スカーズと戦った俺達は、奴等のレドラーの不自然な動きに翻弄されて、まさかの苦戦を強いられる破目に。
初めて知ったユナイトの力で何とか撃退する事が出来たけど……奴等のレドラーに一体何が起きてたのか、どうも気掛かりなんだよな。
まぁ……気掛かりなのはそれだけじゃねぇんだけど……
[カイ=ハイドフェルド]
[ZOIDS-Unite- 第5話:謎のディスク]
翌日の朝、カイ達は揃って宿の朝食を食べながら昨日の事を話し合っていた。
と言っても、主な話題はスカーレット・スカーズのレドラーからザクリスとアサヒが回収したとある謎の部品なのだが……
「……これ、ゾイドのOSのアップグレードに増設するハードディスク機構だろ? パッと見た感じ、何処も怪しくないと思うけどな……」
カイはケサディーヤを齧りながらテーブルの上に置かれた部品を手に取る。
何処からどう見ても、ただのハードディスク機構だ。怪しい所など無いように見えるが……
ザクリスは椅子の背もたれに肘を掛け、鶏肉とチーズのエンパナーダを齧りながら口を開いた。
「俺達だって最初はそう思ったさ。けど、そいつはどうやら相当ヤバい代物だぜ」
「ヤバいって??」
首を傾げるカイの向かいで、アサヒがスープを飲みながらちょいちょいとカイが手にした部品を指差した。
「よく見りゃわかるよ」
「よく見りゃって言われてもなぁ……」
困ったような顔でカイは部品を今一度よく眺める。
ふと、隣でタコスを頬張っていたシーナが声を上げた。
「この部品……型番が入ってない?……」
「おう。よく気付いたな嬢ちゃん。カイとは大違いだ」
ザクリスがそう言いながらコーヒーに口を付ける。
彼は部品を見つめて口を開いた。
「型番や製造会社の刻印が何もない。出所不明の部品ってだけでも相当きな臭ぇが……そいつはどうやら、組み込んだゾイドが倒された時に中のディスクを物理的に破壊する仕掛けがある。ハチの巣にしたレドラーと真っ二つにしたレドラーのディスクはバラバラになっちまってた」
「ディスクがバラバラって……」
カイは手にしたままの部品を見つめる。
そうまでして証拠を隠滅しなければならないような危ないディスクだというのだろうか?……
「唯一無事だったのが、お前さんがイーグルで踏みつぶしたレドラーに付いてたそいつだ。どうやら踏み潰された時の衝撃で部品の固定ロックが誤作動したようでな。部品ごとイジェクトされちまってたお陰で、ディスクの破壊装置が作動しなかったらしい」
アサヒはそう言いながら食べ掛けだったチーズブリトーを美味しそうに頬張る。
(朝っぱらからチーズブリトーの特大丸々一個に肉団子と豆のスープ、デザートにかぼちゃのエンパナーダ3つ……なんでアサヒの奴、あんだけ食べて太らねーんだろ……)
小柄な体格とは全く釣り合わない彼の食事量はいつ見ても不思議でならない。
カイはそんなアサヒを眺め若干脱力しつつ、部品を再びテーブルに置いた。
「でもさ。そんな危ない部品をその辺のショップに持ち込んで調べてもらうって……正直、かなりリスキーじゃないか?」
「まぁ問題はそこだ。出所不明の部品って時点で取り扱ってもらえるかどうかすら怪しい。非合法パーツの取り扱いは、最悪受け取った時点でショップ側にも罰則があるからな」
「うへぇ……」
ザクリスの言葉に、カイがげんなりした顔をする。
これでは部品だけ持っていても調べる術がない……
「……そこで、ちょいと考えたんだがな」
チーズブリトーを平らげたアサヒが再びスープに手を伸ばしながらそっと切り出した。
「最寄りの軍事基地に持ち込んだ方が早かろうと思うんだ」
「またお前はそういう面倒臭ぇことを平然とッ……」
ザクリスが頭を抱えるが、アサヒは至って真面目だ。
「下手に他人を巻き込まずに、合法的に非合法パーツを調べてもらうにゃそれしかあるまいよ。こんな怪しげな部品をスカーズみたいな三下連中ですら手に入れられるというなら、俺達が知らんだけで、裏社会には既に同様の部品がかなり出回っとると考える方が妥当だろう。そうなりゃこの先、俺達だって仕事に支障が出るかもしれん。どうにかして調べてもらわんと」
「いやまぁ、そりゃそうだけどよ! 軍事基地に持ち込むっつったって一体どう言えってんだ??大規模な犯罪シンジケートから掻っ攫って来たとかならともかくよぉ、スカーズみてーな三下連中がこんな部品持ってたなんて、簡単に信じてもらえるかっつの! 俺達の方が疑われるに決まってんだろーが」
ザクリスが面倒臭そうにテーブルへ頬杖を突く。
アサヒもうーん……と考え込んでしまった。
「……ねぇ」
不意に、シーナが口を開いた。
「その部品、調べられれば良いんだよね?」
「なんだ嬢ちゃん。まさか嬢ちゃんが調べるってんじゃねーだろうな?」
普段からは想像も出来ない程きょとんとした顔で、ザクリスがシーナを見つめる。
シーナはテーブルに置かれた部品を両手でそっと抱え上げると、接続端子側をしばらく見つめてから口を開いた。
「この部品をイーグルに接続出来れば、多分調べられると思う」
「「「え?!」」」
まさかの一言に、残りの3人が揃って声を上げる。
「いやいやいや! 危ねぇパーツだっつったろ?! イーグルに何かあったら……」
「大丈夫」
反対しようとしたザクリスの声を遮るように、シーナは一言キッパリとそう答えた。
そんな彼女に、3人は顔を見合わせ合うともう一度揃ってシーナを見つめる。
「ホントに大丈夫なのか??」
「うん」
心配そうなアサヒの問いに、やはりシーナは力強く頷くだけだ。
そんな彼女の真剣な横顔を見つめながら、カイはそっと口を開いた。
「ちなみに、どうやって調べるつもりなんだ?」
「……このディスクを接続した状態で、私がブレードイーグルと意識共有すれば分かる筈」
「意識共有ってッ……」
その一言に焦ったのは勿論カイだ。
昨日、意識共有が危険な能力だと言ったのはシーナ自身だというのに……
「駄目だ! もしそれでシーナに何かあったらッ!」
「戦う訳じゃないから大丈夫。起動したこの部品がどんなものなのか、イーグルとユナイトに教えてもらうだけだから」
「けど……」
尚食い下がろうとするカイに、シーナがずいっと詰め寄る。
彼女は真剣な顔でカイを真っ直ぐ見つめた。
「私も何かカイ達の役に立ちたいの。お願い……」
「……じゃぁ、意識共有に俺も参加する。一人じゃやっぱ心配だし」
「おいカイ!」
ザクリスが心配するように彼の名前を呼んだが、シーナは静かに首を横に振った。
「意識共有は、パイロットが2人いる状態じゃ使えない。だから私に任せて」
「……」
カイは暫く黙り込んだが、やがてシーナを真っ直ぐ見つめ返した。
「本当に、大丈夫なんだな?」
「うん」
「絶対に無茶はしないって、約束出来るか?」
「約束する」
「……わかった」
「おいおいおい!」
ザクリスが声を上げるが、そんな彼の隣でアサヒは静かに目を閉じ微笑を浮かべていた。
「じゃぁ、その部品は姫に任せるとしよう」
「はぁ?!」
アサヒの一言に、ザクリスがアサヒを見つめる。
「お前まで何言ってんだ! 何かあったらどーすんだよ?!」
「無茶はせん。と、姫は約束したろ?なら信じてみようじゃないか。それにな、俺ぁ姫なら大丈夫だと思うんだ」
「大丈夫だと思うってお前なぁ……」
「今まで俺の勘が外れた事があったかい?」
「いや……でもそれはそれ! これはこれだろ?!」
なかなか首を縦に振らないザクリスに、シーナが懇願するような眼差しを向けた。
「お願い。ザクリス……」
そんなシーナの眼差しにザクリスは暫く無言だったが、やがて諦めたような長い溜息を一つ吐くと、彼はむすっとした顔でシーナを見つめ返した。
「絶対無茶すんじゃねーぞ」
「さっき無茶はしないって約束したよ?」
「カイだけじゃなくて俺達とも約束しろっつってんだよ! ド天然か!」
「??」
困ったように首を傾げるシーナを、アサヒが苦笑しながら見つめる。
「なに。ザクリスは自分にも無茶はせんと約束して欲しいだけさ。ザクリスは優しい反面とにかく心配性だからな」
「やかましい」
ぴしゃりと叩きつけるようにザクリスがアサヒを睨みながら声を上げる。
だが、シーナはふんわりとした穏やかな微笑みを浮かべてザクリスを見つめた。
「大丈夫だよ。ザクリス。私、カイとだけ約束したつもりじゃないもの。ちゃんとザクリスとアサヒにも約束してるよ」
「……おう」
ザクリスはボソッとぶっきらぼうに答えると、残りのコーヒーを飲み干して席を立つ。
「じゃぁしょうがねぇ。お前らが市場の日雇いに行ってる間に接続用の部品見繕ってやるから、イーグルのコックピット調べに行って良いか?」
「あ、じゃぁユナイトに言付けて来るからちょっと待ってて」
シーナはそう言って小走りに宿の外へ出て行く。
彼女の後姿を見送った後、カイが笑いながら口を開いた。
「最後まで反対してた割に、ザクリスもなんだかんだやる気満々じゃん」
「うるせぇ。3対1の数の暴力で押し切ったのはお前らだろうが」
面白くなさそうにザクリスは口をへの字に曲げる。
そんな彼にカイは苦笑し、アサヒは何でもなさそうにケタケタと笑い声を上げた。
「ユナイトにイーグルの説得頼んで来たよ」
シーナが小走りに戻って来る。
ザクリスは怪訝そうに首を傾げてカイへ訪ねた。
「説得??」
「イーグルはさ、ものすっげー頑固者なんだ。アサヒの牙狼以上に我が強くて、基本的にシーナとユナイトの言う事しか素直に聞かないんだよ。多分そのまま調べに行ってたら嘴で滅多打ちにされてたかもな」
「げぇ……」
げんなりとした顔をするザクリスに、シーナが苦笑する。
「ユナイトと一緒に行けば大丈夫だから」
「ホントに大丈夫なんだろうなぁ?……」
ザクリスは頭を掻きながら歩き出すが、2、3歩歩いた辺りで振り返ると呆れたようにアサヒへ声を掛けた。
「アサヒ。お前も食い終わってんならとっとと来いよ。置いてくぞ。」
「おん? お前さん一人でイーグルのとこに行くのが怖いのか??」
からかうように二ッと笑ったアサヒの所までザクリスが大股で引き返して来る。
彼はまるで猫を引っ掴むかのようにアサヒの後ろ襟をむんずと掴んで意地の悪い笑みを浮かべた。
「このままイーグルのトコまで引き摺ってって盾にしてやろうかぁ?」
「わかったわかった。一緒に行ってやるから、そう怖い顔をしなさんな」
アサヒは至って面白そうに笑いながら席を立つと、カイとシーナに微笑んだ。
「じゃぁご両人。また夕方」
「ああ」
「よろしくね。2人とも」
カイとシーナの返事に、ザクリスとアサヒは揃って頷くと宿を出て行った。
~*~
カイとシーナはいつも通り、初日から世話になっている食料品店で開店準備をしていた。
昨日店をすっぽかしてしまったというのに、店長は2人をけしてクビになどしなかった。
カイが店を空けてしまっていた間、周りの店舗の店員達や通りに立っていた人々から「カイが銃を持った男達に追い掛け回されていた」と聞いた店長は、気が付くとシーナまで居なくなっていたので、2人揃って危ない事に巻き込まれたのではないか?とかなり心配したらしい。
その為、スカーズのレドラーを倒したカイがシーナと共に戻って来た時、店長は叱りもせずに戻って来た2人を我が子のように抱き締め、泣いて無事を喜んでくれたのである。
面倒事を背負った旅人を雇いたがる店などそうそう無いというのに、それでもこうして自分達を雇い続けてくれる心優しい店長にはカイもシーナも感謝しかなかった。
「店長さんが優しい人で良かった」
カゴ売り用のカゴへ果物を盛りながら、シーナがふと呟く。
彼女のそんな呟きに、今日の特売品をスタンドボードへ書き込んでいたカイが振り返った。
シーナはホッとした顔で穏やかに微笑んでいるが、何処か寂しげだ。
「此処に居るのも、今日を含めてあと3日だなんて……なんだか、あっという間だね」
寂しさを紛らわせるかのようにニコッと笑ってシーナはカイを見つめる。
そんな彼女の心中を察したカイは、軽い溜息と共に微笑を浮かべると立ち上がって笑った。
「ああ。ちょっとばっかし寂しくなるな」
「……うん」
シーナは小さく頷きながら、棚の缶詰の補充を始める。
思った以上に元気の無い彼女の様子に、カイは少し考え込んだ後、チョークの粉で汚れた指を掃いながらシーナの隣へ歩み寄った。
「正直さ、俺もちょっと思ったよ。いっそ情報屋家業から足洗って、このまま市場勤めも悪くねぇかも。って」
「え?」
意外そうな顔で自分を見上げるシーナにカイは照れたように笑いかけると、彼女が抱えている缶詰を手に取って棚へ並べ始める。
「だってこの店けっこう自給良いし。店長だってすっげー良い人だし。だからあと3日でこの店で働くのが終わっちまうって、やっぱ俺だって寂しいっつーかさ」
「カイ……」
「それに、ぶっちゃけ俺、何か目的があって旅してる訳でもなかったし」
「そうなの??」
シーナが目を丸くする。
そう言えば自分の事を何も話していなかったなと思いながらカイはシーナをチラッと見て、缶詰を並べ続ける。
時折缶詰の賞味期限を確認しながら、彼は語り出した。
「俺さ、小さい頃からずっと空に憧れてたんだ。ゾイドに乗って、思いっきり空を飛び回れる仕事がしたいって。けど親父が猛反対してさ……ゾイドに乗るのは遊びじゃない。憧れだけでゾイドに乗るな。って。んで結局、夜中に親父が通勤に使ってたレドラーかっぱらって、14の時に家出しちまった」
「え?! 家出?! じゃぁあの時壊された紫色のレドラーって……」
「そ。実は親父の」
「えぇぇぇぇ?!」
初めて聞く素っ頓狂なシーナの声に、カイも思わず驚き過ぎだろ。と笑いながら、彼は空になった段ボールを慣れた手付きで潰す。
他に品出ししなければならない商品はないかと店内をザッと見渡しながら、カイは言った。
「だからまぁ、探してるものがあるとか、行きたい場所があるとか、そういうんじゃないんだ。やりたい事やるついでに、情報屋してるだけっつーかさ」
「やりたい……事……」
シーナが考え込む。
「私のやりたい事って、なんだろう?……」
まるで幼い子供のように真剣な顔で自分のやりたい事を考え始めたシーナを見つめ、カイは何処か微笑ましげに笑った。
「いっそ自分のやりたい事を探すってのも有りなんじゃねーか?」
「そっか……ふふっ。そうだね」
シーナがおかしそうに笑う。
やっと笑顔になった彼女に、カイは明るく言った。
「じゃ! とりあえずまずは目の前の仕事しようぜ。そろそろ開店時間だしな」
「うん!」
元気に頷いたシーナは、店の前に掲げられた「CLOSED」のプレートを「OPEN」へとひっくり返した。
~*~
一方、ザクリスとアサヒはというと……
「うわっち?! おいこら! なんでコックピット開いてくんねーんだよ! うぉっとぉ?!」
「キュアア! キュアアア!!」
……大層ご立腹の様子のブレードイーグルに案の定手を焼いていた。
その巨大で鋭い嘴の容赦ない突きを避けながらザクリスはブレードイーグルになんとかして近づこうと躍起になっており、そんな彼とブレードイーグルのやり取りを安全圏から眺めるユナイトはオロオロと両者を交互に見つめ、アサヒはユナイトの隣に突っ立ってすっかり我関せずを決め込み、暢気に煙草へ火を点けている。
「おいアサヒ! お前も手伝えよ!! いで?!」
アサヒを振り返り抗議するザクリスの頭をブレードイーグルの嘴がド突く。
ギャーギャーと喚き合う一人と一機を呆れた様子で眺めながら、アサヒは溜息と共に紫煙をゆっくり吐き出して呟いた。
「余計な事を言って怒らせちまったお前さんが悪い……」
彼はぼんやりとつい先程の事を思い浮かべていた。
ユナイトがブレードイーグルを無事に説得し終えた時にザクリスが言った余計な一言……
「なんだ。堅物だって聞いてた割に意外と素直じゃねーか」
その一言にカチンと来たのだろう。ブレードイーグルはどんなに頑張ってもコックピットへ手が届かない高さまで背筋を伸ばすと、ぷいっとそっぽを向いてしまったのだ。
慌ててユナイトがグオグオと再度説得を試みたものの、イーグルはすっかり
「……まったく、どうにもザクリスは一言余計なんだよなぁ……」
再びアサヒが溜息を吐く。
そんな彼の前で、ブレードイーグルがザクリスの簡易アーマーの後ろ襟を咥えた。
「お」
アサヒは咄嗟に2、3歩後ろへ下がる。
彼の読み通り、ブレードイーグルはアサヒが避けた場所めがけて咥え上げたザクリスをそのままポイッと放り投げた。
「おわぁぁぁぁぁぁ?!」
今さっきまでアサヒが立っていた砂の上に、ザクリスが派手に胴体着陸……いや、着弾する。
顔面から腹にかけてうつ伏せに半分砂に埋まったザクリスに、アサヒは笑いながら言った。
「お前さん、昨日カイが踏みつぶしたレドラーみたいになっとるぞ」
「……そいつぁどうも」
口に入った砂を咳込むように吐き出しながら、ザクリスが砂から体を起こす。
彼はひっくり返るように砂の上にぐったりと座り直し、苦々しげな顔でイーグルを見上げた。
「ったく、なんつー性格の悪いゾイドだ。生身の人間放り投げる奴があるか」
「そりゃお前さん、自業自得ってヤツだろう?」
「ちょっと堅物だっつっただけでコレじゃ割に合わねーよ。たんまり釣りが出らぁ」
不機嫌な顔で片膝の上に頬杖を突くザクリスの向かいでは、同様に不機嫌な様子のブレードイーグルがまるで唸る猛獣のようにクルルルルル……と低く咽を鳴らしている。
アサヒは吸殻を携帯灰皿に収めるとユナイトを振り返った。
「なぁユナイト。ゾイド同士も言葉が通じたりするもんなのかい?」
「グォ??」
首を傾げたユナイトに、アサヒは穏やかに微笑んだ。
「なに、ちょいと
「グオ! グオグオ!」
こくこくと頷いたユナイトを見て、ザクリスは釈然としない顔をした。
「けどよ。古代ゾイドと現代ゾイドだし、おまけに鳥と犬だろ? ホントに通じるのか?」
「なるほど。鳥と犬か。猿がおれば桃太郎だな」
「お前なぁ……」
すっかり呆れた顔でアサヒを見上げるザクリスに、彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「ユナイトが頷いとるんだ。大丈夫なんでないかい?物は試しだ」
「へぇへぇ。んじゃあの堅物鳥野郎はお前と
若干拗ねたように言うザクリスに苦笑しつつ、アサヒはブレードイーグルをチラッと見るとユナイトを連れてそそくさと
……ちなみに、堅物鳥野郎の一言をしっかりと聞き取っていたブレードイーグルが、ザクリスの傍に衝撃砲を一発撃ち込み、彼が頭から嫌と言う程砂を被ったのはまさにこの数秒後の事である。
~*~
夕方、市場での日雇いを終えたカイとシーナは揃ってイーグルの元へ向かった。
しかし、到着してみれば居るのはアサヒとユナイトだけで、ザクリスが何処にも見当たらない。
カイは不思議そうにアサヒへ訪ねた。
「アサヒ。ザクリスは??」
「ああ、
「一体何があったんだよ……」
「それはお前さんの想像に任せるとするよ」
苦笑を浮かべるカイに、アサヒも苦笑を浮かべる。
ふと、微かな足音に気付いたシーナが後ろを振り返れば、話題の張本人が歩いて来ている所であった。
「あ! ザクリス!」
シーナがパタパタと手を振ると、彼も控え目に手をひらひらと振ってくれた。
いつもと違うTシャツに黒のチノパンというシンプルな姿に、シーナは目の前まで来たザクリスを見つめ首を傾げた。
「あれ? 服は??」
「砂まみれになっちまったから宿のランドリーに突っ込んで来た」
まだ生乾きの髪を掻き揚げながらザクリスは疲れた様子で答えると、小脇に抱えていた件の部品をシーナに差し出す。
彼はまだ不安げな色をその瞳に湛えながらも、彼女に言った。
「じゃ、頼んだぜ。嬢ちゃん」
「……うん。任せて」
シーナが部品を受け取る。
受け取った部品の接続側に、まるで尻尾のように今朝は付いていなかったソケットケーブルが伸びている事に気付いたシーナは、首を傾げた。
「何か付いてる」
「そいつがイーグルとその部品を繋ぐための接続端子だ。恐らくそれで接続出来ると思うんだが……どうだ? いけそうか?」
アサヒの言葉に、シーナはケーブルの先に付いた端子を見て言った。
「これなら大丈夫。ちゃんと接続出来るよ」
「おん。なら良かった。自作した甲斐があったよ」
「え?! 作ったの?!」
「ザクリスがな」
アサヒがそう言ってザクリスを振り返れば、彼は照れ隠しのようにプイッとそっぽを向いた。
「ジャンクパーツ
カイもそんなザクリスを眺めて何処か可笑しそうに笑う。
彼はああ見えてかなり手先が器用だ。おまけに機械の知識もいくらかある。部品さえあればソケット端子を一つ自作するくらい造作もないだろう。
「ありがとう。ザクリス」
「礼はいら……あー……そうだな。礼は嬢ちゃんが無事でいてくれる事で良い。これでもし嬢ちゃんに何かあったら、部品作っちまった俺の責任だしな」
ぽりぽりと頭を掻きながらぶっきらぼうに言うザクリスに、シーナは笑顔で頷くとブレードイーグルのコックピットへ向かう。
「シーナ!」
ふと、カイに呼び止められ振り返れば、カイは笑顔だが真剣な眼差しで言った。
「俺達全員、そのディスクの中身なんかよりシーナの方が大切なんだって事、忘れんなよ」
「うん。ありがとう」
シーナは笑顔でブレードイーグルのコックピットに乗り込んだ。
キャノピーが閉まると同時に、部品のソケット端子を接続する。
そっと部品本体を足元に置いた後、彼女はシートベルトも閉めずに操縦席へ深く腰掛けると、背もたれに体を預けながら呟いた。
「……ユナイト。おいで」
「グォォォォォォ!」
ユナイトがブレードイーグルの中へと消える。
シーナはそっと目を閉じ、意識を集中した。
意識の共有が始まってまず最初に伝わって来たのは、膨大な知識欲と学習欲だ。
目の前にあるもの、自分が体験する事、その全てを知りたい。記憶したい……それはイーグルやシーナの意思とは全く違う異質なもので、すぐにこのディスクがもたらしているのだと分かったシーナは、目を閉じたまま呟く。
「ユナイト。ディスクのプログラムを意識内からシャットアウト。システム面から再アクセス。これが一体何なのか詳しく調べて……」
『グォグォ!』
ユナイトの返事が伝わって来た直後、頭の中を埋め尽くしていた知識欲と学習欲がスイッチを切るかのようにシャットアウトされる。
ふとシーナは、薄っすらと目を開いた。
(私……なんでこんな方法知ってるんだろう……)
イーグルと意識を共有したままぼんやりと考える。
(コアに憑りついたユナイトを触媒にデータを調べる……やった事ない筈なのに……覚えていない筈の事が出来るのは何故?……どうして?……)
微かな不安に揺れた瞳が、ふと心配そうにこちらを見上げる3人の顔を映した。
意識共有をしている為、カイも、ザクリスも、アサヒも、キャノピー越しではなくまるで目の前に居るように見える。
ただ何も言わずに、ただ静かに、そして何処か祈るように……彼等は自分達を見守ってくれている……
だが、不意にザクリスがズボンのポケットから煙草を取り出し火を点けた。
その様子を見てアサヒとカイが呆れたように笑えば、ザクリスは面倒臭そうに何やら言ってぷいっとそっぽを向く。
(アサヒだけじゃなくてザクリスも煙草吸うんだ……ずっと待ってるから、暇なのかな?)
目の前で繰り広げられるいつものやりとりに思わずクスリと笑みが零れた。
難しい事は後で考えよう。
今はディスクを調べて……その後、また皆で揃って夕飯を食べたい。
そう言えば、カイやザクリスがいつも飲んでいる黒い飲み物は一体どんな味なのだろう?
今日の夕食の時、自分も試しに飲んでみようか?
そんな事を考えるうちに、不安は消え去っていた。
『グオグオ』
「どうしたの?」
『グオグオグオ』
「ディスクが外部と通信してる?……」
不意に伝わって来たユナイトの言葉に、シーナが微かに眉を
彼女は少し悩んだが、すぐにユナイトへ伝えた……覚えていない筈の知識に身を委ねて……
「ユナイト。システムリンケージセットアップ。ディスクの通信先の特定、及び記録のバックアップを準備。突き止めて……」
自分自身の口から出て来る言葉を何処か他人の言葉のように感じながら、シーナは再び目を閉じた。
目を閉じた暗い視界の中で、まるで細く長いトンネルを高速で飛んでいるような気分を味わう……ユナイトがディスクの通信先へと自分の意識を導いているのだと、彼女はすぐに理解したが、不安になっている暇はない。少しでも多くの手掛かりを掴んで、そして、万が一の事態が起こる前に……危険な目に遭う前に、すぐに目を覚まさなければ……
そんな事を考える彼女の目の前がふと開けた。
目を閉じたまま見るその映像は、まるで夢を見ているような感覚だ。
見慣れぬ機械に囲まれた部屋。無数のモニター。中央の椅子へ伸びる無数のケーブル。そして、その椅子に座るヘッドギアを付けた一人の青年……
(え?……)
シーナは思わず一瞬凍り付いた。
ヘッドギアによってその青年の顔は鼻から下しか見えないが、だからこそ、ハッキリと目に映ったのだ。
その右頬のフェイスマークが……
「?」
ヘッドギアの付けた青年が、通信データに乗って侵入したシーナに気付いたかのようにハッと顔を上げる。
無機質なヘッドギア越しに青年と目が合った彼女は、一瞬で途轍もない恐怖を感じた。
すぐに戻らなければ……逃げなければ!
「ユナイト!!」
彼女が叫んだ瞬間、垣間見ていた機械仕掛けの部屋の風景は幻のようにサァッと掻き消えて行く。
猛スピードで後ろへ引っ張り戻される感覚に身を委ねる彼女の目の前に、先程垣間見た青年の手が目の前からぐんぐん迫って来るのが見て取れた。
このままでは、捕まってしまう……恐怖に顔を引き攣らせたシーナの鼻先をその手が掠めようとした瞬間、彼女はコックピットでハッと目を見開いた。
「……間に……あった……」
悪夢から目が覚めたような感覚にクラクラしながら彼女がそう呟いた瞬間、足元に置いた部品の内部からくぐもった爆発音のような音が上がる。
ビクッとして部品を見下ろすと、部品のディスク差込口から煙が上がっていた。
「……」
足元から上がる煙を見つめたシーナの鶯色の瞳から、ふと光が消え失せる。
冷たく無機質な眼差しで、彼女はまるで引き千切ろうとするかのように乱暴にイーグルと部品を接続していたソケット端子を引き抜いた。
「……そう……」
不意に呟いた彼女の声はその眼差し同様、別人のように無機質で冷く……そして微かな怒りが滲んでいた。
「また……私を殺そうとしたのね……」
「シーナ! シーナ! 大丈夫か?!」
不意にキャノピーをバンバンと叩く音が聞こえて我に返ったシーナは、右手に握った“抜いた覚えのない”ソケット端子を不思議そうに見つめた。
「あれ? いつ抜いたんだろう……」
その眼差しと口調は、いつも通りの彼女だった。
顔を上げれば、カイが横からイーグルのアイレンズ越しにこちらを覗いている。
「カイ……どうしたの?」
「どうしたも何も! いきなりユナイトがイーグルから飛び出して来たから何かあったんじゃないかって……」
キャノピーを開いてシーナが訊ねれば、カイは切羽詰まった様子でシーナの顔を覗き込む。
彼女はそんなカイに穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。私なら平気だよ」
「そっか……あれ? コレ……」
安堵した様子のカイが、足元で薄っすらと煙を上げる部品を見下ろす。
シーナは申し訳なさそうにションボリと足元を見つめると、手にしたままのソケットを両手で弄りながら呟いた。
「このディスクが通信してた先まで行ってみたんだけど、相手に気付かれて……ディスク、壊されちゃった……」
そんなシーナの頭に、カイがぽんっと手を乗せる。
「言っただろ? ディスクなんかよりお前の方が大切なんだって。ホントに大丈夫なんだな?」
「うん。大丈夫」
「良かったぁ……」
カイが操縦席に座ったままのシーナを抱き締めた。
シーナは少し驚いたような顔をしたが、そんなカイを励ますように優しく彼の背をトントンと叩く。
「心配させちゃってごめんね。私なら何ともないよ。それにね、このディスクの事も分かったの」
「え?!」
カイに放してもらいながら、シーナはにっこりと笑う。
彼女は足元で煙を上げる部品をそっと抱えると、驚いた様子のカイと共にブレードイーグルから降りてザクリスとアサヒの元へ向かった。
~*~
彼らは宿のラウンジの一番隅のテーブルに集まり、注文した夕食が運ばれてくるのを待ちながらディスクの正体をシーナから聞いていた。
「あのディスクは、ゾイドを知識欲や学習欲で支配して戦わせる為のものだったの……」
シーナがお冷を飲みながら静かな声で話す。
カイ達は怪訝な、或いは驚愕した顔で互いに顔を見合わせ、再びシーナへ視線を戻した。
「それってつまり、意識を乗っ取られるってこったろ?おい嬢ちゃん。ホントに大丈夫だったんだろうな?」
ザクリスが眉を片方吊り上げながらジトッとした眼差しでシーナを見つめる。
そんな彼の眼差しに苦笑しながら、シーナは言った。
「私は大丈夫。確かに自我の薄い普通のゾイドは多分あのプログラムに呑まれると思うけど、イーグルは凄く自我の強い子だから飲まれなかったし、ユナイトに途中で遮断してもらったから」
その言葉にザクリス達が少し安心した様子になったのを確認し、シーナは言葉を続ける。
「きっと、昨日の盗賊さん達のレドラーの動きがどんどん変わっていったのはそのせい……あのディスクのプログラムでザクリス達の動きをあっという間に学習したんだと思う」
「成程。そうなりゃ確かに合点が行く。奴らがカイにあっさりやられちまったのは、奴らのレドラーがカイの動きを学習する前に倒しちまったからか。まぁ、イーグルとユナイトが凄いというのも理由だろうが」
アサヒが腕を組んで椅子の背もたれに身を預ける。
ザクリスはそんな彼の隣で肘をついてお冷を飲みながら、ボソッと呟いた。
「しっかし厄介な事この上ねぇのも確かだ。乗り手の腕に関係なく、ゾイドが勝手に学習して勝手に戦う……ゾッとすらぁ……」
彼の言葉にシーナもこくりと頷いた。
「おまけに、知りたいって欲に支配されてるからゾイドは自分で止まらない。恐怖でコンバットシステムがフリーズする事も無いと思う……勝つか倒されるかするまで戦い続ける……きっと、乗っているパイロットに戦う意志が無くなっても……」
「ゾイドの本能的な恐怖すら欲で支配し戦わせる……か、なんとも浅ましい……」
そんなアサヒの呟きに、カイも思わずボソッと呟いた。
「一体誰が、何の為にそんなもん作ったんだか……」
「それなんだけどね……」
シーナが遠慮がちにそっと切り出した。
「あのディスクは戦わせたゾイドの戦闘データを吸い上げて何処かに送ってたの」
「戦闘データを??」
ザクリスが眉を
シーナは頷き、言葉を続けた。
「うん。場所は分からないけど、景色が見えた。機械とモニターがいっぱいある部屋で、誰かが送られて来た戦闘データをチェックしてて……」
「顔は? 見たのか??」
ザクリスが声を潜めながらずいっと身を乗り出してシーナに訊ねる。
彼女は少し躊躇うように視線を伏せた。
「大きなヘッドギアで顔の上半分が隠れてたから……顔はわからない……でも……」
そう言って、彼女は顔を上げるとカイを見つめた。
「色は違うけど……カイと同じ形のフェイスマークがあった……」
「え?? 俺と??」
カイが思わず自分を指差しながら目を丸くする。
ザクリスとアサヒも驚いた様子でカイを見つめた。
普通、フェイスマークは角型か丸型が主な主流で、少し珍しい部類でも角の丸い三角型かチェックマークのような型、或いはそれらを組み合わせたような形が殆どだ。
カイのように先に行くにつれて細くなっている、まるで猫に引っ掛かれたかのような線状のフェイスマークは珍しい。
「珍しいな。カイみたいなフェイスマークはそうそうおらんぞ」
「お前、双子の兄弟とか居るんじゃねーだろうな??」
「いやいやいやいや! 俺一人っ子だぜ? それに俺だって全く同じマークの奴なんて見た事が……」
カイはそこまで言ってハッとしたように顔を上げシーナを見る。
―本当にそっくりなの。顔も、声も、顔の模様まで……―
彼の脳裏に、以前シーナから言われた言葉が過った。
「まさかそいつって……」
「お待たせ致しました。ファヒータセットとキドニービーンズスープのお客様?」
「お! 来た来た!」
アサヒが子供のような笑顔ではいはーい!と手を上げる。
なんとも絶妙なタイミングで来た夕食とアサヒの反応に残りの3人は思わず脱力してしまった。
夕食を並べ終えたウエイターが去る頃には、一足先にアサヒはファヒータをトルティーヤにたっぷり巻いて美味しそうに頬張っており、先程まで難しい話をしていた様子など微塵もない。
「で? カイ。お前さっきなんか言いかけたろ? 続き」
呆れた様子でアサヒを眺めた後、ザクリスがクラッカーをバリバリと割ってチリコンカンへ入れながら話題を戻す。
カイは今しがた齧ったばかりのチキンブリトーの一口目を一生懸命咀嚼して飲み込み、口を開いた。
「ああ。うん。俺と同じフェイスマークの奴って言ったら、シーナの兄貴くらいかな? って」
「嬢ちゃんの兄貴??」
ザクリスがシーナへ視線を移す。
シーナは小さく頷くと鶏肉のトマト煮込みを食べながら呟いた。
「アレックスって名前の双子のお兄ちゃんなの……でも、今何処にいるのかわからなくて……」
「ふーん。そいつぁ……まぁ、なんつーか……心配だな」
怪しいと言いかけたのだろうが、シーナの複雑そうな顔を見て思いとどまったのか、ザクリスは一言そう言ってチリコンカンを黙々と食べ始めた。
「まぁ、あのディスクをばら撒いてゾイドの戦闘データを集めとる奴がおるとわかったんだ。ディスクを使われたゾイドがどうなるのかもわかった事だし、今日はもう食って寝よう。腹が膨れりゃ重たい気分もちょっとは軽くなるだろう」
2枚目のトルティーヤに肉とタマネギをたっぷり挟みながら言うアサヒに、カイ達は励まし合うような笑みを浮かべ合って黙々と夕食を食べた。
~*~
一方その頃、モニターの明かりのみに照らし出された例の部屋に、一人の少女が入って来た。
彼女は遠慮なく壁のスイッチに手をかけ、薄暗い部屋の照明を点ける。
「今日の分のデータ収集、どのくらい進んだ?ってお姉様が言ってたよ」
その声に、椅子に腰かけた青年はヘッドギアも外さずに口を開いた。
「……此処を逆探知しようとした奴が居た」
「えぇぇ?!」
少女が青年の正面に駆け寄り、ガチャンッとヘッドギアのバイザーを両手で上げて青年を見つめる。
「どーすんのそれ?! ちゃんと始末したの?!」
「あと一歩の所で逃げられたが、ディスクは破壊した。バックアップも破壊してある。問題ない」
青年が無機質な金色の瞳で少女を見上げる。
少女はそんな青年にむすっとした顔をして見せると、乱暴にバイザーを再びガシャンッと下げて部屋の出入口へと足早に歩き出した。
「良いもん良いもん。ユッカがドジッたのお姉様に言っちゃうもん。ユッカなんか怒られちゃえば良いんだ。ばぁぁぁぁぁぁっか!!」
彼女はそう言い捨てて自動ドアを開く。
扉の前に控えていた紫色のオーガノイドの鼻先をポンポンと撫で、彼女は言った。
「行こ。ヒドゥン」
彼女はもう一度、ユッカと呼んだ青年を振り返ってベーッ!と舌を突きだすと、部屋の照明スイッチをバシッ!と音が立つほど乱暴に叩いて、部屋を出て行ってしまった。
再び薄暗くなった部屋の中で、ユッカはそっとヘッドギアを外す……
彼のその顔は……その髪型は……驚くほどカイと瓜二つであった。
「……アイツは……一体誰だったんだ……」
送られてくるデータの波の向こうに見えた桜色の髪の少女……その姿を思い浮かべながらボソッと呟いた声は、部屋の中に響く事もなくただ静かに溶けるように消えた……