最強竜っ娘の自由気ままなゆったり生活   作:百合好きなmerrick

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第8章 暴竜の娘
竜の生活その35「小さな暴竜」


 まるでそよ風に導かれるように、私はそこに辿り着いていた。その『そよ風』とはすすり泣く声の事で、本当のそよ風の事ではない。だけど私は、それをそよ風と表現するのが適切だと感じた。小さな声が霧や木々の中で不思議にも反響して、風のように聞こえていたから。

 

「ぐすっ⋯⋯ぐるぅ⋯⋯?」

 

 その声の主は10にも満たないほど小さな人間だった。ボロ布を纏って木にもたれ掛かり、炎のように赤い瞳とウェーブがかかった金色の短髪を持つ幼女。だが、よく見ればその姿は人間ではない。飾りかとばかり思っていたが、背中には私に似た白い翼が生え、腰には尻尾。更にはその頭には真っ直ぐに伸びた黒い角と、明らかに人間の姿ではない。

 

 だからといって、竜でもない。私のように長年人化しなかった者や幼い竜だと人化しても翼や尻尾が残る者はいる。しかし、その幼女は手足に向かうにつれて、竜らしき白い鱗を纏っていた。人になっても鱗を持つ事例なんて聞いた事がない。とすれば、残る選択肢は──

 

「もしかして、竜人の娘? それもハーフか何か?」

 

 見たところおへそもあるし、人間と竜人のハーフか何かだろう。もしかしたら、人と竜のハーフで文字通りの竜人かもしれないが。そこはどちらでも然したる問題は無い。重要なのはその正体ではなく、どうしてここに居るかなのかだから。

 

「おかあ⋯⋯さん?」

「へ? えっ!?」

 

 返ってきたのは私が想像していた答えではなかった。容姿が似ているからか、その幼女は私を自分の母と勘違いしてるようだ。残念だが、私に(つが)いがいなければ、子供もいない。昔から竜は自分よりも強い存在としか結婚しない伝統があるからだ。そして、私よりも強い雄とは未だ出会った事はない。もちろん強弱関係なく好きな人と結婚するという例外もあるが。

 

「い、いや、違うよ? 私はティラ。この森に住む竜。貴女のお母さんじゃ⋯⋯」

「おかあさん」

 

 真っ直ぐと向けられるその目は、死んだ魚のように曇り、光がない。それどころか、よくよく観察してみれば角の先が折れている。痣なのか頬は軽く赤に染まっている。どうやらこの娘は⋯⋯。可哀想に。

 

「おかあさん」

 

 再び幼女はその言葉を口にする。(希望)を知らずに、常に暴力(絶望)と共に生きてきたのだろうか。それ故にその言葉に、その存在に、(希望)を見出しているのだろうか。御生憎様、私はそれに代われるような価値も無いし、存在でもない。

 

「⋯⋯家に来る?」

 

 ただそれでも、このまま放っておくわけにもいかない。この娘を危険に晒す存在がいて、この娘を守れる存在がいない事は明白だから。それを知りながら、見て見ぬふりをする事を私はできない。

 

「⋯⋯?」

 

 言葉が通じないのか、幼女は首を傾げて私をじっと見つめる。しかし、手を差し伸べると迷う事なく私の手を握ってくれた。

 

「それじゃあ、行こう。いつまでもここに居たら、食べられるかもしれないしね」

 

 意味を理解してるのかしてないのか、幼女は小さく頷き返す。私はそれを見てから、幼女を抱え上げて天へと飛び立つ。




用語解説その34
『海神の槍マーリン』
イデア神話に登場する海神の槍。海を制する海神の槍。海を自在に操る力を持つ。壊せばその神の怒りを買うとも。海深くの何処かに存在する神殿に保管される。実際は水の晄石が嵌められており、それが力を引き起こしてる。

形状→見た目は何の変哲もない三又槍。矛先が別れる部分に青い石が嵌められ、柄の部分は金色の装飾が飾られる。

ティラ「イデアの何処かにあるらしいね。何処かは知らないけど」
オルニス「少なくともオルニス達に関係はなさそうです」
ティラ「むしろ関係ないまま終わってほしい」
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