ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第8話-砂漠の毒蛇-

 旅を始めた俺達だったけど、どうやら思ってたより前途多難になりそうだ。

 シーナには痛覚が無いらしい。そんなシーナを守る為に、俺は一体何が出来るだろう?

 誰かを守る事も、失った記憶を取り戻すのも、正直難しい事だらけだ。

 でも……そんな難しい事だらけの旅を楽しんでる自分が居るのも、事実なんだよな。

 [カイ=ハイドフェルド]

 

 [ZOIDS-Unite- 第8話:砂漠の毒蛇(どくじゃ)

 

 サンドコロニーを旅立って2日後。

 カイは、眼下に見えて来た遺跡をコックピットのモニター越しに眺めていた。

 古代ゾイド人であるシーナの記憶の手掛かりになりそうな物や場所……といえば、やはり遺跡だろう。

 別に最初からそう思って進路をとっていた訳ではないが、たまたま飛んでいた先に遺跡があるのを見つけた以上、やはり寄ってみた方が良いだろうか?

 

「なぁ、シーナ。この遺跡ちょっと寄ってみないか?何か記憶の手掛かりになるかもしんねぇし」

 

 後席を振り返りながら訪ねてみれば、シーナも同じように考えていたのだろう。彼女もまた先程のカイと同じようにモニターに表示された遺跡を眺めていた。

 

「うん」

 

 何処か楽しそうに頷いたシーナに、カイも笑顔を浮かべて見せた後、ブレードイーグルを遺跡の前に着陸させる。

 エレミア砂漠から北西……森林地帯を挟んだ向こうに広がる「クヴィーネ砂漠」の中央に(そび)えるこの遺跡は「ククルテ遺跡」と呼ばれており、帝国と共和国が激しく戦争していた頃に発見された遺跡であるという情報はカイも聞いた事がある。

 だが、戦火に巻き込まれたククルテ遺跡は調査が行われる前に半壊してしまった為、休戦協定が結ばれた後に調査団を派遣したものの、人が入れる場所は限られており、特に目ぼしい発見も得られなかったといわれている。

 そのせいで、規模としてはそこそこ大きな遺跡であるにも関わらず、考古学者達の間では「見掛け倒しのハズレ遺跡」として有名な遺跡の一つなのだそうだ。

 とはいえ、それはあくまで考古学者達にとっての話。

 考古学的に発見になる物ではなかったとしても、シーナにとって記憶の手掛かりになる可能性は十分ある。壁面や石板に刻まれた古代語が何かを思い出すきっかけになるかもしれないし、そういった物が無かったとしても、もし眠りにつく以前にこの遺跡を訪れた事があれば、懐かしさなどを感じるかもしれない。

 そんな期待を抱きながら、彼らは遺跡の前に着陸させたブレードイーグルから降りた。

 

「イーグル。見張り頼んだぜ」

 

 カイが一言そう呼びかけると、ブレードイーグルは何処か面白くなさそうにクルルッと咽を鳴らすような低い声を上げたものの、大人しく遺跡の入り口に背を向ける形で辺りを見渡しながら翼を畳む。

 その様子にふっと笑みを浮かべながら、カイはシーナとユナイトを引き連れて遺跡の中へと踏み込んだ。

 半壊したククルテ遺跡は瓦礫の他にも度重なる砂嵐などの影響か砂に埋もれた場所が多く、遺跡内部へ辿り着くには少々骨が折れたが、幸い遺跡内部まではそう大して砂が入り込んでおらず、一度中へ入ってしまえば随分と歩き易かった。

 シーナはカイの隣を歩きながらずっと遺跡の内部をキョロキョロと見渡していたが、ふと、遺跡の中庭と思しき場所に出ると、小走りに駆け出した。

 

「あ! 噴水だ」

 

 シーナが駆け寄ったのは、半壊した石造りのオブジェだった。

 言われなければ噴水だと気付かない程砂が堆積しているものの、3分の1程崩れて無くなっている一番下の段は水を溜める受け皿のようになっており、二段目にあしらわれたウオディックのような魚型ゾイドを模した像の口には水を出す為の噴射口と思われる管が覗いている。

 

「へぇ、砂漠のど真ん中の遺跡に噴水かぁ……一体どっから水引いてたんだろうな?」

 

 首を傾げるカイの隣で、シーナは噴水の縁についた砂を掃いながら言った。

 

「もしかしたら、昔は砂漠じゃなかったのかも」

「え?!」

 

 驚いたような声を上げた彼に、シーナは先程掃った砂の下から現れた、噴水の縁に刻まれた古代語を指さして読み上げる。

 

「水の都 シュルワイネ 清らかなるその調べ 人々に癒しを 機獣達に安息を さぁ謡いたまえ 讃えたまえ……此処から先は欠けちゃってて読めないけど……多分コレ、歌の歌詞じゃないかな?」

 

 うーん……と首を傾げるシーナを見つめた後、カイは彼女が先程読み上げた歌の一節をポツリと呟いた。

 

「水の都シュルワイネ。か……」

 

 この砂漠で、かつて水の都と呼ばれた遺跡……

 砂漠と化してしまう前は水源の豊富な土地だったのだろうか?それとも、オアシスの畔か何かだったのだろうか?

 

「シーナは聞いた事ねーのか?そのシュルワイネって名前」

「……わかんない。ホントに聞いた事が無い場所なのか、忘れてるだけなのか……でも……」

「でも?」

「この場所……昔はもっと緑に囲まれた場所だったような気がするの」

 

 シーナはそう言って辺りを見渡した。

 彼女の脳裏に、清らかな水を湛えた在りし日の噴水と、植物に囲まれた美しい中庭の景色が過る……

 ふと、彼女は中庭の奥……無残に折れた柱の傍を指さして、呟いた。

 

「ねぇ、カイ。あそこに立ってみてくれる?」

「あ? あの柱のとこか?」

「うん」

 

 カイはシーナに言われた通り、噴水の前の階段を駆け下りて中庭の奥の柱の傍へ向かう。

 柱の傍に立ったカイに、シーナが噴水の傍から呼びかけた。

 

「その柱に背中から寄りかかってみて~!」

「わかった~!!」

 

 返事をした後、カイが折れた柱に背を預ける。

 なんとなく両手を頭の後ろで組みながら、噴水の傍に立っているシーナをぼんやりと眺めた瞬間だった……

 前にもこんな事があったような……そんな既視感がカイの脳裏を掠めた。

 

(あれ?……)

 

 おかしい……

 そんな筈がない……

 シーナと出会った孤島の遺跡以外で彼女と遺跡を訪れたのはこの遺跡が初めてだ。

 それに、危なっかしいからと大体一緒にいる為、こんな風に離れた場所からシーナを眺めた事もない……

 一体、この既視感はなんなのだろう?そんな疑問がぼんやりと浮かんだ。

 

「やっぱり……」

 

 一方のシーナも、柱に寄りかかって此方を眺めているカイを見つめて既視感を覚えていた。

 そう。こんな事が昔あった筈。恐らくこの場所で……

 だが何故だろう?それが一体いつだったのかが思い出せない。

 

「グォゥ?」

 

 ユナイトが首を傾げながら、考え込むシーナの顔を覗き込んだ。

 シーナはユナイトの桜色の鼻先を撫でながら、そっと呟く。

 

「ねぇ、ユナイトはこの場所覚えてる?」

「グォ?」

 

 シーナの問いに、ユナイトは再び首を傾げる。

 どうやらユナイトも覚えてはいないらしい。

 ユナイトの中に保存されていたシーナの記憶が元々欠けていたのだ。ユナイトにも分からないのは当然と言えば当然かもしれないが……

 

「シーナぁ~ユナイト待ちくたびれてないかぁ~?」

 

 首を傾げているユナイトを遠目に見たからだろう。

 柱に寄りかかったまま、中庭の奥からカイが笑い混じりの声を掛ける。

 その一言が、シーナの脳裏で重なった……

 

(シーナぁ~ユナイト待ちくたびれてないかぁ~? そろそろ寝ようぜ)

 

 そうだ……

 自分は昔、此処に来たことがある。

 確かこの噴水の湧き水で寝る前に咽を潤していた……そう、この噴水は水飲み場でもあった……

 とても月の綺麗な夜で、夜中だというのに月明かりが辺りをはっきりと照らしていた……噴水の水面に映った満月が水飛沫や波紋で揺れているのがとても綺麗で、だから思わず見惚れてしまっていたのだ……

 そのせいでなかなか戻らなかったから、アレックスが自分のオーガノイドであるハンチと共に呼びに来たのだ……

 あの柱の傍から……そう、全く同じような声音で……

 目の前の風景が、脳裏を過った風景と重なる。

 柱に寄りかかったまま笑うカイが、アレックスと重なる。

 しかし……カイと重なったアレックスの姿は……

 

「なんで?……」

 

 ポツリと呟いた瞬間、シーナは気を失ってその場に倒れこんでしまった。

 

「シーナ?!」

 

 いきなり倒れたシーナに、カイが慌てて駆け寄る。

 彼女の傍に居たユナイトがオロオロとした様子で倒れたシーナの顔を心配そうに覗き込み、グオグオと声を掛けているが反応がまるでない。

 

「シーナ! シーナ!! おい! しっかりしろ!!」

 

 カイがシーナの上体を抱き起して軽く揺すっても、やはり意識が戻る気配は無い。

 暑さで熱中症にでもなったのだろうか?とシーナの額に触れてみたが、特に熱は無く、倒れた原因が彼には全く解らない状態だった。

 

「ユナイト、シーナの奴どうしちまったんだ??」

「グォゥ……」

 

 訊ねてみるも、ユナイトは困ったようにしょんぼりと力の無い声を上げるだけだった。

 

「そっか……お前にもわかんねーんだな」

 

 カイはユナイトを元気づけるかのように一撫ですると、腕の中で気を失ったままのシーナへ視線を戻す。

 倒れた際に顔や髪に付いてしまった砂を軽く掃ってやった後、彼はシーナを抱え上げて日陰になっている遺跡の内部へと引き返した。春とはいえ砂漠のど真ん中だ。日差しの下でジッとしていては本当に熱中症になってしまう。

 崩れていない、砂も殆ど入り込んでいない場所を見つけた彼は、シーナを寝かせようと床に膝を突く。

 だが、風化してザラついた石床にこのまま寝かせては頭が痛いだろうか?と思い立った彼は、一旦ユナイトの背にシーナを預けて上着を脱ぎ、その上着を適当に畳んで即席の枕を作ってからそっとシーナを床に寝かせた。

 

「とりあえず、これで良い……のかな??」

 

 他人の看病などした事の無いカイには、これ以上何をどうすれば良いのやら見当も付かない。

 シーナの傍に胡坐をかいて座り直しながら、彼は気を失ったままの彼女の顔を見つめる。

 もしかして、何か思い出したのだろうか?

 それとも具合が悪かったのだろうか?痛覚の無いシーナが自分の不調に気付かない可能性は十分あり得る。

 ……どちらにせよ、倒れた際に怪我をした様子が無いのは救いだが……もし倒れる向きが少しでも前のめりだったら、噴水の前に続いていた階段から転げ落ちていたかもしれない。シーナが倒れるその瞬間に、腹の底が凍り付くような焦りを感じた事を思い出し、カイは思わず身震いした。

 

「……ユナイト。俺水持ってくるからさ、その間シーナの事頼む。もし俺が居ない間にシーナが起きたら、此処で大人しく待っててくれって伝えてくれ」

「グオ!」

 

 わかった!とばかりに力強く頷くユナイトに頼もしさを感じながら、カイはブレードイーグルの元へ向かう。

 あの様子ではしばらく目を覚まさないかもしれない。もしかしたらこのまま遺跡で一泊する事も十分あり得るだろう。いっそ水だけとは言わず、野営道具も一式持って来ておいた方が良いだろうか?

 

「シーナの奴……大丈夫だよな?……」

 

 ポツリと呟いた声は熱砂に吹き渡る風に溶け消えていく……

 何かを思い出したにしろ、具合が悪かったにしろ、下手に移動しない方が良いだろうか?

 気を失ったシーナを乗せたままイーグルで戦闘するような事態になるのは出来る限り避けたい。

 しかし、もし具合が悪いのなら早く最寄りのコロニーまで連れて行き医者に診てもらった方が良いのも事実だ……

 

「あ~……シーナみたいにユナイトの言葉が分かれば、ユナイトと相談出来るんだけどなぁ……オーガノイドの言葉翻訳する為の翻訳アプリとか誰か作ってくんねーかな……」

 

 困ったように頭を掻きながら、彼はブレードイーグルの元にとぼとぼと歩くのだった。

 

   ~*~

 

 少し時間を巻き戻して……カイ達がククルテ遺跡を見つけた頃。

 エレミア砂漠からクヴィーネ砂漠へと入ったゾイドの一団が居た。

 漆黒のステルスバイパーを先頭に砂漠を突き進むその一団の中で、スカーレット・スカーズの3人はヘルキャットに乗っている。早朝に届いたばかりの、彼らの新たな機体だ。

 

「それにしても、ヘルキャットを3機なんて一体どっから引っ張って来たんだ?……」

 

 すっかり元気になったスティーヴがポツリと呟く。

 その呟きを通信越しに聞いていたスヴェンが声を潜めて口を開いた。

 

「変な詮索はしねぇ方が身の為だぜ? スティーヴ。じゃねぇといつか消されるぞ」

「あら酷い。そんな事しないわよ。失礼しちゃうわね」

 

 何の前触れも無く通信に割って入ったのは先頭を進む黒いステルスバイパーの主。砂漠の毒蛇(どくじゃ)アシュリーだ。

 

「あ、いや! すんません!!」

 

 思わず敬語になりながら声を上げたスヴェンにクスクスと笑い声を上げると、アシュリーはトレードマークとも言える蛇のような薄い笑みを浮かべてからかうように口を開く。

 

「そんなに怯えなくて良いわ。私達を裏切りさえしなければ。ね?」

「「「うっす……」」」

 

 声を揃えて返事を返したスヴェン達に、アシュリーはやっぱりクスクスと笑い声を上げる。

 

「で? そのヘルキャットの出所が気になる? スティーヴ」

「あ、え……いや、そのっ……まぁ、ちょこっとだけ……」

 

 怯えと好奇心の入り混じった声で控えめに頷くスティーヴへ、アシュリーは薄い笑みを顔に張り付けたままスッと目を細める。まるで獲物を眺める蛇のようなその視線にスティーヴの背筋がゾワッと粟立つが、表情とは裏腹にアシュリーの声は何処かあっけらかんとしていた。

 

「私達には贔屓にしてくれる親切なお得意様がいるの。この業界じゃ別に珍しくもなんともないわ」

「けど、新品のヘルキャットを3機ってのは流石に気前が良すぎねぇか??」

 

 微かに警戒するような声音でスヴェンが訊ね返すが、アシュリーは涼しい顔で笑うだけだ。

 

「さぁ? どうなのかしらね? 私もそこまで首を突っ込んだ事がないから知らないわ」

「大丈夫なんですかい? その、なんていうか……」

「そんな得体の知れない相手とやり取りをして。ってとこかしら?」

 

 口籠ったオスカーに、アシュリーが言葉を継ぎ足す。

 こくこくを頷くオスカーに、彼はやっと顔に張り付けっぱなしだった薄い笑みをふっと綻ばせ、少し困ったように笑いながら口を開いた。

 

「まぁ、正直私もあのお得意様にはあまり深入りしない方が良いような気はしてるわ。でも大所帯のウチを支えるには、利用出来る物はなんでも利用して節約しなきゃどうしようもないのよ」

「大所帯っつったって……そんなに人数が居るようにゃ見えねぇけどなぁ……」

 

 スティーヴが不思議そうに辺りを見渡す。

 アシュリーが乗るステルスバイパーに、自分達3人が乗るヘルキャット。大男のサムが乗るダークホーン。ガイサックが2機。アジトで留守番をしているパスカルと数名の手下を含めても全員で10人前後しか居ない。

 だが、アシュリーはコンソールパネルの縁に両手で頬杖を突き、フットペダルだけで器用にステルスバイパーを進めながら溜息を吐いて口を開いた。

 

「路頭に迷った子達や拾った子達の面倒を見るうちに、あのアジトじゃ手狭になっちゃったのよねぇ。だから他の子達には別のアジトの維持管理を任せてるの。っていうか正直、うちの子達が今何人居るかなんて私も把握しきれてないわ。気が付いたら増えてるんだもの。貴方達みたいにね」

「へ……へぇ……」

 

 ぽかんとした声を上げるスティーヴへからかうように薄く微笑むと、アシュリーはコンソールへ頬杖を突いたまま愉快そうな声音で言葉を続ける。

 

「でもお陰で情報網の広さには自信があるわ。これでも帝国領、共和国領の各地にアジトがあるから、欲しい情報なら大抵手に入るの。貴方達のお目当ての子を見つける事が出来たのも、そんな大所帯故ってとこかしらね」

 

 アシュリーのその言葉にスヴェン達3人は揃って舌を巻く。

 一傭兵、或いは一賞金稼ぎでありながらこれ程の情報網を持っている者などそうそう居ない……

 いや、一個人ではなく砂漠の毒蛇(どくじゃ)は最早組織と言っても過言ではないだろう。

 まだ20代半ば程度の若者がそんな組織のトップに立っているとは俄かには信じ難い事だ。

 手下の中には明らかにアシュリーよりも年上の者も多い。なのに彼を出し抜きトップに成り上がろうとする者が誰一人としていないどころか、どんなに歳の離れた手下でも従順に彼の言う事を聞く様を、スヴェン達は拾われてから今までの間に幾度となく目の当たりにして来た。

 「裏切れば殺される」という噂が本当だから……というだけではどうにも腑に落ちない。

 

(砂漠の毒蛇(どくじゃ)……ただの狂人だと思ってたが……)

 

 スヴェンはそっと考え込んだ。

 カリスマとは、もしかしたらアシュリーのような人間の事を言うのかもしれないな。と。

 最初は厄介な連中に助けられてしまったと思ったが、半分都市伝説だとすら言われた砂漠の毒蛇(どくじゃ)の素顔を少しずつ垣間見るうちに、子供のような好奇心を薄っすらと抱き始めている自分が居る。

 彼は一体どんな人物なのか?何故あんなに人望があるのか?噂は全て本当なのか?……

 

(……面白ぇ奴に拾われちまったもんだ)

 

 そんな一言を思い浮かべるスヴェンの口元には、微かに笑みが浮かんでいた。

 

(……情報網の広さには自信があるなんて、私ったらいつからこんなに見栄っ張りになっちゃったのかしら? 正直今は、その自慢の情報網に自信失くしてる真っ最中なんだけど……)

 

 一方のアシュリーは通信を切って尚、頬杖を突いたまま相変わらずフットペダルのみで器用に愛機である漆黒のステルスバイパーを進めながら小さく溜め息を吐いていた。

 彼が自分の情報網に対し自信を失くしている理由は当然ザクリスの事だ。

 6年も前に軍を辞めて、おまけにそこそこ腕利きの賞金稼ぎとして有名らしいというのに、彼の事を知らなかったのだから……

 いや、厳密に言えば「知らなかった」というのは語弊がある。

 青いセイバータイガーに乗った腕利きの賞金稼ぎが居るという噂は知っていたのだ。

 が、まさかそれがザクリスだとは思ってもみなかった。というのが正しい。

 腕利きの賞金稼ぎなんてありふれた肩書きの連中は沢山いる。噂を聞いても基本的に自分から興味を持つことが少ない上に、青いセイバータイガーの賞金稼ぎに仕事の邪魔をされた事も無かったので、今まで特に素性を調べようと思った事すら無かった。

 それに何より、ザクリスが軍を辞めたという話や噂すら今まで聞いた事が無かったのだ。

 正直アシュリーが一番驚き、そして同時に怪しんでいるのはそこだった。

 士官学校時代から国を跨いで共和国にまで噂が流れてくるような有名人だった彼が、軍を辞めたとなれば当然ニュースになる筈なのに、どんなに裏サイトを巡っても彼が軍を辞めた事に関する記事が見つからない。

 危険を承知で帝国軍のデータバンクにハッキングも試みたが、手に入ったのはザクリスが6年前の夏に軍籍を剥奪されている。という事だけだった。

 軍籍を剥奪されるなど、それこそニュースになるような大問題を起こさない限りあり得ないような処分だ。

 しかし、一体何故そのような処分が下されたのか? という詳細情報に関しては記録そのものが抹消されていた……

 

(どう考えたって、軍が記録を揉み消したとしか考えられない……けど……)

 

 アシュリーは眉間に皺を寄せる。

 

(軍籍剥奪の上に記録の抹消……軍がそこまで隠蔽せざるを得ない事を、あのナルヴァ大尉が起こすだなんて……やっぱりどう考えても……到底信じられないのよね……)

 

 確かに彼は不愛想で誰にも興味を示さない異質な人間だった。

 だが、素行そのものはかなり模範的な軍人であったのも確かなのだ。

 上官の命令を無視した事も、下士官達を不当に扱った事も無い。模擬戦や演習でも、相手の心をへし折りこそするが怪我をさせた事だって一度も無かった。

 その圧倒的な才能を妬む者達に嵌められたのか、或いは部下の不祥事の責任を押し付けられたのか……しかしどう考えても軍籍剥奪に繋がるような不祥事に発展するには今一つ決定打に欠ける。

 記録が抹消されている以上、真実は文字通り闇の中だが……

 

「今更心配したって、しょうがないわよね……」

 

 ポツリと呟きが零れ落ちる。

 6年も前の出来事だ。当時何か途轍もない陰謀に巻き込まれていたのだとしても、今となっては過去の出来事……心配したところでとっくの昔に終わった事……の筈だ。

 それなのに、妙に何かが引っかかる。終わっていない気がする……

 

「あー駄目駄目! 今は目の前の仕事に集中しなくっちゃ」

 

 やっと頬杖を突いていた両手を上げ、自分の両頬をパシパシと叩くと、彼は操縦桿を握り直した。

 刹那、その切れ長のミントグリーンの瞳が冷たい光を湛える。

 彼は気持ちを切り替えるようにこれから出会う仕事相手を思い浮かべると、蛇のような薄い笑みを浮かべた。

 眼前に迫るククルテ遺跡を見据えて、彼は楽しげに呟いた。

 

「さぁ、楽しませて頂戴ね。情報屋の坊や」

 

   ~*~

 

「あれ? バッグの底に沈んじまってんのかな??」

 

 カイはブレードイーグルのコックピットを開け、後部座席の足元に転がしているボンサックを漁っていた。

 お目当ては飲み水を汲んでおいたスキットルなのだが、なかなか見つからない。

 こうなれば食品関連用とその他の雑貨類用で荷物を分ける為に、もう一つボンサックを買い足しても良いかもしれないなと思いながら、彼がボンサックを一旦引っ張り出し、イーグルの傍に降りて中身をひっくり返そうとした時だった。

 

 ドゥゥンッ!

 

 イーグルのすぐ傍に、何者かの砲撃が着弾する。

 

「うわ?!」

 

 着弾時の衝撃と巻き上げられた砂煙から身を守る為、彼はひっくり返そうとしていたボンサックを抱きしめたまま地面に伏せる。そのままサッと辺りを見渡せば、前方にゾイドの集団が迫っているのが見て取れた。

 黒いステルスバイパーにダークホーン。ガイサックが2機。ヘルキャットが3機。

 

「おいおいおい! 一体なんだってんだよ?!」

 

 カイはすぐに立ち上がると、抱きしめていたボンサックを無造作に後部座席に放り込む。

 とっとと乗れと言わんばかりに、ブレードイーグルが一声短く鳴いた。

 

「キュルァ!」

「わーってるって! 誰だか知らねーけど、遺跡には今シーナが居るんだ! 近づけてたまるかよ!」

 

 カイがコックピットに飛び込めば、ブレードイーグルはすぐさまキャノピーを閉めながら飛び立つ。

 迫り来るブレードイーグルを見てアシュリーは興奮したような声を上げた。

 

「きゃーすっごい! ホントに鷲型だわ! こんな珍しいゾイドにお目に掛かれるなんてちょっと感激!」

「おいおいアシュリーさんよ! 感激してる場合じゃ――」

 

 スヴェンが声を上げたのも束の間。

 ブレードイーグルの放ったバルカン砲のエネルギー弾が毒蛇一行に降り注いだ。

 サッと散開してエネルギー弾の雨を避けながら、アシュリーは楽しげに指示を出す。

 

「ほらほら。貴方達はサッサと光学迷彩を起動させなさい。一体何の為にヘルキャットを選んであげたのか、忘れてないでしょ?」

「お、おう!!」

 

 スヴェンの返事の後、スカーズの3人が光学迷彩を起動させ姿を消す。

 着弾による砂煙が晴れた時、3機のヘルキャットの姿が消えている事に気付いたカイは思わず舌打ちした。

 

「チッ! 光学迷彩かよ! これだから厄介なんだよなヘルキャットは!!」

 

 ヘルキャットは駆動音も殆ど立たない上に熱放射も極限まで抑えられた偵察奇襲用ゾイドだ。

 光学迷彩を使われてしまってはレーダーでの索敵すら困難な機体である為、肉眼で見つけるのは不可能に近い……それ以前に、ブレードイーグルにその手の索敵システムがあるのかどうかも怪しいものだが……

 

「こうなりゃ先に見える連中だけでも!」

 

 カイはブレードイーグルを旋回させ、手前から尾部のビームライフルを撃って来るガイサックへ狙いを定める。

 今回ばかりはイーグル自身も、遺跡に居るシーナを守らなければと思っているのだろう。驚く程従順にカイの操縦に従ってくれるが、まだまだ古代語表示のコンソールに慣れないカイは口頭でイーグルに指示を出す。

 

「イーグル! レーザークローで踏み潰すぞ!」

 キュル!!

 

 イーグルの鋭い爪が金色の輝きを放つ。

 そのままビームライフルの攻撃を避けながらイーグルは真っ直ぐガイサックの背へ一直線に空を切った。

 しかし……

 

「あっ?!」

 

 カイが声を上げたのと、ガイサックが砂の中へ逃げ込むのは同時であった。

 先程までガイサックが居た砂上を掠めるようにして、ブレードイーグルが体勢を立て直す。

 しかし、今回はその立て直した直後の隙をスカーズの3人は見逃してくれなかった。

 

「もらったぜ! クソガキ!!」

 

 光学迷彩で姿を隠したスカーズの3人が、ヘルキャットの2連装ビーム砲をブレードイーグルめがけて一斉に放つ。

 幸い、カイが反応するより先にイーグル自身が身を捻ってくれた事で全弾被弾するのはギリギリ免れたものの、避け切れなかった数発が翼や胴体に着弾する。

 被弾時の衝撃に思わずビクッと身を強張らせながら、カイはまたも舌打ちをして一旦距離を取るように空へ再び舞い上がり、眼下の敵達を忌々しそうに睨みつけた。

 

「くそ! ただでさえ7対1だってのに、見えねぇのが3機も居るんじゃ分が悪過ぎるぜッ……」

「クルルル……」

 

 ふと、ブレードイーグルが元気の無い様子で咽を鳴らすような声を上げる。

 コンソールパネルのディスプレイへ視線を向ければ、何やら古代語が赤く点滅していた。

 

「イーグル? 大丈夫か??」

「キュルル」

 

 何処か気丈に振舞おうとしているような鳴き声に、カイは顔を曇らせた。

 点滅表示されている古代語が一体何の表示なのかわからないが、その赤い点滅はなんとも不安を掻き立てる。

 だが、先程の被弾でどれ程のダメージを受けたのか?この点滅表示が一体何なのか?と悠長にコンソールをいじっている暇など、相手が与えてくれる筈もない。

 ステルスバイパーのヘビーマシンガンにダークホーンのハイブリットバルカン、ガイサックのビームライフル。ヘルキャットの2連装ビーム砲……まるで我先にと言わんばかりにブレードイーグルへ弾丸やエネルギー弾が飛び交う。

 慌てて飛んでくる弾丸の射線外へ離脱しながら、カイは必死に考えた。

 

(多勢に無勢の上に光学迷彩で姿が見えねぇのまで居る。このまま飛び回ってても、ブレードで突っ込んでも格好の的だ……一体どうする?どうすればいい?……)

 

 一方、アシュリーはまたもコンソールに頬杖を突いてブレードイーグルを見上げていた。

 その表情は、訝しさ半分。呆れ半分といった様子である。

 

「変ねぇ」

 

 ポソッと呟いた一言に、ダークホーンを駆るサムが気付く。

 

「ボス?」

「ねぇサム。変だと思わない?」

「……あの鷲型ゾイドがですか?」

 

 微かに戸惑ったような様子でサムが淡々と訊ね返す。

 アシュリーは対空射撃の弾幕の中で必死に逃げ回るブレードイーグルを見上げたまま言葉を続けた。

 

「だって、向こうは空が飛べるのよ?見た感じ背中にブースターだって付いてるワケだし。こんな分の悪い戦闘、頭の良い子ならサッサと切り上げて逃げちゃう筈じゃなぁい?」

「はぁ……」

「それなのに逃げないで律儀に戦ってるだなんて、よっぽど負けず嫌いのお馬鹿さんか……分が悪いのを承知の上で私達と戦ってなきゃいけない理由があるのか……恐らく後者だと思うのよね。調べ上げた限りじゃ、あのカイって子。そんなに自分から進んで戦闘する子じゃないらしいし」

 

 釈然としない様子で喋りながらも、アシュリーは左手で頬杖を突いたまま、右手のみでブレードイーグルに照準を合わせ地対空連装ミサイルを容赦なく発射する。

 飛んで来たミサイルをバルカン砲で撃ち落としたブレードイーグルに「あら、上手じゃない。」と明るい声で独り言を呟きつつ、彼は話を続ける。

 

「きっとあの子、私達を遺跡に行かせたくないんじゃないかしら?」

「……成程。確かにそう考えれば辻褄が合いますな」

 

 サムが淡々と答える。

 アシュリーはおもむろに蛇のような薄い笑みを浮かべ、両手で操縦桿を握り直しながら明るく言った。

 

「ってワケで。よろしくね」

「はい。ボス」

 

 サムがダークホーンをステルスバイパーの前に移動させながら加速ビーム連装砲をブレードイーグルめがけて撃つ。

 その間にアシュリーは、ステルスバイパーを駆り遺跡へ向かわせる。

 

「くそ! あいつ遺跡に!!」

 

 黒いステルスバイパーが遺跡の方へ向かい始めた事に気付いたカイが思わず叫ぶ。

 その叫び声に、ブレードイーグルがステルスバイパーめがけてブーストを噴かせながら襲い掛かった。

 だが、アシュリーはそれを見越していたかのようにくるりとステルスバイパーを振り返らせると、ニタリと口の端を歪めるような笑みを浮かべて呟いた。

 

「やっぱりそうなのね」

 

 振り返ったステルスバイパーが、一直線に向かってくるブレードイーグルに全く臆する様子も見せずにヘビーマシンガンをこれでもかと放った。

 

「うわっ?!」

 

 不意を突かれ、正面からもろにヘビーマシンガンの掃射を食らった事でカイが声を上げながら思わず片手で頭を庇う。

 被弾した際の衝撃は凄まじく、砂嵐状のノイズが入ったモニターがザーッと音を立てる。

 そのまま砂の上に墜ちたブレードイーグルを正面から見据え、アシュリーはニッコリと満足げな笑みを浮かべながら手下達の機体に通信を入れた。

 

「はい。撃ちかた止め」

「はぁ?! なんでだよ! 絶好のチャンスじゃねーか!」

 

 思わず反論するスヴェンに向かって彼は蛇のような笑みを浮かべながら穏やかに諭す。

 

「約束した筈よ? スヴェン。この鷲型ゾイドとピンク色のオーガノイドは私が貰って良い。って」

「そりゃそう言ったけどよ!!」

 

 納得のいかない様子で食い下がろうとするスヴェンを通信画面越しに真っ直ぐ見据え、アシュリーは有無を言わせぬ圧を込めながらも穏やかに言葉を続けた。

 

「じゃあ、この鷲型ゾイドをこれ以上傷物にするのはやめなさい。貴方達はこのゾイドじゃなくて、そのパイロットの方に用事があるんでしょう? 大丈夫。すぐ済むわ」

 

 彼はそう言うと、ステルスバイパーの通信を外部スピーカーに切り替えた。

 

   ~*~

 

 一方。撃ち落とされたブレードイーグルのコックピットの中でカイは切羽詰まっていた。

 コンソールディスプレイには様々な古代語が赤く点滅しており、警告音が鳴り響いている。

 コックピット内を照らす明かりも赤い警告灯に切り替わっており、自分達が今、絶体絶命の状態なのだと否が応でも自覚せざるを得ないような様相に変貌していた。

 

「イーグル! イーグルしっかりしろ! 返事してくれ! なぁ!」

 

 試しにコンソールパネルの端を軽く叩きながら声を掛けてみるも、イーグルは鳴き声一つ返しはしない。

 

「まさか……コンバットシステムがフリーズしちまってんのか?……」

 

 コンソールディスプレイに表示された読めもしない古代語を眺めながら、思わず呟く。

 もしコアに傷を負えばシステムそのものがダウンする……警告音が鳴り、コックピット内が赤く照らし出されている今の状態なら、少なくともブレードイーグルは死んではいない筈だが……

 そんな中、目の前のステルスバイパーのパイロットが外部スピーカーで声を掛けて来た。

 

「そこの鷲型ゾイドのパイロットさん。聞こえてるかしら?」

 

 その声に、カイは時折ノイズの混じるモニターに視線を移す。

 ステルスバイパーのパイロットはカイの返事も待たずに言葉を続けた。

 

「貴方の事は調べが付いているの。その鷲型ゾイドともう一匹。ピンク色のオーガノイドをこちらに引き渡しなさい。大人しくこちらの要求に応じてくれるなら、これ以上の攻撃はしないでおいてあげるわ。それとも、そのゾイドと一緒にこのまま心中する方がお好みかしら?」

「ふざけんな!! 誰がお前らみたいな連中にイーグルとユナイトを渡すか!!」

 

 思わずコックピット内で怒鳴るが、外部スピーカーへの切り替え方法すらわからないカイの声など届く筈もない。

 悔しさに拳を震わせながら、カイは俯いて歯を食いしばる。

 こんなにあっけなく撃墜されてしまったのは自分のせいだ……自分の技術がまだまだ未熟だから、手練れを相手取って戦えるだけの知識も経験もないから……

 此処で終わる訳にはいかないのに……なのに、このままではブレードイーグルもユナイトも奴等に奪われてしまう。恐らくユナイトと一緒に居るシーナも……

 

「お返事が無いようだけれど、このままコックピットに籠城して抵抗しようと考えてるなら無駄よ。何ならこのまま、貴方が遺跡に隠したオーガノイドを此処まで引きずって来て脅してあげましょうか?」

「なっ?!……」

 

 思いがけない言葉に、カイは茫然とノイズ混じりのモニターに映るステルスバイパーを見つめる。

 

「なんでユナイトが遺跡に居るって……まさか……」

 

 混乱し、切羽詰まっていた頭の奥が一気に冷静になる。

 このステルスバイパーが遺跡に向かおうとしたのは鎌掛けだったのだ。

 恐らく戦っている間ユナイトの姿が何処にも見えない事に気付いていたのだろう。

 そして、あの多勢に無勢の中サッサと離脱せずに必死に戦おうとしていた姿を見て、此処から離れられない理由があるのだと見抜いたに違いない……確かにここまでピースが揃えば容易に想像が付く。

 

「くそっ! シーナとユナイトを捕まえて俺達の前に突き出すなんて、そんな事させてたまるか!」

 

 カイはコックピットから出る事を決心した。

 ブレードイーグルを奴等に渡す気は毛頭無いが、今はとりあえず奴等が遺跡に行きシーナとユナイトを人質に取るのを阻止しなければ本当に八方塞がりになってしまう。

 だが……

 

「あれ?……」

 

 キャノピーの開閉レバーを引いても、全くキャノピーが開く気配が無い。

 

「おい! イーグル! キャノピー開けてくれ! このままじゃシーナとユナイトが人質になっちまう!!」

 

 ブレードイーグルを起こそうとするかのようにコンソールパネルの端をバシバシと叩くが、依然としてブレードイーグルは全く何の反応も返さない。

 

「おい……嘘だろ??……」

 

 サァッと顔から血の気が引くのが自分でわかる……

 現代のゾイド達はコンバットシステムがフリーズしても開閉レバーやスイッチを操作すればキャノピーが開くようになっている。それは最悪の場合機体を捨ててでもパイロットが脱出出来るようにする為だ。これは帝国ゾイドにも共和国ゾイドにも共通している安全基準であり、ゾイドの点検などでもチェック項目として義務付けられている。

 しかし、ブレードイーグルは古代ゾイドだ。そういった基準も通用しない。という事だろうか?……

 いや、被弾した際にキャノピーの開閉機構が壊れてしまったのかもしれない。正面から思いっきりマシンガンを食らったのだからそちらの可能性も十分にある……

 どちらにせよ、コックピットから出られないというのは非常に忌々しき事態だ。

 

「ボス~。此処まで言って無反応とか、パイロットのガキ、中で意識飛んでんじゃないっすか?」

 

 不意に、ガイサックのパイロットが外部スピーカーで呼びかけた。

 

「あらやだ。困ったわねぇ……でも確かに真正面からヘビーマシンガン叩きこんじゃったし」

 

 ステルスバイパーから少々戸惑ったような声が外部スピーカーを通して聞こえてくる。

 

「しょうがないわね。ちょっと確認してみましょ。サム。ユアン。手伝ってくれる?」

 

 そう言ってステルスバイパーのパイロットが降りてくるのを見たカイは、咄嗟にシートへ体を預けて目を閉じ気絶したふりをした。ブレードイーグルのキャノピーは共和国ゾイドの全面キャノピーと違い、帝国ゾイドのような装甲キャノピーだが、至近距離でアイレンズを覗き込めばコックピット内が一応確認出来る。本当に気絶しているのだと思ってくれればそれだけでも多少なり時間稼ぎになるだろう。

 

「あー。これガチのパターンっすわボス。マジで意識飛ばしちゃってるぽい」

 

 ガイザックから降りて来た青年、ユアンがブレードイーグルのアイレンズからコックピットを覗き込み声を上げる。

 アシュリーが隣から同じようにコックピットを覗き込んで見れば、パイロットの少年……情報屋のカイが力無くぐったりとシートに体を預けたまま目を閉じているのが確認できた。

 

「どうします?」

 

 反対側のアイレンズから同様にコックピットの中を覗き込んでいたサムが顔を上げてボソッと訊ねる。

 アシュリーは当てが外れてしまった事で少々困った顔をしていたが、軽く溜め息を吐いた後でサムを見た。

 

「初めて見る型のゾイドだけれど、外部からの強制開閉スイッチ探せるかしら?」

「少し時間がかかるかもしれませんが、恐らくある筈です」

「そう。じゃぁこのゾイドとその坊やの事は任せるわ」

 

 アシュリーのその言葉をキャノピー越しに聞き、カイは気絶したふりをしたまま内心ホッとする。

 これで暫く時間が稼げる筈だ。その間にシーナが目を覚ましてユナイトと何処かに隠れてるか逃げるかしてくれれば……

 

「じゃぁ、その間に私達はあの遺跡にオーガノイドを探しに行くわよ」

(え?!)

 

 唐突な一言にカイは思わず目を見開きそうになる。

 

(マジかよ?!)

「えー? マジすかボス。ホントにこの遺跡にオーガノイド隠してんすかね?」

「恐らくね」

 

 ユアンの気だるげな声に、アシュリーは一言そう答えると他のメンバー達にも声を掛ける。

 

「さ! この坊やに構ってる間に逃げられたら元も子も無いわ。手の空いてる子達は手伝って頂戴」

「あーあ。目の前にクソガキカイが居るってのにお預けかよ……」

「まぁまぁ。気絶してるんだから少なくとも逃げられる事は無い筈よ。お楽しみの前に一仕事しましょ」

「うーっす……」

 

 耳に届いたそのやりとりに、カイはふと気が付いた。

 

(クソガキカイ?……)

 

 聞き覚えのあるその呼び様に、そっと薄っすら目を開けてノイズの混じったままのモニターを確認する。

 間違いない……遺跡へ向かうその後ろ姿は……

 

(スカーレット・スカーズ?!)

 

 思わず目を見開きそうになるのを寸前で堪え、カイはそっと目を閉じ直す。

 だが、その後ろ姿は瞼の裏に焼き付いて消えなかった。

 気絶したふりをしたまま、背筋が冷たくなっていく……警告音の響くコックピットの中に居ながら、カイの耳を満たすのは警告音ではなく五月蝿い程の自身の鼓動の音だった。




[Pixiv版第8話はコチラ]
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9808168
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