室まで侵入した者が居るという事。確か報告では、幻影騎兵連隊(ファントムリッター)に姿を消す事の出来るオーガノイドが居る。との事でしたね?」

 

 ルドルフの視線を受け、カイが頷く。

 

「はい。瓦礫街の任務にてその存在を確認しております。変装などで忍び込んだ可能性もけして無いとは言い切れませんが――」

「ぶふっ……」

 

 噴き出すように笑った声に、全員が噴き出した人物を見つめる。

 今更このタイミングで噴き出す人物など、一人しか居ない。

 

「わりぃ……ちょっと意外でッ……」

 

 全員の視線の先では、レンが必死に笑いを堪え、肩を震わせながらカイを見つめていた。

 遅れて合流したレンは、カイがマリーベルに対して完璧な挨拶をこなして見せた事を知らないのだから、まぁ、こういう反応になるのは仕方が無いだろうが……

 

「お前なぁ、陛下の前で笑うなよ……」

 

 若干げっそりとした面持ちのカイがジトリとレンを見つめれば、レンはそのギャップにとうとう堪りかねたのか笑い出す。

 

「いや、だってお前! 敬語全ッ然似合わねぇんだもん! どう頑張ったって笑っちまうって!」

「そりゃまぁ、柄じゃねぇのは自覚あっけどさ……こちとらまだ説明の途中なんだぞ?」

「うんッ。わかってんだけど、いやホンットごめん。ちょっと待ってッ……」

 

 レンのその反応に、きょとんとしていたマリーベルが、やがてクスッと笑う。

 

「レン様は、カイと仲が良いのですね」

「あぁ、カイも俺の親友なんだ」

「……その親友に爆笑されてる俺の身にもなって欲しいもんだけどな?」

 

 呆れたようにぼやいたカイにもクスッと笑いかけた後、マリーベルがルドルフを見つめた。

 

「お父様、せっかく人払いもしている事ですし、いつものようにお話ししてはいけませんか?」

「……そうだね。この場では普段通りにしてくれて構いません。マリーベルもレン達と会うのは久しぶりですから」

「ありがとうお父様!」

 

 マリーはそう言うが早いか、レンの腕に抱き着く。

 そんなマリーベルに対し、レンが再び苦笑を浮かべる様を若干申し訳なさそうに見つめた後、ルドルフは再びカイへ向き直り、優しく告げた。

 

「それではカイ、説明の続きをお願いできますか?」

「はい。先程もご説明しましたが、変装は所詮変装に過ぎません。城内の者達に一切気付かれずに行動するなど至難の業。姿を消す事が出来る者が居るのなら、使わない手は無いでしょう。侵入者は恐らくオーガノイドと、その主である古代ゾイド人の少女で間違いないかと」

 

 普段通りで。というルドルフの申し出は嬉しい限りだったが、だからと言って一国の皇帝相手に普段通りの溜口という訳にもいかないカイは、敢えてそのまま話を続ける。

 そしてルドルフも、先程からカイが時折垣間見せている仲間への口調から、ある程度察しが付いているのだろう。普段通りの態度を強要するでもなく穏やかに頷いて見せ、そして考え込む。

 

「しかし、そうなると厄介ですね。姿を消す事の出来るオーガノイドが相手となると、どう対策を講じれば……」

 

 その言葉に、先程からずっと黙って話を聞いていたシーナがふと呟いた。

 

「合同演習の時は、走った時の土埃や飛んで来たビームの光でヘルキャットが何処に居るか見つけられたけど、こっそり忍び込むのにお城の中をドタバタ走ったりしないだろうし、オーガノイドには武器が付けられないから、同じように見つけるのは無理……だよね」

 

 不意に、レンの膝の上へ身を乗り出すようにしてシーナを見つめながら、マリーベルが不思議そうに訊ねる。

 

「武器が“付けられない”とは、どういう事ですか? オーガノイドもゾイドなのですよね?」

「うん。オーガノイドもれっきとしたゾイドだよ。でも、機銃とかビーム砲を取り付けても、それを制御する為のコンバットシステムやオペレーションシステムがオーガノイドには無いから、上手く扱う事が出来ないの」

「では、武装したオーガノイドがやって来る。という訳では無いのですね。良かった……」

 

 何処かホッとしたように、マリーベルはレンの隣に座り直す。

 ずっと気丈に振舞っていた彼女が見せた、僅かな綻び……しかし、だからこそレンはシーナの説明に補足を加える。

 

「けど、いくら銃火器を装備出来ないとはいえ、オーガノイドも全く戦えない訳じゃない。本気で噛み付かれたり、引っ掻かれたり、尻尾で殴られたりしたら、人間なんてひとたまりもないんだ。それに、父ちゃんが昔戦った“アンビエント”ってオーガノイドは、尻尾に刃物みたいな棘が付いてたって聞いた事がある。油断は出来ねぇよ。なぁカイ。あのクラウって奴のオーガノイドはどうだった?」

 

 レンの問い掛けに、カイはあの時目にしたヒドゥンの姿を思い返す。

 

「あいつは尻尾の先自体がブレードみてーになってたな。多分あれが一番の武器だと思う」

 

 ルドルフが僅かに身を乗り出し、カイを見つめた。

 

「他に特徴はありませんか? 分かる範囲で構いません。出来るだけ詳しく教えて下さい」

「紫の体色に翡翠色の目をしたオーガノイドで、主と思しき古代ゾイド人の少女、幻影騎兵連隊(ファントムリッター)の一員であるクラウは、そのオーガノイドをヒドゥンと呼んでいました」

「ヒドゥン……隠されているという意味の名ですね。確かに能力とも一致します」

 

 ルドルフはそっと考え込む。ジークとシャドーの名は、現在の主であるバンとレイヴンがそれぞれ後から名付けたものだが、ヒルツのオーガノイドであったアンビエントは「周囲の」「環境の」といった意味の名で、その名の通り、合体したゾイドをその場に最も適した姿へ変化させる。つまり環境適応させる能力を有していた。そしてリーゼのオーガノイドであるスペキュラーも「鏡面効果」を意味する名で、人を操る精神波を増幅させ、相手が最も恐れる深層意識の情景や、リーゼが思い描いた最悪の情景を映し出す能力を有している。

 だが、ルドルフは此処で一つ引っ掛かった。

 何故「隠れる」という意味の「ハイド」では無く「隠されている」という意味の「ヒドゥン」という名が付けられているのか? そこに、ヒドゥンの能力へ対抗する為の糸口があるように思える。

 

「クルトは、ゾイド工学の博士でしたね。明日の朝、早速知恵を貸して頂けますか?」

「自分などでよろしければ、喜んで」

 

 静かに、しかし迷い無く答えたクルトに頷き、ルドルフは席を立ち上がった。

 

「では、もう夜も晩い事ですし、今日はこの辺りにしておきましょう。まだ明日の夜まで時間はあります。より詳しい対策を練るのは、また夜が明けてからという事で」

「はい」

 

 そう答えたレンの声に、カイ達も席から立ち上がる。

 ルドルフが応接室の扉へ向かって呼び掛けた。

 

「ロッソ、ネロ」

 

 その言葉に、2人の男性が入室する。

 赤髪の大男と、赤茶の髪をした若い青年……皇族親衛隊隊長のロッソと、その息子であり皇族親衛隊の一員であるネロだ。

 

「お呼びでしょうか。陛下」

 

 会釈するロッソへ、ルドルフは穏やかに命じる。

 

「レン達を部屋へ案内してあげて下さい。訓練研修を急遽切り上げて駆け付けてくれたので、彼等も相当疲れている筈ですから」

「畏まりました」

 

 返事を返し、顔を上げた彼等はカイ達を見つめて微笑んだ。

 

「それでは皆様、お部屋にご案内致します。」

 

 ロッソの息子、ネロの言葉に従い、一行は応接室を後にした。

 

   ~*~

 

 ネロに案内され、カイ、レン、エドガー、クルトの4人はマリーベルの自室にほど近い部屋に通された。普段は皇族親衛隊の者達が交代で皇族の身辺警護を行う為、用意された部屋なのだが、今回カイ達……つまり男子組は此方に寝泊まりする事になる。

 マリーベルは“皇女”女の子なのだ。いくら警護の為とはいえ、女の子の部屋を男がうろつくというのは些か憚られるものがある。その為、マリーベルの部屋に泊まり込みで警護を行うのはシーナとユナイト、そして皇族親衛隊の副隊長でありロッソの妻であるヴィオーラ。という事で話がまとまっていた。

 

「シーナの奴、ホントに大丈夫かなぁ……」

 

 部屋に着くなり、宿泊に必要な最低限の手荷物をまとめたカバンをベッドへ投げ出しながら、カイが心配そうにぼやく。

 いくらユナイトが居る。とはいえ、シーナは基本的にオペレーター。白兵戦訓練など全く受けていない状態だ。殺害予告では明日の夜が正念場だが、だからと言って今夜が安全である保障など何処にも無い。

 

「そこはまぁ、ユナイトとヴィオーラさんを信じるしかないんじゃないか? それに僕達だって、交代で見張りに着くんだし。あまり心配してると、いざという時に動けなくなるよ?」

 

 銃の作動点検をしながら、何処か安心させるようにエドガーが言葉を投げかける。

 最初に警護に着くのが、エドガー、クルト、そしてロッソの3人。交代要員のカイ、レン、ネロはこれから一度仮眠を取り、深夜3時から警護を交代する予定だ。

 

(そういや、レン達が白兵戦用の武器持ってる姿って、見るの初めてだな……)

 

 ベッドに腰掛け、カイは仲間を見渡す。

 エドガーのパイロットスーツには右側のウエストジョイントにマガジンホルダー。左側のウエストジョイントにホルスターがそれぞれ接続されている。自分と同じ左利きの彼だが、どうやらエドガーは自分と違い、利き手で銃を撃つらしい。手にしている拳銃はベレッタM92F。軍や警察内でも広く普及している拳銃だ。

 クルトは両足の大腿部にナイフホルダーが付いている。右脚はコンバットナイフ、左脚は投擲ナイフのホルダーになっているが、腰のフードクロスで上手い具合に隠れている。元々その為に長めのフードクロスを着用していたのだろう。と、此処で納得した。彼の腰のホルスターに収められていた拳銃はM1911……コルト・ガバメントの名で親しまれている銃だ。「クルトの銃がコルトって駄洒落かよ……」と秘かに思ってしまったのは此処だけの話である。

 そしてこれから仮眠するレンも、ホルスターに収めた状態のマルチコンバットツールを枕元に置いている。軍内ではもうほとんど使われていないツールだが、バンを始め、ガーディアンフォース内では愛用している者も多いらしい。ただしレンの話では、バンが愛用している簡易スパナの付いた物は既に廃番になっている為、レンの使っている物はまた別型だろう。

 近接格闘戦を得意としているのがレンとクルト。銃撃戦を得意としているのが自分とエドガーであるのは打ち合わせの時点である程度把握していたが、こうして実際に武器を携えたレン達の姿を見ると、今までとはまた何処か違った印象を受ける。それが妙に新鮮だった。

 

「じゃ、行って来るね」

「気を付けろよ。エド。クルト。ロッソさんも」

 

 レンの言葉に、名前を呼ばれた3人は微笑んで部屋を後にする。

 室内に残ったレンとネロを交互に見つめたカイは、ふと気になったようにネロへ訊ねた。

 

「ところで、皇族親衛隊ってもしかしてあんたらしかいねーの?」

 

 その問い掛けに、ネロが笑う。

 

「まっさか。そんな訳ないだろ? 他の親衛隊員達なら全員で城内の護衛に出払ってる。皇族親衛隊の詰め所室は此処だけじゃないからな」

 

 そこで「おっと」と声を上げたネロは、改めて自己紹介を口にする。

 

「そういやお前とは初対面だったな。俺は皇族親衛隊のネロ=レオーネ。さっきクルトやエドガーと一緒に警護に向かったロッソ=レオーネの息子だ。よろしく」

 

 先ほどまでのきっちりした印象から一転、砕けた口調で喋る彼に、何処となく安堵と好感を覚えながら、カイも自己紹介を口にした。

 

「俺はカイ=ハイドフェルド。カイって呼んでくれ」

「さっき聞いてたよ。カイ=“ローラント”=ハイドフェルド。だろ?」

 

 何処かからかうようにニッと笑いながら放たれたその一言に、カイはギクリと身を強張らせ、レンがそんな彼の隣にすっ飛んで来る。

 

「え?! カイってそんな名前だったのかよ?! 俺初耳だぜ?!」

「あ~……普段はミドルネーム名乗らなねぇようにしてんだよ、俺。なんかいかにも名門の出です~って感じで嫌になっちまうっつーかさ」

「あぁ、なるほど……」

 

 途端に荒んだ目で視線を逸らすカイに、レンも悪い事を聞いてしまった様子で苦し紛れのような相槌を返す。どうやらカイの“名門嫌い”は筋金入りらしい。

 その様子を察してか、ネロも苦笑を浮かべる。

 

「なんか余計な事言っちまったみたいだな。悪い」

「いや、別に良いよ。それがフルネームなのは事実だし……」

 

 途端に気不味い空気になってしまったのを察知してか、レンが若干慌てながら当たり障りの無い話題を切り出した。

 

「そういやネロ兄ちゃんと会うのも随分久し振りだよな」

「あぁ。レンがガーディアンフォースに入って以来になるか。どうだ? 少しは慣れたか?」

「んー……まぁ、ぼちぼち。かな? ネロ兄ちゃん達は?」

 

 そう言って、レンも何気なく訊ね返した……つもりだったのだが……

 

「……聞くか?」

 

 途端にげっそりとした笑みを浮かべたネロは、深い影をその顔に落としながら力無くレンを見つめる。そのあまりの反応に、カイが若干引き気味にネロを見つめながらレンへ囁いた。

 

「おいレン。なんか訊いちゃマズそうじゃねーか?」

「あ~……」

 

 何やら察した様子のレンが、そっと遠慮がちにネロへと訊ねる。

 

「……やっぱ、訊かない方が良かった……かな?」

「いや……むしろ誰かに愚痴を聞いてもらいたいくらいだ。だけどなぁ……10歳も年下の子供に愚痴るってのも、我ながら情けなくて情けなくて……」

 

 ぐったりと頭を抱えて見せるネロに、カイとレンは顔を見合わせると、揃って苦笑する。

 

「ま、まぁ良いじゃねーか。愚痴の一つや二つくれぇさ。な? レン」

「そ、そうそう! それにほら! 今は俺達とネロ兄ちゃんしかいねーんだし! 俺達で良けりゃ気が済むまで話聞くぜ? な?」

「お前らホントに良い子だな……じゃぁ、少しだけ聞いてもらっても良いか?」

 

 深々とした溜息を吐いて、ネロは語り出す。

 

「レンがガーディアンフォースに入って以来、ゾイドの操縦を教えに来れなくなってただろ? そのせいでマリーベル殿下も退屈だったんだろうよ。それは俺も分かる。滅茶苦茶わかるよ。けどさ、だからって俺にゾイドの乗り方を教えろとせがむわ、断れば機嫌が悪くなるわ、俺にどうしろってんだよ……」

 

 もうそのさわりだけで既に居た堪れなくなってくるが、ネロの愚痴は淡々と続く。

 

「つーかそもそも、本来なら“皇族がゾイドを乗り回す”って時点で異例中の異例なんだぜ? 陛下は幼少の(みぎり)でプロイツェンに命を狙われ続けてた経緯があったから、生き延びる為っていう“やむにやまれぬ事情”の為にゾイドの乗り方を覚えたんだ。レンがゾイドの扱いを教えてたのだって、陛下の師であるフライハイト大佐の“代理”として特別に許可が出てただけなのに、俺みたいな皇族親衛隊の下っ端が、おいそれと殿下にゾイドの乗り方を教えるなんて出来る訳ねーじゃん。俺は地上高速ゾイドの扱いなんてさっぱりだってのにさぁ……」

「えっと……なんか、ごめんな?」

「あんたも散々だな……」

 

 レンとカイの言葉に、ネロは「いや……」と呟いて言葉を続けた。

 

「ぶっちゃけ本題はこっから先なんだわ……」

「「え?」」

 

 綺麗に重なった少年2人の言葉に促されるように、ネロは更に居た堪れない愚痴を零す。

 

「レンも居ない。俺達も簡単にゾイドの操縦を教えられる立場じゃない……って事は、だ。殿下が何をしでかすか分かるだろ?」

「それってつまり……」

 

 レンが苦笑を張り付けたまま若干青ざめる。

 

「結局お一人で自主練と称して城の庭をロイヤルセイバーで駆け回って、皇后陛下の薔薇園を滅茶苦茶にするわ、中庭の噴水を踏み潰すわ、生垣はぶち抜くわで、宮廷庭師達が悲鳴上げててんやわんやだよ。それだけでも腹一杯って感じなのに、今度はセイバーのお散歩とか言って城を抜け出して出掛けちまうし……挙句、前にアーラバローネとして出撃した時には、あろう事か俺のストームソーダーにいつの間にか潜り込んでて……俺が親父とお袋からどんっだけ怒られた事か……つーかそれだって俺に言わせりゃ理不尽以外の何物でもねーんだよ。親父やお袋だって10歳そこらだった陛下を連れて、ストームソーダー乗り回してた癖にさぁ……まぁ、それとこれとは話が別だってのも分かっちゃいるんだけど……とにかくお陰で此処数か月は、殿下がとんでもない事をやらかさないように目を光らせる日々。もう胃が痛くてたまんねーのなんの……」

「あちゃぁ~……」

「なんつーか、うん。ご愁傷様」

 

 頭を抱えるレン。絞り出すように声を掛けるカイ。2人とも目の前の青年が不憫でならない。

 そして同時に、カイは聞かされたマリーベルのお転婆エピソードの数々に心底驚かされた。あのエントランスホールでの清楚で可憐な立ち振る舞いからは到底想像も出来ない。

 

「俺、エントランスで挨拶した時は滅茶苦茶お淑やかな子だなって思ってたけど……人って見かけによらねーもんだな。マジで」

 

 そんな感想を漏らすカイに、頭を抱えたままのレンが呟く。

 

「まぁ……マリーも普段“皇女”っていう身分に縛られて、自由気ままな立ち振る舞いが出来ない立場だから……ゾイドでお転婆やらかしちまうのは、多分俺のせいだと思う……」

「なんで?」

 

 きょとんと訊ね返せば、レンもネロ顔負けの深々とした溜息を吐いた。

 

「ゾイドに乗るのに、身分も性別も関係無い。だから俺の前と、ゾイドに乗ってる時だけは、マリーも自由で良いんだぜ。って、俺が言っちまったもんだから……」

「おいちょっと待て! お前が犯人かよ!!」

 

 ギョッとした大声を上げるカイの前で、レンは4年前のやり取りを思い返す。

 ロイヤルセイバーのコックピットで交わしたあの約束が、あの指切りが、まさかこんな形で周囲の人々を悩ませる原因になってしまうとは……正直レン自身も頭痛がする思いだった。

 レンはネロに向かって、おもむろにガバッと頭を下げる。

 

「ホンットごめんな! ネロ兄!」

「……いや、レンが謝ることねーって。ゾイドに乗るのに身分も性別も関係ない。ってのも、ゾイドは自由なんだ。ってのも、何一つ間違っちゃいないからな。ただ殿下はその……ゾイドに乗ると自由奔放になり過ぎるだけ。というか……」

 

 確かに、やんちゃ盛りの12歳が、普段皇族としての立ち振る舞いを求められる立場にあるとなれば、その分ストレスも溜まるだろう……とはいえ、多少は控えて貰わなければ、振り回される周囲の者達……特にネロの胃が心配でならない。

 すっかりお通夜のようになってしまった空気に耐えかねたように、カイがそっと提案する。

 

「……とりあえず寝ようぜ。じゃねぇと交代した時、仕事になんねぇし」

「そう……だな。悪い。聞いてくれてありがとな」

「おう」

「良いって良いって」

 

 交わす言葉もそこそこに、各々ベッドに入るも……当然、暫く寝付くに寝付けなかったのは言うまでもない。が……

 

(……この任務、ホントに大丈夫なんだろうなぁ?……)

 

 数々のお転婆をやらかしているマリーベル……彼女が明日、本当に大人しくしていてくれるかどうかの方が、カイには妙に心配でたまらなかった。

 

   ~*~

 

 翌朝、ルドルフはクルトとカイ、ロッソ、そしてルーカスと共に執務室にいた。

 理由は勿論。ヒドゥンへの対抗策を見出す為である。

 

「隠れる。と、隠されている。の違い……ですか」

 

 まるで謎掛けのような議題だが、ルーカスは至って真剣に考え込む。

 文法的に言えば“ヒドゥン”というのは“ハイド”の過去分詞形。要するに“既に隠れている状態”に用いられる単語だ。

 

「カイ。君が瓦礫街で目撃したのは、何も無い筈の場所にそのヒドゥンが現れた瞬間。で間違い無いな?」

「あぁ。まるで霞が晴れるみてーに、スゥッ……て」

 

 そう答えたカイに、ルーカスはクルトと視線を交わす。

 従兄の視線を受け、静かに頷いたクルトはカイへ訊ねた。

 

「という事は、だ。つまりお前は、ヒドゥンが姿を現す瞬間は目撃したが、姿を“消す”瞬間は目撃していない。と」

「まぁな。その後はもう、銃撃戦しながら離脱するのに手一杯だったし」

 

 小さく肩を竦めて見せるカイだったが、彼もそこで、ふと思い出したように呟く。

 

「そういやあの後、幻影騎兵連隊(ファントムリッター)の手下っぽい連中や、瓦礫街の奴らに追い回されはしたけど、クラウとヒドゥンから直接狙われたりってのは無かったな……」

「妙だな……カイを始末しようとしていたのなら、姿を消す事の出来るヒドゥンに始末させるのが最も確実な筈だ。他の者達に気を取られていたのなら、当然隙を突く事も容易だっただろうに」

 

 ロッソの言葉に、カイも考え込む。

 

(手下を俺にけしかけて逃げただけなら、わざわざ追って来なかったのも確かに納得はいく……けど、あの時のクラウの口振りじゃ、あいつの目的ってのはガーディアンフォースへの宣戦布告だけじゃなくて、その見せしめの為に俺を始末する事だったんじゃねぇのか?……)

 

 ただでさえ、あれだけ挑発的な態度を取って見せたのだ。言動的にもまだ幼さの垣間見えたクラウが大人しく引き下がるとは思えない。なのに何故、自らヒドゥンと共にカイを仕留めに来なかったのだろう?

 ……仕留めに来たくても来れなかった理由が、何かしらあったのではないだろうか?

 

「あくまで、現時点での情報を照らし合わせた上での仮説ですが……」

 

 クルトがふと口を開く。

 

「カイが姿を消す瞬間を目撃していない。という事や、その後追って来なかった事。そしてヒドゥンという名が、既に隠してある物を指す“隠されている”という意味の名である事から、恐らく奴の能力は“既に透明化した状態で行動する事を前提とした物”であり、一度透明化を解除してしまった場合は、瞬時に再度透明化する……つまり“隠れる”事が出来ないのではないでしょうか?」

「どういう事だ?」

 

 ロッソの問い掛けに、彼は言葉を続ける。

 

「クラウというあの少女が、瓦礫街で“ゴースト”と呼ばれていたのは、皆様も我々ガーディアンフォースの任務報告等から既にご存じかと思います。何処からともなく現れ、そして消える。恐らくそれもヒドゥンの能力を応用した物でしょう。自身だけでなく、主であるクラウも透明化させるとなれば、莫大なエネルギーが必要になる計算になります」

 

 此処からは専門用語を交えた難しい説明が暫く続いたが、つまり、機体表面に光学迷彩を纏う事で自身の姿を消すヘルキャットと違い、自分以外の者まで透明化させる場合は、一定の不可視空間……まぁ、透明化バリアとでも例えれば良いだろうか? そういった物を展開するしかない。だからその分、莫大なエネルギーが必要であり、再度展開するのに時間が掛かるのではないか? というのがクルトの予想らしい。

 ほんの僅かな沈黙の後、ルドルフが静かに呟く。

 

「つまり、自在に姿を消したり現したりする事が可能な能力ではない為に、瓦礫街ではすぐに透明化してカイを追う事が出来なかった。という事ですか……」

「という事は、要するに奴の透明化を一度解除させる事さえ出来れば、此方が有利になる。という訳だが……結局の所、その透明化した状態が最も厄介且つ、容易に見つける事の出来ない状態である事に変わりはないぞ」

 

 ルーカスの言葉にクルトも渋い表情を浮かべる。恐らく彼もそこを考えあぐねているのだろう。

 

(不味いな。このままじゃ話が堂々巡りだ……)

 

 そんな焦りにジワリと胸を締め上げられ、そこでカイはふと気が付いた。

 姿を消す事が出来る能力。というのは、最強の切り札となり得る非常に厄介な能力だ。そんな彼女をわざわざ一番最初にガーディアンフォースへ差し向けた事自体が、そもそも幻影騎兵連隊(ファントムリッター)の策だったとしたらどうだろう?

 現にこうして、自分達はヒドゥンの能力への対策に頭を悩ませる事になっている。彼等はそれを見越していたのではないだろうか?

 

「……なぁ、逆にこう考える事も出来ねぇか?」

 

 唐突なその一言に、今度は全員の視線がカイへ注がれる。

 彼は真剣な……それでいて何処か冷たい眼差しで呟いた。

 

「俺と瓦礫街で顔突き合わせてる以上、クラウやヒドゥンの厄介さを俺達が警戒してる事は、あいつらだって織り込み済みの筈なんだ。もし俺達が誰かを暗殺するとして、そういう便利な能力を持った仲間の存在が既に相手にも認知されている場合……俺達ならどうする?」

 

 その言葉に、全員がハッとしたように顔を見合わせた……

 

   ~*~

 

 その頃、エドガーは別の意味で頭を抱えていた。

 というのも、レンがミレトス城を訪れたのが1年ぶりである為、久し振りにゾイドの操縦を教えて欲しいとマリーベルがせがんだのである。

 本来なら乗馬用に設けられている芝生地帯を駆けるロイヤルセイバーを眺め、彼は盛大な溜息を吐いていた。

 

「いくら予告された時間が今夜とはいえ、あんなに目立ってたら『狙って下さい』って言ってるようなものじゃないか……」

 

 やれやれと頭を抱えている彼の隣では、ネロも同様の表情を浮かべている。

 まぁ彼の本音にしてみれば、レンが操縦を監督してくれてさえいれば、薔薇園も、噴水も、生垣も踏み潰されずに済み、マリーベルの機嫌も良くなるので、助かることこの上ないのだが……今回ばかりは状況が状況なだけに気が気ではない。

 

『だけど、ロイヤルセイバーも嬉しそうだし、今はレーダーに反応も無いから、少しくらい良いんじゃないかな?』

 

 身に着けているインカムから届いたシーナの言葉に、エドガーは呆れと諦めを綯い交ぜにしたような表情を浮かべる。

 

「殿下の気を紛らわせる。という意味では確かに良いかもしれないけど、奴らの保有機の中にはヘルキャットも居るんだ。油断は出来ないよ。シーナ」

『うん!』

 

 現在シーナは、光学迷彩を起動させたヘルキャットの中に居た。

 本来ならより多くの護衛を付けるベきだろうが、

 

「愛する人との細やかな一時に水を差すなど、無粋以外の何物でもありません!」

 

 と、護衛が付く事をマリーベル本人が拒否してしまったのだ。

 その為、こっそり護衛に回れるシーナのキートのみで、現在ロイヤルセイバーの護衛に当たっているのである。

 

「悪いな。戦闘員じゃないオペレーターの君1人に、護衛を任せてしまう事になって」

『んーん。気にしないで。それにキートとユナイトも一緒だから大丈夫。1人じゃないよ』

 

 ネロにそう言葉を返したシーナは、レンとマリーベルの邪魔にならないように気を付けつつ、ロイヤルセイバーの後に付いて地を蹴る。

 ユナイトがキートに合体している為、シーナは現在、キートと意識共有を行っている状態だ。これも本来は周囲……主にカイから反対の声が上がったが、シーナが押し切った。

 ユナイトが合体した事で、エネルギーが消費した端から回復される状態にある為、キートは光学迷彩を起動したまま長時間の行動が可能となっている。この状態ならば、敵から狙われる可能性はかなり低いだろう。自分の仕事は、万が一襲撃された際、レンがマリーベルを連れて離脱するまでの時間を稼ぐ事。当然、エドガーや第三陸戦部隊の軍人達も、すぐに援護に駆け付けてくれる手筈になっている。

 それに、キートと意識を共有しているからこそ、身一つで地を駆け抜ける感覚はシーナにとって新鮮だった。降り注ぐ日差しの下、柔らかくそよぐ風を感じながら走る。踏みしめる芝生の感触も心地良い。正直、今が護衛中だという事を忘れてしまいそうな程、楽しくてしょうがない。

 

『グオグオ』

「あ! うん! 大丈夫! ちゃんとお仕事するよ!」

 

 気を抜かないでね。と注意を促すユナイトの言葉に、思わずギクリとしながら返事を返す。

 そんなシーナの声を通信越しに聞いて、エドガーはネロと苦笑を浮かべるのだった。

 

   ~*~

 

「やはりゾイドは良いですね。自由に駆け回れて、悩みも不安も全て忘れる事が出来て」

 

 結局、一日中ロイヤルセイバーで駆け回ったマリーベルは、城の皇族専用機格納庫へ戻って来ると、晴れやかな表情でそう言いながらレンの手を取り、コックピットを降りる。

 そんなマリーベルと手を繋いでタラップを降りながら、レンは明るく笑った。

 

「良い気晴らしになったみたいで、俺も安心したよ。ロイヤルセイバーも、前よりマリーの言う事を素直に聞いてくれるようになってたし。城の庭を滅茶苦茶にしたって聞いた時はどうなる事かと思ってたけど――」

 

 そこでハッとしたレンは、そろりとマリーベルの顔を見つめる。

 マリーベルはちょっとムッとした表情でレンを見上げていた。

 

「それをレン様に話したのは、ネロですね?」

「いやまぁ……あ! でもネロ兄の事は怒らないでやってくれよ? ネロ兄も悪気があった訳じゃねぇんだ。ただどうしても、マリーが何かやらかしちまうと、護衛兼世話役として色々言われちまう立場だからさ……」

「それは私も分かっています。私がネロに迷惑を掛けてしまっている事も……」

 

 そう呟いて、マリーベルは何処か悲し気にロイヤルセイバーを見上げる。

 

「ロイヤルセイバーは高速戦闘用ゾイドでありながら、皇族専用の護衛機として、有事の際しか使われる事がありません。走る事に特化したこの子が、常日頃退屈している事は私も心得ているつもりでした。ですが、いざ1人で乗ればネロからお聞きの通りです。私では、この子の『走りたい』という欲求に上手く応えてあげる事が出来ませんでした。薔薇園を滅茶苦茶にしてしまったのも、噴水を壊してしまったのも、生垣を薙ぎ倒してしまったのも、全ては私の未熟さ故です」

 

 そんなマリーベルの頭に、ぽん。と優しい手が乗せられる。

 視線を移した先で、レンは穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「それが自分でちゃんと分かってるなら大丈夫だ。ロイヤルセイバーが前より素直にマリーの言う事を聞いてくれるようになってるのも、マリーがそうやって自分を気に掛けてくれてる気持ちが、こいつにちゃんと伝わってるからだと思うぜ? だからマリーも、こいつの事を嫌いになったりしないでやってくれよ? な?」

 

 その言葉に、マリーベルは再びロイヤルセイバーを見上げる。ロイヤルセイバーは、レンの言葉を肯定するかのように、小さく喉を鳴らすような声を上げて見せた。

 

「ロイヤルセイバー……」

 

 ホッとしたように微笑んだマリーベルは、レンへ視線を戻し、元気良く頷く。

 

「勿論です! 私もロイヤルセイバーの事が大好きですから! 嫌いになったりなど、絶対にありえません!」

「そっか。なら良かった。な? ロイヤルセイバー」

「グルルル」

 

 ロイヤルセイバーの穏やかな返事に、顔を見合わせて笑い合った後、不意にマリーベルが思いついたようにレンへ訊ねた。

 

「そういえば、レン様が乗っているゾイドは、最新鋭のライガーだというお話でしたね」

「あぁ。ライガーゼロ-プロトって言うんだ。俺はゼロって呼んでる」

「お城へ戻る前に、見せて頂いてもよろしいですか?」

 

 キラキラと期待の眼差しを向けられ、レンは暫し考え込む。

 外は陽が傾き始めている。そろそろ城へ戻らなければ今回の護衛作戦に支障が出るだろう。しかし、此処で「駄目」と言っては、どうにもマリーベルが可哀そうだ。

 

(まぁ、此処からゼロを駐機してるエリアまではそんなに遠くねぇし……少しくらいなら良いか)

 

 レンはそう考え、頷いた。

 

「あぁ。勿論」

 

   ~*~

 

 駐機場へやって来たマリーベルは、初めて見るライガーゼロに目を輝かせた。

 赤と黄色のCASユニットを身に纏い、夕陽に照らし出されたライガーゼロの姿は、何とも雄々しく、美しく、そして凛々しい。

 

「なんて綺麗なゾイド……」

 

 半ば無意識に、そんな言葉が幼い唇から零れる。

 そんなマリーベルの言葉に、レンは小さく笑い声を上げて相棒を見上げた。

 

「綺麗だってさ。良かったなゼロ」

「グォン」

 

 返事をするように鳴いたライガーゼロは、そっと頭を下げ、マリーベルを見つめる。

 人が乗っていないにも拘らず、自身の意志で動いて見せたライガーゼロに驚いたのだろう。マリーベルは微かに戸惑ったようにレンを見上げた。

 

「レン様。この子、一体どうしたのでしょう?」

「あぁ、きっとマリーに挨拶してるんじゃないか?『よろしくね』ってさ」

 

 その言葉に、マリーベルも笑みを浮かべる。

 目一杯背伸びをして、目の前の巨大な獅子の鼻先を撫でながら彼女は呟いた。

 

「私はマリーベルと申します。よろしくお願いしますね。ライガーゼロ」

「グルル」

 

 ライガーゼロが、その巨大な鼻先をマリーベルに摺り寄せる。

 まるで「こちらこそ」と言っているようにも、「もっと撫でて」とせがんでいるようにも思えるが、レンはそんな相棒の姿に、ふと気が付いた。

 

(ゼロが俺以外にこうして鼻先を摺り寄せるのって、初めてなんじゃ?……)

 

 オーガノイドシステムによって強い自我を獲得したライガーゼロは、それ故に自身が主と認めたレンにしか懐かなかった。整備スタッフ達は勿論、開発者であるあのトーマにすら、このような姿を見せた事は一度も無いのだ。それなのに、今日初めて出会ったばかりのマリーベルに対し、このように友好的な態度を示している……

 

「……マリーの事、気に入ったのか?」

 

 不思議そうに訊ねたレンに対し、ライガーゼロはぐいぐいとレンへ鼻先を摺り寄せた。

 それがまるで「一番大好きなのはレンだから安心して」と言っているようで、レンは小さく噴き出すように笑う。

 

「わかったわかった! わかってるって! 俺もお前が一番の相棒だよ!」

「ガルォッ」

 

 満足したように鳴いたライガーゼロの鼻先を撫でて、レンは告げる。

 

「じゃ、俺達は一旦城へ戻るから、大人しく待っててくれよ? 」

「グルゥ……」

 

 若干不服そうな声を上げたものの、大人しく居住まいを正した相棒の姿を確認し、レンはマリーベルへ告げた。

 

「さ。もうすぐ陽も暮れちまうし、城に戻ろうぜ」

「はい。レン様」

 

 マリーベルと手を繋ぎ、レンは城へ向かって歩き出す。

 

(マリーはゾイドに警戒心を向けられないっていうか、妙にゾイドに好かれるんだよな。ルドルフ陛下もすっげぇゾイド乗りだし、もしかしたら、そのうち俺なんか軽く追い抜いちまうかも)

 

 思わず、立派なゾイド乗りに成長したマリーベルの姿を想像してしまう。

 ガイロス帝国女皇帝兼、一流ゾイド乗り……それも悪くないのでは? などと考えながら、それでもまだ、もう暫くは追い抜かれたくないな。とも思ってしまう自分が居る。

 

(……って、そんな暢気な事考えてる場合じゃねぇな! こっからは気が抜けねぇんだ。何がなんでも、マリーを守らねぇと……)

 

 そんな思いの現れのように、レンはマリーベルの手を微かにギュッと握り直す。そしてマリーベルもまた、そんなレンに応えるようにそっと手を握り返してきた。

 しかし、レンはこの時想像もしていなかった。

 自分の手を握って歩く“ゾイドに愛された少女”が、その体質故に“とんでもない事”をしでかしてくれる事を……

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