鉄血から裏切り者と見なされ、行く宛が無くなった処刑人。
S10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサの計らいによって彼女はこの基地に身を置く事になった。
この事は瞬く間に基地全体に広がり、処刑人はこの件でひと悶着あるだろうと予想していた。
しかし予想に反して、そういった事は起きる事はなく、それどころか彼女がいる病室に訪れる者もいた。
その者が訪れた事に処刑人は驚かずには居られなかった。まさか訪れたのがあの時傷を負わせた95式だったのだからだ。理由としては少し気になって見にきたとの事らしく、処刑人も無理をしてでも納得するほかなかった。
その後、処刑人は彼女に自分の事に何も思わないのか尋ねた。
他の人形が気にしなくても、一度相対し処刑人によって傷を負わされた95式なら何か思う所があるであろう。
そう思っていた処刑人に95式から返ってきた答えは予想に反していた。
「そう言われましても、現に代理人がいますし。それどころかここには純粋な悪魔も居るのですよ?」
後方幕僚であり魔工職人であるマギー・ハリスン、もといマキャ・ハヴェリ。
猛禽類の姿で、電撃を駆使した遠距離攻撃を得意とするグリフォン。
純粋な悪魔として数えられるのはこの二人だけだろう。
しかし純粋でなくとも雷撃を用いた接近戦を得意とすると作られし悪魔、フードゥル。
そして人間と悪魔、その双方の血を流すギルヴァとブレイク。
マギーは兎も角、この四名の戦闘力の高さは異常なまでに飛び抜けている。それどころか電撃を駆使するグリフォン、雷撃を駆使するフードゥルは精密機械の塊である人形からすれば相手にしたくない。
昨日来たばかりの処刑人でも、ギルヴァ以外の悪魔やその血を流す者が居る事は耳にしていた。
それ以外にもとんでもない武装や大型機動兵器、カタパルトデッキ等々…。
「昨日も思ったが…ここってマジでやばくないか?」
「慣れないとやっていけませんよ?」
「…みてぇだな」
早い内に慣れる様にしよう。
心の内で決心する処刑人だった。
処刑人がここに訪れて二日目の昼頃。
彼女はリヴァイアサンや多くの魔具が置かれている第二格納庫に訪れていた。魔工職人という事だけあって、人形の修復すらやってのけてしまったマギーのおかげで、傷は修復されており新たな義手も得た事で何時も通りに体を動かす事が出来ていた。
しかしここに身を置く事になって間もないという事と今後の処遇が決まっていないという事もあって、処刑人はマギーの手伝いをしていた。そして休憩時間を使って彼女が手掛けた魔具を見つめていた。
禍々しい外見をしたものもあれば、相反する様な外見を持った魔具。それら全てがマギーの手によって製作されたのだから、処刑人も驚かずにはいられなかった。
数ある魔具の中で処刑人の目を引いたのは、マギーが初めて手掛けたとされるあの白き太刀。
斬る事が出来ない。武器としては致命的過ぎる欠点を抱えた太刀に処刑人は何故か惹かれていた。
「…立派な姿してんのにな」
ウエポンラックに立て掛けられた太刀の前に立ち、言葉を投げかける処刑人。
施された装飾。磨き抜かれた刀身。こんなにも立派な外見をした刀が斬る事が出来ないという欠陥を抱えているなど処刑人は思わなかった。
斬れない訳ではない。この太刀には作った本人ですら知らない何かがある。処刑人からすればそうとしか思えなかった。
「…」
マギーからこの太刀が魔剣であり、そして欠陥品だと知らされた時から、これが武器として扱う事が出来るのであれば、出来れば自身が扱いたいと彼女は密かに思っていた。
ここS10地区前線基地は悪魔絡みの案件に関わる事があると聞かされた時、悪魔と対等に戦える力を望んでいた。手をかけてしまったとは言え、処刑人とて被害者に当たる。悪魔によって大事な戦友を失う事になってしまったのだから。
力なくては大事なものはおろか、自分の身すら守れない。そんな事が分からない処刑人ではない。
何時か自身が本当に守りたいものが出来た時、今度こそ悪魔に奪われない様に守れる力…それを望んでいた。
そろそろ休憩時間も終わりを迎えそうになった時、後ろからマギーが処刑人へと声をかける。
「気になりますか?」
「ん?…ああ、ちょいとな」
そう言った後に、処刑人はその太刀へと視線を戻した。マギーは静かに微笑むと、処刑人の隣に並び立つ。
自分が作った作品。失敗作の烙印を押された作品に、処刑人は真剣に見つめている。そんな彼女を見て、何か思う事があったが、口にする事はしなかった。
だがマギーが思っていた事をまるで見透かしていたみたいに、処刑人がマギーへとある事を尋ねた。
「…お前が良いなら、この太刀貰っても良いか」
「…斬る事は出来ない失敗作なんですよ?」
「知らねぇな。俺はこいつが良いんだ。それにここは悪魔どもとドンパチやる事があるんだろ?だと言うのに安全な所で突っ立って見ているなんて俺はごめんだね」
それによ、と言葉を続けつつマギーの方へと向く処刑人。
「失敗作とか言ってるけどよ。本当にそう思ってねぇんじゃねぇのか?」
「何故そう思われるのですか…?」
「何故って…お前がこれの事を失敗作と言っている時はやたら悲しい声をしていたからだよ。そりゃ斬れないという欠点は抱えてるから周りからしたらそう思うんだろうが。でも自分が満足いってんだったら、出来がどうであれ、性能がどうであれ、最高の作品として認めたらいいと思うんだが?俺はお前みたいに職人じゃねぇから良く分かんねぇけどな」
ただ思った事を口にする処刑人。
そして彼女は気付かなかった。隣で聞いていたマギーがそっと涙を流していた事に。
マギーもマギーで泣いている事が気付かれる前に素早く目元に浮かぶ涙をぬぐう。
かつてマギーが、まだマキャ・ハヴェリとして活動していた時。
彼女にとって、この太刀を失敗作として認める事はしなかった。否、したくなかった。
何故なら初めて作った作品なのだから。しかし周囲をそれを決して認める事はしなかった。駄作、欠陥品など揶揄され、彼女にも大きな傷を負わせた。そして何時しか彼女は初めて手掛けた作品を失敗作と呼ぶ様になってしまった。自身が認めない限り、周りは言い続ける。そんな苦しみから解放されたくて。
(何が伝説の魔工職人ですか…。自身が手掛けた作品を失敗作と呼び続けるとか、馬鹿ですか私は)
もっと早く気付くべき事を誰かに言われて漸く気付かされるなど、職人として恥だ。
この人間界でマギーは酷く後悔していた。
そして彼女は決心する。
「…そうですね。初めての作品です、失敗作だなんてありえませんね」
作り上げてから長い間触れる事がなかったその太刀に手を伸ばすマギー。柄を握り、太刀を持ち上げると処刑人へと差し出す。
「貴女に私の"最高傑作"を託します。…壊したら承知しませんので」
「壊すかよ」
差し出された太刀を手に取り、肩へと担ぐ処刑人。
その瞬間であった。太刀が一瞬だけ光った。ほんの一瞬だった事により処刑人もマギーも気付く事はなく、白き太刀は処刑人に託される事になる。
後に処刑人は訓練場で剣の練習を開始。普段使っていたブレードとは使い勝手が違う事もあり、最初こそは苦戦していたのだが、近接戦闘を得意にしている事もあってか少しだけであるが使い方が分かる様になっていた。
結局は剣の訓練は日付変わるまで続けられ、後にマギーから白き太刀用の鞘を受け取り、自身の部屋と化してしまっている病室へと持ち帰った。
「今は何もねぇが、今回だけは許してくれよな」
決して雑に扱う事はせず、鞘に収められた太刀を近くの壁に立て掛ける処刑人。
ちゃんとして所に置いてやれない事を謝罪しつつ、ベットへ転がる。
明日はシーナから自身の今後が決まる日。そして時間があけば基地の隣接店 デビルメイクライにも顔を出す予定でいた。
「んじゃ寝るか」
灯りを消してスリープモードへと移行する処刑人。
この次の日に彼女の存在を大きく変える事件が起きる事も知らずに。
翌日。
朝を迎え、ベットから起き上がる処刑人。
ふと彼女はある違和感を覚えた。
「…軽い?」
ふわつく様な感覚ではない。人間で言うのであれば、重しが取れた様な感覚を処刑人は感じ取っていた。
しかし余りに気にする様子はなく、ベットから降りる処刑人。時間は定かにはなっていないが、シーナがこの部屋に訪れる。手短に身嗜みを整えようとした時、接続が甘かったのか義手が外れてしまい、地面へと落ちてしまったのだ。空いた左手で義手を手に取り、再度右腕へと接続しようとした時だった。
「は?」
彼女は自身の右腕を疑った。
普通なら何もない筈なのだ。だというのにこれは何だ?
「何だよこれはよ…!?」
こればかりは処刑人も狼狽えずにはいられなかった。
人の腕ではない。かといって生体パーツで覆われた人形の腕でもない。
強いて言うのあれば、その腕は"悪魔"の様だった。
そしてそればかりに気を取られてしまっていた為か、処刑人は気付かなかった。
壁に立て掛けていたあの太刀が消えていた事に。
機械剣×太刀×腕=?
うちには内部骨格に魔の技術が使われているノーネイムがいるから良いよね?(何がだ
そしてその腕は何かは皆なら察しがつくよな。
さて次回はまぁ…処刑人の腕についてです。
そして腕が終わり次第、リヴァイアサンの運用試験とノーネイムのもう一つの専用装備を同時に出します。