息をつかせぬ攻防戦。
一度引いてもすぐさま獲物を振るう両者。幾度なく斬り結んでいき、自身が劣勢であったとしても錬金術士は歪んだ笑みが浮かべたままであった。
ここまで高い実力を持った者は今自身と相対している者以外居ない。残忍な性格は何処へ行ったのか、彼女は純粋なまでにこの戦いを楽しんでいた。
「アハハハッ!!楽しい!楽しいなぁッ!!」
「…」
「そんな仏頂面しないでおくれよ。ダンスは始まったばかりではないか!」
両手に持ったジャマダハルは巧みに操り連撃を繰り出しつつ蹴り技も繰り出す錬金術士。
しかしそれすらも赤子の手をひねるかの様に回避しながらも致命傷となる攻撃を受け流すギルヴァ。そして一瞬の隙突き、持ち手を変えながら無銘の柄の底に当たる部分で腹部へ一撃を叩きつけ吹き飛ばすと距離を空いた所に居合の態勢へと移行する。
(先程の技か!)
居合の態勢で相手の突進しつつ無数の真空刃を生み出す技。先程それを見た錬金術士は素早く態勢を立て直すと地面を蹴り、ギルヴァへ迫った。
刀身を突き立て最速の刺突を放とうとする。しかし何故かギルヴァはその場から動こうとしない。
その時錬金術士は自分の行動が間違っていた事に気付かされる事となる。
「愚かな」
「ッ!?」
鞘と鍔の間から見える刀身。
一瞬の煌き。決して目では何時抜刀したのかさえ分からない神速の抜刀。
錬金術士の目の前へ突如として歪む空間。それと同時に無数の斬撃が襲い掛かった。
何が起きたのか分からない。だがこれは不味いと思ったのだろう。錬金術士は素早く右手に持っていた武器を手放し、それを犠牲にする形で攻撃を何とか凌いだ。そのまま飛び退き後退し、軽く息を吐くと先程の超常現象に対し冷静に分析した。
(今のは空間を斬ったというのか…?)
斬撃を飛ばすといった芸当はやってのける奴が居る事は知っている。最もその者は今は裏切り者であるが。
しかし空間を切り裂き、斬撃を離れた相手に飛ばすなど幾ら錬金術士とて多少なりとも驚いていた。
空間を切り裂くなど最早神業の域に達している。そんな事をやってのける奴が自身と相対している。そして彼女は気付く。空間を切り裂き離れた相手に斬撃を浴びせる事が出来るという事は、幾ら自身が距離を取ったとしても意味はない。相手の攻撃範囲から逃れられないのだと。
それが分かってしまうと彼女はつい笑いの声を上げた。
「成程…こればかりは認めざるを得ないな。たかだがグリフィンの基地と侮り過ぎたか」
「…」
「敵と話す気はもうない、か…。残念だな、もう少し会話に興じて見たかったのだが。…ッ!!」
左手に持ったジャマダハルの切っ先をギルヴァへ突き付けた瞬間であった。
何か感じ取ったかの様に錬金術士は勢い良く後ろへ振り向いた。彼女の目に映ったのはまるで騎士の姿をした何かが剣を振るい自身を仕留めようしている光景。
避ける時間などない。迫る刃。だがそれを阻止せんと動き出し錬金術士の横を駆け抜ける者が一人。
姿勢を低く維持し、鍔に親指を押し当て鯉口を切り、柄を握ると素早く抜刀。鋭い一撃が相手の胴を切り裂き、薙ぎ払う。
「…」
態勢を直しながら沈黙を貫きつつ刀身を鞘へと納めるギルヴァ。
そこにもう一体別の騎士が現れ、手にしていたランスを構えギルヴァを後ろから貫こうと迫る。だがそれを見逃さなかった錬金術士が攻撃が到達する前に強烈な上段蹴りを騎士の頭部に叩きつけ阻止。
そのまま互いに背中合わせになり、攻撃を阻止されても何もなかった様に立ち上がる二体の騎士を睨んだ。
「知り合いか?」
「さぁな。少なくともこっち側ではなさそうだがな」
鉄血ではない事はギルヴァも気付いていた。
そして攻撃を仕掛けてきた騎士から魔の気配を感じ取りつつも、別の何かが混じっている事にも疑問を抱いていた。しかしそれを考えている場合ではないのは明白。
いつでも対応できるように身構えていると錬金術士がある事を彼へと提案する。
「さてどうする?このままやり合うのも結構だが、私としては一時休戦を申し入れたいのだが?」
「その最中に紛れてこちらを討つつもりか」
「そうするも面白いが、今はその気にはなれん。気になる事もあるのでな」
「ほう?」
「それを知る為にもこの場を切り抜ける必要がある。協力してくれるなら暫くはここを襲撃しない事を約束しよう。最も私がそうしないだけであるがな。他は知らん」
大型ランスを持った騎士にジャマダハルを構える錬金術士。
鉄血ではない何か。しかし突如として現れたそれに彼女はある事を思い出していた。
それは夢想家が言っていた"強力な援軍"。もしかすればこいつらがそうではないかと判断していた。
だが援軍というにはこちらを攻撃してくる点は流石に疑問を抱かずには入れない。
自分の知らない所で何かが起きている。錬金術士は薄っすらそれを感じていた。
(真意を確かめる必要があるな)
その為ならこの場を切り抜ける必要があるのだが、肝心の相手から答えが聞けていない。
しかしそんな時間は無くなりつつある。敵も動き出そうとしている所だ。
答えを急かそうとした時、彼の口が開く。
「良いだろう。今だけだ」
そう告げられた瞬間、ギルヴァの姿が突如として掻き消え、黒い残像が駆け抜ける。
ほんの一瞬の出来事。彼が姿を見せた時には、既に片手剣を装備していた騎士の背後に回り込んでいた。既に居合の態勢を維持しており、鞘から玉鋼の刀身が垣間見えていた。敵は彼が背後に居る事に気付くと振り向きざまに構えていた盾を構えようとした。時には既に遅く、放たれた斬り上げによって敵は宙へ舞い上がっていた。
重量をものともしない強烈な一撃。盾を自身の背中へ移動させつつ羽を展開し距離を置こうとする敵だが、それを許す程ギルヴァは甘くはない。
騎士の頭上から降り注ぐ群青色の刀の雨。勢い良く降り注いだそれは騎士の鎧を貫き地面へ縫い付ける。
動きを封じられ無抵抗な姿を晒した所に幻影刀が周囲に展開され、騎士へと向かって一斉に投射。放たれた刀が敵を串刺し、抵抗する時間も与えぬまま確実な死を与える。
成す術もなく死に絶える騎士。自身の足元にその頭部が転がり寄ってきた時、ギルヴァは怪訝な表情を浮かべた。
(中身がない…?)
そう、中身がなかったのだ。
先程までは中身がある様な挙動していたにも関わらず倒してみれば実は中身は空っぽだったというのが不可解な話である。悪魔が憑依していたのかと思考を巡らすギルヴァであったが、役目が終えたかの様に鎧が消失していったので答えは見つけられずじまいになってしまう。
一体何だったのかと思いつつも、自身と同時に動き出したであろう錬金術士の方へと向くとあちらも難なく敵を排除している姿を彼の目に映る。
―ほう…中々にやるなぁ?
(そうだな…)
蒼がそう口にした事に対し同意を示すと敵が完全に沈黙した事を確認したのか武器を下ろし、錬金術師士はギルヴァの近くへと歩み寄った。
沈黙を貫くギルヴァに対し、錬金術士は何を思ったのかふと笑みを浮かべた。
「気にいった。お前とは相まみえたいものだ。…名前でも聞かせてもらおうか?」
「…名乗る気などない」
冷たく言い放つとギルヴァはコートをなびかせながら、錬金術士の横を通り過ぎる。そのまま去っていくのかと思えば、彼は背を向けつつも口を開く。
「次は斬る」
そう言い残して、彼はその場を去っていく。
「…その日を楽しみに待つとしよう」
去り行く彼の背中を見つめながら、残していった台詞に答える様に呟く錬金術士。
彼女も基地の人形達が来る前に背を向けて暗闇へと歩き出す。
この後に取る行動指針を決めて、基地から去っていくのだった。
因みにであるが基地正面で現れた第三勢力である騎士たちは開幕早々ノーネイムとSpit-Fireたちの集中砲火を浴び去られ、跡形もなく消失したとの事。
錬金術士の襲撃、突如として現れた第三勢力。幾つかの謎を残しつつ、事件は終幕を迎えるのであった。
「そうか。S10は陥落せず無事であったか。…そして"奴ら"が動き出しおったか」
某所。廃れた町にある小さな図書館で報告を受けた彼女はそう静かに呟いた。
煙管を咥え、紫煙を吐き出しつつどこか安堵した様な表情を浮かべるが、それも束の間神妙な面持ちで通信してきた相手…ルージュへと話しかける。
「ルージュよ。早いうちに支度しとけい。…下手すれば向こうに厄介になるかも知れんぞ」
『正気ですか?貴女の身分を知る者が聞けば何を言われるか…』
「知らんな。本部直属諜報部所長の身でありながら、こうして"フェーンベルツ"に住んでいても何も言わんのはワシの事は殆ど知られておらんという事よ」
『そうでしょうけど…。、まぁそれは兎も角です。向こうに行けば確実に私や貴女の正体はバレますよ?狩人達が居るのですから』
「そこは何とかやるだけじゃ」
相手の反応も待たずに通信を切る女性。
何処で手にしたのか白を基調とした着物を羽織り、笑みを浮かべながら煙管を吹かす。
外からの日差しが差し込み、ほのかに暖かい空間の中ゆらゆらと昇っていく紫煙を見つめながら、彼女は静かに呟いた。
「…"神"が堕ちる日は近いかものう…」
飛ばし飛ばしで申し訳ねぇ…(土下座
さて…謎を色々残しまくりですがアルケミスト襲撃事件はこれにて終了です。
襲撃で基地もボロボロ(一部)になったので、修繕作業に移行かな。
修繕協力したい方が入れば来ても良いんやで?
ん?…いる訳ねぇだろうって?…せやな(´・ω・`)