最強竜っ娘の自由気ままなゆったり生活 作:百合好きなmerrick
「お前諸共吸血して、我が軍の贄としよう!」
ラミアスと名乗る吸血鬼がそう宣言すると同時に、ラミアスの後ろから付いてきていた人のような化け物達は散開し、私を囲うように飛び回る。ラミアスを除き、どれもが翼を持たない人間の姿をしてると言うのに、どうやって飛んでいるのか。漠然と感じる魔力の流れから、飛行魔法か何かを使ってるのだろうが、その詳細は分からない。
「⋯⋯どうして襲う必要があるの? ラミアス、だっけ? その飛び回ってる何かの血でも吸えばいいんじゃないの?」
「不味くて飲めるか! 私は高貴な吸血鬼! 吸血する血も高価な物の必要がある! そして、貴様はその高価な物に属すると見た。喜んでいいぞ、ファフニール。魔族なら高貴というのも納得だ。が、本当に魔族ならなぁ⋯⋯?」
どうやらそこまで馬鹿じゃないらしい。私が誰かをしっかりと理解してる。いや、最早彼女にとって、私が暴竜であろうとなかろうと、どっちでもいいのか。暴竜なら恨みを果たす。違ったら吸血して贄とする。どちらに転んでも得をする。もし私に勝てるなら、という前提だが。
「⋯⋯家に手を出せば取り返しのつかない事になる。もし生きて帰りたいなら──」
「帰るだと!? 帰るべき家も、家族すらも! 暴竜に奪われた! 今では廃墟と化した城に1人で住み、日々朽ちていく眷属を維持するために奔走する始末! 最早私に、帰るべき場所などない!!」
昔の私、本当に色々やらかし過ぎだ。今は後悔して反省してるから許して、なんて気軽に言えない状況。そもそも反省したところで彼女に何が戻ってくるのか。答えは『何も無い』。何も返ってはこない。家も家族も、何もかも⋯⋯。全て奪われたのだから。恐らくは、私に。
「⋯⋯どうしても帰ってくれない?」
「私から全てを奪った暴竜を殺すまではなぁ?」
幾度となく見てきた復讐に心を奪われた瞳。その瞳を持つ者は恩讐という名の炎に包まれ、身を焦がそうとも私に向かってくる。決して、それから逃げる事はできない。
「できるなら、もう殺したくない。⋯⋯恨みを持たれる覚悟はしてきた。昔は散々暴れて今はもう暴れないからって、許してくれるはずもない」
カノンは許してくれたが、それは体験してないからだ。もし私の暴虐を体験していれば考え方はまた違ったはず。私を恐れ、憎み、蔑み──ラミアスという吸血鬼のように、復讐に駆られていただろう。それほど酷い事を昔の私はしていた。人の命など、考えもしなかった。
「という事は、認めるのだな? 自分が暴竜であると。そして、罪を認め、殺されようと⋯⋯」
「ううん。殺されはしない」
「⋯⋯なに?」
頭を傾げて怪訝な顔をする。言うまでもなく、私が罪の意識に苛まれて殺されてくれる、と思ってたのだろう。お生憎様、私はそんなにお人好しでも優しくもない。自由気ままで、身勝手な竜だ。
「では、戦うと言うのだな?」
「それも違う。貴女を殺すつもりもないから」
「⋯⋯では、どうすると言うのだ? 私は帰らぬぞ。お前を殺すまでは⋯⋯!」
殺した数も、顔も、場所さえも、私は覚えてない。平穏に暮らしてたはずが、突如襲来した決して倒せない災厄によって命を失う事ほど、やり切れない気持ちはない。だから、少しでも罪を償おうと今は救える範囲での人助けに精を尽くしてる。だが、それで全てが償われるはずがない。要は自己満足なのだから。死んだ人の気持ちを、私はどうしても精算できない。
「ごめんね。まだ死ねないの。私は」
「何を⋯⋯!?」
「友人として、姉として、保護者として⋯⋯。そして、何よりも竜として。まだまだ死ねない。この生が続く限りは罪滅ぼしのためにも、生き続けなければならない。閑竜は静かに暮らすという意味だけじゃない。私に殺された人達を安らかに眠らせるという意味もある」
だから、生きてる人の気持ちをどうにかするしかない。私にできる事はそれだけ。子供のようにわがままな願いでも、曲がりくねった理想でも、私ができる事はそれだけだ。死んだら何もできないのだから。罪を償う事さえも。だから、今を生きる。
「カン⋯⋯竜?」
そう言えば、今の名前を名乗ってなかったか。凄く真面目な話をしてたのに崩された気がする。仕方ないから改めて名乗るか。
「私は閑竜ティラノス。平穏無事に過ごすためにも、私は貴女を殺さず生かす。⋯⋯眷属は既に死んでるみたいだから、それは保証しないけど」
「ふんっ。私は吸血鬼ラミアス! 一族の恨みを果たすため、貴様を殺してくれよう!」
ラミアスは恨みを胸に、声高らかに宣言する。その言葉を合図に、周囲を囲っていた眷属達が一斉に飛びかかった。
用語解説その23
『眷属』
正確には知性がないので魔獣に属する。吸血鬼の吸血による副次的な効果により、吸血鬼が意図的に眷属化させた者達の総称。眷属化させた吸血鬼、またはその吸血鬼の血族の命令に従うようになり、自意識は消える。防腐の魔術でも施さない限り年月と共に腐食し、最終的にはスケルトン(骨だけ)となり、吸血鬼の束縛から解放され、別の魔獣として生きるという(死んでるけど)。完全に腐食する前なら眷属になる前の種族特徴を持つ事もある。
ディニエル「け、眷属にはなりたくないですね⋯⋯」
アリエル「姉さんなら眷属になっても襲わなさそうだけどなー。優しいし!」
カノン「残念ながら個人の意思は関係ないという⋯⋯」
ティラノス「稀に自我が強過ぎて意思が残る、というのはあるらしいよ」