最強竜っ娘の自由気ままなゆったり生活 作:百合好きなmerrick
私は今、湯船に浸かっている。他の家に比べてとても大きなお風呂場。形はまるで銭湯で、1人暮らしだったはずなのに、洗う場所が4つあるという謎。もしかしたら、人が増えるかもしれないという可能性があったから、多く作ったのかもしれない。
それはそうと、身体を洗い終えた私は、湯船に浸かってゆっくりしていた。
「ふわぁ⋯⋯。あったまるなぁ」
暖かい温度のお湯が身体を包み込む。それは全身に染み渡る事により、緊張を、疲れを、全てを癒してくれる至福の時間となる。私が唯一心安らぐ時間と言っても過言では無い。
家を作る時に、ここだけ広く作ってもらって本当に良かった。あの娘には感謝という言葉しか出ない。最近は何をしてるかも知らないのだが。まぁ、次に家を改装する時にでも会いに行ってみよう。
「ティラノスお姉様ー! 一緒にお風呂に入りましょー!」
平穏をぶち壊すかの如く、騒がしい竜が入ってきた。
カノンでも一緒に入るとか言った事無いのに、この小竜と来たら。プライバシーの欠片も無いのだろうか。そもそも竜だから、そんな気持ちも一切無いのだろうけど。私も昔は裸とか全く気にならなかったし。
「どうせ断っても入るでしょ」
「入ります! オルニスはティラノスお姉様のようになりたいですから。一緒にお風呂に入る事で、知識を深めたいです!」
「何の知識が深まるのか謎⋯⋯。まあ、好きにしていいよ」
私がそう話すとオルニスは「ではお邪魔して」と先に身体を洗う。そして、洗い終えると、すぐに私の隣に入ってきた。オルニスが入ったと同時にお湯は溢れ、気持ち良さそうに欠伸をする。更には何故か知らないが、必要以上に近付いてきた。
「ティラノスお姉様ってオルニスよりも小さいですね。どうしてです?」
詰めれば10人くらいは余裕な広さだが、こうも密着されれば広くても関係無く、狭く感じる。わざとしてるのだろうけど、その目的が何かは分からない。が、胸を押し付けるのは自重しろ。もしや無い私への当て付けか。
「さあ、分からない。⋯⋯オルニス、もう少し離れて」
「えー、オルニスと親睦深めましょー。って、このお湯熱くないです? オルニスはとても熱く感じます」
「そう? 私は普通。⋯⋯あ、火竜と冷竜の差かもしれない」
竜は得意属性によって扱えるブレスや耐性が変わる。なので私だと平気な温度でも、オルニスとっては辛い温度になり得る。そう言えば、私の後にお風呂に入ったカノンが熱過ぎるとか言ってたような記憶もある。やはり、私の丁度良い温度はみんなにとって熱いのだろう。
「オルニス、辛いなら無理しないで。最悪、下げてもいいよ?」
「い、いえ、大丈夫です。ティラノスお姉様と同じ温度のお湯くらい、平気で入れるように頑張ります!」
「それならいいけど⋯⋯無茶しないで」
「無茶はしません! ⋯⋯あれ? ティラノスお姉様、ちょっといいですか?」
オルニスは何か気付いたらしく、首を傾げて質問する。私はそれに「いいよ」とだけ答え、オルニスの質問を待った。
「⋯⋯あの、オルニス?」
すると、何を思ったのかオルニスは私のお腹をなぞるようにして触れた。お腹に触れるだけならまだ良い。だが、それ以上の事をすれば止めようと思い、しばらく待ってるとオルニスの口が開く。
「ティラノスお姉様のお腹⋯⋯それは傷ですか?」
「⋯⋯ああ、その事。気にせずに生きてたから、長らく忘れていた」
オルニスは私の腹部を指差しながらそう言った。
私は一際目立つ大きな傷がある。右肩から腹部の左下にかけて横一文字。斬られたような傷跡だ。いや、正しく斬られたのだけど。もう20年も前の傷で、治ってはいるが傷痕としてよく目立つ。他の傷はすぐに癒えて消えても、この傷だけは一生残るのだろう。
「傷だよ。昔、竜の時に斬られた傷が人の姿になっても残ってる。それに竜になれば何故か大きくなって目立つ。消したくても、多分一生消えないと思う」
「て、ティラノスお姉様にそんな傷を負わせるなんて⋯⋯一体誰が? オルニスが倒してきますよ?」
「いや、いい。もう形を取れない程に殺したし、アイツが生きててもオルニスには勝てないから」
そこまで言うと流石にプライドが傷付いたのか、オルニスは不機嫌そうに頬を膨らませる。と言っても、私から見れば可愛らしいものだ。今まで会ってきた竜は怒る前に手を出していたから。
「ティラノスお姉様に負けたとはいえ、オルニスも竜になれば強いですよ?」
「私がこの傷を受けた時、全盛期でしかも竜化していた。⋯⋯相手はイデアという神」
「イデア⋯⋯? イデアって、この大陸の名前ですよね?」
オルニスは頭にハテナを浮かべ、不思議そうな顔をしていた。
この返しだけで人間社会にどれ程興味が無いのかよく分かる。イデアは人間達ならよく知る名前だ。何故なら、この大陸を創り、今も尚人間達に崇められる存在だからだ。私は傷を付けられるよりも遥か昔にその神と出会い、それこそ何十年何百年と飽きる程戦った。
その結果、イデアは大陸を維持する力を残して消失し、私の勝利となった。引き換えに私は癒えぬ傷を付けられ、戦いに飽きる事になったが。戦意を喪失させたという点に関しては、イデアの勝ちかもしれない。本人がそれを良しと思ってるかは別として。
「うん。大陸の神様の名前だよ。でも、今はもうこの大陸を維持するくらいしか力は残ってないと思う。⋯⋯残っていたとしても、絶対にもう会いたくないけど。あの神のせいで、価値観すらも変わった。もう変えられたくない。それに、今会うと傍に居るだけでおかしくなりそうだ」
「へぇー⋯⋯そんな神様が居たんですね。オルニスは人間と戦った話しか知りませんでした」
「⋯⋯知らない方が良かったよ。さあ、そろそろ上がろう。適してない温度に長く浸かると、身体を壊すから」
そう言って話を切り上げ、オルニスとともに風呂を上がる。やはり無理をしていたらしく、オルニスはふらふらしながら立ち上がった。それを見かねた私はオルニスの肩を支え、一緒にお風呂場を後にした。
用語解説その13
『魔法:無属性』
属性の中でも無属性は特に異様な属性。無属性はさらに心・技・体の3つに分ける事ができる。
無の心は精神系統(マインドコントロールなど精神的魔法)。技は技術系統。体は体力系統(身体能力のバフ・デバフ)。中でも技に関しては、使う者によって様々な形に姿を変えるらしい。が、技術という名前に相応しく、使わなければ上達しないし、見よう見まねでできるようなものでもない。
ティラ「無属性の中でも得意不得意はある。心が得意で技が不得意、みたいなね」
オルニス「オルニスは水と風しか使わないので、どれも不得意なのです!」
ティラ「それ自信満々に言う事じゃないけど、その精神性は凄いと思う」