第二格納庫にて、マギーから大型機動兵器「リヴァイアサン」の説明を受けたノーネイムは静かに鎮座するそれを見つめていた。
最初こそはマギーに呼び出され、そして自分が操縦士として任された事に関しては多少なりの驚きがあったのだがリヴァイアサンを見つめている彼女の表情には不安といった表情は見受けられない。
何時もの様な佇まいでリヴァイアサンが見つめるノーネイムがいた。
そしてその横にはギルヴァが立っていた。偶然にもノーネイムと一緒にいた彼はマギーからリヴァイアサンが完成した知らせを聞き、ノーネイムと共にここへと訪れていたのだ。
ノーネイムがリヴァイアサンを見つめている傍らでギルヴァは声をかけた。
「不安などないのか」
「不安?」
「ああ。これだけ大きな物を動かす事になる。ましてや今まで動かした事のない代物だ。多少なりの不安はあるだろうと思ったのでな」
「どうだろうな…。もしかしたらそういった不安はあるかも知れない。ただ私にはそれが分かっていないだけかも知れない」
普段と変わらぬ表情を見せるノーネイムを見て、ギルヴァはノーネイムの肩へと腕を伸ばすとそっと彼女を抱き寄せた。こういった事はあまりしないギルヴァ。その事はノーネイムも知っている。
彼の突然の事にノーネイムは驚きつつもギルヴァから感じられる暖かさが自身でも気付かなかった重しを取り除いてくれている様な感覚を覚えた。
彼から感じる暖かさに身を預けつつノーネイムは静かに口を開く。
「らしくないな、父よ」
「かも知れんな。…だがこういう事は大事と思ったのでな」
「そうか…。うん、今はこの方が良いかも知れない」
ギルヴァへと自身の体を少しだけ預けるノーネイム。
一度彼の方へ顔を上げるがギルヴァはじっとまっすぐリヴァイアサンを見つめており、彼女の方へ向く事はない。
もしかしたら普段からしない事をしているせいかギルヴァも表情には出さずとも内心恥ずかしがっているのかも知れない。
だがそれを聞いた所で答えてくれる様な彼ではない。それでも不器用なりとも自身を安心せようとしてくれる
リヴァイアサンが完成した事を聞きつけて第二格納庫にUMP45らや処刑人が訪れるまでの間、普段から甘える事をしない彼女はこの時だけギルヴァへと甘えるのだった。
余談であるがUMP45らがここに訪れ、ギルヴァに甘えるその姿を見られた時は流石のノーネイムも顔を真っ赤にしていたという。普段から見られぬ娘の新鮮な姿を見る事が出来たと満面な笑みを浮かべながら語るUMP45と代理人がいたとか。
ノーネイムの赤面した表情が複数人に見られた後の数時間後。
運用試験の日取りが決まり、その準備に向けてマギーの指示の元カタパルトデッキにて非番の子達やデビルメイクライの面々が作業していた。
第二格納庫から直接運搬用の台座に運ばれてくるリヴァイアサンを見て感嘆の声を上げる者もいる中、ノーネイムはマギーに手渡された端末に目を通していた。
そこにはリヴァイアサンを通る為のテストコースや行う試験内容が表示されており、それらの内容をノーネイムは電脳へと記録していた。そこに彼女の元へと近寄り声をかける者がいた。
「気合いが入ってんな、姉ちゃん。運用試験日は二日後って聞いているぜ?」
「グリフォン」
そこに居たのはおしゃべりでどこか憎めない猛禽類の姿をした悪魔 グリフォンだ。
一応手伝いで来ているのだが、特に出来る事がないと判断し暇を持て余していた。偶然にもノーネイムが居た為、声をかけた次第だ。
バサバサと翼を羽ばたかながら滞空するグリフォンを見て腕を伸ばして彼が止まれる様に足場を作るノーネイム。それを見てグリフォンは気が利くねぇと口にしながらゆっくりと降下しながらノーネイムの腕を足場にして着地する。彼が着地したのを確認するとノーネイムはグリフォンの問いに答えた。
「ここの新たな戦力になると思うと気合いが入る。最も何度も使える代物とは思えないがな」
「まぁこんだけデケェモンだからなぁ。消費する資材もハンパじゃねぇわな」
「ああ。まさしく決戦兵器といっても過言でもないかも知れない」
だがこれは意外と知られていない事であるのだが、弾薬や装甲とかは何とかなっていたりする。
これだけ大きな物を動かすとなれば消費する資材も膨大なものになる事が分からないマギーではなく、彼女は「パトローネ」に搭載されている特殊機構をリヴァイアサン用に規格を合わせたものを搭載させ、装甲に至っては魔工職人の知恵をフル活用し、ちょっとの攻撃では傷一つ付かない程の防御力を有した物を使っている。
残るのは整備だが、整備、修理などはマギーの得意分野である為そこまでかからない。
見かけに寄らずリヴァイアサンは資材に優しい存在である事はこの時点では製作者を除き誰も気づいていないのは仕方ない事である。
「うわぁ、凄いですね!」
「ん?」
グリフォンと話していた事によりいつの間にか誰かが傍にいた事に気付くノーネイム。
そこに立っていたのはハンドガンの戦術人形 Spit-Fireだ。最近になってS10地区前線基地所属となった人形なのだが、製造によってここに所属となった人形ではない。彼女はグローザやSPAS-12、M590、WA2000と同じ様にS11地区後方支援基地所属だったのだ。あの時の作戦にて救出された彼女は四人に遅れてここに所属となった。CZ75を姉としてリスペクトしている点や歌を得意としている点は他の基地で所属している自身と何ら変わりない。
ただ彼女、ここに所属する事になってからはというものスタイリッシュな動きを披露するブレイクやギルヴァを見て、スタイリッシュな二人に合う曲作りをしていたりする。
それだけではとどまらず作曲すら一人でやってのけ新曲を発表したり、色んな曲を歌ってみせる。そんな彼女を見て誰がそう称したのか本人が知らない内に「歌姫」と称されている。
完成したリヴァイアサンを見て目を輝かせる彼女の姿がそこにあった。そしてノーネイムの視線に気付いたのかSpit-Fireはノーネイム達の方に向き、挨拶する。
「あ!ノーネイムにグリフォン、こんにちは」
「ああ。今日は歌の練習しなくていいのか?」
「はい!今日はお休みです」
Spit-Fireが良く歌の練習している事はノーネイムは知っている。
それ以上にこの二人は非常に仲が良い。最初こそは話す事はなかったのだが、ここに来て緊張していたSpit-Fireの為に基地の案内などをして優しく接していたのがノーネイムである。
Spit-Fireはシーナからノーネイムが鉄血のハイエンドモデルだという事を聞かされており、それでも、とても優しくしてくれる彼女と仲良くなりたいと思っていた。後に勇気を振り絞ってノーネイムに友達になって下さい!と言ったのはごく最近の事である。
因みにノーネイムはギルヴァに友達が出来たと嬉しそうに報告しており、ギルヴァは良かったなと彼女の頭を撫で、UMP45と代理人はその事を聞いた時は軽く涙した。
「これの操縦士を任されたって聞きましたよ」
「ああ。実の所、私も今日それを聞かされたばかりだ。急で驚いたがな」
「その割には落ち着いているみたいですけど?」
「そこは…まぁ色々あったのでな」
ギルヴァに甘えた事、その姿を見られた事を思い出したのかノーネイムの頬は軽く紅潮する。
そんな彼女を見て不思議そうな表情を浮かべるSpit-Fireであるが、問う事はせずノーネイムの隣に座る。
彼女の腕に乗っているグリフォンを見て、Spit-Fireも腕を伸ばす。するとグリフォンはノーネイムからSpit-Fireの腕の方へ移動し着地する。
「おうおう。今日は優しいお嬢ちゃん達で嬉しいぜ」
「またUMP45さんの胸の事で何か言ったんですか?いい加減しないと本当にフライドチキンにされますよ?」
そう言いながらグリフォンの頭をコツンと突き、咎めるSPit-Fire。
それに対しグリフォンは不敵な様子で答える。
「そう簡単にくたばらねぇよ。いざとなりゃ逃げれば良いしよぉ」
「全く…」
それでも憎めない鳥だと再度認識するSpit-Fire。
初めて会った時は喋る猛禽類に驚いたが、今では良い感じの関係を保ている。それどころかSpit-Fireはグリフォンに甘かったりする。その理由に関しては誰にも話した事はなく、知るのは彼女のみとなっている。
「あ、そうだ。これ渡してきます」
何かを思い出したようにある物を取り出しノーネイムに差し出すSpit-Fire。
彼女が差し出したのはある曲が入った記録媒体だ。カバー曲であるが、ノーネイム用にと歌った曲である。
「カバー曲ですけど、ぜひ聴いて下さいね!」
「ああ。運用試験中に流すとしよう」
「そこは真面目にやってくださいね!?」
ノーネイムらしからぬボケにしっかりとツッコミを入れるSpit-Fire。
そこの空間だけのほほんとした雰囲気が流れており、二人と一羽のやりとりを聞いていた者達は優しそうな笑みを浮かべるのだった。
という訳で今回はいきなり運用試験ではなく、運用試験前の話を描かせていただきました。
たまにノーネイムにも出番を思いましたね…それでこのよう話になった訳ですよ。
あとSpit-Fireを出した理由は最近になってお迎え出来たので出した次第です。
歌とかうまそうだから出したかったんだよ!冷静なノーネイム、明るいSpit-Fireのコンビも悪くないだろ!?
次回は運用試験で行こうかと。一応隣の地区上空を飛行する予定です。