ZOIDS-Unite-   作:kimaila

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第9話-脱出作戦-

 ククルテ遺跡にやって来た俺達だったけど、シーナがいきなり気絶しちまった。

 そこに突然、謎のゾイド集団が現れて俺とイーグルはまさかの絶体絶命。

 奴等の目的はユナイトとイーグルらしいけど、このままじゃユナイトやイーグルだけじゃなくシーナまで捕まっちまう!

 しかも、そのゾイド集団の中にはスカーレット・スカーズの3人が居たんだ……

 [カイ=ハイドフェルド]

 

 [ZOIDS-Unite- 第9話:脱出作戦]

 

 ふと、シーナは遺跡の中で意識を取り戻した。

 目を開けば、ユナイトが嬉しそうに顔を覗き込みグオグオと鳴いている。

 

「ユナイト……ごめんね。心配させちゃって」

 

 ゆっくりと起き上がった彼女は、ふと、カイの上着が枕になっていたことに気が付いた。

 その上着をそっと拾い上げ大事そうに抱きしめながら、彼女は辺りをくるりと見渡す。

 ……カイの姿は何処にも無い。

 

「ねぇ、カイは?」

「グオグオグオ」

「此処で待っててって……でも、一体何処に行ったの?」

「グオ……」

 

 ふいにしょんぼりと目を伏せるユナイトに、シーナは胸騒ぎを覚える。

 

「カイに……何かあったの??」

「グオ……グオグオ……」

「外から戦ってる音が聞こえた?! じゃぁカイ戦ってるの?!」

 

 青ざめながら叫ぶも、シーナはすぐに違和感を覚えた。

 少なくとも今は、戦闘音など全く聞こえないのだ。

 既に戦闘は終わっているのだろうか?しかしそれならカイが戻って来ないのはおかしい……

 だが、カイが危機的な状況だったのならユナイトが此処に居るのも妙だ。

 

「カイとブレードイーグルの所に……行かなかったの?」

「グォゥ……グォーゥグオゥ……」

 

 ユナイトの言葉に、シーナは俯いた。

 シーナを頼む。とカイは言ったのだそうだ。素直なユナイトは外から聞こえる戦闘音にハラハラしながらも、その言いつけを律儀に守って此処に残って居たのだろう……

 

「……ユナイト。カイの様子を見に行こう」

「グオ?! グオグオゥ?!」

「私ならもう大丈夫。それより今はカイとブレードイーグルの方が心配だから」

「グオ!」

 

 わかった! と力強く頷いたユナイトを引き連れ、シーナは遺跡の中を進む。

 ほんの僅かばかり思い出した記憶を頼りに彼女が辿り着いたのは、遺跡の塔だ。

 その塔の窓から慎重に辺りを見渡せば、すぐにゾイドの姿が確認出来た。

 見た事の無いゾイド達と、そのゾイド達に取り囲まれて地に伏しているのは……間違いなくブレードイーグルである。

 

「そんなッ……」

 

 シーナが思わず息を飲むように掠れた声を上げる。

 同時に、ユナイトが慌てふためいた様子でドタバタと階段へ引き返そうとしたが、シーナは慌ててそれを止めた。

 

「あ!! 待ってユナイト! 今行っちゃ駄目!!」

「グォゥッ……」

 

 だってッ……と声を上げるユナイトをもう一度塔の窓へ引っ張って行き、シーナは地に伏したブレードイーグルを見つめて口を開いた。

 

「よく見て。カイが捕まってる様子が無いでしょ?」

「グオ??」

 

 首を傾げるユナイトに、彼女は言葉を続けた。

 

「もしコンバットシステムがフリーズしてイーグルが気絶してるなら、キャノピーは簡単に開くもの。中からの操作でも、外からの操作でも……けどほら。あそこ。イーグルの顔の周りに人が集まってるって事は、きっとイーグルがキャノピーを開けようとしてないんだよ」

「グオグオグオ??」

「うん。イーグルはきっとやられたふりをしてるだけ。スパークしてるから怪我もしてるけど……でも意識はある筈。多分カイを守る為にキャノピーを閉めてるんだと思う」

 

 そう言って、シーナは考え込んだ。

 ユナイトがブレードイーグルに合体すれば、あの程度の傷ならすぐに再生出来る。

 問題は、自分とユナイトがどうやってあそこまで辿り着くかだ。

 自分がユナイトの中に入って、飛んでいけば良いとは思うのだが、ブレードイーグルの元へ辿り着く前に周囲を取り囲むゾイド達に撃ち落とされない保証は無い。

 それに、再生して飛び立とうとしたブレードイーグルが攻撃を受けるのも恐らく確実だろう。

 なんとか周囲のゾイド達を追い払えれば良いのだが、良い方法が全く思いつかない。

 自分はザクリスやアサヒのように武器もないし、荒事の経験が無い手前、上手く追い払える自信もなかった。

 

「うぅ……どうしよう……」

 

 途方に暮れたような声を上げたシーナの視界に、遺跡の方へ歩いてくる人々が映る。

 中には見覚えのある3人組の姿もあった。

 

「あ。あの人達って、カイを追い掛けてた盗賊さん達……」

 

 この遺跡に何か用事でもあるのだろうか?

 だが、正直これはチャンスかもしれない。

 ブレードイーグルの傍に居るのはスキンヘッドの男性が一人。

 残りの者達は全員ゾイドを降りて遺跡の方へ歩いて来ている。

 

「ユナイト! あの人達が遺跡の中に入って来たら、イーグルの傍に居るのはあの人だけだよ! この遺跡広いから、あの人達に見つからないようにイーグルの所まで行けばきっと大丈夫!」

「グオ! グオッグォ!」

 

 うん! わかった! と頷いたイーグルににっこりと笑いかけると、シーナはユナイトの胸部を開き、中へ入る。

 遺跡に入って来たのは全員で6人。この遺跡の広さならどうにか見つからずに進めるだろう。

 

(行こう。ユナイト)

「グオ!」

 

 シーナと視界を共有しながら、ユナイトは気を引き締めるように一声鳴くと慎重に階段を降り始めた。

 

   ~*~

 

「しーっかし……こんなデカイ遺跡の中からオーガノイド一匹見つけるって、大分難儀ですよ。コレ」

 

 遺跡に踏み入るなりそんな声を上げたのはオスカーだった。

 彼の言葉に、ユアンも捕縛用の電磁ネットランチャーを頭の後ろに担ぎながら気怠そうに溜息を吐いた。

 

「ほんそれ。マジないっすわ」

「あら、見つける前から弱音? らしくないじゃない」

 

 笑い混じりにアシュリーが問いかければ、ユアンは口をとがらせる。

 

「だってオーガノイドってゾイドと合体出来るんしょ? だったらあの鳥ゾイドの中に居たんじゃね的な??」

「いや。それはねぇな」

 

 キッパリと短く、スヴェンが言う。

 

「オーガノイドが合体すると、あのゾイドはとんでもなく強ぇんだ。あんなにあっけなく墜ちたなら、オーガノイドはあのゾイドの中にはいねぇよ」

「だそうよ? ユアン」

「マジかよぉ~……余計テンション下がるっすわ」

 

 ぐったりした様子で上を向きながら溜息を吐くユアンに、もう一人のガイサック乗りが声を掛けた。

 

「じゃぁ勝負するか? どちらが先にオーガノイドを捕まえるか」

「お?? マジでマジで??」

「ああ。負けた方が勝った方に酒を奢る」

「キーターコーレぇ! レナぴっぴマジ最高! ごちでーっす!!」

 

 ひゃっほー!と駆け出したユアンの後ろ姿に呆気にとられるスカーズの3人の前で、アシュリーは可笑しそうにクスクスと笑い、勝負を持ち掛けたガイサック乗り……レナルドは呆れたように溜息を吐いた。

 

「全く……相変わらず単純で助かるというか、単純すぎて心配になるというか……」

 

 そんなレナルドの呟きに、アシュリーが笑いながら口を開く。

 

「まぁね。でもそこがユアンの良い所でもあるんですもの。その辺は大目に見ましょ」

 

 そう言って彼はホルスターバッグからインカム型の無線を取り出し、耳に装着しながら振り返ると薄い笑みを浮かべた。

 

「じゃ。発見したらすぐ報告って事でよろしくね」

 

   ~*~

 

(どうしよう。此処も崩れちゃってる……)

 

 ユナイトの視界を通して瓦礫に塞がれた通路を見つめながら、シーナは途方に暮れていた。

 記憶を思い出したとはいえ、ほんの僅かだ。かつて一度訪れた事がある場所でも内部の構造を全て思い出した訳ではない上に、何処がどう崩れているかはこうして歩き回ってみなければ知る由もない。

 

(……うん。此処は駄目。引き返すしかなさそう)

 

 引き返す?と問いかけてくるユナイトの意識に意識で返しながら、シーナはユナイトの視界を借りて辺りを見渡す。

 遺跡の内部へ入って来た者達に見つからずに済むのが一番だが、万が一見つかったとしても開けた場所……崩れて天井が無くなっている部分や中庭などに出られさえすればユナイトの展開翼で一気にブレードイーグルの元へ飛んで行ける。

 徒歩の人間がユナイトの飛ぶスピードについて来れる筈がない。慌ててゾイドの元へ一斉に引き返して来たとしても、彼等が各々の愛機の元へ辿り着く頃にはブレードイーグルと共に飛び立てる筈だ。

 ……逆に言えば、四方を壁や天井に囲まれた場所で見つかってしまった場合は逃げ回るしか無いのだが……

 

「さってさってさってと! オーガノイドはどっこでっすかぁ~? っと」

 

 ふと、傍の階段の下から声が聞こえる。

 シーナはユナイトの中で微かにビクッと肩を震わせ、ユナイトの視界越しに階段の方へ視線を向ける。

 目の前は瓦礫に塞がれ行き止まり。反対方向へ逃げるには階段の前を横切らなければならない……慌てて走れば足音で気付かれるのは間違い無いが、抜き足差し足で進んでいても間違いなく鉢合わせてしまう。

 

(ユナイト! ジッとして!)

 

 シーナが咄嗟に出した指示に慌てふためいた様子でユナイトはキョロキョロと辺りを見渡した……

 

「あ??」

 

 一方、階段を上って来たユアンは階段の傍の壁際に佇む桜色の小型ゾイドにすぐ気が付いた。

 しかし、小型ゾイドは壁を背にどっしりと仁王立ちしたまま全く動く気配がない。

 

「お~? 何コレ何コレ?? 古代の石像??」

 

 ユアンがユナイトの顔を見上げるように覗き込む。

 そんなユアンの顔をユナイトの視界越しに確認したシーナはギクリと身を強張らせ、抱きしめたままのカイの上着を更にキュッとキツく抱きしめながら祈るように固く目を閉じる。

 

(そう! 私達は石像! 石像なの! だから気付かないで! 早く向こうに行って! 

 お願い! お願い!!)

(……)

 

 必死に祈るシーナとは裏腹に、ユナイトはホントにコレで誤魔化せるかなぁ?……と気が気ではない。

 だが……

 

「うっひょ~! クオリティマジやべー!! 石でこんなん作れるとか古代人パネェわ!」

 

 ユアンの言葉に、シーナは思わずきょとんと目を開く。

 

「しかも塗装してあるとか超力作過ぎっしょ。パッと見ガチで物本かと思ってマジビビったわ。こぉれぇ、ぶっちゃけオーガノイドよりお宝なんじゃね??」

 

 顎に片手を添えてジッとユナイトを眺めていたユアンだったが、やがてガックリと項垂れ、おもむろに溜息を吐いた。

 

「つかもうこれで良くね?ぜってぇお宝だってコレ……」

(えっ??……)

 

 またもシーナがギクリと身を強張らせる。

 まさか石像と勘違いしたまま自分達を運ぶ気なのだろうか?という思いが一瞬頭を過った。

 いや。流石にそれは無い……無い筈だ。

 

「あ~ぁ。俺一人じゃ石像なんて運べねーしなぁ……オーガノイド探さねーと、レナぴっぴに先越されちまったら俺が酒奢んねーとだし……」

(よ、よかったぁ……)

 

 ホッと安堵するシーナとユナイトの事など終ぞ気付かぬまま、ユアンは気怠げに捕縛用ランチャーを担ぎ直して階段の前を通り過ぎ、瓦礫で塞がれていない方の通路へと歩き出す。

 子供騙しのような作戦に見事に引っかかってくれたユアンの後ろ姿を、ゆっくりと気付かれぬように首を動かしながら見つめて、ユナイトも、シーナ自身もその単純ぶりに思わず呆気にとられた。

 

「駄目かと思ったけど、ホントに誤魔化せちゃった……」

 

 ユナイトの胸の中で、シーナの唇から小さな呟きが漏れる。

 とにかく、彼が向こうへ行ってくれたのはとんでもない幸運だ。こんなチャンス滅多に……いや、二度と無いだろう。

 

(今だよユナイト。そぉ~っと。そぉ~っとね)

 

 足音を立てないように細心の注意を払いながら、ユナイトがゆっくりと動き出す。

 とりあえず目指す先は、ついさっきユアンが上って来た階段だ。

 

[ピピピッ]

 

 突然鳴った電子音に、ユナイトが一歩踏み出しかけた足をピタッ!!と止める。

 鳴ったのはユアンが耳に付けているインカム型無線機の呼び出し音だった。

 

「うぃーっす。こちらユアンでっす」

 

 ユアンは無線の呼び出しに足を止める。

 中途半端に片足を上げたユナイトと立ち止まったユアンの距離は10メートルも離れてはいない……が、幸いな事にユアンはユナイトに背を向けたままだ。

 もし少しでも気付かれたら、何かの拍子に振り返って来たら、一瞬でバレてしまう……

 しかし、緊張に心臓が痛い程バクバクと早鐘を打つのを感じながらも、シーナは意を決したようにユナイトの中で微かに頷いた。その頷きに、ユナイトはまたゆっくりと物音を立てぬように階段へのろのろと足を進め始める。

 

『そっちは見つかったか?』

 

 ユアンに無線を入れて来たのはレナルドであった。

 彼の問いに、ユアンは大袈裟な程の声音で不満を垂れる。

 

「オ~ガノイドのオの字もないっつの! マジ無理! 見つかんね!!」

 

 そんな彼の言葉に、レナルドは一息……心底呆れたような溜息を吐いて頭を抱えた。

 だが、次の瞬間にはやけに機嫌の良い声音でユアンが喋り出す。

 

「つか聞いてくれよレナぴっぴ。俺オーガノイドよりすげぇモン見つけちまったかもなんだけど」

『オーガノイドより凄い物??』

 

 怪訝そうな声を上げるレナルドに、ユアンは得意げに言葉を続けた。

 

「や、マジでこれガチな奴だから! 超ハイクオリティなゾイドの石像! ぜってぇ学者とかに馬鹿売れするって!」

『……お前なぁ……』

 

 心底呆れかえっているのがわかる程脱力した声音で呟くレナルドに構わず、ユアンは言葉を続ける。

 

「いやいや! 普通の石像とはマジでクオリティがちげーんだって! もうパッと見マジで物本的な奴! おまけに塗装までしてあってホントパネェの! 石像に鏡面仕上げプラス塗装とか古代人スゲくね??」

『塗装された石像?……』

 

 レナルドの脳裏に ま さ か の3文字が過る。

 

『ユアン。石像の大きさは?』

「あ? 人間より一回り大き目くらいじゃね?」

『形は?どのゾイドに似ている?』

「んーとぉ、恐竜型?? あ、つっても全然ゴツくなくて……なんつーかほら! アレ! ゴドスちっこくして、もっとオシャンティーな恐竜チックにした感じの」

『……塗装してあると言ったな。何色だった?』

「ちょい薄ピンク? ほら。ボスが先週買った~とか言ってたオニューのパン――」

 

 そこまで聞いた瞬間、レナルドから怒号が飛んだ。

 

『馬鹿野郎!! そいつがオーガノイドだ!! とっとと捕まえろ!!!』

「ぶえ?! マジでぇ?!」

 

 思わず振り返ったユアンと、やっと階段の一段目を降りようとしていたユナイトの目が合った。

 

「あ……」

 

 シーナがユナイトの中で引き攣った笑みと共に思わず声を漏らす。

 気まずい沈黙が両者の間に一瞬奔った。

 が、すぐに時間は慌ただしい程のスピードで再び進み出した……

 

「う、動いたぁぁぁぁ?! わ! ちょ! マジかよ! ランチャーランキャー!!」

「グウォウォウォウォッ?!」

「だぁ! 待てゴルァ!!」

 

 わたわたと慌ててランチャーを構えるユアンに目もくれず、ユナイトがドタバタと階段を駆け下りる。

 いくら小型とはいえ、オーガノイドもれっきとしたゾイドだ。その気になれば自動車並みのスピードで走る事も出来るのだから人間が走って追い掛けた所で到底追いつける筈もない。

 風化して脆くなった階段を踏み抜かないように気を付けつつも、ユナイトは必至で階段を駆け下り階下のフロアへ出る。

 キョロキョロと辺りを見渡して、ユナイトはすぐに中庭へ出る為の通路を走り始めた。

 

   ~*~

 

「こちらレナルド! ユアンがオーガノイドを見つけた! 至急援護を頼む!!」

 

 捕縛用ランチャーを手に走り出しながら、レナルドが無線の共通周波数で呼びかける。

 問題はユアンが今何処にいるのか?という点なのだが……

 

「あの筋金入りの方向音痴に場所を聞いたところで、答えられる訳がないか……」

 

 早々に諦めたような声で彼はげっそりと呟く。

 まぁ正直この規模の遺跡の中……しかもあちこちが崩れ尚更迷路のようになっている状態の場所で、自分の位置を正確に伝えるのは方向音痴でなくともそう容易くはいかないだろう。

 しかし運の良い事に、走るレナルドの先……通路の奥から足音が響いてくる。

 カシャカシャという金属音のような足音が。

 

「しめた!」

 

 彼は手にしている捕縛用ランチャーを構え直しながら、サッと通路内の柱の陰に身を隠す。

 後は柱の傍を通り過ぎようとしたオーガノイドへ捕縛用ランチャーを撃ち込みさえすれば、電磁ネットが仕事をしてくれるだろう。

 

「そこだ!!」

「グオ?!」

 

 通りかかった桜色のオーガノイドへレナルドが捕縛用ランチャーを放った。

 ……だが、そうあっさり捕まるようなユナイトではない。

 まるで「うわーっ?!」と叫ぶかのように目と口をかっ開きながらも、ユナイトはその短い両手で咄嗟に頭を抱えながら床に伏せ、間一髪の所で飛んで来たランチャーの弾を避ける。

 避けられてしまった弾はユナイトの斜め前の壁面に着弾し、派手な爆発音を立てた。

 案の定、風化して脆くなった壁面は着弾時の衝撃で大穴が開き、炸裂した弾から広がった捕縛用の電磁ネットが空しく瓦礫を包んでビリビリと放電している……だけで済む筈もなく……

 ぽっかりと開いた大穴から更に上に向かって亀裂が容赦なくビシビシと音を立て広がっていった。

 

「しまった!――」

 

 思わず声を上げたレナルドの目の前で、天井が轟音を立てて崩れ落ちた。

 咄嗟に瓦礫から逃げようとした彼の視界の端に、慌てた様子でドタバタと降り注ぐ瓦礫の向こうへと逃げて行くオーガノイドの後ろ姿がチラッと映り込む。が、降り注ぐ瓦礫を突っ切って追い掛けるのは流石に無理だ。

 

「くそ! 逃げられた!」

 

 崩落が収まった瓦礫を振り返りながら、思わずそんな怒鳴り声が口を突いて飛び出す。

 そんな彼の後ろから、息を切らせつつユアンが走って来た。

 

「ちょッ! レナぴっぴっ……だいじょぶっ?……」

「ああ……」

 

 ぜーはーと肩で息をしながら声を掛けて来るユアンに、レナルドは短く答えながら瓦礫を見上げた。

 完全に通路を塞いでしまった瓦礫を睨みつけ舌打ちをすると、彼は再び無線に呼びかける。

 

「オーガノイドは西通路を南へ逃走中。こちらもすぐに向かう」

『おう! 任せとけ!!』

 

 無線機越しに威勢良く返事を返したのは、スヴェンの声であった……

 

   ~*~

 

「さっきの人、瓦礫に巻き込まれてないと良いけど……」

 

 一方、シーナはそんな心配をしていた。

 自分達はカイとブレードイーグルの元に行きたいだけだ。例えいきなりランチャーで襲って来た相手といえども怪我をさせたいわけではない。出来るだけいざこざは避けたいのだが……

 

「グオグオグオ!」

「うん!」

 

 もうすぐ中庭だよ!と叫ぶユナイトに返事をしながら、通路の奥に見え始めた中庭の景色にホッとする。

 中庭に出さえすれば後はブレードイーグルの元へ飛んでいくだけで良い。

 だが……

 

「あぁぁぁぁ!! 居たぁ!!!」

「兄貴ィ!! こっちですこっち!!」

 

 中庭の奥から慌ただしく走って来るオスカーとスティーヴ、そしてその後ろから一拍遅れて走って来るスヴェンの3人を見つけ、ユナイトは慌てて今来た通路を引き返す。

 とはいえ、馬鹿正直に真っ直ぐ引き返せば先程崩れた瓦礫で通路は行き止まりだ。

 

(ユナイト! そこの階段!)

「グオ!」

 

 ユナイトが慌てて階段を駆け上る。

 そのすぐ後に続き、スカーズの3人が階段を駆け上がるが、ユナイトが加減を忘れて駆け上がったせいで、風化した石階段にはヒビが入っていた。

 

「なぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「スティーヴ?!」

 

 ヒビの入った階段を、スヴェン、オスカーの2人が更に駆け上がったせいで、一番恰幅の良いスティーヴが階段を駆け上がろうとした瞬間、とうとう限界だった階段がガラガラと崩れ落ちた。

 慌てて振り返ったオスカーが瓦礫と共に下に落ちたスティーヴを見下ろす。

 スティーヴは崩れた瓦礫の上で目を回していた。

 

「兄貴! スティーヴが!」

「あいつは自前の緩衝材たっぷり入ってんだから大丈夫だろ! まずはオーガノイドだ!」

「う、うっす!!」

 

 上の階へ逃げたユナイトを再び追い始めるスヴェンとオスカーの足音を聞きながら、階下に落ち目を回したスティーヴは力無く呟いた。

 

「緩衝材って……酷いっすよぉ兄貴ぃ……」

 

 だがまぁ、落ちたのがスヴェンやオスカーではなくて良かった。

 痩せっぽちのオスカーでは間違いなく怪我をしていただろうし、自分達のリーダーはあくまでスヴェンなのだから、もし彼が落ちたのならば置いていく訳にはいかない。

 

「後で、助けに来て下さいよぉ……」

 

 2人が無事にオーガノイドを捕まえてくれる事を祈りつつ、仲間思いの彼は1人ごちた。

 一方上の階でユナイト&シーナ対スヴェンとオスカーの追いかけっこはまだまだ続く。

 とにかく必死に追いかけてみたり、通路を先回りにして挟み撃ちにしてみたりと色々試してはいるのだが、スヴェンとオスカーにとってユナイトはかなりすばしっこいオーガノイドであり、どうにも上手くいかない。

 ……逆を言えば、ユナイトにとってこの2人はとにかくしつこくて、すっかり途方に暮れている状態なのだが。

 そんなユナイトを一つ上の階の窓から小型望遠鏡で眺め、アシュリーは薄い笑みを浮かべる。

 

「み~つけた」

 

 彼は捕縛用ランチャーを構え、狙いを定めながら無線機に喋りかけた。

 

「スヴェン、オスカー、オーガノイドがその通路から動かないように挟み撃ちにしておいてくれる?」

『おう!』

『うっす!』

 

 2人の返事を聞き、アシュリーは捕縛用ランチャーの照準をユナイトが居る通路の窓へ向けた。

 スヴェンとオスカーの2人に再び通路を挟み撃ちにされ、ユナイトがじりじりとあとずさる……

 照準を合わせている窓の前にユナイトが来るまであと少しだ。

 

『もう少しオーガノイドを下がらせて。あと2歩で良いわ』

 

 アシュリーの指示に、ユナイトの目の前に居るスヴェンが1歩踏み出す。

 まさか窓の外から狙われているなどと知らないユナイトは、スヴェンの傍をすり抜けるタイミングを計っているかのように警戒した様子で1歩あとずさった。

 あと1歩……スヴェンが再び1歩踏み出す。

 ユナイトも、やはりもう1歩後ずさった……

 

「来た!」

 

 アシュリーの放った捕縛用ランチャーの弾が窓の前に来たユナイトめがけ一直線に空を切る。

 しかし、ランチャーの発射音を聞いたユナイトの方が僅かに反応が早かった。

 ユナイトは咄嗟にスヴェンめがけてサブバーニアを噴かせ突っ込んだ。

 

「うぉわ?!」

 

 いきなり突進して来たユナイトを間一髪で避けながら、スヴェンはすぐにユナイトを振り返った。

 しかし、避けられたランチャーの弾がやはり先程と同じように通路の壁に着弾し、開いた大穴からビシビシと亀裂が走り始めたせいで壁と天井が派手に音を立て崩れ始める……

 瓦礫から身を守るように床へ伏せたスヴェンの上を、折り返すようにユナイトがサブバーニアで飛び越した。

 自分達が今居る階の上が既に崩れていたせいで、崩れた天井の上に青空が広がっていたのだ。

 

「行こう! ユナイト!」

「グォ!!」

 

 開いた天井の穴からユナイトが空へ飛び出す。

 やっと広い空間に出た事で、展開翼を広げたユナイトはそのままブレードイーグルの居る方角めがけて一直線に飛び立った……だが……

 

「っしゃぁ! 頂き!!」

 

 そんなユナイトを中庭から見上げたユアンが、捕縛用ランチャーを放つ。

 空中に居るお陰でその弾自体は難なく避けたユナイトだったが、その一瞬の隙をアシュリーが見逃す筈が無かった。

 

「逃がさないわよ!!」

 

 ユナイトが弾を避けた先は、アシュリーが居る窓のすぐ傍だった……

 彼は空のランチャーを放り出すと、窓枠に足を掛け思いっきり宙へ飛び出す。

 必死に伸ばしたその手が、ユナイトの左足を掴んだ。

 

「グォ?!」

「え?!」

 

 ユナイトとシーナが思わず声を上げる。

 一歩間違えば地面に叩きつけられ死んでしまうような高さであるというのに、躊躇せず飛び出して来るとは……

 

「さぁ、観念なさい。」

 

 もし手を滑らせたら、振り解かれてしまったら、間違いなく助からない状況であるにも関わらず彼は勝ち誇った笑みを浮かべてユナイトを見上げる。

 ユナイトとシーナは迷った。

 アシュリーをぶら下げたままではブレードイーグルに合体出来ない。

 しかし、どうにかして振り解いてしまったら……彼は死んでしまう……

 いくら自分達を狙い襲って来た相手でもそんな事は……人を殺すような事は……

 

(どうしよう……)

 

 迷うシーナの意識を感じ取り、ユナイトは意を決したように短く鳴いた。

 

「グオ!」

 

 ユナイトはぶら下がっているアシュリーを振り解かないように、一直線に真上に向かって上昇し始めた……

 

   ~*~

 

「ねぇユナイト! 一体どうするつもり?! こんな高さから落ちたらこの人死んじゃうよ?!」

「グォグォ!」

 

 いきなり上空を目指し高度を上げるユナイトへ、シーナが思わず声を上げる。

 だがユナイトはただ一言、大丈夫!と答えるだけだ。

 

(一体何を……)

 

 そう考えかけた矢先、ユナイトは空中で容赦なくアシュリーを振り解くように勢いよく宙返りした。

 

「あ!!!」

 

 目を見開き叫んだシーナの目の前で、遠心力によってアシュリーがユナイトの頭上高く放り出される……

 振り解かれた片手を伸ばしたまま青空に放り出されたその姿は、まるで空の彼方へ落ちて行くかのようだった。

 

「あ……」

 

 振り解かれた瞬間、微かな声がアシュリーの口から零れる。

 無謀なのはわかりきっていたが、まさかわざわざこんな上空で放り出すとは……

 

(全く……可愛い見た目して、良い性格してるじゃない……)

 

 引き攣った笑みを浮かべてユナイトを見つめた後、彼は諦めたようにそっと目を閉じた。

 流石にこの高さでは到底助からない……人生の終わりとは本当に呆気なくやって来るものだなと、何処か他人事のように頭の片隅で思う彼の脳裏に、ふとザクリスの顔が思い浮かんだ。

 

(せめてもう一度……逢いたかった……)

 

 放り出された際の勢いは既に失われており、後はただただ落下していくだけだ。

 このまま……遺跡の何処かに叩きつけられて、自分は死ぬのだろう。

 だが、死を覚悟したアシュリーの身体に、不意に何かがそっと巻き付く。

 

「え?……」

 

 ハッと目を見開けば、ユナイトの尾がまるでフックのようにアシュリーの身体を空中で捕えていた。

 次の瞬間、グッと減速され尾を回されている腹部にGが掛かる。

 その感覚に若干息を詰まらせながら、彼は思わず落ちないようにユナイトの尾に抱き着くが、今度は振り解かれる様子が全く無かった……

 

「なんで?……」

 

 ポツリと呟きが漏れる。

 わざわざこんな上空にやって来て放り出したのだ。このまま放っておけば間違いなく自分を殺せるというのに……

 何故?一体なんで?と思いながら、アシュリーは自分を連れて緩やかに地上を目指すユナイトをただただ見つめていた。

 

「よ……良かったぁ……」

 

 一方のシーナはユナイトの胸の中で心底ホッとしていた。

 が、彼女はすぐにムッとした様子で不満げな声を上げる。

 

「もう! 最初から助けるつもりだったんなら、あんな振り解き方しなくても良かったのにッ……」

「グオグオグオ。グォーゥグォゥ」

 

 高さが無いとキャッチ出来ない。と答えるユナイトに、シーナは不服そうにぷくっと頬を膨らませる。

 昔からそうだ。普段の性格は温厚でぽやっとしているというのに、こういう危機的な状況での判断は時折しっかりしているのを通り越して容赦がないというか、無茶苦茶というか……

 まぁ、何はともあれぶら下がっていた人物を死なせずに済んだのがユナイトの機転のお陰なのは事実だが。

 

「平気で無茶するところって、私よりアレックスに似てるよね。ユナイトは」

「グゥ?」

 

 若干呆れたような声音でそう言えば、ユナイトは「そう?」と不思議そうに首を傾げる。

 そんなユナイトの反応に溜息を吐いて、シーナは言った。

 

「とにかく、この人を降ろしてブレードイーグルの所に行こ」

「グオ!」

 

 ユナイトは遺跡の屋上のようになった場所へと降り立った。

 そっと尾を放せば、アシュリーはそのままぺたんと座り込み、ぽかんとユナイトを見上げている。

 再び飛び掛かって来る様子がないのを確認し、ユナイトはブレードイーグルの元へ向かおうとしたが、そんなユナイトをアシュリーは座り込んだまま呼び止めた。

 

「ねぇ!」

「グォ??」

 

 振り返るユナイトに、アシュリーは訊ねる。

 

「なんで……助けてくれたの? 私、貴方の事を捕まえようとしたのよ??」

 

 戸惑いの表情を浮かべるアシュリーを少し眺めた後、ユナイトはそっと彼の顔を覗き込んだ。

 思わず身を強張らせた彼の頬に、ユナイトはそっと優しく頬ずりする。

 それはまるで、気にしていないよ。と言っているようでもあり、さっきはごめんね。と言っているようでもあった。

 

「……」

 

 言葉を失ったアシュリーを残し、ユナイトは今度こそブレードイーグルの元へ飛び立つ。

 その後ろ姿を彼はただ呆然と見つめていた……

 

   ~*~

 

 ブレードイーグルに辿り着いたユナイトは、そのまま傷ついたブレードイーグルの中へと消えた。

 次の瞬間駆動部や装甲の合わせ目に光が走り、ブレードイーグルの傷がみるみる再生していく……

 それに伴い、コックピット内の警告灯と警告音が収まり、ノイズの混じっていたモニターも回復していつもの青白い輝きを取り戻した。

 

「ユナイトか?!」

 

 気絶したふりをしていたカイは、そのコックピットの変化で弾かれたように身を起こし目を見開く。

 回復されたブレードイーグルはアイレンズを煌めかせると自立行動モードですぐに離陸した。

 カイは途端に慌てて大声を上げる。

 

「ちょ! 待てよイーグル! まだシーナが!!」

『大丈夫だよカイ。私ならユナイトの中に居るから』

 

 コックピットに響いた声に、カイは驚いた様子で目を見開いた。

 

「ユナイトって、シーナを取り込んだ状態でもイーグルと合体出来るのか……」

 

 本当に、オーガノイドと古代ゾイド人の能力は分からないことだらけだ。

 ぽかんとしているカイに、シーナは明るく語りかけた。

 

「カイ。早く逃げよう。」

「ああ! 全速離脱だ!」

 

 カイが操縦レバーとフットペダルを全開にすれば、ブレードイーグルは一気に空の彼方へと飛び去った。




[Pixiv版第9話はコチラ]
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9889615
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