S10地区前線基地の修繕作業が終えた翌日。S10地区では雨が降っていた。
灰色の空が広がりしとしとと雨が降る町。大通りで傘を差して歩く者達に混じってローブを纏い歩く者がいた。
顔を見られない様にフードを深く被り、通り過ぎていく者達がその者を珍しいものを見るような目で見ていく中、その者は気にする事無く人通りを縫う様に抜けていく。
しかし流石に目立つと感じたのか人目を避けるかの様にその者は大通りから路地裏を通り抜け、別の大通りへと出た。偶然も見つけた店の前で雨宿りの為に一旦足を止めて、被っていたフードを脱いだ。
「…ローブ姿は目立つか」
額に付いた水滴を払いつつその者はそう呟く。
右目の眼帯。金色の瞳。白い肌が特徴の女性…先日S10地区前線基地を襲撃した鉄血のハイエンドモデル 錬金術士である。
ギルヴァとの戦いの後、彼女はまだS10地区に留まっていた。再度基地に襲撃する計画を立てている訳ではなく、だからといってこの町の住民を襲うという気すらない。彼女はあの時の自身を襲ってきた騎士を増援として送ってきた夢想家にその理由を確かめる為に行動していた。このまま拠点としている場所に戻るも良いのだが不測の事態に備えてこの地区で準備してから戻ろうと考えていたが、あろう事か準備は中々に進まずにいた。
「武器が必要か」
ギルヴァの次元斬によって複合武器の一つは破壊され、戻るにしても残った複合武器一つでは心許ない。
この際、炸薬を用いた武器でも良い。手短に必要な物を揃えてここを去らなくてはならない。
しかし錬金術士には武器を買う資金などない。強引に押し入って武器を奪ったとしても下手すればグリフィンの連中が駆けつける可能性もある。
穏便に、尚且つ必要な物を揃えなくてはならないのが当面の目的であった。
最悪このまま戻るべきかと思った矢先、彼女の後方から声がかかる。
「おーい、そこで雨宿りしてんなら中に入るか?」
「む?」
ふと聞こえた声に対しその方向へ向く錬金術士。
そこにいたのはドアから顔を出し声を掛ける一人の男。
「…ああ、邪魔させてもらう」
どうしたものかと迷ったがこのまま立ち尽くしていた所で何も始まらない。
店主の折角の厚意に甘える事にした錬金術士は店内へと入っていく。
そして店内に展示されていた品々を見て運が良いと感じた。
(武器屋だったとはな)
錬金術士が訪れた店は偶然にもギルヴァが愛銃のレーゾンデートルに使用する13mm弾を購入する為に訪れる行きつけの武器屋であった。
訪れた転機。しかしそれだけであり購入する為の資金を持っている訳ではない。歯痒い気分になりつつもそれを表に出さずにいると奥から店主が現れ、彼女にへとタオルを投げ渡した。
「そのまんまじゃ風邪引くぜ。それで拭きな。後はローブはそこにかけて乾かしておきなよ」
「…ああ」
(風邪を引く事はないのだがな…)
言葉に出す事はせず、先に纏っていたローブを指定された所にかけると渡されたタオルを体を拭く。
「んで?ローブを纏っている事は旅人かい」
ローブ姿は確かに目立つがそれを利用する者が少ないかと言わればそうでもない。店主が尋ねた様にローブを纏って旅をする者もいる。この辺りでは余り見かけないのもあり、周りから浮いていた事を錬金術士は知る訳もなかった。そして店主はそういった佇まいの旅人を何人か見た事があったが故の問いであった。
「まぁ…そんなところだ」
鉄血のハイエンドモデルだなんて言える筈がない。質問に対し嘘を伝える錬金術士。
それが本当だと信じたのか店主はそこから何も問わず、雨が止むまでのんびりしてなと伝えると店主はカウンターの奥へと消えていった。
本来であれば急がなくてはならないのだが、この雨のせいか考えが纏まらず軽く混乱しつつあった錬金術士は店の窓際にあった椅子に腰掛け、雨降る外を見つめるのであった。
あれから軽く一時間が経過した。
雨は止む事を知らず、今も尚降り注いでいる。雨音が耳にしながら錬金術士は考え耽っていた。それでこそ今の自分が普段の自分とは想像付かない程に。
ただ戻って理由を尋ねれば良いだけ。だと言うのに何故か懸念が払いきれずにそんな自分らしからぬ所に嫌悪感を抱いていた。
(あの騎士たちが現れた辺りから私が切り捨てられた事は既に分かっている。あいつは最初から助けるつもりなどなかった事もな)
嫌悪感を抱いていたとしても不安が払拭される事はなく、それが重しとなって錬金術士の背にのしかかる。
(ただ理由を、その真意を尋ねればいい。だが何だ?この不安は…)
「冷めない内に飲みな」
そこに店主が彼女の元に歩み寄り、淹れたての珈琲が入ったマグカップを差し出した。
最初こそは迷った錬金術士であったが、それを受け取り一口だけ飲んだ。
まともな飲食などした事が無い。珈琲を一口含んだ時に感じられた苦味と甘み、珈琲特有の香りは決して嫌いな味ではなかった。
それが新鮮だったのか、錬金術士は静かに呟いた。
「美味いな…」
今の今まで飲食などどうでもいいと感じていた彼女でも店主が淹れた珈琲は美味しかった。
火傷しない程度に温かく、雨が降る中で飲む一杯は何処か気持ちを落ち着かせてくれる様な感覚があった。
錬金術士が呟いた声は店主も聞こえていたが敢えて聞かなかった振りをして、カウンター内にある椅子の方へと移動し腰掛け、懐から煙草とライターを取り出し、火をつけた。
ゆらりと上がる紫煙。静寂が辺りを包み、雨音だけが大きく響き渡る。
「ねえちゃん、旅人じゃねぇだろ?」
何を根拠にそう思ったのか店主は言い放った。
「…何故そう思う」
見た目からして旅人の様な風貌していない。いずれ発覚する事だと踏んでいたのか錬金術士は決して取り乱す事はせず少しだけ警戒心を強めつつ淡々と返答した。
対する店主はそう言い放ったにも関わらずに訝しむ様子や武器に手をかける様子すらない。
「なに、そう思っただけさ。それに何かあったクチだろ?」
「…」
「何に対して迷っているのか、或いは不安がっているかは知らねぇが、うじうじしていても始まんねぇだろ?」
「知った様な口を利かないでくれるか」
当然ながら店主は錬金術士の身に起きた事を知っている筈がない。
だが見透かした様な言い方に苛立ったのか彼女はつい声色を強めた。しかし店主はそれに臆する事は全く無く、澄ました顔で煙草を吹かしていた。
その様子に錬金術士に舌打ちした。
今までは自分が上位に立っていた事が殆どであり、店主の様な掴みどころのない相手は初めてであり、やりづらい相手だと認識せざるを得なかった。
「…お前に何が分かる」
「分からねぇさ。確かに迷った末に出した答えで突き進むのもアリだと思うが、そうじゃないんだろ?なら思い切りぶつかってやりゃいいじゃねぇか」
一度紫煙を吐き、店主はそれに、と言葉を続けた。
「ねえちゃんがどういう立場にいるのかなんざ知る気はねぇが、なっちまったもんはそれで受け止めるしかねぇのさ。誤解が解けたらそれで良し。例えば組織に属していて切り捨てられたら、こう思えば良いのさ」
ゆらりと紫煙は舞い上がる。
澄ました表情は変わらない。だがそこには長くの人生を生きていた先人の姿がそこにあった。
今日という今日まで何を体験してきたのか。それは店主にしか知り得ない事であろう。
「自由に生きて、自由に死ねばいい。最初から重たく考えなくてもいいのさ。いずれやりたい事が見つかるのさ。それが人間だろうと、人形であろうとな」
そういう生き方をしてきたんでね、俺はと締めくくる店主。
全てが響いた訳ではない。だが何処か、ほんの少しだけ響く感覚を覚えた錬金術士。
(自由に生きて、自由に死ねばいい、か…)
グリフィンの人形を玩具として見て、残虐な行為を好むのが彼女だ。
だが今の自分は何だろうかと自問自答を繰り返す。しかし答えは弾き出される事はない。只々答えを出そうと空回りするだけであったが、一つだけ彼女は理解した。
(先が見えん事に怯えていたかも知れんな)
最早自分が気付かぬ内に事は歪んでいた。
そして自分では気付かぬほどに先が見えぬ恐怖に怯えていた。それを理解すると何処か重しが取れていく感覚を覚え、一つの結論に至った。
(切り捨てられた事に変わりはない。作戦も失敗している時点で私が鉄血に戻る事は叶わんだろう)
少し冷めてしまった珈琲。その最後を飲み干すとマグカップを近場において彼女は立ち上がった。
(自分らしくないのもまた一興か)
既に乾いたローブに手に取り、外を覗く。
雨はまだ降っているが先程と比べる小降りへと落ち着いている。
すると店主が彼女へと声をかけた。
「行くのかい」
「ああ。世話になったな」
「何もしてねぇさ、礼を言われる程じゃない。それと何だかひと暴れするんだろ?ならこいつらを持っていきな」
錬金術士がやろうとしている事を見抜いていたのか、奥からある物を取ってきてから戻ってきた。
そしてカウンターの上に置かれたのはM79グレネードランチャーと「ストリート・スイーパー」の異名を持つ散弾銃 RDIストライカー12とその銃弾であった。
置かれた銃を見て不思議そうな顔を浮かべ錬金術士は店主へ尋ねる。
「何のつもりだ?金など持ってないぞ」
「金が無くてもどうしても武器はいるんだろ?最初あんたの顔を見た時そう思ってな」
「…私がこれを持ってお前やここの住民に危害を加えると思わんのか?」
「それをする気なら俺を殺してやればいいだろ?それをやらねぇ事はそういう事だろ?」
「ちっ…食えん奴だ」
澄ました顔で何を考えているか読めない店主に嫌そうな表情を浮かべる錬金術士。
だがこれで必要な物を得られた。装備品を身に付け、M79グレネードランチャーのスリング部分を肩に通し、RDIストライカー12を改造されたホルスターへと通すとその上からローブを纏い店の出口へと歩き出していく。
ドアを開きそのまま出ていこうとした時、ふと彼女は足を止めた。
「…恩に切る」
そう呟くと彼女は歩き出し小雨が降る外へ消えていった。
雨の独特の匂い。勢いは緩やかになったものの止む事を知らない雨。
ローブの隙間から入り込む冷たい雨粒が顔にありながらも一歩、一歩としっかりとした足取りで彼女は地区の外へ歩き出していく。
「…さて」
―――足掻いてみるとしよう
理由を、その真意を知る為。
人知れず始まった孤独な戦いが幕を開けた。
一方その頃。
某地区の山脈地帯。
ここのボスであった鉄血のハイエンドモデル『
廃屋に身を隠し、静かに呟く。
「増員にしては随分と無粋な者を送ってきたですこと」
幸いにも損傷は負っていないが、その恐ろしさを実感した為か僅かに体が震えていた。
何とかその震えを抑えつつ、先程の"アレ"を思い出す。
「あれは何なのでしょうね…。竜…それとも別の何かでしょうか」
(どのみち夢想家に"アレ"について尋ねないといけませんわね)
愛用の武器を手に彼女は廃屋を後にし、静かに消え去っていくのだった。
奇しくもその目的は錬金術士と同じであった。
「おいおい、何だありゃ…」
侵入者が動き出した一方で破棄された通信施設でAR小隊の一人、M16はまるで信じられないものを目の当たりにしていた。鉄血大部隊を圧倒的な力で壊滅へ追い込んでいく何か。
発達した四肢。赤色に染まりどことなく輝いているにも見える鱗。どういう風になってるのか両腕からはブレードの様な物が展開され、相手の体をばっさりと切り裂いていた。
光学兵器による攻撃をものともせず、見た目に反する機敏な動き。どうあがいてもこの世のものとは思えない。
それはひとしきり暴れ、鉄血の大部隊を壊滅させると空へと向かって大きく咆哮した。
怒りか、或いはそれ以外の何かに対し叫んでいるのか。それを知る者はいない。
高らかに叫んだ後、それは敵が居ない事を確認した後、その場から大きく跳躍して飛び去って行った。
「行ったか…。ホント何なんだ、アレは?」
それが飛び去っていった方向を見つめながらそう呟くM16。
気付かぬ内に事が大きくなっている事は言わなくても分かる。
「早いうちにM4達と連絡を取らないとな」
通信機器はあるものの機能はしていない。
それでもやらなくてはならない。この事を伝える為に。
「酒でも飲んでないとやってられないね、全く…」
そうぼやきながらもM16は通信機器の修繕へと急ぐのであった。
今回はギルヴァ達ではなく、基地襲撃後のアルケミストと+αで書いてみました。
色々設定ぶち込んでるけど許してね!(土下座
ん?何故あの武器二つなのかって?カッコイイからに決まってんじゃん。
それと大型コラボ作戦の前に一つ、コラボ作戦を挟もうかと。
どのようにするかは大体は決まってるのですが、まぁそれは追々。
てか参加する人いんのかねぇ…
では次回ノシ