天高く昇る満月。夜空の星が煌めく。
全ては静寂に包まれ、舗装されていない道を歩くローブ姿の錬金術士の姿があった。
S10地区を出てから数日が経過しており彼女はかつて身を隠していた拠点へと徒歩で目指していた。
緩やかに吹く風がローブをなびき、錬金術士は足を止めてふと夜空へと顔を上げた。
「普段は気にする事もなかったが…こうも輝いているとは。一人の身になったからこそ気付くものがあるとはな」
来る日も来る日も戦闘ばかりの日々。
自分が今の立場になるまでは夜が訪れたとしても夜空を見上げることなどありもしなかった。
しかし今は普段と違う生き方を始め、彼女はその夜空の美しさを目に焼き付けていた。
夢想家に心を聞くまでにこの光景をあと何度見られるか分からない。それをしっかりと電脳の記録すると彼女は再度歩みを始めた。
一度休息を取っていた廃屋から歩き続けて数時間立っている。一時的に身を休める廃屋は探しながら真っ直ぐと続く道を歩いていく。
一度足を止めた地点からだいぶ離れた距離まで歩くと、彼女は古びた廃屋を見つけた。遠くからでは内部で灯りが灯っている様子はないが、それでも中に誰か居てもおかしくない。
警戒しつつ廃屋の玄関前に到達するとS10地区の武器屋の店主から貰ったRDIストライカー12を構えながらドアノブを握り、ゆっくりとドアを開け静かに内部へ足を進めた。
忍び足で一階各部屋に誰かが居ない事を確認すると、彼女はそのまま二階へ足を進めた。
(…この反応どこかで…)
階段をゆっくりと昇りながら彼女は居るであろう誰かに気付ていた。
気配は隠しているのだが、やはり鉄血の人形だからかこの場にいる同じ鉄血の反応には何処か覚えがあった。
いつ、どのタイミングでも反応出来る様に警戒しながら二階へ上がると一部屋ずつ内部を確認していく。そして最後に残った部屋の前に立つと勢いドアを蹴り飛ばして内部へ突撃。
手慣れた動きで内部へ転がり込み構えた時、その部屋にいた者を見た瞬間錬金術士は目を丸くした。何故彼女がここに居るのか、それが一番目の疑問として浮かび上がる。
そして相手は自分は鉄血を切り捨てられた事を知っているか怪しい。即座にRDIストライカー12の銃口を突き付けて問い掛ける。
「何故お前がここに居る?」
警戒心は最大へと高められ、何時でも撃てる様に引き金へと指を掛ける。
窓から月明かりが差し込む室内で対する相手は撃たれる可能性があるにも関わらず笑みを浮かべたまま。何処で拾ったのかウイスキーボトルを手に取りグラスへと注ぐと一口だけ口に含んでいた。
答える気がないと判断したのか錬金術士は相対している者の名を呼んだ。
「答えろ、
「そう苛立たないでくださいな。折角の酒が不味くなるので」
笑みを浮かべ酒を嗜む侵入者。
それに対し錬金術士は構えている銃を決して下ろす事はせず銃口を突きつけたままの状態を維持。
錬金術士が自分に対し警戒している事を察したのか予備のグラスに酒を注ぎながら口を開いた。
「ご心配なさらずとも私も貴女と同じ立場にいますよ」
「…どういう意味だ」
「聞かずとも分かっていると思うのですが。…まぁ良いでしょう。この際ですから言いますが、私も切られた身なのですよ」
「何…?」
侵入者が言った事に対し眉をひそめる錬金術士。
引き金にかけていた指を離し銃口を下ろすと侵入者が空いたもう一つのグラスにウイスキーを注ぎ、錬金術士へと差し出した。
それには知りたいのであれば一杯付き合えという意味合いが込められており、何となくそれを察したグラスを受け取り錬金術士は侵入者の対面側に腰掛ける。机の上に手にしていた銃を置くと酒を煽った。
置かれた銃を見て、珍しいと思ったのだろう。侵入者は思った事をそのまま錬金術士へと伝える。
「炸薬を用いた銃を使うとは。貴女らしからぬ事ですね」
「事情が事情だ。選り好みできる状況ではないのでな。…それで今から事情を聞く訳だが、一つ当ててやろう。夢想家が関係しているな?」
注がれた酒を飲み干すとグラスを静かに置き、本題へと入ると錬金術士は侵入者が切り捨てられた背景には夢想家が関係していると指摘した。その理由は当然自身も切り捨てられた背景には夢想家が関係していた事を知っているから。
対する侵入者の表情からは何を考えているのか読み取れない。沈黙が訪れる中、侵入者はグラスの注がれた酒を一口だけ飲むと静かに口を開いた。
「ええ。突然夢想家から通信が入りまして。増援を送ると言ってきたのですよ」
「増援?それは騎士みたいな奴か?」
「いいえ。増援として送られたのは竜の様な得体の知れないなにかでした」
「竜…?」
増援という点は変わりないが、その送られてきた増援が自身が知るものとは違う事に錬金術士は訝しげな声を上げた。騎士といい、竜の様ななにかといい、夢想家は何処からそんなものを仕入れてきたのか。そして仲間を切り捨ててまで何を考えているのか彼女には全く検討が付かなかった。
「"あれ"と仲良くしろと言っていましたが、まぁ無理でしたね。私達の前に現れた瞬間暴れまわって部隊は二分も持たずに壊滅。私は隙を見て何とかその場から逃げ出し生き延びましたが」
「それで自身が切り捨てられた事に気付き、そして夢想家に真意を尋ねる為に行動しているという訳か」
「その通りです」
自分以外にも切り捨てられた仲間が居た事に内心驚きつつも、錬金術士は核心に迫る事実を知れずに落胆した。
何か知れると思っていたが、侵入者も細かく知っている様子ではなかった。
やはり夢想家の所へと向かって真意を聞く他ない。だがここまで来るまでかなりの距離を歩き、既に夜遅くという事もあって、彼女はここで一休みしようと考えた。
ウイスキーボトルを手に取り、空いたグラスへと注ぐと勢い良く酒を煽った。
あの時貰った珈琲の味も悪くなかったが、ウイスキーの味も気に入っており、彼女は再度グラスへと酒を注いだ。
それを見ていた侵入者は微笑みながら、錬金術士へと問うた。
「気に入りましたか?」
「まぁな。この手のものは飲む事すらなかったのでな」
「…変わりましたね」
「…互いにな」
戦っている自身に対し今の自分は変わっている事に二人は気付いている。
侵入者も空いたグラスにウイスキーを注ぎ、グラスを錬金術士へと差し出した。それを見た錬金術士はグラスを静かにぶつける。
月明かりが差し込む中、グラス同士がぶつかる音が響く。注がれたウイスキーを煽り、その味を楽しむ二人の姿がそこにあった。
「…目的は同じ。どうせなら共に行動する方が賢いでしょうね」
「だろうな。…さて奴に真意を尋ねに行くか。奴の事だ。嬉しくない置き土産を置いてくれている事だろうよ」
「無事生き残れたらどうします?」
「…さぁな。その時に決めるさ」
煙臭い味に舌鼓ながらも、二人は注がれた酒を空にする。
武器を手に取り、立ち上がる彼女達。
かくして同じ境遇にあった二人は動き出すのであった。
某地帯。
鉄血の拠点にて夢想家は椅子に腰掛けて一枚の手紙を読んでいた。
それはS10地区に居た時、一緒に居た男が送ってきたものであり、実験の協力に感謝するという旨が記されていた。
「わざわざこんなものを送りつけてくるなんて。ホント前時代的的な奴ね」
呆れた様な表情で夢想家はその手紙を破り捨てた。そこにある者が彼女が居る部屋へと訪れた。
鉄血のハイエンドモデルたちに良く見られる白い肌。長く伸ばした髪は一つに束ねられており、普段からそうなのか瞼が閉じられていた。柔和な笑みを浮かべながら、その者は夢想家の後ろに立つとそっと彼女を抱きしめた。
「あら。もう終わったのかしら。
「ああ。あの程度なら僕一人で充分さ。それで次は何をすればいい?」
「今の所は無いわね。でも安心なさい。明日にはあの二人が来るから」
「二人…ああ、錬金術士と侵入者かい?」
「ええ」
優雅な笑みを浮かべながら夢想家はコンソールパネルのキーボードを操作。
ディスプレイに映し出されるのはとある一室。そこには得体の知れない何かが映っていた。自身を包み込む様に前方へ折り畳まれた翼。中央には女性の体らしき姿が存在している。しかし下半身は存在しておらず、魚の尾びれの様なものがあった。外見に反しておとなしいのか暴れる様子はなく、それは沈黙を保ちながら宙を浮いていた。
「まさかこちらと交渉を仕掛けてきた教団にこんな技術があるとはね。生まれて間もない僕だけど驚きさ。…そう言えば素体には確か"彼女"が使われる事になったんだったね」
「神の代行者って名前だったかしらね、教団名は。…自爆してしまったけど、予備はあるからもう一仕事してもらおうと思ってね。…さて神を名乗りながら扱う力…"悪魔"の力、どんなものか楽しみね」
浮かび上がるその笑みには狂気が孕んでいた。
果たして夢想家は何を企んでいるのか。それをごく一部の者だけであろう。
そして誰もが予想だにしなかった悪夢が静かに、そして着実に始まりを告げようと動き出していた。
本来であればぼのぼので行こうかと思ったのですが…錬金術士の方を書きたくなったので、こちらを。
大型コラボ前に挟む緊急コラボには、オリジナルで出した追跡者(ロケランぶっ放したり、スタアァァァズとか言わないからね!)が出てきます。
但しその力は下手すれば…(これ以上は敢えて伏せておきます。てか参加してくれる人いんのかな)
では次回ノシ