Devils front line   作:白黒モンブラン

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―――それは新たな力となって支える


Act83 New power

「どうなってんだよ…」

 

変質した腕を眺める処刑人。

自身の腕がいつ、何故こうなったのか分かる訳もなくどうしたら良いのか軽く混乱していた。

このままこの部屋に居たらシーナに変質した腕を見られる事になる。悪魔との関わりが多くある為、シーナもそこまで驚きはしない。だが変に迷惑をかけてしまうのは処刑人とて忍びなかった。

何とか自身を落ち着かせるが、更なる混乱が処刑人を襲った。

 

「おいおい、嘘だろ…」

 

一旦マギーに見てもらおう。

そう判断した処刑人は部屋を出る前に昨日壁に立て掛けた太刀を持っていこうとした時、あった筈の太刀が消えている事に驚愕した。その時ふと処刑人は思った。

 

(この腕といい消えた太刀といい…ホントに偶然か?)

 

偶然とは思えなかった。

この腕と消えた太刀は何らかの関係がある。しかしどういった関係があるのかは処刑人にとて分かる筈がなかった。

取り敢えず今はこの腕をマギーに見てもらおう。今すべき行動はそれだと判断した処刑人は急いで病室兼自室を飛び出していった。

 

まず処刑人が向かったのが第二格納庫。

魔具の整理やリヴァイアサンとノーネイム用の専用装備の組み立てで空いた時間でマギーはここで籠る事が多いと代理人からその事を聞かされた処刑人はそこへと向かった。

道中どうしたのと処刑人へと声を掛ける人形も居たが、何とか誤魔化して彼女は第二格納庫へと到着。マギーが居る事を願って、中へと足を踏み入れた。

 

「マギー、居るか?」

 

「ん?処刑人、どうかしましたか?」

 

その願いは届いたのか、朝早くからマギーは第二格納庫にて作業をしていた。それどころかリヴァイアサン、ノーネイム用の専用装備を行いながら同時並行で後方幕僚の仕事をこなしていた。

ここまでやってのけられるのはマギー・ハリスンだけであろうと思うのだが、そんな事を気にする事無く処刑人はマギーに詰め寄り、変質した腕を見せた。

突然それを見せられた事により驚くマギーであったが、処刑人の右腕を見て言葉を失った。

漸く現実へと戻ってきた時、彼女は静かに処刑人へと問う。

 

「どうしたんですか…この腕は」

 

「それはこっちが聞きてえよ。取り敢えず見てくれねぇか。見てくれている間に俺が知る限りを話すから」

 

「分かりました」

 

腕を見てもらっている間、処刑人は起きた事を全て話した。

知っている事はごく僅かでしかない為、マギーも判断に困りかねていたのだが処刑人が聞く限りでは自身の最高傑作が起因しているのではないかと判断していた。だが疑問として魔力すら感じられなかったあの太刀がいつの間に魔力を、それも腕を作り出すまでの膨大な魔力を有していたのかが残る。

しかし考えていたばかりでは解決できない。そう判断したマギーは色々試す事にした。

 

「ふむ…。取り敢えずは太刀が大きな原因と見ていいでしょう。誰かに盗られたという可能性は限りなく低いと見ていいです」

 

「まぁあのサイズだからな。盗むにしてもあの大きさじゃ周りの目につきやすい」

 

「ええ。…ここからは私の考察ですが、消えた太刀は恐らくこの腕に格納されていると思います」

 

「腕にだと?」

 

「はい。その太刀をどう取り出すかは私にも分かりません。試しにですが、太刀を呼び出す様な事はできますか?」

 

「呼び出すって言ってもよ…。まぁやるだけやってみるか」

 

やらない事には始まらない。

処刑人は静かに目を伏せて、頭の中であの太刀を想像する。

まるで自身の目の前にそれがあって、そっと持ち手へと右腕を伸ばす様に。

そして太刀の持ち手を握った瞬間、処刑人は自身の右手に重さを感じた。そっと目を開くと、手には鞘に収まったあの白い太刀が握られていた。

 

「マジか…本当に出てきたぞ」

 

「みたいですね。…少しお借りしても?」

 

「あ、あぁ…」

 

処刑人から太刀を受け取ると真剣な表情で見つめるマギー。

そして彼女は心の内であるが驚愕した。

 

(凄まじい位に能力を解放していますね…。ギルヴァさんが持つ無銘ほどではありませんが、相当の魔力を感じられます。そして処刑人さんの腕は…そういう事だったんですね)

 

一度目を伏せ、マギーは優しく太刀をそっと撫でた。

対面で見ていた処刑人はどうしたのか不思議な表情で浮かべるが、それも束の間マギーは伏せていた目を開き、処刑人の方へと向き、今自身が分かる事を明かす事にした。

 

「結論から言います。その右腕はこの太刀が作り上げたものです」

 

「…本当か?」

 

「はい。以前までは魔力すら感じられなかったこの太刀が何らかの条件を満たした事で本来の力を解放したのだと思われます。そしてこれは使用者の不足している部分を補う魔剣とも言っていいです。自身が認めた者にだけ力を使う約定の太刀。本来の右腕を失っている事に感知し、行動を起こした。…私でも知り得ませんでしたが、恐らくこの太刀は意思を有しています」

 

マギーから告げられた事に処刑人は言葉が出なかった。

だがこれら全ては事実である事は認めざるを得ない。これが事実でないとするのであれば、変質した腕に説明が付かなくなるからだ。

 

「…色々理解が追い付けて行けねぇが何とか理解するとしてよ…こいつに課せられていた条件って何だったんだ?」

 

最早起きた事は受けいれる他ないと判断した処刑人はこの太刀に課せられていた条件についてマギーへと問う。

 

「恐らく…"認める"事だと思います」

 

「認める?それは太刀自身がか?」

 

「いえ…恐らく作り手が認める事だと思われます」

 

そこまできて処刑人は全てでは無いにしろ理解した。

太刀自身に意思を存在していた。しかし太刀自身が相手を見定めるのではなく、自身を作り上げた者にその権利を譲渡したのだ。

では何故今になってなのか?それはマギーが一度も認める事をしなかった為だ。だから太刀は力を解放する事はしなかった。だが処刑人に自身の最高傑作を託し渡した瞬間、その条件は果たされた。

その事により内包していた力を解放し、自身の主たる処刑人の右腕が本来のものではないと感知したが故に魔力を用いて作り上げた。それが悪魔の右腕だった。

 

「私が認め、力を解放した太刀。そして作り上げられた右腕…。補うのは右腕だけにとどまらず処刑人からも魔力を感じられます。恐らくそれもその右腕から介して全身へと」

 

「どおりで体軽いと思った訳だ…。とするのであれば俺も悪魔と対等に戦える力を持てた事で良いんだよな?」

 

「ええ。しかし右腕が失う事があれば当然力も失います。それだけは絶対に忘れないで下さい。今、貴女の支えとなっているのはその右腕によるものだと言う事を」

 

「…ああ、分かってる」

 

マギーから返してもらうと再度右腕へと消えていく太刀。

少しだけ光を放つ自身の右腕をそっと撫でる処刑人。

 

(今後とも頼むぜ)

 

必ず自身の支えとなる右腕と太刀へと心の内で言葉をかけるのだった。

右腕、そして太刀の事が明らかになったその後処刑人を探しに来たシーナが第二格納庫を訪れる。

右腕が悪魔の様へ変質していた事に多少なりとも驚くシーナであるが、処刑人とマギーから事情を聞くのだった。

 

「成程。不思議な話だけど分かったわ。処刑人の腕の変異に関しては私から皆に伝えておくね」

 

「すまねぇ。迷惑を掛ける」

 

「大丈夫。それとその右腕の事だけど。普段からアームカバーを着けて欲しいかな。急な来訪してきた人や新しく来た子達にびっくりさせたくないから」

 

「分かった。この後すぐにやっておく」

 

「それで良し。…で、話は変わるけどその右腕と太刀に名前とか付けないのかな?」

 

「名前、か…」

 

シーナにそう言われて処刑人は考える素振りを見せた。

先程まで色々あった為にそこまで考える余裕がなかったのだ。今は落ち着いているので、何か良い名前はないかと考える。

そこにマギーはある案を出した。

 

「右腕に関してはデビルブリンガーとも名付けたらどうでしょう。義手に関してはデビルブレイカーで」

 

「んじゃそれにするか。後はこっちか」

 

うーんと唸りながら考える処刑人。

太刀は自身の支えとなる存在。その支えるという特徴から何かないものかと思った時処刑人の中である人物の顔が浮かんだ。その人物は自身の相棒とも言えるもので戦いでは支えてくれることが多かった。

魔に飲まれた自身を助け出してほしいと託し、先に逝ってしまった相棒。

 

「…狩人(ハンター)

 

「え?」

 

「こいつの名だよ。…いつも支えてくれたからな。それにあいつの事を忘れたくねぇからよ」

 

「そっか。…とてもいい名前だと思うよ」

 

「ああ。ありがとよ」

 

右腕をデビルブリンガー、義手をデビルブレイカー、そして太刀の名前に狩人。

新たな力が処刑人の支えとなる。それはこの場にいる誰もが実感する事であろう。

これは余談であるが、デビルブレイカーを装着する際にデビルブリンガーが自ら幽体化する能力を持ちわせていた事が発覚する。その事によりアームカバーは不必要となり処刑人は日常において普段からデビルブレイカーを装着する事となるのだった。

その後執務室にて処刑人はいた。

目の前にはここを統べるシーナが椅子に腰掛けて彼女を見つめている。

今から処刑人の今後が決まる。ここに置く事はとうに決まっているものの、やはり何もさせない訳には行かない。

そこでシーナはある事を命じた。

 

「貴女を独立遊撃部隊に配属する事を命じます」

 

「独立遊撃部隊…?」

 

「そう。でもこれは飽くまでも建前かな。鉄血のハイエンドモデルを自由にしているとなれば色々厄介だからね」

 

「まぁ確かにな。代理人やノーネイムは便利屋所属という形で落ち着いてるんだったな」

 

処刑人本人としては独立遊撃部隊ではなく、便利屋の様な単独行動できる様な立場にいたかったのだがそれを口にする事はしなかった。ここを置いてもらっている以上はここを統べる指揮官、シーナの指示に従うべきなのだから。腕の事といい、義手の事といい、新参者にここまでを手を尽くしてくれているのだ。文句を言う気などなかった。

今後も決まった事だし、便利屋「デビルメイクライ」へと姿を見せに行こうとした矢先だった。執務室のドアが開き、ある人形が入ってきた。

入ってきた彼女は軽く息を切らしており、走ってきた事が容易に分かる。

何かがあった。それを感じ取ったシーナの様子が変わる。先程の雰囲気とは打って変わり、本当にあのシーナ・ナギサなのかとそう処刑人に思わせる程の別人がそこにいた。

 

「許可なく入室して申し訳ありません、指揮官」

 

「良いよ、気にしないで。それで何かトラブルが?」

 

「はい。実は…」

 

息を整えて、シーナの傍へとよるコンテンダー。

耳打ちで内容をコンテンダーから聞かされるとシーナの表情が険しくなる。

椅子から立ち上がり、彼女はコンテンダーへと指示を始める。

 

「出撃の準備をして。手が空いている子達、ギルヴァさん達にブレイクさんも呼んで。あとマギーさんにノーネイム用のもう一つの専用装備"ラヴィーネ"の運用が可能か聞いてきて。他の子達と分担してでもいいから、迅速かつ丁寧に行動して」

 

「分かりました。すぐに取り掛かります」

 

シーナの指示を受け、執務室を出ていくコンテンダー。

その様子を見ていた処刑人はシーナへと声を掛ける。

 

「早速出番か?」

 

「…そうだね。早速だけど貴女にも動いてもらおうかな。第一会議室で待機していてくれる?私も後で向かうから」

 

「第一会議室…ああ、あそこか。分かった、あそこで待ってるぜ」

 

「うん」

 

処刑人もシーナの指示を受けて執務室を出ていく。

シーナもシーナでグリフィンの制服を脱ぎ、彼女専用のウエポンラックへと歩み寄る。

そこに置かれている銃を手に取り、装備し始める。かつて辛かった時に自身の相棒として活躍してくれたMP5にマガジンを差し込む。普段長く伸ばしている髪をヘアゴムで一つに束ねると、ある黒いコートを羽織る。一見ビジネスコートとも言えるそれは只のコートではない。

セラミック複合材に炭化ケイ素を重ね合わせたものを裏地に縫い付けた特殊仕様となっている。

 

「まさかこれを使う事があるなんてね」

 

かつてここに来て間もない時はは相手が使う武器が光学兵器だった為に使用する事はなかった。

それが今になって使う事になろうとはシーナ自身も小さく驚いていた。

しかし何故指揮官たるシーナも戦場へと向かおうとするのか、その理由は彼女にしか知り得ない。

 

「…MG4」

 

コンテンダーから聞かされた内容。

その件に大きく関わっている人形の名を彼女に口にする。

 

「…法なんてもう機能していない」

 

鋭い目つき。

果たして今そこにいる少女があのシーナ・ナギサなのか疑わせる。

元よりシーナはこういう事態に備えていた節があった。以前からMG4が怪しい動きしている事は秘密裏であるが知っていた。何かあった時に発信機も付けている。それでも尚シーナは助ける気でいた。

 

「ならば私…ううん、私達が裁くまで」

 

只、この時のシーナは違っていた。

とは言えそれが普段からのものではない。戦いの場において起きる彼女の特徴。

誰もが知る言葉で表すのであれば、彼女は軽い"修羅"と化しつつあった。




次回は…うちの子を巻き込んできた所がいるので、便乗してこちらも動き出します。(ちゃんと許可はいただております。

新たな力、そしてシーナの中で隠されていた小さな修羅が目覚めます。
…あっちの基地に泣かさせる暇すら与えねぇからな!
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