最強竜っ娘の自由気ままなゆったり生活 作:百合好きなmerrick
竜の生活その16「奴隷のエルフ姉妹」
「今日も静かな森や! 魔猪避けの魔道具は効いてるみたいやな!」
魔霧の森の中。馬車を引く御者の男性は、誰にともなく大きな声を出す。
彼の引く馬車の積荷はまるで檻のような構造になっており、中には何人かの人が閉じ込められていた。何を隠そう、彼らは奴隷商人だ。2台の馬車に分かれて奴隷を輸送してる最中だった。
「ダリル、口よりも手を動かせ。太陽が沈む前にこいつらを市場に届けねばならんのだぞ。少しでも遅れれば怒られるのは俺になるのだからな」
ダリルと呼ばれた黒い坊主の男は、その言葉を馬鹿にするように鼻を鳴らす。その者はこの世界で奴隷商人である事を示す黒いターバンを身に付け、同じく黒いローブを身に纏う。
「なんやジーク先輩、怖いんか? ま、どうせ間に合うやろ。⋯⋯知らんけど」
「やはり分からんではないか。全く、お前という奴は⋯⋯」
同じく黒いが、坊主とは対照的な長髪を持つ男はため息をつきながら呆れていた。この者も奴隷商人である事を示す黒いターバンを身に付けているが、坊主のダリルよりも高価な装飾を身に付けている。その高貴な身なりから、恐らくは坊主の男よりも位が上なのだろう。
「⋯⋯ん、なんや?」
「どうした? 何かあっ⋯⋯あぁっ!?」
2人の男は異変に気付き、空を見上げた。2人の見る先には、とてつもなく巨大な赤い何かが空中に浮いていた。それは身体よりも大きな二対の翼を持ち、その尾は鞭よりもしなやかに動くが、どの木よりも太く長い。
そこから顔は見えずとも、目を合わせればただでは済まない事は直視した誰もが分かる事だった。故に、誰もが恐れ、正常な判断力を奪われた。
「ぼ、暴竜だ! に、逃げてくれぇ!」
「奴隷になるよりも喰われた方がマシだ! オレをここから出せ!」
「貴様らは黙れ! 大人しくしろ!」
長髪のジークは後ろで騒ぐ奴隷達を一喝し、内心慌てながらも奴隷商人である坊主のダリルへと視線を向けた。
「ダリル⋯⋯まだ気付かれていない。ここは慎重に──」
「え、えらいこっちゃ! はよ逃げるで! あんなの見つかったら終いや!」
「お、おい!」
先頭を走っていたダリルはジークの言葉も聞かずに手綱を振るう。
「ぶふぉぉぉぉ!」
「なっ──ダリル!」
突如として、馬車よりも大きな魔猪が森の奥から現れた。それは空に現れた自分よりも大きな存在に怯えながら、自我を失い、恐怖で正常な判断力を失っていた。
「なんやて!? くはっ!?」
魔猪は猪突猛進に──恐らくは自分でも分からずに──ダリルが乗っていた馬車へ横からぶつかる。馬車は大きく揺れ、歪な形に歪んで倒れてしまった。その馬車で手綱を握っていたダリルも地面へと転げ落ちる。
「ちっ! ダリル、手を掴め!」
ジークは咄嗟に馬車を進ませ、ダリルへ手を伸ばす。しかし、ダリルは口惜しそうに馬車を見つめて手を掴もうとはしなかった。
「や、やけど、まだ馬車には奴隷が⋯⋯!」
「放っておけ! どうせ余り物だ! 奴隷なんぞまたいくらでも増やせる!」
「くっ⋯⋯くそぅ! しゃあない! 逃げるか!」
「ああ、今回はそうした方がいい!」
ダリルは今度こそ手を掴むと、ジークに引っ張られて馬に跨る。
「はぁっ!」
力強く手綱を振るうと、後ろを振り返る事なく森を駆けた。
そして、彼らがその場から立ち去ったと同時に、異変は起きる。
「ふご!? ぶふぉぉー!」
突如として辺りの木々が魔猪を襲う。まるで生きてるかのようにツルを伸ばし、脚を拘束するとそのまま空中で身体全体に絡みつく。
「ぶふぉぉぉぉぉ!!」
必死に足掻こうと脚をばたつかせて身体を揺らすも、身体に絡みついたツルを外すには至らない。
「──流石っ! 姉さん、行くよ⋯⋯!」
「は、はいっ⋯⋯!」
声を潜めて檻の中から2人の少女が這い出てきた。一方は黒に近い褐色肌の黒髪ショートの長身の女性。エルフ耳に豊満な胸、そして何よりもその肌色から、その種族はダークエルフである事が伺える。もう一方は先に述べた女性とは対照的な透き通るほど真っ白な肌と髪を持つ小さな少女。そのエルフ耳から種族はエルフである事が分かる。
あまりにも対照的な2人は共に首輪を身に付け、ボロボロの服──というよりは麻布を取って付けたような物を身に纏ってる。その姿は正しく奴隷だった。
「ぶふぉっ、ぶご、ぶふぉぉぉぉぉ!!」
魔猪の動きがより一層激しくなる。その揺れは増していき、その牙や角でツルは擦られ削れていく。最早魔猪が逃げるのは時間の問題だった。
「ま、魔猪さんっ、暴れないで⋯⋯っ! あ、ありえるぅ⋯⋯! 拘束解けそうだよぉ⋯⋯!」
「姉さん落ち着いて! まだ解け切ってないから大丈夫!」
「ぶふぉふぉふぉぉぉぉ!」
再び大きな咆哮と共に揺れ動くと、その身体が大きな音を立て、僅かに絡まるツルと一緒に地面に落ちる。
「姉さん逃げて! アタシが時間稼ぐ!」
「だ、だめぇ! アリエルは今魔術使えないよぉ!?」
「ディニエル! 心配する前に早く逃げ──」
「アリエル、前!!」
その刹那、アリエルと呼ばれた白い肌のエルフは宙に浮いた。魔猪の突進がその小さな身体に直撃したのだ。
「ぶぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げる魔猪の目前を転がり、木にぶつかってその動きを止める。腹部からは血を流し、そのままぐったりと地面に伏してる。まだ息はあるものの、その命は見るからに危機に迫っていた。
「あっ、アリエル⋯⋯? アリエル! アリエルぅ⋯⋯!!」
彼女の元に近付いたディニエルは必死に身体を揺するも、全く動かない。それどころか、触れた手に真っ赤な液体が付着する。それを知った彼女の目は涙に溢れ、膝から崩れ落ちた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔猪が後方に迫り、目と鼻の先になろうとも気にせず、彼女は泣き叫ぶ。
用語解説その15
『種族特徴:再生能力』
種族特徴の1つであり、文字通り傷、怪我を再生する力。記載方法は『再生能力(小)』(以前(高)と記載があったものは誤字です申し訳ないのです)。目安は以下の通り。
極小→致命傷レベルの傷以外を1日で回復させる。致命傷レベルの傷関しては通常と同程度。
小→致命傷レベルの傷以外は1日で全回復する。致命傷なら一週間ほど放っておくと治る(菌が入って悪化等はあるので、放っておくのはオススメしない)。
中→どんな傷でも1日で治る。傷の大小によって若干の誤差はある。
大→致命傷以外なら瞬時に回復する。致命傷でも1日で治る。
極大→致命傷でも瞬時に回復する。ここまで高いのは神くらい。
ティラ「魔術によっては治りにくくするものや、最悪の場合治せなくするものがある。もしそれを喰らえば、最高位の魔術である蘇生も効かないとか。蘇生なんて使う奴、神以外で見た事ないけど」
オルニス「オルニス達竜は再生能力(大)なのでどんな傷もへっちゃらですね! 呪いなんて知らないです!」
カノン「人間以外ほとんどの種族が持ってるという悲しみ」
ティラ「ハーフならワンチャンあるけどよく考えればそれ人間とは違うか」